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アオハル放課後ラボ・番外編⑥『Space Oddity』

ChatGPTと一緒にアオハル放課後ラボの番外編の新作を制作しました。
イラストもChatGPTに作ってもらいました。

番外編も6作目になるので、通し番号振ろうかな…


『Space Oddity』


自習中の五限目の終わり頃、教室の後ろからいきなり歓声が上がった。男子の何人かが机を寄せ、スマホの画面を取り囲んでいる。動画の効果音が小さくスピーカーから漏れて、宇宙の写真がパラパラと切り替わるたびに「おおー」「マジで?」と声が重なった。

「見て見て、これ! AIがついに解析したってやつ!」

画面を掲げたのは向かいの列の田島だ。サムネには“Interstellar Reply?”の文字。再生バーの上を、英語の字幕が流れていく。

「『This is not your probe anymore』だってさ。やばくね? 宇宙人、ボイジャー一号、乗っ取ってね?」

「鳥肌立った、ガチ。」

「十一月十四日の“あの交信”だって。地球に返事が来たんだよ。ほら、波形に規則性がって……」

慎也も、気づけば輪の中にいた。
「おいおい、マジかよ。ついに人類、はじめてのご挨拶?」

スマホの音量が上がり、解説者の声が高揚する。「NASAが隠している真実」だの、「AIが暴いた暗号」だの、コメント欄の煽りと一緒に、画面の宇宙はどんどん深刻な色合いを帯びていく。

授業終了のチャイムが鳴った。散っていく輪から一歩抜けた慎也は、自分の席に戻るや否や、斜め前の結衣の背中に身を乗り出した。

「なあ、結衣! 聞いた? 例のあれ、十一月十四日のボイジャーの返答、やっぱり宇宙人だったってさ!」

結衣はノートを閉じて、ゆっくりと振り返った。
「あの……二〇二三年十一月十四日の交信のこと?」

「それそれ!」

「後でね。」

それだけ言って結衣は鞄を持ち上げる。肩越しに見えた表情は、ちょっとあきれたような、それでもどこか楽しんでいるような微妙な笑みだった。



放課後の科学準備室。

窓の木枠から差し込む光が埃をきらめかせる。薬品棚の向こうで、古い地球儀に小さな傷が入っているのを慎也は今さら見つけた。

結衣は机にノートPCを広げ、見慣れた真剣な顔つきで何かを確認している。

「で、さっきの動画の件だけど」と結衣。

「はい、先生。講義をお願いします」

「いや、先生じゃないから」

彼女は笑ってから、画面をこちらに向けた。NASAのニュースリリース、時系列で並んだ小見出し、宇宙機のイラスト。

「あれはね、デマ。というか、YouTubeでよくある“釣り”。十一月十四日に受信されたのは『意味をなさないデータ』で、通信そのものは届いていたけど、内容が壊れていたの。原因はボイジャー一号に積まれているFDSっていうデータをまとめるコンピュータのメモリ不具合。だから、AIが“暗号を解いた”とか、“宇宙人がのっとった”とか、そういう話じゃない」

「……ロマンがないよ、ロマンが」

思わず口からこぼれた言葉に、結衣は目を瞬かせる。
「ロマン、か」

「だってさ、あの金色のレコード積んでるやつでしょ? 俺たちの『こんにちは』を宇宙に届けた、あのボイジャーだよ。返事が来たって考えるの、そんなに悪いこと?」

結衣は黙って、机の上の指先でコンパスの先を軽くつついた。小さなカチ、という音がして、彼女はふっと息をつく。

「ごめんなさい。わたしの言い方、冷たかったね。慎也の言うとおり、ロマンを切り捨てる態度はよくない。……わたしの間違い」

「え? やっぱり宇宙人なの?」

「そうじゃないの。ただ――ボイジャーの目的には、宇宙探査に加えて、地球外知的生命体との“対話の可能性”を開いておくっていう、もう一つのレイヤーがあったんだって、改めて思ったの」

結衣は黒髪を耳にかけ、語り出す。

「ゴールデンレコード。直径三十センチの金メッキ銅盤。中には、二十七曲の音楽、五十五言語の挨拶、波や風や心臓の鼓動みたいな自然音、DNAの図や地球の写真――人類の“自己紹介”が入ってる。あれは、もし誰かに拾われたとき、わたしたちがここにいたという痕跡であり、対話の扉のノックでもある」

慎也は、椅子の背にもたれながら天井の蛍光灯を見た。
「それ、やっぱりさ、返事が来てもおかしくないってことじゃん。『君たちのレコード、聞いたよ』って」

「確定はしないよ。十一月の件は、ただの不具合。でも、夢を見るのは自由だと思う。夢のほうを先に否定しない、って大事だね」

慎也は、結衣の横顔をちらと見た。さっきの教室での素っ気なさは影も形もなくて、ここにはちゃんと、ロマンを理解しようとする彼女がいる。

「……よし。なら俺は、夢を見る係を続ける。現実係の結衣が隣にいるなら、迷子にはならないし」

「うん。迷子になりそうなら、手、引っ張るよ」

結衣は小さく笑った。科学準備室の空気が水みたいに澄んで、しばらく二人は何も言わずに、規則正しい時計の音を聞いた。




翌日の教室は、前日以上にざわついていた。女子まで加わって、ボイジャー談義はますます過熱している。

「ねえ結衣、昨日の動画、ほんとなの?」と声をかけてきたのは咲良だ。

「ゴールデンレコード、聞いたから返事したんじゃない? コメント欄にもそう書いてあったし」と陽菜。

慎也は、待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。
「諸君、冷静になりたまえ。問題の信号は無意味な羅列であると既に判明している。原因はFDSのメモリチップの不具合で――」

