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妄想シティ 第13話

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 レベル2に入るためには、住民登録をする必要がある。
 指紋を登録し、写真入りのIDカードを作成する。

 レベル2には現金も借金も持ち込めない。だから現金はIDカードにチャージされ、クレジットカードの未払い分は借金とみなされてIDカードから差し引かれる。
 レベル2とレベル3では、IDカードが現金代わりだ。街での支払いはすべてIDカードで行われる。クレジットカードの使用はできないが、銀行のキャッシュカードの使用は可能で、IDカードへのチャージやリチャージが行える。
 僕は和美に付き添われ、IDカードの申請をした。
 僕の手持ちの現金はごくわずかで、それはIDカードにチャージされた。そして僕がレベル1で支払ったクレジットカード分は、マイナスとなって計上された。
 和美はその様子に驚く。レベル1でのホテルの支払い、キャバクラの支払い分がマイナスとなったのだが、それがあまりにも高額だったからだ。
「後ですぐにチャージしとかないと、大変なことになるわよ」

 そう、レベル2での居住条件はIDカードの残高がプラスであることが必須だ。残高がマイナスの状態で3ヶ月が過ぎると、レベル2にはいられなくなり、強制的にレベル3に移動させられる。また、残高がマイナス100万円を超えた時点で、すぐにレベル3に移動させられる。そしてIDカードの残高がプラスになるまでは、レベル3から出ることができない。

「どうせすぐにレベル3に行くから気にすることは無い」
「そんなこと言ってたら、本当に戻ってこれなくなるわよ」

 和美はレベル2のマンションに暮らし、毎日レベル1へと通勤している。
 レベル1で働く従業員のほとんどはレベル2に暮らしている。レベル2はある意味レベル1のベッドタウンのようである。
 また、レベル2ではビジネス街が存在し、レベル3の工場での生産を指示したり、製造された製品をレベル1および全国に販売・流通させる会社のオフィスが多数ある。レベル2はレベル1とレベル3をつなぐ架け橋のようでもあり、いわゆる世間一般的な生活空間であると言える。

 僕はあの煌びやかでゴージャスな世界から一転して普通の街に来たことで、気分的にほっとした気持ちになった。
「レベル2に戻ってくると、ここが妄想シティだなんてこと、忘れてしまうの。本当はこの狭い世界に閉じ込められているのかもしれない。でもね、結局のところ、どこに暮らしていたって代わり映えがしないんじゃないかって思うようになったのよ。ここでは何不自由なく暮らしてゆけるし、自分がしたいこともできる。それの何がいけないのか、ぜんぜん思い当たらないのよ。あなたの言う通り、ミイラになっちゃったのかもしれないけど、、」
 歩きながら、和美はそんな話を僕にした。

 僕は和美のマンションに招かれた。
 シンプルでセンスのある家具や家電製品が綺麗に整理されて置かれていた。
 そこそこに良い暮らしをしている感じだった。

「レベル3に行く前に、少し休んでいきなさい。しばらくは普通の暮らしができなくなるから」
 和美は僕をソファーに座るように促し、コーヒーを入れてくれた。
 とても穏やかだった。嵐の前の静けさみたいだ。
 スピーカーからはライトなボサノバが流れていて、窓からは柔らかな日差しが差し込んでいた。
 まるで新婚夫婦が休日のひとときを過ごしているかのような平和な世界がそこにはあった。

「あの子とは寝たの?」
 と和美が唐突に聞くので、僕は戸惑った。僕は照れくさくて、無言でうなづいた。
「そう、、。じゃあいいか」と和美。僕は意味がわからずに聞き返す。
「何が?」
 和美は何も答えずにただ笑って誤魔化した。
 でも僕が和美の目を見つめていつまでも返事を待っているので、ようやく観念したかのように答える。
「レベル3に行く前に抱いてあげようかと思ったけど、必要ないわね」

 和美は笑いながらそう答えたけれど、目は笑っていなかった。
 そして「ハグしてあげる」と言って立ち上がると、僕を抱きしめた。

「死なないでね」
 和美は涙を流しながら、僕をきつく抱きしめた。

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 僕は和美と別れて、一人でレベル3へと向かった。
 レベル3では入所時に仕事と住居を決めなければならない。変更は後からいくらでもできるのだが、ここには「働き、居住すること」を前提でしか入所できないということを明確にする目的があるようだ。

 入所手続きのカウンターで、係員が僕に「何か希望はあるか?」と訊ねたので、僕は須田明彦の名前を告げて「彼と同じにして欲しい」と依頼した。
 係員はコンピュータ端末のキーボードを叩いて須田明彦の名前を入力して調べてくれた。係員の目の前のディスプレイに検索結果が出たらしく、係員はそれを確認するが、その表情は怪訝なものだった。

「申し訳ありませんが、これはちょっとお勧めできませんね」
「どうしてですか?」
「初めての入所でいきなりこのレベルに行くのは、精神的にも肉体的にも耐えられない可能性があります。もう少し標準的なレベルから始めることをお勧めします」
「でもこれは僕の友人なんです。彼と同じ環境で生活がしたいんです」
「何も同じ仕事、同じ住居にしなくても、彼に会うことはできますから」
「駄目なんです。それじゃあ」
「そう言われましても、、」
 係員は困った顔をしたが、僕があまりにも哀願するので、諦めた様子だった。

