夜、眠れない、嘘 #シロクマ文芸部
「眠れない」と、独り言をこぼしながら夜を過ごす。これで何日目だろう。
SNSを辿ってみる。
『今夜も眠れないな』
『夜って、びっくりするくらい無音の瞬間ある。』
『外が明るくなってきた。』
夜に沈むような投稿が並んでいて、昼間の記録は飛び飛びだ。
だからスクロールするのも難しくない。
それらの投稿はだいたい二週間くらい前から続いていた。
ああ、そんなにも眠れない夜を過ごしているのか。
理由のない感嘆にも似た感想を抱いて、新たに投稿する。
『今夜も眠れない。眠れない夜、数えてみたら、14夜目。』
新たに表示された自分の投稿をぼんやりと眺める。
眠れないことをアピールしたいわけじゃない。
じゃあなんのために、と聞かれても、答えられる明確な理由はない。
自分の投稿以外に動かない画面。
昼間は次から次へと流れていくそれも、今は何度更新しても自分の投稿が先頭に居座り続けている。
ピタリと止まった世界が、そこにある。
世界の中で自分だけが世界の外にポツリと放り出されてしまったんじゃないかと錯覚しそうになる。
同時に、世界には今が昼の時間の国だってあるし、だとか、同じ国の中でも今、この瞬間にも働いている人たちもいるのだ、だとか、冷静に思う自分もいる。
部屋の明かりは誰かのおかげで昼間と同じに煌々としている。それなのに聞こえてくるのは、ひっそりと低く唸る冷蔵庫の音だけ。
車の走行音も、子どもたちのはしゃぐ声も、近所の人たちの立ち話の声も。今、ここには届いてこない。
ふいに、自分が社会の歯車からポロリとこぼれ落ちたような気持ちになる。「ありがとう」と「ごめんなさい」がない交ぜになった、ひどく焦燥に似た感情が込み上げる。この部屋を照らす光からも隠れてしまいたくなるほどに。
……やっぱり消そうかな、
『眠れない』という投稿に、なんの意味があるのか。意味なんてなくていいのか。
逡巡していると、ポン、と通知が届く。フォロワーからだ。
眠れていなくて大丈夫ですか、といったものだ。
自分もなんだか寝付けない、仕事なのにどうしよう、と続く。
心配をかけてしまったらしい。
じわ、と画面に並ぶ文字が指先から浸透して、それから全身をめぐっていく。そのやわらかさを追い越して、急速に申し訳なさが溢れ出す。
指先は、固くなる。
何を、返せばいいのだろう。文面の裏に見た、「生活」に。
大丈夫、心配はいらないよ。
その一文に、目一杯の強がりを。
だって、眠れないのは、「夜」という時間だけなのだから。
今も、まぶたは重たくない。
昼間には、カーテンの向こうに感じる光から逃げるように、たっぷりと眠っているのだから。
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2026/04/25 もげら
