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伯仲に会いに行って、ブックマーカーに背中を押される

 2025年6月、人生2度目の名古屋である。
 1度目は刀剣乱舞と出会って間もない頃の近侍曲演奏会だったなと思い出しつつ、今回も刀剣乱舞なんだよなと新幹線に乗り込む。
 目的は徳川美術館、通称「とくび」である。
 席に着いて早々、この日のために買ったと言っても過言ではないワイヤレスイヤホンを取り出す。車内で聞けたのは目的地のとくびで行われていた特別展「時をかける名刀」とJR東海「推し旅」のコラボである。現場へ向かう車中ですでにコラボが始まっていて、嬉しい限りだ。
「名古屋メシはウマい」と名古屋の街に消えた伯仲こと刀剣男士・山姥切国広と山姥切長義に対し、私は1人スーツケースを引いて名古屋駅を右へ左へと空いているコインロッカーを探してさまよい歩く。
 思いがけず「コインロッカーないんだけど問題」に遭遇するも、駅の端の方に空いているところを見つける。ロッカーの場所はあらかじめネットで確認すべきだったなと反省。2度目だからと謎の余裕をかましたのがいけなかった。金曜日だったこともあり、私含め土日とくっつけてきている方が多かったのだろう。
 名古屋駅で早々につまずいて、先行きに不安を覚える。

 時は6月、梅雨時である。雨と湿気でくるくるになる髪が心配だった。しかし、そんな心配は杞憂であった。
「梅雨明けしたんじゃないの!?」
日傘をさしても、日差しは恐ろしく強い。これが名古屋の梅雨なら、梅雨明けしたのならどうなるのか。
 伯仲の輝きを見る前に、太陽の輝きで干からびるわけにはいかないと水分補給をしつつ、とくびへ急ぐ。早く伯仲を見たいというより、今回ばかりは暑さから逃れたい一心であった。
 バスを降りて少し進んだところで、徳川美術館へ到着。軽々しく足を踏み入れてはいけないような大層立派な黒い御門がそびえたち、徳川家の力に圧倒される。
 おじゃましますと心の中でお断りしてから、御門をくぐる。こちらには徳川美術館だけでなく徳川園という庭園もある。旅先ではなぜか庭園とマンホール撮りをしている身としては気になるところだが、まずは徳川美術館である。太陽の熱でメイクもろとも溶けるのなら、先に伯仲を見てから溶けたい。今はまだメイクも崩れていない……はずだ。
 混雑を予想して訪れたがとくびの前に人影はない。この暑さで空いているのかと期待して館内に入れば、そんなことはない。あっちもこっちも人、人、とにかく人。
 炎天下の屋外より、空調の効いた室内がいい。それはそうだ。

 音声ガイドもワイヤレスイヤホンで聞けたので装着。新幹線の山姥切国広と山姥切長義に代わり、アテンドしてくれるのは同じく刀剣男士の鯰尾藤四郎だ。
 徳川美術館には刀剣乱舞に登場する刀剣男士のうち、
  山姥切長義、南泉一文字、鯰尾藤四郎、後藤藤四郎、物吉貞宗、五月雨江
の6振が所蔵されている。「時をかける名刀」では足利市より山姥切国広、東京・三井記念美術館より日向正宗(前期のみ。後期は東京国立博物館より三日月宗近)が展示されていた。

 音声ガイドを聞きつつ、徳川ゆかりの展示品を見ながら奥へと進むと行列に遭遇する。
 お昼時だからカフェかと思うも、まだ展示室は続くのに途中にカフェはないよなと首を傾げる。そもそも特別展のメインともいえる刀をまだ見ていない。
 男性の姿もあるからお手洗いではない。行列は片側に寄っていて、名古屋のガイドブックを広げる人たちもいれば、スマホを見ている人もいる。
 追い越していいのか、並ぶべきか。しかし何の行列かわからない。人見知りの私には「何の行列ですか?」と聞く度胸もない。
 どうしようかと思いつつ、とりあえず行列に並んでみる。1人旅の特権だ。ピクミンブルームをしたり、本を読みながら並んでいると、この行列は刀剣を1番前で見るためのものだと説明がある。遠くからでも構わないという人は行列を追い越して展示室の方へ進める仕組みだ。
 行列の長さに「遠くからでもいいか?」と一瞬思うも、徳川美術館に来るのは初めてだ。とくび所蔵の刀と山姥切国広を見るのも初めてである。
 どうするか? ――並び続けた。
 飲食店の行列は並ぶくらいならほかの店に行こうと思うが、展示は別だ。次に山姥切長義と山姥切国広がいつ、一緒に並ぶかわからない。それに外に出ても、相変わらず暑いに決まっている。なら少しでも気温が下がってから外に出たい。
 そんな不純な動機で行列に並び、広い展示室で刀剣を見る。室内の内装も素敵で、壁や天井もぐるりと見渡す。博物館や美術館は展示だけでなく、その建物と内装も細部まで凝った造りになっているところもあるので面白い。
 刀剣の中で印象深かったのは、五月雨江である。刀身をじっくり見ると、あの延々と続く五月雨のような模様が見える。線や点々と表現するのではなく「五月雨のよう」という言葉が自然に出てくる当時の人たちに情緒の豊かさを感じる。単に私の語彙力の問題かもしれないが。