「わかりました。しかしそれには条件があります」

「条件?」
「はい。医師によるメディカルチェックを受けていただきます。通常入所時には行わないのですが、あなたのような特別な場合には医師による診断が必要になります」
「わかりました」

 僕は医務室へと連れて行かれ、診察を受けた。
 健康状態のチェック、血液検査、運動能力、そして精神状態。すべてにおいて問題がないように思われたが、結果は不合格だった。

「残念ですが、不合格です」と係員は僕に告げた。
「どうしてですか?」
「あなたが希望されているレベルは、一般的な生活水準をはるかに下回るものなのです。ここでの生活にある程度慣れていれば生活が可能ですが、一般生活からですと人並みはずれた精神力が必要となります。残念ながら、あなたの場合は精神面での不合格が出ています」
「じゃあ、どうすればいい?」
「私がお勧めしますのは、、」
「それでいい」

 僕は手続きを終えて、レベル3へと入所した。
 レベル3がいったいどんなところか想像もつかなかったが、その景色は意外にも普通に見えた。
 ただ、少し古びた感じはあった。ここが建設されてまだ3年も経たないのに古びたというのもおかしなものだ。
 その古びた印象の原因はたぶん、建物の作り方にあるのだろう。それは、出来る限りコストを抑えて安く作っているためだ。外装や見た目などに対する配慮は一切無く、安い素材を使ってコンクリートなど剥き出しになっている感じだ。
 それに、異様に静かだった。いや、車の音や色々な音は確かにある。だけどなぜだかそれらがうるさくは聞こえなかった。

 僕はまず、自分がこれから住む住居を探した。入所ゲートでもらった地図を頼りに、アパートを探す。
 アパートへは、地下鉄を利用する。ここではすべてがIDカードで支払いを行うため、IDカードがスイカにような感覚で使用できる。僕は地下鉄に乗り、アパートのある最寄駅で降りた。

 地下鉄の駅からアパートへは、歩いて5分くらいだった。
 しかし、このレベル3という場所はどれだけ広いのかと思ってしまう。たくさんの工場が立ち並び、ありとあらゆる製品の生産をここで行っているようだ。
 想像していた通り、レベル1とのギャップはとても大きなものだ。ここには庶民生活以上のものは何一つ見当たらなかった。
 僕の暮らすアパートは木造二階建ての二階だった。2LDKのごく普通のアパートで、風呂トイレ付き、可も無く負荷も無くという感じだ。
 テーブル、椅子、布団や冷蔵庫など、必要最低限のものは前の住人が置いていったようで、とりあえずは何とか暮らしてゆけそうだと思った。

 ほっと一息を着くと、何だがお腹がすいた。そういえば朝から何も食べていない。僕は駅前へと食事をしにいくことにした。

 駅前の風景は、どことなく奇妙な感じがした。駅前なんてどこもだいたい同じような気がするのだが、ここの風景は僕が今まで見たどこのものとも違っていた。
 コンビニエンス・ストア、ハンバーガー・ショップ、スーパー、定食屋、など、どこにでもある店が並んでいる。
 違うのはその内容だ。たとえばコンビニエンス・ストア。だいたいコンビニエンス・ストアと言えば、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、などほとんどがチェーン店だ。しかしここにあるコンビニエンス・ストアは聞いたこともない名前のお店だった。しかも漢字で便利店と書いてある。確かに便利だけど。
 そんな感じで、マクドナルド、モスバーガー、ケンタッキー・フライドチキン、吉野家、すき家、など見慣れたチェーン店は一つも無く、どれもこれも個人経営の鄙びた店ばかりだった。
 チェーン店でない、というだけだったら地方に行けば無くはないのだが、ここの雰囲気はそういったものとも違っていた。簡単に言うと、日本では無いような感じがするのだ。どこか外国の発展途上国かのような、世の中から取り残されたような、そんな感じなのだ。
 ともかく僕はその中で、牛丼屋に入ることにした。

 牛丼屋の店内は薄暗く、薄汚かった。
 しかしながら昔の牛丼屋はこんな感じだったなあ、と思うと妙に懐かしさを感じた。まるで20年くらい前にタイムスリップしたようだ。
 味もレトロで古臭い感じ。僕はともかくがつがつと空腹を満たした。

 牛丼屋を出ると、僕はコンビニエンス・ストアに行ってみた。
 そこもまた薄暗く、薄汚かった。
 僕はそこでジュースやカップラーメンなどを購入して、とりあえずアパートに帰った。

 アパートで布団の上に寝転がり、ぼんやりと考え事をした。
 IDカードの残高はマイナス状態で、明日から働いて借金を返してゆかなければならない。
 いったいどんな仕事をするのだろうか? 不安でたまらない。
 そして、普通の人間には耐えられないような過酷なレベルで生活している須田の生活や仕事はどんなものなのだろうか?

 入所手続きカウンターにて、須田の勤め先と勤務時間を聞いていた。
 もうすぐ須田の仕事が終わる時間だ。
 僕は須田の勤め先まで行ってみる事にした。


 第14話につづく。


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甘野充 言葉だけでは伝わりません。 コメントはチップとともに。 「謎解きはディナーの後に、みたいに言うな!」