王家の書【共鳴編】 第21話から第30話までのストーリーまとめ&人物紹介
あらすじ
我々と見分けがつかない「造られし者」が存在するという事実に、サイラス、オスカー、ケイレブの三人は、互いが互いを疑い始めていた。
視線が交錯するなか、オスカーは小刀を取り自らの手の平を斬りつける。鮮やかな赤が、滴り落ちた。サイラスとケイレブも同じように、自らを傷つけ、流れる血を確かめ合う。
「造られし者」に施された技術を思えば、それは二千年以上も前、人類が繁栄していた時代の産物だとわかる。その長い時を生き抜く人間などいない。血が通うはずがないーーそう理解した三人は、互いに頷き合った。
その時、宿の扉近くで気配が動いた。そこには、気を失ったエマを抱えた一人の少年ーーヨムトが立っていた。
彼は言った。
「お前たち三人がかりでも、私には敵わない。私は……戦うために造られた」
その言葉に、サイラスたちは衝撃を受けた。子どもの姿をしたヨムトに、武術に長けた三人が敵わないということだけでなく、眼の前に本当に「造られし者」が立っている事実に。さらにヨムトは、驚くべき事実を明かす。
――サイラスの母が命を落としたその場に、居合わせた者がいる。何が起こったのかを知っている、と。
サイラスの奥底に封じていた記憶が、痛みとともに呼び覚まされる。
あのとき、自分を庇おうとした母は目の前で肉片に化した。それは、サイラス自身の「共鳴」の暴走によるものだった。焦燥に駆られるサイラスに、ヨムトは言った。
「エマを守れ。この子は狙われている」
エマが目を覚ますのを確かめると、ヨムトは瞬く間に姿を消した。
サイラスは、力の謎をケイレブに問われ、かつて何が起こったのかを二人に語った。
ーー自分の力は、生まれながらにして異質であったこと。母を失った幼い日、自分の内にある共鳴の力を封じたこと。その代わり、国を守る鍵となる『王家の書』を探すことになったこと、を。
翌日。
エマが無事に戻ってきたことを知らせるため、サイラスとケイレブは、カイ・ロウルを訪れた。ケイレブは挨拶をすませると、唐突に聞いた。
「――ところで、なぜあんたたちは『造られし者』を探している?」
その問いに、カイ・ロウルは動揺するも、サイラスとケイレブに自分の生い立ちを語るのだった。
子どもの頃、彼と双子の兄、リク・ロウルは、コハルという「造られし者」に助けられ、育てられたのだという。そして、彼女がいなくなったその日から、カイ・ロウルは彼女をずっと探していた。
***
コハルは、怒れる村人からカイとリクを庇おうと、彼らの前に立ち、鋭い声で言い放った。
「やめなさい!! あなたたちは、それでも血の通う人間なのか!」
その日を境に、リクとカイの人生は大きく変わっていった。コハルは、幼い少年二人が生きていけるように、守り、知識を与えた。それは、三人だけの温かくも穏やかな時間だった。
ある日、コハルは雪と氷に閉ざされた施設へと向かう。彼女は目的地にたどり着くと、地面に現れた扉を通り、長い階段を降りていった。最奥の部屋に踏み入れると、そこには、壁一面の映像を見つめるひとりの男――「0」がいた。
彼は振り向き、冷たい声で言う。
「どうした?」
コハルは間髪を入れず尋ねる。
「人間は、育て方しだいで変わる。間引く必要なんて、どこにある?」
0は無表情のまま答えた。
「人間に情が移ったか。お前ほどともあろう者が」
コハルの拳が怒りで震える。0との会話に見切りをつけたコハルは、急ぎ来た道を引き返す。彼女の動作に無駄な動きはひとつもない。風を裂く音だけが、静かな森に残っていく。
家に戻ると、カイの姿が見えない。リクの話では、コハルを追って川のほうに行ったという。カイの足跡を辿り、川の上流に駆けつけると、風の切れ間から小さな声が聞こえる。
「……コ……ハル……!」
顔を上げると、濁流の向こうに、カイが手を振っているのが見える。
だが、次の瞬間、濁流の壁がカイを呑みこんだ。コハルはカイを助けようと、迷わず川に飛び込んだ。激しい流れが、二人を翻弄する。
コハルはカイを助けようとするが、大岩が下半身を、流木がコハルの左手を奪う。カイの鼓動は、腕の中で徐々に小さくなっていった。
コハルは全エネルギーを右手に集中させ、カイを川岸に放り投げた。
「カイ、生きろぉぉぉぉーーーっ!!」と、叫びながら。
コハルの体は濁流に押され、やがて小石のように転がりながら、下流のアウレ湖へと運ばれていった。その姿には、もはや動きも、意識もなかった。
アウレ湖では、99がひとり、黙々と作業を進めていた。0の伝言を受けた99は、識別番号〈UNIT586〉を回収し、氷河の地下深くにある施設へと運んだ。