 廊下では入館者プレゼントとしてQRコードが張り出されていた。QRコードを読み込むと、とくびミライのスマホ壁紙がもらえるということですぐに読み込む。3種あり、このデザインがまたカワイイ。
 この日以来、私のスマホの画面はとくびミライに固定されている。いつかこの刀剣男士に出会う日があるのではないかと期待して。

 展示を見終えたらコラボパネルの撮影へ。外はやはり暑かった。キッチンカーの出店もあり、日陰でご飯や冷たいものを食べたりしている人の姿も。私は汗が流れて来るのを感じ、パネル撮影後は早々に館内に避難。
 休憩しようかと館内のカフェをのぞくも混雑しているうえ、空くのを待っている方もいたようなので休憩を断念。ならばと向かったのはコラボグッズの売り場だ。
 散財する危険性が非常に高いので寄らないつもりでいたが、カフェに入らなかったんだしちょっと覗くくらいと思ったのが、やはりいけなかった。
 あらかじめネットで見てはいたが、とくびのグッズはデザインが本当に素敵である。ここからここまで全部と言えるのなら言いたいほどに。だからか売切れになっている商品もあった。
 同じ刀剣でそろえるべきか。
 香りはこれがいい。
 デザインはこれが好きだけど、色合いでいったらあっちか。
 売り場を何度も行き来してさんざん悩んだ結果、バームとブックマーカーを1つずつ購入。
 このブックマーカーが帰宅後、私に謎の圧をかけるとは知らず、好きな色合いのブックマーカーを買えてラッキーとしか思っていなかった。

 徳川美術館を出た後は、来るときに気になっていたすぐ隣にある徳川園にひょいと行ってみる。青空に園内の緑が映える。暑かったからか、人はまばらであった。
 あとで園内で撮った写真を見返すと、気温が30度を超えていたとは思えない。写真で見るのと現地であの暑さを体験するのはやはり違う。

 徳川美術館を後にし、SNSで見かけて気になっていた和菓子屋・芳光さんへ。グーグルに道案内してもらって着いたのは、一見するとふらっと入りにくそうな店構えのお店である。
 普段チェーン店しか利用していない私にとっては、非常に入るのに勇気がいるお店だ。
 一見さんお断りとは書いていないけれど、敷居が高そうに見える。
 でもわらび餅が食べてみたい。
 気後れより食欲が勝ち、店内へ入る。
 どこか懐かしさを覚える店内だ。衝立や作業場との間にある暖簾は昔、母に連れられて行っていた菓子匠と雰囲気が似ている。その店は跡継ぎもいないことからすでに閉店してしまったが、あの店と同じ空気だ。
 狙っていたわらび餅がまだあることを確認。まだわらび餅を狙ってくる人がいるだろうなとわらび餅1つの他に色合いが美しい生菓子2つを購入。全部自分1人で食べる分である。
 緊張して入ったものの、無事にミッションを終えてほっとする。やる前は尻込みしても、やってみれば心配するほどのことでもない。案ずるより産むがやすし。そんな言葉を思い出した夏の午後であった。

 ホテルにチェックインして一息つき、芳光さんのわらび餅を食べる。
「飲める……!」
 カレーは飲み物という言葉を聞いたことはあるが、わらび餅が飲み物だとは知らなかった。今まで食べていたわらび餅の概念を覆させられた。とろけるチーズよりとろけるわらび餅だ。
 三島で知ったおいしいお団子しかり、芳光さんのわらび餅と各地の旅の思い出に美味しい記憶も増えていく。刀剣乱舞コラボが目当てで来ているのに、各地のおいしいものも知れて大満足だ。6月下旬の名古屋は日差しが強く、恐ろしく暑いということも知れたし。

 旅を終えても、グッズを見れば旅の記憶がよみがえる。とくびの場合、色が好みという理由で購入したブックマーカーがそうだ。
 このブックマーカーを使わずにペン立てに入れておいたところ、ふいに使わなきゃいけないような謎の圧を感じて手に取り、年末年始は急遽勉強することになった。
 合格の御利益があったのか、勉強せずに挑んだものをのぞいて合格している。このブックマーカーを使って落ちてはいけないような気がしたのもあるが、やる気を含めて後押ししてくれたのだろうと思っている。
 それを思えばグッズ購入は散財ではなくて、投資なのかもしれない。


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