008【恋愛小説】ウタヒメユメト第三章 青山の羨望 chapter3
🪞chapter3──自己顕示欲という魔法
松岡が置き去りにした 孤独を癒すため
夜風にあたる ユメトの元に
青山から メッセージが届いた。
春の風が 運んでくれたのは
承認欲求という まやかし。
ウタヒメユメト
ーMirror of Desireー
青山の羨望 chapter3
松岡が去った、その夜。
ユメトは奏音を寝かしつけ、自室と中庭を繋げる テラスへ出た。
春の夜風が、ユメトの傷口を癒すように優しく通り抜けていく。
そのとき、スマホの画面が光った。
[お疲れ様です。青山 陵です。
先日は 打ち上げに同行させて頂き、ありがとうございました。
大きなコンサートの打ち上げは 初めてだったので とても新鮮でした。
いま僕は映画の撮影をしているところで、千葉の海岸にいます。
波の音が穏やかで、ユメトさんの『名前のない海』を思い出し、思わず聴き入ってしまいました。
実は、僕の一番大好きな曲です。
ずっと気になっていたんですが、この英文フレーズの部分
『The hush of waves, and the soft crunch of white coral underfoot』
僕も好きなんです。海岸に 沢山落ちている珊瑚を 踏む時の あの音。凄く綺麗な音ですよね。
どこの海をイメージした曲なのか ずっと知りたくて、差し支えなければ教えて貰えますか?]
爽やかな人気俳優からのメッセージは、意外にも重い内容だった。
けれど、ユメトの自己顕示欲は 少しだけ満たされる。
何故ならば『名前のない海』は、ユメトの中では思い入れのある 自信作だった。しかし 世間の反応はイマイチで、シングルでは売らせてはもらえなかった。アルバムの中に埋もれた一曲。
あの頃、ユメトの純粋な闘志は 不完全燃焼に終わったのだ。
青山に送る返信の内容を考えながら、砂浜に打ち上げられた白い珊瑚の死骸達を踏みつけた時の 抜けるような高い音を想像した。
“大量の風鈴が 一斉に動いた時の、あの音とどこか似ている”
遠い記憶を 結びつけると、ユメトは小さく微笑んだ。
何度か、青山とのメッセージを楽しんだあと
[そろそろ寝ますね]と終わりの意思メッセージを送ると、青山から
[週明けには都内の撮影に戻る予定です。日程が合えば軽く一杯どうですか?]と『軽く』と『一杯』の間にビールが二つ重なって乾杯している絵文字が入ったメッセージが届いた。
松岡に えぐり取られた心の穴が 少しだけ疼いて、しばし迷った後
[マネージャーの伊藤も 同席になりますが。連絡お待ちしていますね]
と、ユメトは返事をしてしまった。
最後に送ったユメトのメッセージは すぐに既読になったが、青山からの返事は 何も返って来なかった。翌日も、その翌日も。
ユメトは 極度の心配性だった。
青山からのメッセージが返って来ない事が気になり、何度もスマホを確認する。
『即レスしなかった事が気に入らなかったの?』
『もしかして私の言い方にトゲがあったかな?』
『伊藤が同席って言うのが 嫌だった?でも、同業者なんだし二人きり なんて、まさか あり得ないよね?』
などと、青山との一連のやり取りを蒸し返しては
無意味な自問自答を繰り返した。
三日後のこと。オフ中のユメトには長すぎた青山の沈黙が破れる。
[千葉の撮影が終わって都内に戻って来ました。急なんですが明後日の夜の予定はどうですか?]
偶然にも明後日は、赤坂で成宮幹事長との会食があり 伊藤と都内に出向く。
少しだけ 心が弾んでいる自分がいる事に、首を振って
『別に青山君のことスキなんかじゃない』
と、ユメトは自我に呪文を唱えた。
愚かな恋の始まりは、自己顕示欲が満たされる事がきっかけで
始まるのかもしれない。
ウタヒメユメト ーMirror of Desireー To be continue… ♡
次回、青山とのデート編になります。
しかし、原文の時系列では「第二章-赤坂の誘い-」に繋がっています。
よろしければ、過去の記事「赤坂の誘い」をご覧ください。
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