Chapter2. アルブミノイド研究史⑤(了)
これ↓の続き
30gの新鮮な湿潤フィブリンと、6gの湿潤フィブリン性微小発酵体を仮定しよう。48時間後にフィブリン30gは過酸化水素水180㏄(酸素含有量は10.5倍の1,890㏄)から1,600㏄の酸素を放出する。即ち、新鮮なフィブリン1g(100℃乾燥で0.193g)当たり53㏄の酸素が放出される。
48時間後、6gのフィブリン性微小発酵体は過酸化水素水160㏄から1,000㏄の酸素を放出させる。即ち、湿潤微小発酵体1g(100℃乾燥で0.139g)当たり166㏄の酸素が放出される。
ではヘモグロビンである。ある実験に寄ると、純粋ヘモグロビン0.338gの溶液10ccは過酸化水素水4㏄(含有酸素量はその10.5倍の42㏄)から45分間で30cc、24時間で34㏄の酸素を放出させた。更に、酸素放出が開始する直後に溶液が懸濁しながら凝集沈殿物が析出し、最終的に完全な変色を遂げた。以上よりこの現象は物質変質と酸化と相関関係にある。何故なら、含有酸素量42㏄の過酸化水素水から放出された酸素は僅か34㏄であった為である。また、過酸化水素水はほぼ完全に分解を受ける。過酸化水素水を十分量にした場合、発熱し、酸素混じりの炭酸が放出される。ヘモグロビンの酸化による変色生成物は他にも多数あり、その中にはアルブミノイドや可溶性生成物、同時に含鉄の不溶性物質がある。即ち、近成分であるヘモグロビンは過酸化水素水を分解した後、フィブリンやその微小発酵体と同様に変質するが、酸素放出量は相対的に少ない。
ヘモグロビンを際立たせるのは、アルコールによる凝固の後に120℃(248℉)で加熱して尚、酸素放出の伴う過酸化水素水の分解を続けながら更に変色する点である。一方のフィブリンは加熱で不活性化する。
ヘモグロビンは無色アルブミノイド物質とヘマトシン…即ち新たな二種類の近成分へ還元される。さて、分解生成物である無色アルブミノイド物質は結合状態にあった硫酸から遊離しており、過酸化水素水から酸素を放出させることはない。一方、不溶性のヘマトシンと過酸化水素水は強力に反応し、発熱反応と炭酸混じりの酸素放出が生じる。そして一部の酸素を吸収しつつ完全なる可溶性生成物へと変質する。また、フィブリンやフィブリン性微小発酵体とは真逆ながら、遊離硫酸による反応阻害も見られない。
この点より、ヘモグロビンにはその構成分子の一つに含鉄分子のヘマトシンが存在し、このヘマトシンに、(ヘモグロビンを酸化作用で破壊する)過酸化水素水を分解する性質が備わることは明白である。斯くして、赤血球の特定の近成分が過酸化水素水と反応し、酸素放出の伴う分解現象を起こすのである。
つまり、テナールの言う有機的組織やフィブリンと同様、過酸化水素水への作用が疑いない多くの近成分が存在する。ヘモグロビンやヘマトシンに纏わる事実と、青酸と過酸化水素水の相互反応を関連させるのは、其々が孤立した事実ではないと示す為にも有効である。更に、テナール自身が、一定濃度の過酸化水素水が甘蔗糖と反応し、酸素と炭酸が放出される現象を観察している。
従って脱線維素血液では、赤血球のヘモグロビンが過酸化水素水分解の主因である。レモン色の血清が(常に僅かな強度で)この分解を起こすとすれば、それはアルブミン以外に、分解を可能にする何等かの近成分やザイマス等の成分が存在する為である。事実、血清アルブミンの純粋単離体は、卵白や、ヘモグロビン分解後の無色アルブミノイドと同様にこの分解作用と殆ど備えていない。
この無色アルブミノイドは、旋光度やその他の性質の点からも、表に記したアルブミンやアルブミノイドとは全く異なる物質である。だが赤血球には過酸化水素水分解能を持つ微小発酵体も存在する。研究をする上で、有機的組織の過酸化水素水分解作用が、特にその解剖学元素や一部の近成分に宿る事実の観察が不可欠である。換言すれば、過酸化水素水の分解能自体は、テナールの想像する通りの有機的組織や有機体に特徴的な性質ではない。
これらアルブミノイド全般、特に血液中のアルブミノイドを広範に研究した結果、フィブリンの微小発酵体架橋質には全ての凝固性アルブミノイド物質と一線を画す特殊な性質が宿ること、並びにそれ自体が加熱凝固性であり、凝固後は極希薄塩酸に完全な不溶性となることが証明された。
しかし、フィブリン性微小発酵体の存在を明示したフィブリン研究は、生活中における血液フィブリンの存在様式、即ち、微小発酵体架橋質と微小発酵体との関係性に関しては何ももたらさなかった。これが次章の題目である。
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