「何を聞けばいいかわからない」が一番深刻な問題である ― ヒアリングの壁の正体
DXの提案に先立って、現場にヒアリングに行く。
当たり前のことのように聞こえます。
でも、多くの場合、そのヒアリングは「聞いたつもり」で終わっています。
「現場の困りごとを聞いてきました」
「こういう要望がありました」。
そう報告しても、そこから先の提案がどこか的外れになる。
システムはできたのに、使われない。
「要件通りに作ったのに」と首をかしげる。
なぜ、そうなるのか。
じつは、ヒアリングの一番深刻な問題は「うまく聞けない」ことではありません。
「そもそも何を聞けばいいかわからない」ことです。
「困っていることは何ですか?」では、本当の課題にたどり着けない
現場に「何に困っていますか?」と聞けば、答えは返ってきます。
「手作業が多い」
「データの二重入力がある」
「承認に時間がかかる」。
でも、これらは「症状」です。
熱が出ている、咳が出る、と言っているのと同じで、なぜその症状が起きているのか ー つまり構造の問題 ー は、この問いでは見えてきません。
ある修了生はこう振り返りました。
「ヒアリングにおいて最も深刻な問題は『そもそも問いが出てこない』という事態に直面してしまうことだ」。
問いが出てこない。
これは、話し方が下手だとか、コミュニケーション力が足りないという問題ではありません。
目の前の組織を「構造」として見る目がないと、何を確かめるべきかが設計できないのです。
施主は「一枚岩」ではない
もうひとつ、ヒアリングの設計を難しくしている構造があります。
「お客様」「現場」と言うとき、私たちはそれを一つの塊として扱いがちです。
でも、ある修了生はこう気づきました。
「大学という一つの組織でも、情報システム部門と実際の先生や学生の意見は違った。
本当の意味で使えるシステムをつくるには、お客様を一つの組織としてみるのでなく、その中で実際に使う人に役に立つものを提案しなくてはならない」。
施主は一人ではない。
一つの組織の中にも、経営層、管理職、現場担当者、利用者がいて、それぞれが異なる世界を見ている。
第5回で述べた「見ている世界が違う」という構造が、施主の側にも存在しているのです。
「施主の声を聞く」とは、一人の代表者にインタビューすることではありません。
施主の内部にある多声的な構造 ー ときに矛盾する要望、優先順位の違い、言葉にされない不安 ー をどう捉えるかという設計の問題です。
「仮説を持って聞く」と「聞いてから考える」の決定的な違い
では、どうすればいいのか。
一つのヒントは、「仮説を持ってヒアリングに臨む」ことです。
「何に困っていますか?」は仮説のない問いです。
「御社の業務構造を拝見すると、ここに情報の断絶がありそうですが、実際どうでしょう?」
は仮説を持った問いです。
後者の方が、相手の中にある言語化されていない課題を引き出せます。
漠然と「どうなっていますか?」と聞くのと、「ここにこういう構造があるはずだが、実際はどうか?」と聞くのでは、返ってくる情報の深さがまるで違います。
仮説を持つためには、業務の構造を事前に読み解く力が必要です。
つまり、ヒアリングの質は、ヒアリングの場で決まるのではなく、ヒアリングに臨む前の構造理解で決まるのです。
この構造理解を持って施主の想いを引き出すのは、第1回で述べた『設計者』の役割です。
あなたの組織のヒアリングは、何を設計していますか?
こう問いかけてみてください。
「最後にヒアリングに行ったとき、あなたは何を確かめたかったのですか? それとも、何が返ってくるかわからないまま聞きに行きましたか?」
もし後者なら、足りないのはコミュニケーション力ではなく、相手の業務を構造として見る目かもしれません。
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この連載では、DXの推進に関わるすべての人が直面する「構造的な盲点」を、隔週で掘り下げています。
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