知った風な顔で指を立てると、結衣がくすっと笑って言った。
「夢があるよね、その仮説」

「お、お、おい! き、昨日と言ってることが違くない?」

「状況に応じて態度を更新するのも、科学の大事なとこ」
結衣が肩をすくめると、咲良と陽菜は楽しそうに目を輝かせた。

「ところでさ、ゴールデンレコードの中身、何が入ってるの?」

陽菜の質問に、結衣は指折り数える。

「音楽は二十七曲。バッハやベートーヴェンみたいな西洋クラシック、各地の民俗音楽、チャック・ベリーの“Johnny B. Goode”。日本の曲は一つ、雅楽の『越天楽』。自然音は、雷、波、鳥、心臓の鼓動。挨拶は五十五言語分。映像――正確には画像――は、DNAの構造、太陽系の図、食べ物、人の暮らし。地球の“名刺”だね」

「でもさ、なんで雅楽?」と陽菜。

「もし宇宙人がそれ聴いて“あなたたちは素晴らしい音楽を奏でているんだね”って言ってきても、うちら、雅楽よく知らないし、楽器も触ったことないよ?」

「それはね……」結衣はうなずいた。「日本人が雅楽に馴染みが薄いのも事実だし、日本の文化を“自分たちの言葉”で語れない、かなり深刻な問題はあると思う。けど、レコードに『越天楽』が選ばれたのは、人類史の幅を示すため。流行歌の人気順じゃなくて、文化の多様さを伝える使命があったからだと思う」

「でも、髭男とかミセスとか入ってたら、うちらも『そうそう! いいでしょあの音楽!』って言えるのに」

咲良が身振り手振りで盛り上がると、陽菜がすかさず合わせる。
「コールも入れてさ、宇宙人も“ヘイ! ヘイ!”って一緒にやってくれたりして!」

「いや、五十年前に打ち上げたんだよ」結衣が笑う。「ヒゲダンもミセスも、当時はまだいない」

一瞬の静寂の後、周囲に大笑いが走った。

「じゃあ『上を向いて歩こう』は? あれなら当時でもあるし、今の私たちも知ってるよ」

「それは、あり得たかもしれないね」結衣は頷く。「選曲には限りがあるから、何を入れても“全員が納得”は難しかったと思うけど」

机の間を風が通り抜け、カーテンがふわりとなびく。誰かのペンが床に落ちる音がして、笑い声は次の話題へと滑っていった。

慎也は、さっきまでの“もの知り顔”がしぼんでいくのを感じながら、結衣の横顔をちらりと盗み見た。女子トークの輪の中の彼女は、いつもより表情が柔らかい。




その日の放課後も、二人は科学準備室にいた。

「ふてくされてる?」と結衣。

「少しだけね。女子だけで盛り上がるの、ずるい」と慎也。

「楽しかったのよ。ごめんごめん」

慎也は気を取り直して、前から気になっていたことを口にした。
「ところでさ、ゴールデンレコードって、ボイジャー一号だけ? 他の宇宙船には乗ってないの?」

「ボイジャー二号にも積んでるよ。中身も同じ。二枚とも、ほぼ同じマスターから複製した“宇宙への名刺”。だから、どっちが拾われてもメッセージは届く」

「へえ。進んでる方向は?」

「ざっくり言えば、一号と二号は太陽系の面――黄道面――に対して、反対側へ抜けていってる。詳しい数字はさておき、二つの“声”が別々の方向に拡散していくっていう絵は、ちょっとロマンがあるよね」

「ある!」慎也は即答した。「二つのボトルメールが、宇宙の海へ。いつかどこかで、誰かが栓を抜く……」

「栓、抜けるかな。レコードだけど」

「細かい!」

二人で笑ったあと、結衣は少し真面目な表情になった。
「そういえば、わたし、今回あんまり“デマのSNSはやめろ”って強く言わなかったなって自覚してるの」

「うん。ちょっと、意外だった」

「人を傷つけるわけじゃないなら、エンタメとしてロマンを語る自由はあっていい。夢を見ることを頭から否定したくない。……でも、誹謗中傷とか、誰かを攻撃する形で広がる“デマ”なら、わたしは全力で戦う」

「こわ。はい、気をつけます」
慎也は肩をすぼめ、冗談めかして両手を上げてみせた。

「でもその基準、わかる。『宇宙から返事が来たかもしれない』でワイワイするのは、たぶん、俺たちの“健全な夢”の範囲だ」

結衣は机の上の地球儀を回した。くすんだ青と緑がゆっくりと混ざり合って、やがて止まる。
「ロマンと現実、どっちも大事。両方知ってると、景色が立体になるからね」

窓の外、校庭の端で部活の掛け声が上がった。風に押されるように雲が流れ、夕方の色がじわりと校舎の白い壁に降りてくる。

「帰ろっか」と結衣が言った。

「うん。今日はなんか、宇宙がいつもより近い気がする」

「それ、いい言い方。覚えておく」

科学準備室の照明を落とし、軋む扉を閉める。

廊下に出ると微かな冷気が頬を撫でた。



アオハル放課後ラボ・番外編⑥『Space Oddity』 ーーー 終



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