忘れられない提案を #シロクマ文芸部
忘れたいたみが、忘れるなと言わんばかりに疼く。
そんな書き出しで始まる小説に、頬杖をつきながら男はうなだれた。
「……ダメだ、これじゃあ」
「悩んでますねえ、先生?」
「いじるんじゃないよ」
ヒヒ、と擬音がつきそうなイラズラな彼女の笑顔。
「期待してますよ、新作」
「もう、やめろって」
「青春、ねぇ……」
青春の思い出、なにかある?
そう聞きかけてやめる。
問うのをやめたのに、ツキ、と彼の中でなにかが反応したのを知らないふりをした。
知らないふりをしてやりすごせる、疼くだけのいたみを、わざわざえぐられる必要はない。
二人は幼馴染だった。
彼が、彼女を好きだと自覚してからそれほど経たずに告白した。
高校生のときだ。高校二年生。高校生活に浮かれた時期はとっくに過ぎ、卒業間近の焦りからでもない。そのときに告白することが、当たり前のような気さえした。
玉砕覚悟というほどでもなく、けれど絶対にうまくいくという自信もなかった。
さらりとごく自然な告白に、彼女もまたさらりとごく自然に断った。
その後の二人の関係に驚くほど変化はなかった。今まで通り。いつも通り。
ただ、彼にはチリチリとしたいたみが残った。彼女の知らないいたみ。
高校を卒業した二人は別々の大学へ進学した。
それから、小説家となった彼と、編集者となった彼女が再会したのはなんの因果だったのか。それともそれは縁だったのか。
彼は今、『青春』をテーマにした短編を書いている。数人の作家が同じテーマで執筆する、短編集のためだ。
「自分のこと書いてみたらいいんじゃない?」
「……自分のことって言ってもなぁ」
知っているくせに、とは口に出さない。
幼馴染に告白して振られる。関係は壊れはしなかったけれど、ひっそりとしたいたみだけが残っている——
そんなこと、書く気になれるわけがない。格好悪い話だ。
書き出しこそ書いたものの、「ダメだ」と呟いたのだった。
「ハッピーエンドにすればいいじゃん」
「自分のこと書けって言ったじゃないか」
ハッピーエンドではなかったことも、知っているだろう。
「うん。ハッピーエンドにしてみようよ」
「……それってさ、」
「一度は振られちゃったけど、数年後にはまさかのハッピーが待ってました、ってやつ、かな?」
「疑問形?」
「提案だから。ね、どうする?」
また、ヒヒ、と笑った彼女の顔は昔と同じようで、ほんの少し、照れくさそうだった。
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だんだんと提出が遅くなってきたぞ……!
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・捨てるのは、モノだけ。 9/11「思い出の」
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2025.10.01 もげら
