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アメリカの政府系ファンド創設案とその目的


 アメリカでは、トランプ氏が大統領になった場合に政府系ファンドを創設するという話が出ています。それを受けて、バイデン政権も政府系ファンドの設立を検討している、その創設案を作成中と伝えられています。
 この件について、日本も同様の取り組みを行った方が良いのではないか、という意見が多く寄せられています。そこで、この記事ではアメリカの政府系ファンドについて説明します。 

トランプ氏とバイデン政権の案について

 トランプ氏の案もバイデン政権の案も、詳細は明らかになっていません。そのため、細かな分析を行うことは現時点では難しいのですが、いくつかの論点が考えられます。

政府系ファンドの資金調達

 まず、アメリカが世界最大の対外債務を抱えた国であることは、ご存知のとおりと思います。多くの政府系ファンドを持つ国々は、大きな対外純資産を有しており、余剰資金を保有する国々が中心です。つまり、石油などで得た莫大な収益を将来のために運用している国々が多いです。中東の産油国の政府系ファンドや、ノルウェー、シンガポールなどがその代表例です。

政府系ファンド
 政府系ファンド、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドとは国が持つ金融資産を積極運用するファンドのことです。ソブリン・ウェルス・ファンドというと、産油国である中東のイメージが強いかもしれません。

シンガポールの政治体制と政府系ファンド

  一方、対外純債務国であるアメリカが政府系ファンドでお金を運用する場合、新たにファンドを立ち上げるための資金を海外から調達しなければなりません。政府系ファンド自体が直接外国から資金を借りるわけではありませんが、国内の資金が限られているため、国債の発行や他の手段を通じて、間接的に海外からの資金調達が必要となります。

投資の収益性と国全体の効率性

 現在の米国債の利回りは、10年物で4%程度です。そのため、少なくとも4%以上の収益を上げなければ、国全体として非効率な状態となります。国債の発行を増やし、レバレッジをかけた投資を行うイメージとなります。

政府系ファンドの投資対象の分類

 世界の政府系ファンドを投資対象で分類すると、次のようになります。

自国の産業に投資するタイプ

 自国の産業を育成・強化するために投資を行うタイプです。
 シンガポールなどが代表的で、国内のインフラ事業や成長産業への投資を通じて、経済発展を目指します。

海外に積極的に投資するタイプ

 中東の産油国やノルウェーなど、国内に大きな産業がない国々が、豊富な資源収入を海外投資に活用しています。海外の有望企業やプロジェクトに投資し、収益を得ています。

最近の投資動向

 自国の産業が発展してくると、育成したい産業や、相乗効果を期待できる海外企業の株式を保有し、政府系ファンドを活用して自国の産業をさらに育てようとする動きが見られます。
 最近では、中東の産油国もこのような投資を増やしています。

レイ・ダリオ氏とアブダビ投資庁の事例

 先日、アメリカの有名なヘッジファンド「ブリッジウォーター」の創業者であるレイ・ダリオ氏と、アブダビの政府系ファンド「アブダビ投資庁」の会長が経営に関わるAI企業が、共同でベンチャーファンドを設立する計画がありました。しかし、ブリッジウォーターの知的財産がアブダビ側に利用されるとの懸念から、この計画は中止となりました。
 このことからも、中東の政府系ファンドがAIなどのテクノロジー分野で積極的に動いていることがわかります。もともと海外で運用していたファンドも、国内で育成したい事業に関連する投資を行うケースが最近増えています。

運用手法の変化と共通点

 一方、シンガポールのように、もともと国内の事業を育成するために政府系ファンド「テマセク」を設立した国もあります。国内のインフラ事業などが十分に育つと、ここ20年ほどはポートフォリオを多様化し、海外で収益性の高い分野への投資を増やしています。最近では、アメリカの未上場企業への投資も拡大しています。
 このように、もともとの国内投資型と海外投資型のファンドも、運用手法が似てきていると言えます。

テマセク・ホールディングスのポートフォリオ
 2024年に入り、過去10年で初めてアメリカへの投資が中国への投資を上回りました。現在のポートフォリオは、アメリカが22%、中国が19%、アジア太平洋が19%、欧州・中東が13%、シンガポールが27%となっています。2020年の段階では中国が29%、アメリカが18%だったのが逆転した形です。

シンガポールの政府系ファンドの投資先の変化

アメリカの政府系ファンドの目的

 アメリカの場合、テクノロジーやエネルギーサプライチェーンなど、国家安全保障上の利益となる投資を目的としています。そのため、かつてのシンガポールのようなイメージに近いでしょう。

政府系ファンドと政治の関係性

 現在、アメリカでは大統領選を控え、激しい論争が繰り広げられています。その中で、様々な疑惑や不透明な動きが指摘されていることもあります。大きな政府系ファンドに政治家が関与するようになると、さらにそのような疑惑が増えるのではないかという懸念もあります。
 例えば、トランプ政権が政府系ファンドを設立した場合や、ハリス政権が政府系ファンドを設立した場合、どのようなスキャンダルが起こり得るのか、容易に想像できるのではないでしょうか。

技術革新と政府の役割

 では、政府系ファンドを設立することは悪いことでしょうか。良いか悪いかは別として、これが今の国際情勢の流れであると言えます。AIや宇宙開発など、軍事にも関連する多くのテクノロジー分野で大きな技術革新が起こっており、その中で国家間の競争や敵対関係が激化しています。このような状況下では、政府がこれらの技術を守り、育成していく役割が必要であるという判断になっています。
 これが技術革新にとって本当に良いことかどうかは分かりませんし、どの観点で見るかによって見解は異なるでしょう。しかし、国際政治の観点では、現在そのような状況になっていると言えます。


ご参考(トランプ氏記事のまとめ)

■ トランプ氏が勝利した場合のドイツ経済(2024/3/12)
■ トランプ氏が勝利した場合のフランス経済(2024/3/30)
■ トランプ氏が勝利した場合の金利の動き(2024/7/2)
■ アメリカ財政赤字の見通しと利払い、GDPの関係(2024/7/18)
■ FRBと独立性の話とニコニコch再開のご報告(2024/8/16)
■ トランプ氏の報復関税と私のYouTuberとしての話(2024/9/14)

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