妄想シティ 第16話
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あの日から、僕は妄想ルームの虜になった。
僕は足しげく妄想ルームに通い、香織に会い、香織を抱いた。
僕の借金は増える一方だった。
仕事の終わりにIDカードを通した時だった、同僚の岸田弘一が僕に話しかけてきた。
「久しぶりに、一緒に飯でも食わないか?」と岸田が言った。
どういう風の吹き回しかと思うが、僕には理由が分かっていた。
IDカードを通すときに、カードリーダの液晶表示にポイント残高が表示されるからだ。
僕のポイント残高は随分とマイナスだった。
それを心配して岸田は僕を誘ったのだ。
僕らは妄想喫茶で食事をした。
久しぶりにまともな食事だった。
妄想ルームに通いつめるようになってから、随分と食事をセーブするようになっていたから、ろくなものを食べていなかった。
妄想ルームの利用にはかなりのポイントが必要なのだ。
「かなりの借金だな」と頃合をみはからって岸田が僕に言った。
「うん」
「何に使ってるんだ?」
「妄想ルーム」
「そうだよなあ。それくらいしか無いからな、ここには。だけどこのままだとレベル3にいられなくなるぞ」
「レベル3にいられなくなる?」
「そうだ。多額負債者はレベル4に送られる」
「レベル4? そんなものがあるのか?」
岸田はゆっくりと頷いた。
「レベル4では生活態度を厳しく監視され、ひたすら働かされる。でも謝金が無くなれば出られるから心配することはない」
「そうか」
「でも気をつけた方が良い。下の世界というものはどこまでも存在する。底なしなんだ。レベル4が最悪だとは思わない方が良い」
「まだその下があるのか?」
岸田は黙って頷いた。彼は何かを知っているようなのだが、話そうとはしなかった。
「ともかく、下を見ない方が良い。常に上のレベルを目指して生きるのが正しいことだ。俺みたいな犯罪者は、なかなか世間に受け入れてもらえないから、ここにいた方が楽だけど、お前は違う」
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数日後、入所管理センターから手紙が届いた。
いよいよレベル4へ送還されるのかと思ったがそうではなく、職場と住居変更の推薦書だった。
多額負債者に対する、今よりも高収入な職場と今よりも住居費が安い住宅を紹介する通知だ。これを無視すると、僕は確実にレベル4へと送られるだろう。
僕はその紹介された内容を確認する。
これは、須田がいる環境じゃないか!
僕は入所管理センターから紹介された職場と住居に変更する手続きを行った。
今日から僕はカプセルホテル暮らしだ。
そこに移ってから須田を探したが、見つからなかった。
周りの人々に聞いてみたが、他人に無関心なこの街の住人は須田について何も知らなかった。
別の環境に移ったか、もしくはレベル4に送還されたか。今となっては須田の居場所はわからない。
ともかく、僕の新しい生活が始まる。
新しい職場はスマートフォンの組立工場だった。恐ろしくスピードが速い製造ラインの中で、単純な組立て作業を永遠と続ける。スピードが速いためにかなりの集中力が必要だ。一日働くと、くたくたになった。
初日は夕食を食べてカプセルホテルに戻ると、そのまま朝まで寝てしまった。
数日で慣れたが、慣れたら慣れたで緊張感が薄れた分、今度はストレスが襲ってきた。僕はストレスから自分を解放するため、妄想をした。
カプセル内は完全に密封されているため、集中がしやすく、妄想するには適した環境だった。
自分だけの空気で満たされるために、仕事で疲れた集中力は癒され、次第に妄想世界へトリップすることができるようになった。
僕は妄想の中で、香織に会った。
「香織、やっとまた会えた」と僕は香織に話しかけた。
香織は僕を睨み、「あなたが私を殺したくせに」と答えた。
僕は思わず奇声を発した。
目の前でバイクが横転し、バイクの後ろに座っていた香織がほうり出された。
香織の体が宙を舞い、アスファルトに叩きつけられた。

