【書籍解説】THE MODEL 福田康隆著
こんにちは。合同会社マルセロ 代表の駒瀬です。経営者、事業責任者に対する事業及びマーケティングの伴走コンサルティング、壁打ち、月額制顧問等のサービスを提供しています。
著者の福田康隆さんが、自身のセールスフォース・ドットコムでの経験を基に、現代のBtoBビジネスにおける営業・マーケティングプロセスの最適化手法を体系化した一冊です。本書では、顧客獲得からサポートまでの一連の流れをプロセスとして設計し、再現性と拡張性を持たせる手法を詳細に解説。
特にSaaSビジネスを中心に、営業職の分業体制や効率化を追求する企業にとって実践的な指針を提供します。
1.「THE MODEL」とは何か?
本書のタイトル「THE MODEL」とは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという4つの機能を連携させ、顧客との接点を最適化するビジネスプロセスの枠組みを指します。
このモデルは、セールスフォース・ドットコムが創業当初から実践し、グローバルな成長を支えてきた手法であり、著者の福田康隆氏は同社の米国本社でこの仕組みを学び、日本法人で実装した経験を基に本書を執筆しました。
従来の営業活動では、個々の営業担当者が顧客発掘から契約、フォローまでを一貫して担うことが一般的でした。しかし、インターネットの普及や顧客の購買行動の変化により、こうした旧来型の営業手法は非効率であると指摘されています。
「THE MODEL」では、顧客の購買プロセスに合わせて役割を細分化し、各部門が専門性を発揮することで、効率的かつスケーラブルなビジネス成長を実現する方法を提案しています。
2.顧客購買プロセスの変化とその影響
本書はまず、現代の顧客購買プロセスの変化を解説します。インターネットとデジタル技術の進化により、顧客は営業担当者と接触する前に、オンラインで製品やサービスの情報を収集し、比較検討を進めるようになりました。
調査によれば、購買プロセスの約60~70%が営業との接触前に完了しているといいます。このため、営業担当者が顧客と初めて対話する時点で、すでに勝負の大部分が決まっているケースが増えています。
つまり、顧客は購買のプロセスを、自分が決めたタイミングで、自分が信じられる有益な情報を好みの方法で入手し、営業担当者に売り込まれることなく自分のペースで進めたい。そして、自分のことを理解してくれる企業から購入したいと考えている。優れた顧客体験は、価格や商品そのものよりも重要な意思決定の基準になっているのだ。
この変化に対応するため、企業は顧客の情報収集段階から積極的に関与する必要があります。具体的には、ウェブサイトやコンテンツマーケティングを通じて顧客に価値ある情報を提供し、関心を引きつけることが重要です。
また、顧客がどの段階にあるかを把握し、適切なタイミングでアプローチする仕組みが求められます。「THE MODEL」は、この新しい購買プロセスに適応するための分業体制を提案します。
3.「THE MODEL」の4つの主要機能
「THE MODEL」の核心は、以下の4つの機能を連携させるプロセスです。それぞれの役割と特徴を以下にまとめます。
①マーケティング
マーケティングの役割は、潜在顧客(リード)を獲得し、購買意欲を高めることです。具体的には、ウェブサイト、ブログ、SNS、ウェビナー、広告などを活用して、製品やサービスに興味を持つ見込み客を集めます。マーケティングは量を重視し、できるだけ多くのリードを生成することを目指します。
本書では、マーケティング活動の効果を測定するためのKPIとして、リード数、ウェブサイト訪問者数、フォーム送信率などが挙げられます。コンテンツの質を高め、ターゲット顧客セグメントに合わせたメッセージを発信することで、リードの質も向上させることが推奨されます。
また、「リードのリサイクル」という概念も提示しています。インサイドセールスが会話したものの、すぐに商談に繋がらなかったリード、営業が失注したリードを放置するのではなく適正に育成(リードナーチャリング)を行うことで、成約に導く。
一方、「量を重視」と言いつつ、育成対象外のリードを選別し、ハウスリストから外すデッドエンド戦略も重要。成約見込みがないリード(学生、競合社社員、退職者等)に無駄なリソースを割くのではなく、成約見込みの高いリードにリソースを配分する必要があります。
