🌠過去と未来を繋ぐ者たち 8

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第8章:邪悪なる目覚め
星図の石は、砕け散らんばかりの激動をもって、ホズミの祈りに応えていた。
七つの光は石の内部で猛烈な渦となり、ホズミの小さな掌の中で、今にも解き放たれようとしている。その輝きは、絶望に染まりゆくオーロラランドにおける、最後の「正解」であるかのように見えた。
「……お願い。届いて。
エルダ様の心に……!」
ホズミの祈りは、もはや音にはならなかった。それは魂の震えとなり、凍りつこうとする世界を必死に繋ぎ止めようとしていた。
だが――。
光が臨界点を超え、すべてを包み込むはずだったその、ほんの一瞬、早く。エルダの内側で世界を支えていた最後の支柱が、乾いた音を立てて砕け散った。
「……ああ……。そうか。
もう、いいのだな」
幾重にも重なったような歪んだ声が、大気を震わせた。かつての慈愛は消え、底知れぬ深淵から響く地鳴りのような響き。
エルダの足元から、どろりとした黒い影が爆発的に噴き上がる。それは破壊の炎ではなく、行き場を失った「正しさが腐り果てた残骸」だった。あまりに純粋で潔癖すぎた守護者の意志が、耐えきれぬ重圧によって毒液へと変質し、溢れ出したのだ。

生命の樹が断末魔のような悲鳴を上げた。大地を走るひび割れからは光を喰らう闇が噴出し、瑞々しかった草原を瞬時にどす黒い灰へと変えていく。
「くっ……!
この圧力、正気じゃねぇぞ!」
レオンが前に出る。全身の鱗を逆立たせ、飛来する闇の礫を正面から受け止める。黒曜石のナイフが闇を切り裂くたび、金属同士が擦れ合うような、耳を劈く不快な響きが広がった。
「アルジェリーナ、下がれ!
ここから先は、命のやり取りじゃ済まねぇ!」
「……無理だ! 退けるわけねぇだろ!」
アルジェリーナは巨大な翼を広げたまま、暴風の中に突き立てた旗のように踏みとどまっていた。
「ここで退いたら、あたいは父ちゃんにも、あたい自身にも、一生顔向けできなくなる。
あたいは、もう二度と自分の心を見ることができなくなるんだ!」
エルダの身体がゆっくりと宙に浮き上がる。汚れなき純白のローブは漆黒へと染まり、かつての神々しい姿は「影そのものが形を持った存在」へと変貌を遂げていた。
「私は……間違ってなどいない。間違っていてはならないのだ」
エルダの声が、裂けた空に冷酷に響き渡る。
「流れは残酷だ。循環は苦痛だ。
ならば、私は止めねばならぬ。
この愚かな変化を。不確かな循環を。――そして、残酷な可能性に満ちた、未来そのものを!」
その宣言とともに、オーロラランドの空を彩っていた光の帯が、一斉に黒く反転した。虹色のオーロラは鋭利な刃となり、地上へと降り注ぐ。森の木々は立ち枯れ、川は時間の法則を失って逆流し、精霊たちの笑い声は凍りついた悲鳴へと変わった。
「やめて……もう、やめてください……!」
ホズミの持つ星図の石は今や、掌を焼き、火傷を負わせるほどの熱を帯びている。
「エルダ様!
あなたがしているのは、世界を……あなた自身を、永遠の孤独に閉じめることなんです!」
だが、その言葉が届くことはなかった。エルダの胸元には、複雑に絡み合う黒い幾何学的な紋様が浮かび上がっていた。それは、後に語り継がれる【邪悪な者】の印。
「……遅かったな」
エルダが、感情の消えた瞳で静かに告げる。
「私は、すでに選んでしまった。
この静止した永遠こそが、我が正義であると」
オーロラランド全体が、耐えきれぬ苦痛に呻いた。空はガラスのように裂け、大地は深淵へと沈み込み、生命の樹の葉は希望を失った黒い羽根のようにハラハラと落ちていく。
レオンとアルジェリーナは、エルダから放たれる圧倒的な「歪んだ正義の残響」と激突していた。
それは物理的な力ではない。「自分こそが正しい」と信じ切った、あまりにも強固で、それゆえに脆い意志の質量そのものだった。
「……ホズミ!」
レオンが、膝をつきながら叫ぶ。
「今だ! 石の力を解き放て!
迷うな、お前が信じた光を叩きつけろ!」
ホズミは、震える指で星図の石を高く掲げた。瞳から溢れた涙が一粒、熱い石に落ちて蒸気を立てる。
「……まだ、間に合うと信じています。あなたと一緒に、笑いたかったんです……!」
石の中から七つの光が、ついに奔流となって溢れ出した。だが、その光は周囲の圧倒的な闇に飲み込まれそうになりながら、かろうじて、風前の灯火のように形を保っているに過ぎなかった。
エルダは、もはや足元で抗う小さな命たちを見てはいなかった。彼の黒い瞳には、自らの意志で塗りつぶした、色を失い動きを止めた「完璧な死の世界」しか映っていなかった。
オーロラランドは、完全なる崩壊と、永遠の停滞の縁へと踏み出した。ホズミの祈りは届いていた。七色の光は、確かに闇を射抜こうとしていた。
だが。
ほんの、砂時計の最後の一粒が落ちる程度の時間。
それは、決定的に遅すぎた。
3人の想いとは裏腹に、ほんの少し遅かった…
7つの光が間に合わなかった世界はこれから…
わし(ムヒ)の持つnoteだけが知っている😁
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