もう斬られる1時間前くらいから、魂が抜けてるんだ――バリ島で出会った日本人残留兵・第二部
平良さんは、バリ島に赴く以前、フィリピンにいた。
そこでは日本兵として、フィリピンのゲリラを討伐する部隊にいたという。
あるとき、激しい雨が降っていた。
豪雨の中、隊長が軍刀を抜いた。
そして、それを天に突き上げ、
「突撃にいっ!」
と叫んだ。
その瞬間だった。
平良さんは、身体中に電流が走ったような感覚に襲われたという。
全身が真空の中に入ったようになった。
そして、恐怖が微塵もなくなった。
平良さんは猛然と、ゲリラに向かって突撃していった。
平良さんは、当時のことを振り返りながら僕に言った。
「向こうは日本軍はよほど怖かったと思う」
僕は、その言葉が妙に印象に残った。
かつてフィリピンで、ゲリラを討つ側にいた男。
その男が日本の敗戦後、バリ島に残り、今度はインドネシア人たちとともに、拳銃一丁でオランダ軍を相手にゲリラ戦を戦うことになる。
ゲリラを狩っていた男が、ゲリラになった。
平良さんの人生は、それだけでは終わらない。
インドネシアが独立した後、国内では激しい共産党狩りが吹き荒れた時代があった。
そのとき、平良さんは再び、狩る側にいた。
僕は平良さんから、捕らえた人間を斬首したときの話を聞いた。
僕はどうしても知りたいことがあった。
「斬られる直前というのは、命乞いをするものですか?」
平良さんは首を振った。
「ほとんどが無抵抗だ」
そして言った。
「もう斬られる一時間前くらいから、魂が抜けてるんだ」
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