第十二章:名古屋味噌と煙、消えない擬宝珠
近鉄電車の窓の向こうに、名古屋の高層ビル群が立ち上がっていた。
車内の空気とは違う、少し硬い街の気配が流れ込んでくる。
「名古屋は、何でも濃くなる街だと思う」
そんなことをぼんやり考えながら、今夜の店へ向かった。
『八幡屋 名駅本店』。
暖簾をくぐった瞬間、視界が白く揺れた。
店内は煙で満ちていた。
肉の焼ける音と匂いが、空間そのものを包んでいる。
どて焼きと串カツを頼む。
濃い味噌の香りが、ゆっくりと舌に広がっていく。
「これだ!」
派手さはないが、妙に落ち着く空気と味だった。
気づけば、煙の中に長く座っていた。
この空気の中にいると、時間の感覚が少しだけ曖昧になる。
もし、この店の入口にも擬宝珠があったなら。
きっと何も言わず、帰り際にそっと触れていた。
それは「またここに来る」という、小さな約束のようなものだ。
煙の向こうで、店の灯りが揺れている。
名古屋の夜は、そのまま静かに深くなっていった。
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