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《新規事業のすすめ》アスクルに学ぶエフェクチュエーション実践+「もし当時、生成AIがあったら」

エフェクチュエーションとは

 エフェクチュエーションは、成功した起業家に共通する思考と行動を体系化した論理で、5つの原則から構成されています。「手中の鳥の原則」は今持っているリソースから出発する考え方、「許容可能な損失の原則」は失っても大丈夫な範囲を先に決めてスモールスタートする、「レモネードの原則」は予期せぬ出来事を新たなチャンスと捉え直す、「クレイジーキルトの原則」は多様なパートナーと共に事業を形成する、「パイロットの原則」は予測ではなく自分がコントロールできる要素に集中して行動する哲学です。これは目標から逆算する従来のコーゼーションとは対極にあり、不確実性が高い状況で力を発揮します。詳しくはhttps://note.com/muesli14/n/n62a5eedc8d31を参照下さい。

事例の概要

 アスクルは1993年、文具メーカーのプラス株式会社の社内事業部として誕生しました。大企業には業者が営業に来るが、中小事業所は忙しい業務の合間に店頭へ買いに行く必要があり、この不便を解消するため、岩田彰一郎氏らが1992年6月にわずか500アイテムでテストマーケティングを開始し、翌1993年3月に正式サービスを開始、「明日来る」という翌日配送を武器に成長しました。[1][2]
 転機となったのは顧客からの予期せぬ要望でした。FAX注文用紙のメモ欄に「A社のファイルが欲しい」「B社のホチキスを入れてほしい」といった他社製品への要望が次々と寄せられました。当初プラス製品の拡販を目的としていたため役員会では反対されたが、岩田氏らは顧客の声を集計して何度も説得し、最終的に競合メーカーの商品もカタログに掲載することを実現しました。この方向転換により売上は急拡大し、1997年には分社独立を果たしました。[3][4]

原則との関係

 手中の鳥の原則では、プラスが持つ文具メーカーとしての商品知識・製造ネットワーク、岩田氏の商品開発経験を最大限活用し、手元にある500アイテムから小さく始めました。許容可能な損失の原則は、社内事業部として開始することでリスクを限定し、テストマーケティングで検証してから正式サービスへ移行した点に表れています。[1]
 最も劇的だったのがレモネードの原則の実践です。顧客のFAXメモ欄に書かれた他社製品への要望を、単なるノイズではなく新たなチャンスと捉え直し、プラス製品の拡販という「プロダクトアウト的発想」から「顧客起点」のモデルへと転換しました。クレイジーキルトの原則では、全国1,100社以上の文具小売店をアスクルエージェントとして組織し、売上の約10%を支払う仕組みを構築しました。さらに競合メーカーとも協業し、複数メーカーの商品を扱う「競争しない競争戦略」を展開しました。
 パイロットの原則は、「明日来る」という翌日配送の徹底と中小事業所というターゲットの明確化に現れ、多段階の流通構造を見直して自らがコントロールできる配送スピードとサービス品質に集中しました。[2][5][3]

《空想》もし当時、生成AIがあったら?

