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資金難のサウジアラビア、国有インフラの売却へ


 サウジアラビアの国営石油企業であるサウジアラムコが、国内にある複数の火力発電所を売却する方向で検討しているという報道が出てきました。サウジアラビアといえば、「とんでもないお金持ちの国」というイメージを持っている方も多いと思います。
 ただ、ここ最近ではビジョン2030という巨大プロジェクトに莫大な資金を投じていたり、かつてトランプ政権に取り入ろうとアメリカに6,000億ドルの投資を約束したりと、投資資金をかき集めるのが難しくなってきているのが現実です。

 そうした中、ついに国の重要インフラである発電所を売却する方向で動き始めたということで、この記事ではサウジアラビアの経済事情について解説したいと思います。

財政難の進行

 日本のオールドメディアや一部インフルエンサーの間では「サウジアラビア=とんでもなくお金持ち」という見方が広がっています。実際のところそこまで楽な財政状況ではありません。もちろん石油で過去に稼いだお金はたくさんあるため、資産は多いです。ただ、足元では財政赤字の状況が続いています。少子化や社会保障の負担増加、さらに1万人以上とも言われる王族の生活費などが財政を圧迫していて、これまでの蓄えを取り崩しながら何とか持ちこたえているという状態です。

税率15%の付加価値税も導入

 財政赤字をこれ以上膨らませたくないということで、サウジアラビアは2018年に付加価値税(VAT)を導入しました。導入当初は5%でしたが、2020年には一気に15%に引き上げられています。つまり、日本よりも高い税率になっています。

日本の消費税は様々な国で「付加価値税(VAT:Value Added Tax)」として導入されているものです。国税庁も、日本の消費税を「付加価値税(VAT)」と位置づけています。

消費税と輸出免税と還付金

 それでも収入の柱は原油の輸出に依存していて、世界が脱炭素や再生可能エネルギーにシフトする中で、このままだと将来ますます苦しくなる。だからこそ、今のうちに石油に依存しない経済構造へと転換しようというのが、ビジョン2030の狙いです。

 サウジアラビアは「ビジョン2030」という国家戦略の一環として、石油への依存から脱却するため、観光業を経済の柱の一つに据えています。

サウジアラビアの観光政策の現状

ビジョン2030と国家ファンドの限界

 このビジョン2030というプロジェクトは、単なるスローガンではなく、2兆ドル規模の投資が必要とされています。もちろんこのお金を政府が全部出していたら赤字がさらに膨らむので、サウジアラビアはパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)という政府系ファンドを通じて資金を出す形をとっています。

出所)saudipedia.com

 ただし、このファンドの運用資産は2020年時点でわずか4,000億ドル程度しかなく、到底2兆ドルには足りません。そこで政府は国営企業の株式をPIFに移管して、ファンドの資産をかさ増ししてきました。サウジアラムコの株もその一環で移されました。その結果、2024年にはPIFの保有資産は1兆ドルを超えたとされていますが、それでもまだ半分です。
 資金面での限界が見えてきたことで、NEOMなどの巨大開発プロジェクトも縮小されたり、プロジェクト責任者の交代があったりと、あちこちに軋みが出始めています。

出所)NEOM

アメリカへの6,000億ドル投資のお土産

 そうした中でサウジアラビア政府は2025年5月、トランプ大統領の訪問に合わせてアメリカに6000億ドルを投資すると約束しました。これについては外貨準備などを活用する形と見られていますが、国内プロジェクトに使うお金が足りない中で、さらにアメリカにお金を約束するという構図になっています。

サウジアラムコの火力発電所売却へ

 そして2025年7月、ロイターが報じたのが今回の火力発電所の売却です。売却対象は5つの施設で、売却金額は約40億ドル(6,000億円程度)と見られています。これはもちろんサウジアラムコ全体の規模から見れば微々たる金額ですが、国有資産の売却という重要なステップであることは間違いありません。
 サウジアラムコは2019年に上場した世界最大級の石油企業で、時価総額は2兆4,000億ドル、日本円で300兆円超とされています。この企業はサウジ国内に多くの資産を持ち、その収益の一部が国家予算やPIFの資金源となっています。

減益の中で増配し続けたサウジアラムコの苦境

 近年、原油価格の低迷が続いたことで、サウジアラムコは減収減益の状態にあります。それでも政府からの要請で配当金を減らせない、むしろ増やさなければならないという圧力があり、2024年には減益の中で増配を実施するという苦しい運営が続いていました。しかし、さすがに限界が来たのか、2025年には配当が1/3程度に減らされるという見方も強まっています。そうした背景もあって、資産売却による資金調達という選択肢が現実的になってきたのだと思われます。

インフラの民営化は是か非か

 こうした国有インフラの一部売却という方針は、先進国では珍しいことではありません。完全に民営化するケースもあれば、少数株を売却して資本効率を高めるというケースもあります。ただし、過半数を売却してしまうと国のコントロールが効かなくなり、企業が利益ばかりを追ってサービスの質が下がるというリスクも出てきます。
 
これはイギリスの水道会社などでも問題となっています。やらなくて済むならやらない方が良い政策でもあるのですが、今回のサウジアラビアの動きは、もはやそれを選ばざるを得ないところまで来ているということなのでしょう。

債務の増加やインフラの老朽化といった問題も抱えており、経営環境は極めて厳しい。世論の批判や風評リスクもあり、現状では新たに投資しようとする企業は現れにくい構造となっています。

テムズウォーターに見る水道事業の難しさ 

サウジアラビアは普通の国へ向かうのか

 昔は石油で潤っていた超お金持ち国家のサウジアラビアも、今では資金繰りに悩む普通の国家に近づきつつあるという印象です。ビジョン2030の実現のために、国家資産の売却まで検討せざるを得ないという現状を見ていると、国家の経済政策の難しさを改めて感じさせられます。
 
これからもこのビジョン2030がどこへ向かうのか、そしてサウジアラビアがどのように資源国家からの脱却を目指していくのか、引き続き注目していきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考(サウジアラビア記事のまとめ)

■ サウジアラビアの巨大箱物プロジェクト(2024/4/18)
■ サウジアラムコの決算とサウジアラビア経済(2024/5/9)
■ サウジ政府系ファンド、任天堂株式の一部を売却(2024/10/9)
■ サウジアラビア経済と欧米企業の関係(2024/10/27)
■ 2034年のW杯開催国であるサウジアラビアの計画(2024/12/21)

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