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『にじ画廊』を訪ねて no.2

微かに、遠くの方で、踏切の警報が鳴っている。
電車?
目が覚めるとカーテンの向こうが、ぼんやり明るい。
もう6時を過ぎているだろうな、と光の感じでわかった。
となりの布団で、娘はまだ熟睡している。
昨夜は、何時に寝たんだろう…。

私は布団から起き出して、台所を物色した。
冷蔵庫の中にも外にも、差し入れのお菓子が沢山あった。
生ものから先に食べて、と娘に言われていた。
箱の中は抹茶とチョコレートのコルネ、袋に入っていたのはピンク色のクリームと苺がトッピングされたドーナッツ、それから、生チョコの詰め合わせ、等々。
さすがに朝は食べられないので、今夜にでもご相伴にあずかろうかな。
近くのコンビニへ、とりあえず朝食を買いに行った。

やかんでお湯を沸かし、ゆっくりコーヒーを淹れる。
買ってきたエッグマフィンは、レンジで少しだけ温めた。
作業デスクに朝ごはんを並べ、時間をかけてゆっくり食べる。
目の前には、所狭しと花が置いてあった。
頂いた花束を、ありったけの器に分けて生けたようだ。
そのひとつひとつを見ながら、誰がくれたんだろうと想像する。
今日は最終日だ。
『にじ画廊』は正午からなので、まだ時間がある。

昨夜、娘の部屋に着いたのは、夜の11時頃だった。
吉祥寺からは途中一度乗り換え、所要時間は40分ほど。
彼女の暮らすアパートは、駅からすぐの便利な場所にあった。
室内は、予想していたよりもずっと広い。
撮影機材の設置と、作業スペースを確保するために引っ越したのだ。
この広さは当然だし、必要だとも思う。
今更ながら、彼女はフリーで仕事をしているのだ、と実感した。

私がお風呂から出ると、彼女は作品に同封する『作品証明書』を作っていた。
1枚1枚を手描きで、メッセージカードにはイラストも描いていた。
最終日の明日、売約済みの作品は画廊のスタッフに渡す。
発送の手配はしてくれるが、梱包作業はこちらで行う。
明日は早めに、箱と作品保護の包装紙を買いに行かないと。
幸い近くに梱包材の店があった。
業者向けだが、小売もしているようだ。

娘は出かける時間ギリギリまで寝ていた。
画廊に着いたのは、オープンの40分ほど前。
私は作品の外寸をコンベックスで順に測り、手帳にメモしていった。
ここに来る前に、二人で梱包材の店を下見してきた。
箱のサイズは何種類もあったので、他を探さなくても事足りそうだ。
娘は壁から売約済みの作品を外し、裏に展示用のフックを付けていた。
工具箱がデスクの下に置いてあり、フックも何種類かストックされている。
作業中は一時的に作品を外すので、オープンまでに終わらせないと。
採寸が終わると、私は箱を買いに出かけた。
今日は、私もここで、編集者のNさんと会う約束をしている。
個展の初日に、彼女は花を贈ってくれた。
そのブーケは、入ってすぐのラウンドテーブル上に飾ってあり、娘はそのアレンジをとても気に入っている。

Nさんと会うのは、4年ぶりくらいだろうか?
私たちは、近くのカフェで遅いランチを食べながら、互いの近況を報告しあった。
さっきまで画廊で、彼女は娘と話しながら、時間をかけて作品をひとつづつ見ていた。
テーマや背景にある物語を熱心に聞きながら、自身の感想やイメージも話していた。
二人の様子を遠目に見ながら、私は懐かしいような気持ちになった。
彼女とはずいぶん前に、何年間か一緒に仕事をした。
今まで出会った誰よりも、私は彼女を信頼している。
また一緒に仕事ができるといいな、と思わない日はなかった。
その気持ちは、今も変わらない。

「また、会いましょう!」
私たちは吉祥寺駅の近くまで一緒に歩き、途中で別れた。
彼女は会社に戻り、私はまた梱包材の店に向かった。
直径10センチほどの作品が入る箱を、追加で買わないと。
その作品の購入者は、Nさんだった。


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