🌠過去と未来を繋ぐ者たち 7

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第7章:風が遺した言葉
世界は、依然として歪みの中にあった。
生命の樹の光は、断末魔の叫びを上げるように不安定な脈動を繰り返し、周囲の空間は、まるで見えない巨大な手が世界を握り潰そうとしているかのように歪曲している。色彩は消失し、空は煤(すす)けた灰色に沈んでいた。
その歪みの中心で、エルダは立ち尽くしていた。純白の守護者としての誇りと、世界を凍らせてでも守ろうとする「邪悪な者」としての狂気。二つの極点の間で、彼の魂は凄まじい速度で摩耗し、引き裂かれていた。
彼の身体から放たれる魔力は、ある時は慈愛に満ちた微風のように穏やかに、次の瞬間には、周囲の命を細切れに切り裂く無慈悲な刃へと変貌する。
「くそっ……!
まるで大地の怒りを正面から食らってるみたいだ!」
レオンが、鋼のような筋肉を軋ませ、大地の裂け目に足を踏みしめる。握りしめた黒曜石のナイフが、大気の歪みに反応してキィィィンと高音の悲鳴を上げ、エルダから放たれる「歪んだ正義」の残響を火花とともに弾き返した。
アルジェリーナは、大きな翼を左右に広げ、荒れ狂う嵐の中に仁王立ちしていた。その羽毛は逆立ち、暴風に煽られて激しく震えている。それでも、彼女は飛ばなかった。
「聞こえねぇのかよ、エルダ!
あんたが目を開けないで、誰がこの世界を見るんだよ!」
その叫びには、戦士としての怒りと、一人の少女としての痛切な焦りが滲んでいた。
「守るってのは……、全部をあんた一人の腹の中に抱え込むことじゃねぇだろ! そんなの、ただの自己満足だ!」
だが、エルダの視線は虚ろで、もう彼女の姿を映してはいなかった。彼の中では、今もなお二つの絶望的な声がせめぎ合っている。
(――止めろ。変化を殺し、永遠に閉じ込めろ)

(――違う。それは救いではない。命への冒涜だ)
矛盾に耐えかね、彼の指先からは黒い泥のような魔力が滴り落ちていた。
「……来ました。
わたくしたちが、ここまで運んできたものが」
ホズミの声が、凛と響いた。その手にある星図の石が、暗闇を塗りつぶすほどの眩い光を放ち始める。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。七つの色彩が石の内側で一つの命のように躍動し、「呼吸」を始めていた。
「アルジェリーナさん」
ホズミは眩しさに目を細めながら問うた。
「……あの焚き火の夜に、風は何を仰っていましたか。
アル様は、何を託されたのですか」
アルジェリーナは一瞬、躊躇した。父の死という現実を改めて受け入れること。けれど――彼女はもう、目を逸らさなかった。
「……父ちゃんが、風の中で言ってたよ。
その石には、あんた達が未来で集めた七つの光が、全部残ってる。
それは単なる力じゃない。
失われたはずの『調和の記憶』なんだってな」
「つまり、この過去の瞬間に、未来の虹を架けるってことか」
レオンが驚愕に息を呑む。
「そうだ」
アルジェリーナは一歩も引かずにエルダを睨み据えた。
「まだ、間に合う。
あんたがバケモノになる前に、あたいらがその荷物、半分持ってやるって言ってんだよ!」
その言葉が届いたのか、エルダの瞳に、かつての穏やかな光が戻った。
「……なぜ」
掠れた、今にも消えそうな声。
「なぜ……私を、これほどまでに救おうとするのだ。
私は、君たちの未来さえ否定しようとしているのに……」
「救うのではありません。繋ぐのです」
ホズミは大地を揺るがすような強さで言い切った。
「エルダ様が必死に守ろうとしたこの過去と、わたくしたちが泥を這って歩んできた未来を。
一人の正義ではなく、皆の願いを繋ぐことで、新しい虹を架けに来たのです」
ホズミが星図の石を天高く掲げたとき、周囲の空気が一変した。
それは、間違いなく――。かつて空を焦がし、地に堕ちてもなお歩き続けた、大鷲アルフレッドの風だった。
(委ねろ。その小さな肩に、世界のすべてを載せる必要はない)
物理的な音を超えたアルの声が、三人と、エルダの心に染み渡る。
(一人で背負うな。友を信じ、流れを信じ、変化の先にある光を信じろ)
「聞いたろ。
……あたいらは、ここにいる。
あんたの孤独を、独りにはさせねぇ!」
エルダの肩が激しく揺れた。身体を包んでいた黒い波動が霧散するように弱まる。ホズミはその瞬間を逃さなかった。
「――祈ります。
オーロラランドのすべての命の名において。
七つの光よ。
記憶となり、心となり、今ここに、
この悲しき守護者の魂を解き放つ鍵と成れ!」
石の中で七色の光が凄まじい渦を巻き、天に向かって立ち昇ろうとする。
だが――。
エルダの背後で、抑圧し続けてきた「世界の恐怖」そのものが、巨大な黒い影となって爆発的に膨れ上がった。
「……だめだ……間に合わない……!」
エルダが血を吐くような呻き声を上げた。
「もう……私の中の闇が、私自身の制御を……超えてしまった……!」
大地が断末魔の悲鳴を上げた。空がついに耐えきれず、鏡が粉々に砕けるように裂け始めた。裂け目の向こうから虚無の嵐が吹き込み、すべてを無に帰そうとする。
「まだだ! まだ終わらせねぇ!
父ちゃんは、あたいらを信じて風を贈ったんだ!」
アルジェリーナがホズミを抱き止めるように支え、レオンがその前を固める。
世界の中心で光と闇が衝突し、空間そのものが悲鳴を上げる。
その只中で、七つの光がついに限界を超えて溢れ出そうとしていた。
だが、その解放はまだ完璧ではなかった。あと一つの「欠片」が足りない。その「答え」が何であるかを、まだ誰も言葉にできてはいなかった。
エルダの暴走を止めるべく、
3人が頑張ってますね〜
さて次回は…
わし(ムヒ)の持つnoteだけが知っている😁
次回はこちら
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