会社がどこを向いているかは、会議の最初の問いに現れる。|フューチャードリブン経営論
新しいシステムの話なのに、会議は今までの会社を守り始める
長年使ってきた基幹システムを更新することになり、担当者が経営会議で説明を始めました。
新しいシステムでは、これまで別々に管理していた情報を一元化できる。
社員が何度も入力していた作業も減らせる。
顧客への対応状況も、部署をまたいで確認できるようになる。
説明がひと通り終わる前に、質問が出ます。
「今使っている帳票は、そのまま出せるの?」
「操作方法が変わったら、現場が混乱しないか」
「過去のデータは、全部移せるのか」
「前回の更新では、ずいぶん大変だったよね」
どれも、確認しなければならないことです。
業務を止めるわけにはいきません。
データを失うこともできません。
社員が新システムを使えず、顧客対応に支障が出れば、会社も困ります。
会議にいる誰も、変化に反対しているつもりはありません。
むしろ、会社にとって失敗のない更新にしようと、真剣に考えています。
話し合いは進み、やがて更新の条件が決まっていきます。
今の帳票を残す。
今の手順をなるべく変えない。
今の部署の役割を崩さない。
現場が抵抗なく移れる範囲に収める。
新しいシステムで何を実現するかではなく、
今の業務をどこまで変えずに残せるかが、
判断の中心になっています。
そして会議が終わる頃には、誰も気づきません。
その会議で一度も、
「この更新によって、
私たちはどのような会社になろうとしているのか」
とは問われなかったことに。
未来の話をしているから、未来から考えているとは限らない
システム更新、新規事業、中期経営計画、採用、組織改革。
どれも、会社のこれからについて話し合う議題です。
だから、その会議に参加している人は、自分たちは未来を考えていると思います。
しかし、未来について話していることと、Futureを判断の起点にしていることは同じではありません。
新しいシステムについて話しながら、判断の基準になっているのが
今の帳票、
今の業務、
今の部署、
過去の失敗だけなら、
その会議は現在の会社から将来を見ています。
新規事業について話しながら、
「これまでの顧客に売れるか」
「今の社員でできるか」
「既存事業の利益を落とさないか」
だけで可能性を測るなら、
やはり現在の会社から将来を選んでいます。
過去由来は、過去の話をしているときに起きるのではない。
未来の話をしているつもりのときに起きる。
だから、気づきにくいのです。
過去ばかり見ている人なら、自分でも分かるかもしれません。
しかし実際には、会社の将来を真剣に考え、変化へ向けた議題を扱い、新しい選択肢を検討している。
そのため、自分たちの判断が過去から始まっているとは思いません。
「前はどうしてた?」を聞くことが問題なのではない
過去を確認することは必要です。
現在の業務を知らずに、システムを更新することはできません。
過去の失敗を検証せず、同じ問題を繰り返す必要もありません。
既存顧客への影響、現場の負担、費用、契約、安全、法令を無視することもできません。
Future Drivenは、過去や現在を見ない考え方ではありません。
問うべきなのは、過去や現在を何に使っているかです。
Futureを実現する方法を考えるためのFactとして使っているのか。
それとも、
Futureの上限を決める答えとして使っているのか。
誰も会議で、
「Futureの上限を、今の会社に合わせて決めよう」
とは言いません。
「顧客に迷惑をかけないように」
「現場が混乱しないように」
「今いる社員で無理なく運用できるように」
「予算を大きく超えないように」
一つひとつ、必要な条件を確認しているだけです。
しかし、それらがすべて動かせない前提として先に置かれれば、Futureはその内側に収まる形でしか描けなくなります。
誰かがFutureを小さくしたのではありません。
現在の会社を一つずつ守ろうとした結果、誰も意図しないまま、Futureの上限が決まっていくのです。
Futureがなければ、過去由来の判断が最適になる
前の記事でも書いた通り、会社を過去由来にするのは、誰かの消極性ではありません。
それぞれが担う責任の中で行う、合理的な判断の積み重ねです。
Futureが判断基準として置かれていなければ、会社が判断に使えるものは、現在の顧客、今ある人材、これまでの実績、過去の失敗、現在の収益です。
それらをもとに真剣に考えれば、既存顧客を守り、現場の混乱を避け、これまで成果が出た方法を続けるという結論になるのは自然なことです。
Futureがなければ、過去由来の判断は、
現在の会社を維持するうえで最適な判断になります。
ここで問うているのは、一つひとつの判断が正しいか、間違っているかではありません。
その判断が、会社をどこへ最適化しているかです。
現在の会社を前提に、現在の会社を守るために考え続ければ、判断の精度が上がるほど、会社は現在維持へ向かいます。
