鶏むね肉に偏ると、人生が偏る
昔、娘にこう言われた。
「パパ、また鶏むね肉?」
「また」じゃない。 今日は塩コショウじゃなくてカレー味だよ。
「……同じじゃん」
同じじゃない。 今日はブロッコリーもあるよ。
「きのうもあった」
…あった。
この会話、筋トレ民の家庭では日常茶飯事だと思う。
自分は東大医学部を卒業して内科医をやりながら、17年間トレーニングを続けてきた。 BIG3合計520kg。 ベンチ140kg、スクワット180kg、デッドリフト200kg。
体はそこそこ仕上がった。 でも、食卓の平和はまったく維持できていない。
この記事では、17年間「鶏むね肉と共に生きた医師」が家庭で犯してきた罪と、そこからたどり着いた食事の最適解を書く。
筋トレしている人にも、そのパートナーにも、たぶん役に立つ。
筋トレ民の冷蔵庫のリアル
自分の家の冷蔵庫を開けると、こうなっている。
右半分——妻と子供用の「普通の食材」。 左半分——自分の燃料。
燃料の内訳はこうだ。
鶏むね肉 2kg
ブロッコリー 3袋
オートミール
卵 10個×3パック(できれば平飼い)
オイコス(プレーン)
以上。
妻いわく「冷蔵庫の中で食文化の断絶が起きてる」。
・・・否定できない。
筋トレ民が家庭で犯す5つの罪
全部、自分がやらかしたことがあるやつだ。
罪その1:外食先でメニューの裏のカロリーを確認する
妻に「もう一緒に外食行きたくない」と言われた。
いまは確認するけど、黙って注文する。 成長した。
罪その2:子供のお菓子の成分表を読み上げる
「これ1個で砂糖12gだよ。果糖ぶどう糖液糖もたくさん入ってるね」
「…パパうるさい」
正しいことを言っても嫌われる。 医師として、そして父親として学んだ。
罪その3:旅行先にプロテインを持っていく
家族旅行の初日。 ホテルでスーツケースを開けたら、シェイカーの蓋が開いていた。
妻と娘の服がダブルチョコレート味の粉まみれになっていた。
妻の顔を一生忘れない。
それ以来、プロテインは個包装のものだけ持っていく。 教訓は血で学ぶ。
罪その4:家族の食事中に自分だけ別メニュー
「パパなんで私たちと同じもの食べないの?」
「パパはこれがおいしいんだよ」
「嘘でしょ」
嘘だった。
罪その5:子供の粉ミルクの隣に謎の粉を大量に置く
「起きてすぐ」「トレ前」「トレ後」「寝る前」とラベルが貼ってある。
妻にガチでキレられた。 いまは棚を分けている。物理的に。
医師として伝えたいこと——鶏むね肉ばかり食べる必要はない
ここから真面目な話をする。
鶏むね肉が「最強」と言われるのは、高タンパク・低脂質・安いの三拍子が揃っているから。
100gあたりタンパク質23g、脂質1.9g、カロリー約108kcal。 コスパも栄養効率も文句なし。
でもこれ、「効率」の話であって「正解」の話ではない。
タンパク質は鶏むね肉じゃなくても摂れる。
魚でいい。卵でいい。豆腐でいい。 豚ヒレでも牛赤身でも全然いい。
むしろ医師の立場から言うと、同じタンパク源に偏りすぎるほうが問題だ。
鶏むね肉にはEPA・DHAがほぼない。 鉄分もビタミンB12も少ない。
亜鉛は牛肉や牡蠣のほうが圧倒的に多い。
「鶏むね肉だけ食ってれば間違いない」は筋トレ界の迷信だ。
体の中で起きていることは、マクロ栄養素だけでは見えない。
自分が20代のときは一人暮らしだったから、毎日鶏むね肉でも問題なかった。 むしろ効率最高だった。
結婚して、子供ができて、気づいた。
「効率」だけじゃ食卓は成立しない。
いまは週3で鶏むね肉。 残りは魚と豚と、たまに牛。
娘が「パパ、今日のごはんおいしい」と言ってくれるのと、PFCバランスが完璧なのと、どっちが大事かと聞かれたら
どっちも大事だ。
でも正直、娘の笑顔のほうがテストステロンは上がると思っている。
「最適化」と「人生」は別の話
筋トレにハマると、体を最適化したくなる。
PFCバランス。 睡眠時間。 サプリメント。 トレーニングのボリュームとインテンシティ。
全部数字で管理できる。 数字で管理できるものは改善できる。
経営者のクライアントにも同じタイプが多い。 事業のKPIを追うのと同じ感覚で、体のKPIを追い始める。 それ自体は悪いことじゃない。
でも家族との食卓は最適化できない。
「今日は脂質が多いからパパはパスで」
栄養学的には正しい。
でも5歳の娘は「パパがいっしょに食べてくれない」としか思わない。
チョコレート味の粉まみれの服を黙って洗濯してくれた妻に、PFCバランスの話をする気にはなれない。
鶏むね肉を完璧に焼くより、家族と同じ鍋をつつくほうが、たぶん長期的には健康にいい。
根拠はない。 論文もない。
でも17年トレーニングして、2人の子供を育てて、いまいちばん確信していることがこれだ。
人間の健康はスプシでは測れない部分がある。 食卓を囲む時間、笑いながら食べる食事、「おいしいね」という会話。 そういうものが免疫やホルモンに与える影響を、自分たちはまだ数値化できていない。
でも体感では、わかる。
17年かけてたどり着いた食事の最適解
今日から使える、具体的な目安を書いておく。
鶏むね肉は週2〜3回 それ以上は家庭が壊れる。味変のバリエーションを3つ以上持っておくこと。
魚は週2〜3回 鮭とサバがあれば人生なんとかなる。EPA・DHAは鶏むね肉では摂れない。
卵は毎日食べていい 神が作った完全食。食べる個数は体質と目的による。1日2〜3個は問題ない人がほとんど。
豆腐と納豆は好きなだけ 安い。うまい。妻にも怒られない。イソフラボンがテストステロンを下げるという話は、通常の摂取量なら気にしなくていい。
たまに牛赤身か豚ヒレ 鉄分とビタミンB群は鶏むね肉だけでは不足する。特に女性やトレーニング量が多い人は意識的に摂りたい。
そして週に1回は、家族と同じものを食べる
「パパ、今日は一緒のごはんだね」
この一言のほうが、プロテイン1杯より効く。
たぶん。
今日からやること
冷蔵庫を開けて、自分のスペースと家族のスペースを見比べてみてほしい。
「食文化の断絶」が起きていたら、今週1回だけ、家族と同じメニューを食べてみる。
それだけでいい。
PFCバランスは翌日に調整すればいい。
筋肉は1日じゃ落ちない。 でも家族の信頼は、積み重ねでしか貯まらない。
まとめ
鶏むね肉が「最強」は効率の話。EPA/DHA・鉄・B12・亜鉛は鶏むねでは摂れない
同じタンパク源に偏ると栄養が偏る。週2〜3回・残りは魚・豚・牛・卵・豆腐でローテーション
家族の食卓は最適化できない。1人だけ別メニューは長期的に信頼を削る
週1回は家族と同じものを食べる。「パパ、今日は一緒のごはんだね」が効く
筋肉は1日じゃ落ちない。家族の信頼は積み重ねでしか貯まらない
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⚠️ この記事は一般的な栄養情報であり、特定の医学的アドバイスではありません。食物アレルギーのある方、治療中の方は主治医にご相談ください。なお、我が家の食卓の平和については現在も交渉中です。
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