妄想シティ 第2話
5
僕は週末になると、ふたたび図書館を訪れた。
そこにはいつもと変わらない、静粛な光景があった。
僕はあの女がいないかどうか、館内を歩きながら探した。
図書館で人を探すと言うのも妙なものだ。普通図書館で探すものは本だ。
図書館には色々なタイプの人々がいる。
目的の本をパソコンの検索システムで探す人。
当ても無く何か良い本が無いかと探す人。
ソファーで雑誌を読みながらくつろぐ人。
新聞を読む人。
閲覧室で勉強や調べ物に高じる人。
視聴エリアでDVDを鑑賞する人。
そのほとんどが暇な人々だ。
世の中にはたくさんの暇人がいるのだ。たくさんの暇人で溢れているのだ。
ヒマジン、オール・ザ、ピープル。
平和の中で生きている。みな、平和の中で生きている。
時間はゆっくりと静かに流れている。
ここで妄想をすればまたあの女が僕の鼻をつまみにくるかもしれない。
そうは思いながらも僕はもう鼻をつままれたくなんてないし、これはもう気長に探すしかないかと腹をくくろうとしていた。
だけども突然に、僕の脳内にその声が飛び込んできた。
「助けて」
それはささやくような声だった。
僕は周りを見回した。だけども僕の周りは静まり返っていて、声の主は見つからない。
「誰?」
僕は心の中で思う。
「奴らに気づかれないように、脳波を弱めているの。あなたも脳波を弱めて答えて」
その声はあの女だった。
「脳波を弱めるって言ったって、そんなのコントロールができない」
僕は心のなかでつぶやいた。
「ただ、思うだけでいいの。今のように心の中でつぶやくの。声だけならそれで聞こえるから」
女はそう続けた。
「君はどこにいるんだ?」
「入り口のところよ。奴らに捕まったの」
僕は図書館の入り口付近を見た。そこにはあの女が三人の男に囲まれて外へと連れてゆかれそうになっている姿が見えた。
「見えた。だけど助けるって言ったってどうすれば良い?」
「戦うのよ」
「戦う? 僕に勝てるわけが無い」
「妄想で戦うのよ」
「妄想で戦う?」
考えている余裕は無かった。
とにかくすぐに動かなければならない。
男たちに囲まれた女は僕の視界から外れかけていた。
僕は慌てて走り、男たちの前に立ちふさがった。

「その女を放せ」
僕はまるでヒーローにでもなったかのような気分でそう言い放った。
すると男たちは突然懐から拳銃を取り出して僕を撃った。
マジかよ?
こんな公共の場で拳銃をぶちかますなんて、異常だとしか思えない。しかもそれは妄想じゃない。銃弾が僕の体を通り抜けて、図書館の壁にめり込んだ。
そう、僕の姿は妄想だ。
妄想で良かった~。
周囲はパニックにはならなかった。
静かな図書館の静寂に銃声が響いたのだが、誰もそれが本物の銃撃だとは思わたなかったし、そもそもその図書館にはあまり人がいなかった。
僕は頭にきたから妄想世界を全開にした。
図書館が一瞬の内に僕のどろどろの世界に変わる。
スライムのような物体がうねうねと動き、奴らに絡みつく。
男たちは僕の妄想にもがき苦しむ。
図書館の職員が騒音に驚いて僕らの方を見ている。
たぶん彼らには僕の妄想が見えていない。
彼らの目に映っているのは、奇妙なダンスを踊っている男たちだけだ。
男たちが怯んだ隙に女は彼らの手をほどいて走り出していた。
僕は空を飛び、空中から男たちに炎を撒き散らす。
女が僕の腕を掴む。
一瞬にして僕は現実世界に引き戻される。
僕らはその場から走って逃げた。
つづく。
いいなと思ったら応援しよう!
言葉だけでは伝わりません。
コメントはチップとともに。
「謎解きはディナーの後に、みたいに言うな!」