②インサイドセールス
インサイドセールスは、マーケティングが獲得したリードをスクリーニングし、商談に値する機会を創出する役割を担います。
電話やメール、ビデオ会議を通じてリードと直接コミュニケーションを取り、ニーズや予算、導入時期などを確認します。インサイドセールスは、フィールドセールスに引き継ぐ前に、リードの質を高めるフィルターとして機能します。
インサイドセールスのKPIには、商談化率(リードから商談への変換率)、応答速度(リードへの初回連絡までの時間)、リード接触率などが含まれます。本書では、インサイドセールスが迅速かつ効率的に対応することで、顧客の信頼を獲得し、商談の成功確率を高める重要性が強調されています。
一方、すべてマニュアル通り、迅速に電話すれば良いという訳ではないと著者は、警鐘を鳴らします。
リードが登録されたらすぐに電話をしたくなるのが人情だが、相手に嫌がられることも多い。
提供しているのがeブックであれば、ダウンロードは業務時間に行うが、読むのはゆっくり時間がある時にという人も多いだろうから、最初のコンタクトまでは3日くらい間を置く。
無料トライアルなら一通り試してみるのに1週間くらいかかるかもしれない。
一方、セミナー参加者であれば、忘れないうちに翌日すぐにでも感想を聞いてフォローするほうがよいだろう。
③フィールドセールス
フィールドセールスは、インサイドセールスから引き継いだ商談をクロージングまで導く役割です。顧客との対面や詳細なプレゼンテーションを通じて、契約を獲得します。フィールドセールスは、比較的規模が大きく、複雑な意思決定を伴う案件を担当することが多いため、専門知識や交渉力が求められます。
フィールドセールスのKPIには、受注率、契約金額、営業サイクル(商談開始から受注までの期間)などがあります。本書では、フィールドセールスがマーケティングやインサイドセールスから適切な情報を受け取り、顧客のニーズに合わせた提案を行うことで、効率的なクロージングを実現できると述べています。
④カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、契約後の顧客を支援し、製品やサービスの価値を最大化することで、顧客の満足度と継続利用を確保する役割を担います。
主な活動には、導入支援、トレーニング、定期的なフォローアップ、課題解決のサポートが含まれます。カスタマーサクセスは、顧客の解約(チャーン)を防ぎ、LTV(顧客生涯価値)を向上させることを目指します。
本書では、カスタマーサクセスのKPIとして、解約率、顧客満足度スコア(NPS)、アップセル・クロスセルの受注額などが挙げられます。
特にSaaSビジネスでは、継続的なサブスクリプション収入が成長の鍵となるため、カスタマーサクセスが顧客との長期的な関係を構築する重要性が強調されています。また、顧客の成功を支援することで、口コミや紹介を通じた新たなリード獲得にもつながるとしています。
カスタマーサクセスは、活用支援と契約更新で求められるスキルセットが異なるので、それを踏まえた人員配置を考える必要があります。また、社内の様々な部署と連携し、顧客満足度を上げることが求められるので、様々なステークホルダーを巻き込み、社内のハブになれる人物が望ましい。
また、カスタマーサクセスの一環として、ユーザーコミュニティの活用についても解説されています。2014年に日本法人を設立したタイミングで、既に50社以上の日本企業がマルケト製品をグローバル契約にて利用しており、日本法人に対するサポートを期待していました。
一方、当時のマルケト日本法人は10人にも満たない陣容で、サポートに十分なリソースが割けない状況でした。そこで、ユーザー会を立ち上げ、顧客同士がサポートしあう場所を提供するという判断に至りました。
ユーザーコミュニティで活躍している人々がアンバサダーとなり、マルケトが目指すマーケティングのあり方を議論し、世の中に発信してくれるという自走型のコミュニティに育ち、同社のビジネスに貢献するに至りました。
4.「THE MODEL」の運用と組織設計
「THE MODEL」を効果的に運用するためには、組織設計とデータ管理が不可欠です。以下に、その主要なポイントをまとめます。
①分業体制の構築
