消えた、出てきた、それからまた、 #シロクマ文芸部
ブランコに乗って、くつを飛ばしたら、どっかに行っちゃった。
子どもがポロポロと涙をこぼしながら帰宅した。
「ママぁ、」と玄関で呼ぶ声に「はいはい」と気楽に出ていった私は一瞬、面食らった。
「どうしたの、怪我した?!」
驚いた私に返ってきた答えが「くつをなくした」だった。
私は思わず笑った。
「いっぱい探した?」
うん、とうなづく。
「お友だちも一緒に探してくれた?」
うん、とうなづく。
「でも、どこにもなかったんだ?」
うん、とうなづく。
「みんなで一緒に帰ってきたの?」
うん、とうなづく。
そしてついにわぁわぁと声を上げて泣いた。
「ごめんなさいいい」
全部に濁音がついていそうな音だった。
わはは、私はまた笑った。
「いいよ、いいよ。くつをなくしちゃったのは残念だけどね」
覚えが、ある。ありすぎるほどに。
ついさっき、子どもの話を聞いて思い出したところだけど。
瞬時に、鮮明に、思い出した。
昔、ちょうど今の子どもと同じくらいの頃。
きっと今日この子がしたのと同じように、ブランコに乗って、友だちとくつを飛ばして遊んでいた。
ぐんぐんと勢いをつけて、ポーンと飛ばしたくつは、誰よりも遠くへ飛んだ。
「わー!」「すごーい!」と歓声が上がる中、ぽすりと落ちた。
そして、消えた。
友だちみんなが一緒に探してくれた。
落ちたであろう場所だけでなく、それこそ公園中を探した。
それでもくつは見つからない。
お気に入りのくつだった。
ポロポロと涙をこぼしながら帰宅したのも、今日と同じ。
全部に濁音がついているような「ごめんなさい」も今日と同じ。
「あなたがいなくならなくて、よかったぁ」
ぎゅっと抱きしめると、子どもはぴたりと泣き止んだ。
これも、同じ。
あの日、私の母もこうした。
「たぶん、犬か猫の宝物になってるよ」
これは、あの日、父が言った。
わんわんと玄関で泣く私の声を聞いて、ひょこっと顔を出していた父が言ったのが、それだった。
子ども心に、「おかあさんとおとうさんでよかった」と思ったことも、思い出した。
あれ?
そういえば、
「はだしで帰ってきたの?」
私はどうしたんだっけ?
なにかが、私に妙な違和感を抱かせた。
子どもの足元に目を落とす。
心臓が、一拍、遅れて打った。
「あのね、ごめんなさい。くつ……、拾ったの。でもね、ぴったりだったから……、ごめんなさい、明日、ママも、けいさつにいっしょに行ってくれる?」
少しついた泥の汚れ。
少し褪せた色。
そんなはずない、ありえない——、ぐるぐると頭の中に巡るのは、否定の言葉たち。
お気に入りだった、あの、
あの日、私がなくした靴を履いていた。
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2025.04.27 もげら
