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英国トリプル安とトラスショックとの比較


 2025年7月2日、イギリスで株、債券、通貨がそろって下落する「トリプル安」の展開となりました。とりわけ大きく動いたのが国債で、10年国債の利回りは1日で0.16%上昇して4.61%、30年国債の利回りも0.19%上昇し、5.42%まで上昇しました。いずれも1日の値動きとしては非常に大きなもので、市場に衝撃が走りました。
 こうした動きに対して、「トラスショック(2022年)の再来か」といった声も上がっています。イギリス経済についての情報は意外と少なく、この記事では要因や2022年との違いを中心に解説します。

英国では、2022年9月にリズ・トラス首相(当時)が打ち出した一連の財政政策「ミニ・バジェット」により、通貨・国債・株式市場が 混乱した。ドル/ポンドレートが過去最低の1.035ドル/ポンドまで下落した他、10年債金利は14年ぶりに4.5%まで上昇(債 券価格は下落)、株価も1年半ぶりの水準まで低下し、トリプル安となった。

財務省

ホームレス増加と社会保障削減の動き

 実は、今回のマーケットの動きは、ホームレスや低所得者支援の議論と密接に関係しています。現在、イギリスでは成人の5人に1人が働いていないという状況があり、その人々へのサポートが財政を圧迫しているとの指摘もあります。

 住む場所が足りないからこそ価格が上がり、所得の少ない人たちは賃貸住宅を借りることすら難しくなっていく、この悪循環が続いています。

ロンドンの住宅不足とホームレス問題

 そうした中、リーブス財務大臣による障害者手当や低所得者向け給付金の支給要件の厳格化、つまり歳出削減の動きがあります。一見、ホームレスの問題とマーケットは無関係に思えるかもしれませんが、実はこのように密接に繋がっているのです。

緊縮政策と与党内の反発

 こうした社会的弱者に対する給付金削減の政策は、当然ながら非常に不人気で、強い批判に晒されています。特に問題となっているのが、リーブス財務大臣が年間7万4,000ポンドの家賃収入を得ている富裕層であるという点です。自らは豊かな生活を送りながら、弱者への支援を削減しようとしているという構図が、反感を呼んでいます。国民からの批判だけでなく、与党・労働党内からも反発の声が上がり、「リーブス降ろし」の動きすらあるとされています。
 もともと労働党は「大きな政府」を掲げ、財政拡張路線を取ってきた政党です。その中で緊縮路線を取るリーブス氏は、ある意味で党内でも異端的な存在です。

私の考え
 労働党の大きな政府を目指す政策は経済にブレーキをかける可能性があると思っています。

労働党政権の政策とイギリスの富裕層の流出

リーブス氏の去就とトリプル安の連動

 リーブス財務大臣が辞任するとなれば、後任者はおそらくリーブス氏よりも財政拡張的な政策を取る可能性が高いと見られています。そうなれば、国債は売られ、利回りは上昇。通貨と株も売られて、再びトリプル安になるという懸念が市場に広がっていくわけです。
 2025年7月2日の議会では、スターマー首相がリーブス氏の今後の職務について明言を避けました。この態度から、「リーブス氏は辞任するのではないか」という観測が一気に高まりました。その時、リーブス氏は首相のすぐ隣で涙を拭うような仕草を見せたとされており、その姿が報道で注目されました。

 議会でのやりとりの直後、市場ではトリプル安が発生しました。その後、スターマー首相はあらためてリーブス氏を支持する姿勢を示し、リーブス氏の動揺は個人的な理由だったと弁明しました。しかし、リーブス氏が追い込まれているのは明らかで、辞任への懸念は依然として払拭されていません。

リーブス氏が辞めても辞めなくても不安は続く

 今後の展開ですが、リーブス氏が辞任するという懸念はしばらく続くと私は見ています。イギリスの財政は非常に厳しい状態にある中で、スターマー政権は防衛費の増額、150万戸の住宅建設、国民医療制度の改革といったコストのかかる政策を次々と進めようとしています。
 当然、何かを削らなければ財政は成り立たず、だからこそリーブス氏は批判の的になりやすい。辞任すれば財政規律は緩み、さらにトリプル安が進む可能性があります。また、仮に辞任せずに留任したとしても、世論や党内からの圧力に屈して、財政拡張路線を容認すれば、これもまたトリプル安に繋がり得るのです。

イギリスの衰退とその影響
 イギリスは慢性的な経常収支赤字を抱え、国債の約3割を外国人投資家が保有しています。私は、国内で国債を吸収する余裕が乏しい中で、国債発行の増加がさらなる悪循環を生む可能性が高いと考えています。

英国債利回り上昇の理由と影響について

福祉改革と財政赤字の懸念

 今回、7月2日に下院で福祉改革法案が可決されましたが、当初予定されていた50億ポンド規模の歳出削減は、既存の手当受給者に配慮した内容に変更されたことで、事実上骨抜きとなりました。結果として、財政赤字の削減にはほとんどつながらなかったと見られています。

日本との比較

 「財政赤字削減=正義」といった単純な話ではなく、日本とイギリスでは前提条件がまったく異なります。イギリスは慢性的に経常赤字であり、国債は海外投資家の資金に大きく依存しています。スターマー政権下でも赤字は拡大傾向にあり、これ以上財政悪化が進むと、国債と通貨はますます売られやすくなるでしょう。
 スターマー政権が誕生した時から「財政悪化・国債利回り上昇・通貨安」の流れは進むと予想してきましたが、まさにそうした展開が現実味を帯びてきたわけです。

2022年のトラスショックとの比較

 今回の動きが2022年のトラスショックのような金融システム危機にまで発展する可能性は低いと見ています。

 2022年は、国債と通貨の急落をきっかけに、年金ファンドなどの機関投資家がレバレッジをかけた国債運用(LDI)を解消せざるを得なくなり、連鎖的な売りが売りを呼ぶ展開になりました。しかし、今回そうしたLDIのポジションは大きく解消されており、同じような展開になる可能性は高くありません。つまり、今回のトリプル安は、あくまで価格の下落にとどまる見通しで、金融システム全体の問題には発展しないと考えられます。

不安定な財政運営が続くイギリス

 しかし、リーブス財務大臣の去就、そしてイギリスの財政運営全体が極めて不安定な状態にあることは間違いありません。今後もこの不安定な状況は続く可能性が高く、国債や通貨の下落が断続的に起こるリスクがあるでしょう。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

 トリプル安の背景として注目された「パウエル議長の解任論」について、ポイントを整理しながら解説しました。FRBの独立性が問われる中で、大統領の発言がどこまで現実に影響を及ぼすのか、そしてマーケットがそれにどう反応するのか。今後の展開にも注目していく必要がありそうです。

米トリプル安とパウエル議長解任論の整理

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