99の報告を受けた0は、586をきれいに拭い元の姿に整える。そして、額に手をかざす。白く光る数字盤が浮かび上がり、静かに番号を打ち込んでいく。
「ピ、ピ、ピ、ピ、ピ────、全機能を停止します」
「長い間、ご苦労だった。……すまなかった、コハル。ゆっくり休んでくれ」
0は小さく呟き、コハルの手に自らの手をそっと重ねた。
***
コハルがいなくなったあとも、リクとカイは彼女の家で待ち続けた。やがて二人は、それぞれの道を歩む決意をする。
サイラスはカイ・ロウルに尋ねた。
「コハルというのは、どんな人だったのだ?」
彼は箱から一枚の肖像画を取り出し、サイラスたちに見せた。それは、穏やかに笑うコハルの絵だった。
ふとサイラスは、その表面に不自然な凹凸があることに気づき、裏返した。そこには、見覚えのある「0」と「1」が並んでいた。
サイラスは、その文字にそっと手をかざす。すると、カイ・ロウルたちの目の前に、金の文字が浮かび上がった。
そこには、コハルが二人の少年に残した想いが刻まれていた。
人物紹介
サイラス・アストリア
アヌシー王国の正統な跡継ぎ。自然が放つ波動と共鳴する力を持つ「共鳴士」。「0」と「1」の数字を読み解くことができる。
オスカー・ストラザール
左頬に傷を持つ大柄な男。武術に長ける。大工の家に生まれ、ケイレブと共に旅をしている。
ケイレブ・リー
商家の息子。料理が得意で、珍しい食材を求めて各地を巡る。神話に出てくるような美しい顔立ちで、人々を魅了する。
サン
オスカーの飼い犬。
ツキ
ケイレブが連れている白い猿。
マグナス
ツールの森に住む謎多き老人。『王家の書』について、共鳴士であるサイラスにその秘密を教える。
エマ
左手に紅い痣を持つ少女。それは未来を視る「紅血の一族」の証。サイラスたちと旅を共にしており、「0」と「1」の数字を読み取ることができる。
ヨムト
親を亡くし、叔父のレイジンに引き取られた少年。「造られし者」として、エマを見守る。
レイジン
ヨムトの叔父。親を亡くしたヨムトの面倒を見ている。エマを攫った「造られし者」。
カイ・ロウル
グランブルー号の船長。サイラスたちに手を貸す心優しい船乗り。幼いころ、コハルという「造られし者」に助けられ、一緒に過ごした経験がある。
リク・ロウル
カイ・ロウルの双子の兄。カイと同じようにコハルに助けられる。ロウル商会の当主。
マーク・レイナー
グランブルー号の副船長。カイ・ロウルとともに、「造られし者」を追っている。優れた「風読み」の力を持つ。
リオ・ナッシュ
グランブルー号の船員。
コハル(586)
リクとカイを助ける「造られし者」。二人の少年を守り、生きていけるように導く。
0
雪と氷に閉ざされた施設にいる謎の男。「造られし者」の一人。
04
旅人の姿をしている「造られし者」。0の手足として動く。
99
アウレ湖でひとり作業をする「造られし者」。
物語の鍵となる要素
アヌシー王国
ウール川が国の中央を横断する小国。農作物に恵まれ、「知の国」として知られている。
オルレアン王国
アヌシー王国の西側に位置する王国。交易で栄え、「商の国」として知られている。
コルカタ王国
アヌシー王国の東側に位置する王国。ラーケン山脈に面し、「武の国」として知られている。
ヴァルナ自治区
リクとカイ、二人の少年の生まれ故郷。部族同士の争いが絶えない土地。
王家の書
アヌシー王国に代々伝わる書物。この世の理や、国を守るための知恵が秘められているという。
共鳴士(きょうめいし)
生命のうねり――あらゆるものが放つ波動に寄り添い、その声を感じ取り、調和をもたらす者。アヌシー王国の王族にのみ密かに伝わる力とされている。
紅血の一族(こうけつのいちぞく)
左手に紅い痣を持って生まれる者たち。未来を見る力があるとされている。
ティル・マーレ(海の母)
船乗りたちの守り神として信仰を集める存在。その台座には「0」と「1」の数字が無数に刻まれている。
グランブルー号
堂々たる風格を備えた巨大な帆船。漆黒の船体と、艫(とも)に刻まれた鮫の紋章が象徴。
造られし者
先の世に造られたと言われる存在。人ではない何かーーその正体は謎に包まれている。
お読みくださり、ありがとうございます🌿
これまでのストーリーまとめ&人物紹介は、こちらから。
第1話から第10話までのストーリーまとめ&人物紹介
第11話から第20話までのストーリーまとめ&人物紹介は、こちらから。
第31話から第40までのストーリーまとめ&人物紹介は、こちらから。
第41話から第50までのストーリーまとめ&人物紹介は、こちらから。
第1話から第60話までのあらすじ
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