 手中の鳥の原則では、生成AIに手元のリソースを入力し「これらを組み合わせてどんな事業アイデアが考えられるか」と問いかけることで、自分たちでは気づかなかった切り口を短時間で複数発見できたかも知れません。500アイテムの初期ラインナップ選定も、顧客セグメント分析と需要予測で最適化できた可能性があります。
 レモネードの原則において、生成AIは顧客フィードバック分析の強力なツールとなります。FAXメモ欄に書かれた膨大な顧客要望を生成AIで自然言語処理し、「どの他社製品への要望が多いか」「どんな潜在ニーズがあるか」を感情分析や頻出キーワード抽出で瞬時に可視化できたかも知れません。これにより顧客の声を新たなビジネスチャンスとして捉え直すスピードが向上し、プラス役員会への説得材料として「データに基づく提案」を短期間で作成できました。
 クレイジーキルトの原則では、小売店やメーカーへのパートナーシップ提案において、生成AIが提案書作成を効率化します。相手企業のペルソナに合わせてカスタマイズした提案資料を自動生成し、説得力のあるコミュニケーションで協業関係の構築を加速できました。また競合メーカーを説得する際も、「顧客データから見える市場機会」を分析レポートとして提示することで、Win-Winの協業モデルを論理的に示せました。
 パイロットの原則では、統計処理のスキルを持たない社員でも中小事業所の購買データを生成AIで分析し、「どの商品カテゴリーの需要が高いか」「配送エリアごとの注文傾向は何か」といったインサイトをリアルタイムで把握でき、在庫配置や配送ルートの最適化をデータドリブンで進めらたかも知れません。

人間が果たすべき役割

 生成AIが多くの作業を効率化できる一方で、人間にしかできない重要な役割が存在します。第一に、顧客の声の真意を読み解く直観と共感力です。FAXメモ欄の要望を「顧客は本当にワンストップで全てを揃えたいのだ」という本質的ニーズへと昇華させたのは岩田氏らの洞察力でした。生成AIはパターン認識は得意ですが、文脈の奥にある人間の感情や真の動機を理解する力は限定的です。[3]
 第二に、組織内での説得と交渉です。プラス役員会での強い反対を受けた際、岩田氏らは何度も足を運んで説得を重ねました。生成AIは論理構成や資料作成を支援できますが、相手の表情や反応を見ながらその場で論点を調整し情熱を持って語りかける対人コミュニケーションの力は人間にしか発揮できません。[3]
 第三に、リスクを取る意思決定と責任です。他社製品を扱うという方向転換は既存の事業モデルを揺るがす大きな決断でした。生成AIは選択肢を提示できても、最終的に「やる」と決断し結果に責任を持つのは人間の経営者です。
 第四に、パートナーとの信頼関係構築です。小売店をエージェントとして組織し競合メーカーとも協業関係を築くには、相手の立場を理解し長期的な信頼を築く人間関係の力が必要でした。
 第五に、偶発的な機会を見逃さない感度です。顧客のメモ書きを見て「ここに新しい市場がある」と感じ取ったのは、データ分析の結果ではなく人間の創造的な洞察です。生成AIは事後的に分析や提案はできますが、その場で機会を嗅ぎ取る嗅覚は人間特有の能力です。生成AIは情報収集、分析、資料作成、アイデア発想といった「作業」を劇的に効率化しますが、顧客の真意を読み解く共感力、組織を動かす説得力、リスクを取る決断力、信頼を築く関係構築力、機会を見出す創造的洞察力という「人間的判断」は代替できません。[3]

まとめ

 アスクルの創業は、エフェクチュエーションの5つの原則を実践した典型例です。手元のリソースから小さく始め、リスクを限定しながら、顧客の予期せぬ要望をチャンスと捉えて方向転換し、パートナーシップで生態系を構築し、コントロール可能な要素に集中して未来を創造しました。もし当時生成AIがあれば、顧客フィードバック分析、アイデア発想、提案書作成、データ分析といった作業が高速化され、エフェクチュエーションの実践がさらに加速していたでしょう。しかし顧客の真意を読み解く共感力、組織を動かす説得力、リスクを取る決断力、信頼を築く関係構築力、機会を見出す創造的洞察力という人間にしかできない役割は不変です。生成AIは強力な道具ですが、不確実な未来を切り拓くのは人間の意思と行動です。

引用文献

[1] https://www.askul.co.jp/corp/company/history/
[2]https://sellwell.jp/column/marketing/askul/
[3] https://news.livedoor.com/article/detail/20328831/
[4] https://shinsenken.jp/case/ca3/486/
[5] http://www.askul.co.jp/corp/assets/pdf/ir_2022j_06.pdf

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