人と組織を進化させる「身体知」の可能性――暗黙知・成人発達・変態から読み解く、学習の深層構造
はじめに──「身体知」は個人の話で終わらない
前稿「身体知の極意」では、理論・思考法・フレームワークが「知っている」状態から「つい使ってしまう」状態へと移行する過程を、身体知化という観点から整理してきました。
この「身体知」とは、暗黙知に含まれる概念として、暗黙知の蓄積が、動的なパフォーマンスとして結晶化したものと捉えています。
そこでは主に、
感情
本番
達人からの薫陶
AIとの対話
といった、個人の学習経験に焦点を当ててきました。
本稿ではここからさらに一歩進めて、次の問いを扱います。
暗黙知や身体知は、個人の熟達で終わるものなのか。
それとも、人や組織そのものを進化させる力を持つのか。
1. 暗黙知は「撲滅対象」なのか
組織論の文脈において、暗黙知はしばしば「属人化の権化」として扱われます。
あの人がいないと回らない
やり方が共有されていない
再現性がない
確かに、運用上のリスクとしては正しい指摘です。
しかしここには、暗黙知そのものへの誤解が含まれているように思います。
暗黙知は、本来「管理されるべき欠陥」ではありません。
むしろ、価値創出の源泉です。
問題は、暗黙知が存在することではなく、
それをどう扱うかの作法を、私たちが学んでこなかった点にあります。
2. SECIモデルが描かなかった「沈む時間」
野中郁次郎のSECIモデルは、暗黙知と形式知を循環させることで、組織的な知識創造を説明しました。
これは、「暗黙知=属人化=悪」という単純化を回避した、画期的なモデルでした。
ただし、SECIモデルには意図的に描かれていない部分があります。
それは、暗黙知が身体に沈み込むまでの時間とコストです。
分からないまま使い続ける
成果が出る保証はない
それでも手放せない
この、最も不安定で、最も人間的なプロセスは、モデル化されにくい。
組織がこの「沈む時間」を待てないのは、怠慢ではありません。
短期的な成果や説明責任を強く求められる構造を、そもそも組織は内包しているからです。
しかし実は、こここそが変態の出番であり、組織進化の起点でもあります。
3. 成人発達理論から見た「暗黙知の取り扱い」
暗黙知や身体知の扱い方は、成人発達段階によって大きく異なります。
第三段階
正解に従う
形式知を信奉する
暗黙知に翻弄される
この段階では、身体知化の価値そのものが見えにくい。
なぜなら、評価軸を外部に依存している状況では、
「説明できない」ことがそのまま恐怖になるからです。
結果として、
「早く説明できるようになりたい」という欲求が、
深く染み込ませていくプロセスそのものを妨げてしまいます。
第四段階
自分なりの意味づけが生まれる
問いを価値観として保持できる
分からなさに耐えられる
ここで初めて、「説明できない」状態であっても、
それを自分の選択として引き受けることが可能になります。
暗黙知は、この段階で初めて「育てる対象」になります。
第五段階
自他の身体知を相対化できる
他者を「未だ言語化されていない知を内包した存在」と見る
探究そのものを楽しむ
この段階では、身体知は管理対象ではなく、探索対象になります。
他者の暗黙知を扱いやすくなるのが、この段階の特徴でもあります。
4. ネガティブ・ケイパビリティと身体知化
前稿で触れた「知の瞬発力」と「知の持久力」。
後者は明らかに、ネガティブ・ケイパビリティの領域です。
分からない
まだ言えない
でも手放さない
この状態が続くと、脳はある種の誤解(良い意味で)を起こします。
「これは、生存に関わる重要案件らしい」
その瞬間、処理階層が変わる。
「これは知識ではなく、生存ツールだ」と判定が切り替わったとき、
身体知化のゲートが開くのです。
大脳新皮質で扱われていた知は、
感情を媒介にして、より深いレイヤーへと沈んでいく。
身体知化は、
ネガティブ・ケイパビリティの向こう側で起こる。
5. 変態とは何者か
ここで、私の言う「変態」を定義しておきます。
変態とは、
役に立つか分からない
評価される保証もない
それでも面白がってしまう
このプロセスそのものに、快感を覚えてしまう人です。
身体知化には、時間も、感情も、失敗も必要です。
効率化の論理では、真っ先に切り捨てられる領域。
それでも尚、そこに踏み込む人がいる。
組織に新しい価値をもたらすのは、常にこのタイプです。
変態は、組織の中に必ず存在します。
変態こそが、組織の可能性だからです。
ただし、その変態が生きながらえられるか、
それとも静かに消えていくかは、
組織の文化と覚悟に大きく左右されます。
※詳細は
「コンストラクタル法則と線の文化史から読み解く、逸脱の構造的必然
――なぜどんな組織にも『変態』が一人はいるのか」
をご参照ください。
6. 身体知化は、人と組織の進化装置である
ここまで見てきたように、身体知化とは、
個人の熟達
暗黙知の生成
成人発達
SECIモデル
組織変革
これらを一本の軸で貫く概念です。
言い換えれば、
身体知の獲得プロセスとは、人と組織の「変態化」を促し、新たな価値を生む源泉である
ということになります。
AIが知を高速に生成できる時代において、
身体知化はますます、人間にしか引き受けられない進化の領域になっていくでしょう。
おわりに──管理できないものが、進化をつくる
身体知は、管理しきれません。
測定も、最適化も、容易ではない。
しかし、管理できないからこそ、進化が起きる。
一つでいい。
徹底的に身体知化された理論を持つこと。
私の場合、それは、ビジネスモデル・キャンバスに始まった様に思います。
そこから、他の理論も、他者も、組織も、
違って見えてきたのだと感じます。。
身体知化とは、
静かで、非効率で、
そして、最も人間的な進化のかたちなのだと思います。
最後までお読み頂きありがとうございまいた☆
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