見出し画像

超長期債の価格下落とマイナス金利の呪縛


 今週警戒されていた日本の30年国債の入札は、無事に消化されました。しかしその後、米国金利の上昇を受けて再び日本の長期金利にも上昇圧力がかかり、30年国債の利回りは3%程度、40年国債は3.5%程度まで上昇しています。
 これだけ利回りが上がれば、当然ながら債券価格は下落します。最近では「40年国債の価格が半値になっている」とも話題になっていますが、実際の価格水準はどうなっているのでしょうか。そして、そうした債券を大量に保有している機関投資家の現状とは。この記事ではこの点を解説します。

超長期国債の価格水準

 債券の利回りや価格は、10年国債のような代表的な銘柄を除いて、通常は市場で公表されていません。日本には300銘柄以上の国債がありますが、その多くの取引情報は一般には開示されていないのが実情です。
 とはいえ、市場参加者がまったく価格を把握できないわけではありません。そこで用いられているのが「売買参考統計値」です。これは取引の少ない債券について、証券会社がその日の15時時点で「このくらいだろう」と推定した価格を、証券業協会が毎日公表しているものです。

(公社債店頭)売買参考統計値
公社債店頭市場において売買の参考となる単価・利回り。
売買参考統計値が公表される銘柄は、主に公募債の公社債(日本国内において発行されたものであって、新株予約権付社債を除く)のうち、払込元本、利金 および償還元本のすべてが円建の債券のなかから選定されている。

日本証券業協会

 もちろん、これはあくまで参考値であり、実際に取引された価格ではありません。ただし、ポートフォリオ評価などにはこの統計値が広く用いられています。証券会社はイールドカーブの形状などを元に毎日1万銘柄以上の価格を見積もり、これが証券業協会のウェブサイトで公開されています。

40年債の下落

 この売買参考統計値に基づくと、2025年5月15日時点での40年債の価格は以下のようになっています。

  • 第17回債(2064年3月償還):利率2.2%、価格79.44

  • 第16回債(2063年3月償還):利率1.3%、価格60.53

  • 第15回債(2062年3月償還):利率1.0%、価格55.23

  • 第14回債(2061年3月償還):利率0.7%、価格50.03

  • 第13回債(2060年3月償還):利率0.5%、価格47.09

 価格が最も下がっている第13回債は、2020年のコロナショック後、長期金利が最も低下していた時期に発行されたものです。当時の異次元緩和政策の下で、極めて低い利回りで発行されたため、金利が上昇した現在では大きな価格下落に直面しているというわけです。
 40年国債は元々償還期間が非常に長いため、金利変動による価格感応度(デュレーション)も高く、その影響をより強く受けています。

30年債も下落

 同様に30年債も価格が下落していますが、40年債ほどではありません。例えば、

  • 第66回債(2050年3月償還):2020年発行の価格は59.19

 発行時から比べて約4割の下落となっていますが、40年債に比べると下落幅はやや小さいといえます。これは期間が短い分、金利上昇による価格下落の影響がやや小さいためです。さらに20年債では価格下落幅はもっと小さく、最も下落している銘柄でも76程度となっています。

含み損を抱える機関投資家

 こうした価格下落した長期債を多く保有しているのが、生命保険会社などの機関投資家です。ただし、これらの債券は通常「満期保有目的」あるいは「責任準備金対応債券」として保有されており、帳簿上は簿価で計上されています。そのため、含み損があっても損益計算書には影響を与えません。

 しかしながら、もしこれらの債券を途中で売却しなければならなくなった場合、巨額の実現損が発生してしまいます。したがって、機関投資家にとっては「売れない債券をずっと抱え続けるしかない」という、まさに塩漬け状態となっているのが現状です。

含み損の問題
 生命保険会社が債券を売らざるを得なくなる状況とはどのようなものでしょうか。
 その一つが保険の解約です。

生命保険会社の国内債券含み損拡大の影響

オルタナティブ投資への資金注力

 このような状況の中、機関投資家は新たな収益源を求めて、オルタナティブ投資(プライベートデットやヘッジファンドなど)に積極的に資金を振り向けています。最近では、新聞でも「プライベートデットファンドに出資」や「ヘッジファンドへの投資拡大」といった記事が数多く見られるようになっています。
 背景には、かつてのマイナス金利下で購入した債券が超低利回りで固定されてしまっていることがあります。いまや世界的に金利が正常化しつつある中、過去の低利回りのままでは「何をやっているのか」と批判を受けかねません。そこで少しでも高いリターンを得られる投資を行い、ポートフォリオ全体の利回りを押し上げようという動きが活発になっているわけです。

マイナス金利の呪縛と、今後の長期的課題

 日本の機関投資家はあと30年、あるいは40年にわたって、マイナス金利時代に購入した長期債を保有し続ける必要があります。この構造的な制約により、現在の金利環境に適応するための動きとして、どうしても高リスク投資への関心が高まってしまうのです。

 言い換えれば、マイナス金利の呪縛から未だに逃れられていないとも言えるかもしれません。

地方自治体などで債券投資に悩む方へ

 もし地方自治体などで債券投資に関してお困りの方がいらっしゃいましたら、X(旧Twitter)のDMにてお気軽にご連絡ください。
 今回の記事が、債券市場や金利変動の理解に少しでも役立てば幸いです。


ご参考

日本では過去に金利上昇を経験したケースが少なく、このような仕組みを導入している保険会社は限られています。そのため、今後の金利水準によって、どの程度の解約が発生し、どの保険会社が損失を被るのかは極めて不透明な状況です。

外貨建て保険と円建て保険の解約の予測の比較

サイトマップ(目的別)はこちら

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー