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夏の終わりの勇姿 #シロクマ文芸部

「ヒマワリへの放水開始、10秒前ーー!!」

 そう掛け声がかかると大声でカウントダウンが始まった。

「じゅーう! きゅーう!」

 8月のお盆を少し過ぎたころ、この町のヒマワリ畑で行われる伝統行事。
 伝統、とはいっても今この町にいる誰もその起源を知る者はいない。口頭伝承のように、書物や記録は一切残っていないのだ。
 それでも絶えることなく、知られている限りでも80年以上は続いているらしかった。それは町の老人たちの「ワシらぁがこどもの時分からあったわな」という話によるものだ。


「ろーく! ごーぉ! よーん!」

 15人ほどの子どもたちがヒマワリ畑を囲んでいる。さらにその周りでは住人たちがニコニコと見守る。

「さーん!」

 手にしているのは、水鉄砲。

「にーぃ!」

 みんなが一斉に水鉄砲をヒマワリへ向ける。

「いーち!」

 カウントダウンが終わると、一気に水鉄砲からヒマワリへと水がかけられる。

 ヒマワリを倒してしまわないように走り回る子どもたち。
 わーわーきゃーきゃーと楽しげにはしゃぐ声がそこかしこから聞こえてくる。



 この町のこのヒマワリは特殊だった。
 種を蒔き水をやり育てる、それはどのヒマワリでも同じだろう。
 でもこのヒマワリには他のヒマワリとは違うところが、ふたつある。


「いてててて!」
「このヒマワリは乱暴だなぁ」
 
「わぁーっ、見て見て! 噴水みたい!」
「本当だ! かわいいね!」

「きみはちょっとヘタだね」

 それまでは水をやってもただそれに応えて成長するだけだったヒマワリが今は—— 



 水をかけると種を飛ばしてくるのだ。



 徐々に元気をなくしヒマワリの季節はもうすぐ終わりか、となるこの時期に起こる現象だった。
 スイカを食べたときにその種を口から飛ばすように、自身の種をププププっと飛ばしてくるヒマワリ。

 勢いよく飛ばしてくるヒマワリもいれば、噴水のように上に向かって飛ばすヒマワリ、飛ばすのが少しヘタであまり遠くまで飛ばせないヒマワリ、ひとつずつゆっくりと飛ばすヒマワリ、四方八方へ飛ばすヒマワリ――
 ヒマワリにもそれぞれ個性があるらしかった。


「おーぅ、がんばれ、がんばれーぃ」
「あの子は当てるのがじょうずだねぇ」
「はっは、水鉄砲とヒマワリの合戦じゃあなぁ!」

 周りで見ている住人たちもはやし立てる。


 この行事に参加するのは、町の小学校に通う6年生。
 ヒマワリから飛ばされた種は5年生へと譲られる。
 その種は大切に保管され、次に6年生になったときに種を蒔き水をやりみんなが協力して育てる。
 そうしてまた夏の終わりが近づく頃にこの行事が開催されるのだ。


「んん? そろそろじゃあないか?」
「本当かい? どれどれ」

 放水が開始されてからしばらく経った頃、ひとりの住人がヒマワリ畑を指さした。
 それにつられて周りの住人たちも指を指されたほうを見やる。

「おぉ、そうだな。そろそろだ」
「みんなー、水かけは終わりでーす!」
「はいはーい! 集合、集合ーー!」

 その声に子どもたちはヒマワリへ水をかけるのをやめて、一か所に集まってくる。
 みんな、びしょ濡れだ。Tシャツもズボンもワンピースも、髪も身体も。
 それでも「気持ちいいー!」「楽しかったぁ!」と興奮が冷めずにいる。


 子どもたちが集まるころには、多くのヒマワリにも変化が現れた。
 もうひとつの、他のヒマワリとは違うところ。



 種を飛ばし終えたヒマワリは、最後の勇姿とでもいうように、徐々にその背筋をピンとりりしくまっすぐに伸ばしていく。

「おぉ、すっげーな」
「わぁー……!」
「不思議だぁ」

 子どもたちは感嘆の声をこぼしてその様子に見入る。それは大人たちも同じだ。
 何度見てもいいもんだ、綺麗だねぇ、と言った言葉がいたるところで囁かれる。

 まだ強い夕日に照らされて輝くそのさまは圧巻だった。


「あぁ、いけない、いけない。みんな、ほら、写真撮るよー」

 カメラを手にした住人が思い出したようにカメラを構える。
 日が落ちれば、ヒマワリはしおれてしまうだろう。今日は、ヒマワリにとって今年最後の日になる。




 誇らしげに胸を張るように立つたくさんのヒマワリたち。
 女の子も男の子もびしょ濡れの姿のまま、とびきりの笑顔を見せる。子どもたちもどこか誇らしげだ。

 さながらお互いにたたえ合う戦士のように。


 この町の、夏の終わりの風物詩。





#シロクマ文芸部 企画に参加しました。


ひまわりは好きな花でもあり、いつもより多めに書きたいことが浮かんでしまい、ある意味書くのが大変でした…… 笑。

※ 09.02 一部訂正しました。

読んでいただきありがとうございます。

2023.08.25 もげら


シロクマ文芸部 企画参加ショートショート:
街クジラ お題:「街クジラ」
今日は誰の日? お題:「私の日」
私の日制度、導入 お題:「私の日」
鍵穴を探している お題:「消えた鍵」
ピアノの秘密。 お題:「消えた鍵」
時計の針が止まるとき、それは食事の時間 お題:「食べる夜」
楽しい時間 お題:「書く時間」
平和が訪れるとき お題:「平和とは」
文芸部の友だち お題:「文芸部」
擬態語ウォーキング お題:「ただ歩く」


練習 ショートショート:
君と何をしようかな
台風はアイスクリームを食べる
ペンギンのドライブ


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