各機能がスムーズに連携するためには、明確な役割分担と責任範囲の定義が必要です。例えば、マーケティングがリードを獲得した後、インサイドセールスに迅速に引き継ぐためのルールや、フィールドセールスがカスタマーサクセスに顧客情報を共有するプロセスを確立します。これにより、部門間の摩擦や情報のサイロ化を防ぎます。
また、組織の規模に応じて分業の度合いを調整することも重要です。スタートアップでは、初期は兼任者が多い場合も多いですが、ビジネスの成長に伴い、専門チームを設置することで効率性が向上します。本書では、セールスフォースの成長フェーズを例に、組織の進化に合わせた分業体制の変化を解説しています。
②データ駆動型のアプローチ
「THE MODEL」の成功は、データに基づく意思決定に依存します。CRM(顧客管理システム)やMA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、リードの行動履歴や商談の進捗、KPIを可視化します。これにより、データをもとに、どのプロセスで改善が必要か、どのKPIが目標を達成しているかを分析し、継続的な最適化を図ります。
本書では、セールスフォースが自社で使用しているCRMシステム(Salesforce)を例に、データ活用の具体例を紹介。たとえば、リードのスコアリング(リードの購買意欲を数値化)や、パイプライン管理(商談の進行状況を追跡)を通じて、営業活動の透明性を高め、予測精度を向上させる方法を説明しています。
5.「THE MODEL」の導入事例と効果
本書では、「THE MODEL」を導入した企業の実例がいくつか紹介されています。たとえば、セールスのフォース・ドットコムでは、このモデルを活用して、創業から短期間で急成長を達成。マーケティングとインサイドセールスの分業体制により、リード獲得から商談化までの時間を大幅に短縮し、営業効率を最大化したしました。また、カスタマーサクセスチームの導入により、顧客の解約率を低下させ、LTVを向上させた事例も示されています。
日本企業でも、SaaSやIT企業を中心に「THE MODEL」を導入するケースが増えています。ある企業では、マーケティングとインサイドセールスを分業化することで、商談数が前年比で150%増加し、売上成長に大きく寄与したと報告されています。こうした事例から、「THE MODEL」は、特定の業界や地域に限定されず、幅広いBtoBビジネスに応用可能であることがわかります。
6.「THE MODEL」の限界と課題への対処
「THE MODEL」は万能ではなく、導入にはいくつかの課題が伴います。まず、組織の成熟度に合わせた段階的な導入が必要です。いきなり完全な分業体制を構築すると、組織の混乱や従業員の抵抗を招く可能性があります。本書では、小規模な企業では、まずマーケティングとインサイドセールスから始めることを推奨しています。
また、「THE MODEL」はデータ管理やツールの活用を前提とするため、ITインフラの整備が不可欠です。特に日本企業では、CRMやMAツールの導入が進んでいない企業も多く、初期投資や教育コストがかかる点が課題となります。
さらに、外部環境(市場競争力、顧客ニーズの変動)や内部環境(組織規模の拡大、製品の複雑化)に適応するため、モデル自体を柔軟に見直す必要があります。
7.まとめ
『THE MODEL』は、現代のBtoBビジネスにおける営業・マーケティングプロセスの革新を提案する実践書です。顧客購買プロセスの変化に対応し、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4つの機能を分業化・連携させることで、効率的かつスケーラブルな成長を実現します。
データ駆動のアプローチやCRMツールの活用を通じて、プロセスの透明性と再現性を高め、ビジネスの成功確率を向上させる手法が詳細に解説されています。
本書は、セールスのフォース・ドットコムの成功事例や日本企業での導入実績を通じて、理論だけでなく、実際の適用方法を示しています。特に、SaaSやIT企業に携わるビジネスパーソンや、営業組織の効率化を目指す経営者にとって、具体的なアクションプランを提供する一冊です。
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