だから、社長が「うちは未来を考えている」と信じていても不思議ではありません。実際に将来の話をし、必要な投資を検討し、リスクまで見て判断しています。
見落としているのは、
判断の質ではありません。
その判断が、どこから始まっているかです。
過去由来注意報は、会議の流れに現れる
会社の判断基準は、経営理念や計画書だけを見ても分かりません。
新しい話が出た瞬間、会議がどこから考え始めるかを見ると、日常で実際に使われている判断基準が見えてきます。
提案が出るたびに、
「これからどうするか」より先に
「前はどうしていたか」が出る。
提案の目的を考える前に、「社長はどう思っているのか」が確認される。
分からないことが出たとき、
「何を確かめれば進めるか」ではなく、
「実績がないから難しい」という結論になる。
「うちには無理だ」とは言わなくても、
「今の人員では」
「今の顧客には」
「今期の予算では」
という条件が積み上がり、提案が現在の会社に収まる大きさへ変わっていく。
一つひとつの言葉だけを切り取って、過去由来だと決めることはできません。
「前はどうしていたか」が最初に出ても、その後でFutureに必要な状態から考え直す会議もあります。
安全や事業継続に関わる確認を、最初に行うべき場合もあります。
見るべきなのは、単なる発言の順番ではありません。
何を起点に議論が組み立てられ、最後に何が判断を決めたのかです。
会議の最初の問いとは、最初に口にされた一言ではなく、その後の思考をどこへ向かわせた問いなのです。
変える案だけを、厳しく審査していないか
システムを更新する案には、費用対効果が求められます。
移行にいくらかかるのか。
何年で回収できるのか。
失敗した場合はどうするのか。
現場の負担はどれほど増えるのか。
当然、確認すべきことです。
ところが、今のシステムを使い続ける案には、同じ厳しさで問いが向けられているでしょうか。
このまま三年間使い続けた場合、どれだけの手作業が残るのか。
属人化によって何が失われるのか。
顧客へ提供できない価値はないのか。
Futureに必要な能力を、いつまで持てないままにするのか。
変えることにはリスクの説明を求めながら、
変えないことのリスクは検討しない。
新しい事業には売上の根拠を厳しく求めながら、
現在の事業が今後も同じように続く根拠は問わない。
新しい人材を採用する効果は数字で求めながら、
今の人材構成を続けることで失う可能性は測らない。
変える案だけが審査され、変えない案が無審査で通っているなら、その会議は中立ではありません。
すでに現在の会社を選んでいます。
会議で最も強い選択肢は、賛成者が多いものとは限りません。
誰からも、選ぶ理由の説明を求められていない選択肢です。
その会議で、Futureはいつ使われただろうか
売上や利益が伸びているうちは、会社が過去由来になっていることに気づきにくいものです。
過去に築いた顧客がいる。
利益を生む商品がある。
信用も技術も蓄積されている。
現在を維持する判断は、しばらくの間、数字にも表れます。
だから、数字だけを見れば、判断はうまくいっているように見えます。
それより先に現れるのが、会議の問いです。
新しい話が出たとき、私たちは何を最初に守ろうとするのか。
変える案と変えない案を、同じ厳しさで検討しているか。
過去の経験は、Futureを実現するための情報として使われているか。
それとも、
Futureを現在の会社に収めるための上限になっているか。
そして、何よりも。
その会議で、Futureはいつ判断基準として使われただろうか。
この問いに、すぐ答えられない会議が増えているなら、会社の数字が悪くなくても、過去由来注意報はすでに出ています。
過去を捨てるのではない。置く場所を変える
第3部では、会社が軌道に乗るほど、現在を維持する方向へ最適化されていく構造を見てきました。
会社が成長すれば、守るべきものが増えます。
過去の判断は、べからず集や正解集として組織に残ります。
Futureを持たないまま新しい施策を入れれば、その施策まで現在の成功を再生産するために使われます。
そして、その兆候は、数字より先に日常の問いへ現れます。
しかし、ここまでの話は、過去を捨てようということではありません。
顧客も、技術も、信用も、成功も、失敗も、会社が時間をかけて築いてきた大切なFactです。
過去に会社のFutureを決めさせるのではなく、Futureを実現するために過去を使う。
必要なのは、過去をなくすことではありません。
過去を、
「これからを決める答え」の席から、
「Futureを創るために使う資源」の席へ移すことです。
次の第4部では、過去や現在を否定せず、その意味と使い道をFutureから選び直すことへ進みます。
現在の会社を守るために未来を使うのではない。
Futureから、現在と過去の使い方を決め直すのです。
第3部 了