僕は妄想から逃れようと必死になった。
だけど逃れられない。
血だらけになった香織が、僕を見つめる。
「あなたが私を殺した。あなたが私を殺した。あなたが私を殺した」
僕はカプセルの中から飛び出した。
僕は震えていた。
僕は怖くて怖くて怖くてたまらなかった。
僕はもう、カプセルの中には戻ることができなかった。
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僕は妄想ルームに行った。この動揺した心を満たすには、妄想ルームしかないと僕は思った。
いつか行った妄想ルームには入ることができなかった。どうやら身分に応じて入店できる妄想ルームには制限があるようだった。
僕が入った妄想ルームは、以前須田と行った妄想ルームだった。
僕は歯医者のような妄想ルームのリクライニング・チェアに座り、目をつぶった。
僕の心は混乱し、目の前に現われるのは廃墟と無数のゾンビたちだった。
ゾンビたちは僕に襲い掛かり、僕の体にくらいつき、僕の肉をむしゃぼり食った。

ああ、僕は死ぬ。僕は死ぬんだ、と思った瞬間に、目の前が明るくなった。
まぶしいばかりの閃光が空に広がり、空から何かが降りてきた。
天使だ、きっと天使だと僕は思った。

天使は僕の目の前に舞い降りて、僕の体を優しく包んでくれた。
「大丈夫よ。早坂さん。大丈夫」
と天使は言いながら僕の体をやさしくさすってくれた。
僕の心は救われた。
天使に救われた。
僕は天使の顔を見る。
天使は杉原なおこだった。
僕はなおこの胸に顔をうずめ、幸せな気持ちだった。
「忘れなさい。嫌な事はみんな、忘れなさい」
僕はなおこの胸の中で頷く。
「大丈夫、大丈夫よ」
そう言って、なおこは僕の髪をやさしく撫でる。
僕はなおこの薄い白いドレスの隙間から手を差し入れ、なおこのおっぱいを探った。
なおこのおっぱいは大きくてやさしさがいっぱいに詰まっているように感じられた。
僕はなおこのドレスを脱がせ、顔を胸の中に沈め、乳首をしゃぶった。
僕はなおこの乳首をいつまでもしゃぶっていた。
僕は妄想ルームを出てから、街をさ迷い歩いた。
カプセルホテルには帰る気になれなかった。
妄想喫茶に入って、ノンアルコールビールを飲んだ。
こんなもので満たされるわけがない。
いったいどうなっているんだこの街は。
僕は朝までノンアルコールビールを飲み続け、偽者の覚醒に身を任せた。
朝になり、妄想喫茶を出たが、工場に行く気にはなれなかった。
僕は近くの屋台でお粥を食べて空腹を満たすと、また妄想ルームに向かった。
妄想ルームでリクライニングチェアに座ると、目の前に杉原なおこが現われた。
「早坂さん、もうここに来ちゃ駄目。あなたの心はもう十分に満たされたはずよ」
なおこは僕にそう言った。
「僕の心は満たされてなんかいない。僕は君が欲しいんだ。欲しくてたまらないんだ」
「そんなことしたら、あなたはもうレベル3にいられなくなる。しっかりしてよ。しっかり自分を持って」
僕はなおこの言葉を無視してなおこを押し倒した。なおこは抵抗した。
「客の欲望を叶えるのが君の仕事なんだだろう? どうして抵抗をするんだ?」
「あなたのためを思っているの。こんなことしたら、あなたは駄目になる」
「ふざけるな!」
僕は理性を失っていた。僕は気が狂っていた。僕はまともじゃなかった。
僕は嫌がるなおこを強引に押さえつけ、犯した。何度も何度も挿入し、何度も射精した。
でもそれの何が悪い? これは妄想だ。現実じゃあない。妄想をして何が悪いんだ?
なおこは泣いていた。
「どうして泣くんだ?」
「あなたがかわいそう」
妄想ルームの外に出ると、見覚えのある顔をした男が僕の目の前に立ちはだかった。
「残念だな、早坂」
とその男は言った。その男は、難波逸郎だった。
「俺は今、レベル3の警察署長とレベル4の管理所長を兼務している。君はレベル3の居住資格を失った。これからレベル4へと連衡する」
「何?」
第17話につづく。
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