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餅があふれる月 #シロクマ文芸部

 月の味覚がなくなったみたいだよ!

「ドクター、大変! 大変!」
 言いながら飛び込んできた白い塊に驚く間もなく告げられた。
「なに?! それは本当か?!」
 ピョコピョコと耳を忙しなく動かしながらドクターは再度確認した。
「味がしない、おいしくない、と嘆いてるんだよ」
「ううむ、それはいかん……、いかんぞ……!」
「とにかく来てよ!」
 そう言うと、訪れたときと同じように飛び出して行った白い塊を追う。


 白い塊が集まる真ん中からは「うわああん」と大きな声が響いている。
「おいおい、月よ、どうした? 味がしないというのは、本当なのか?」
「ああ、ドクター。味がわからないんだよ。おいしいはずなのに」
 白い塊をかき分けて辿り着いたドクターは率直に尋ねると、めそめそと月は答えた。
「おしょうゆをかけてみたんだけどね、ダメみたいなんだ」
「大根おろしもダメみたい」
「もちろん、きなこもね」
 あちこちからも声が飛んでくる。
「ふうむ……」
 ドクターは唸った。
「これは、アレかも、しれんなあ……」
「アレって?」
「もしかしてアレじゃない?」
「ああ、アレ?」
「えぇっ、そんな、」
 またあちこちから反応が上がる。

「チキュウからニンゲンが持ち込んだのかもしれんな」

 ドクターの見立てでは、チキュウで猛威を振るうウイルスにかかった可能性があるという。
「おそらく、しばらくすれば元に戻るだろうが……。しかし……、」
「ねえ、ドクター。月の味覚がなくなるとどうなるの?」
 ドクターが言葉を続けるのを遮って質問が上がる。
「問題はそれじゃ」
 どうなるの、どうなるの、とヒソヒソとした会話がそこかしこで起こった。
「お前さんたち月のうさぎがついた餅を食べられなくなる。そうするとどうなると思う?」
 今度はドクターからの質問に静まり返った。


「月が餅であふれてしまう」




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2025.10.07 もげら

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