見出し画像

🌠過去と未来を繋ぐ者たち 5

前回はこちら


第5章:邪悪な心 ― 託す未来


 生命の樹が、世界の底から呻き声を上げた。

 それは鼓膜を震わせる音ではない。世界の骨組みが軋み、大地が微かな拒絶の振動を伝える、本能的な恐怖を呼び起こす地鳴りだ。吹き抜けていた風が突如として死に、川のせせらぎは録音を止めたかのように途絶えた。オーロラランドのすべてが、一瞬、呼吸の仕方を忘れた。

「……来るぞ。腹を括れ」

 レオンが低く唸った。長い尾が苛立たしげに地面を打ち、強靭な筋肉が鎧のように硬く引き締まる。引き抜かれた黒曜石のナイフが、大気に溢れ出した異常な魔力に反応し、禍々しくも美しい淡い光を宿した。

 アルジェリーナは畳んでいた翼をわずかに広げ、風の死んだ空間を睨み据える。その視線の先には、かつて「完璧」だった守護者の背中がある。

「やめとけよ、あんた……。
その顔、世界を救うふりして、自分一人で地獄に行こうとしてる、独りよがりのツラだよ!」

 エルダは答えない。いや、もう彼の耳には地上の言葉は届いていなかった。

 純白の足元から、粘りつくような黒い影が滲み出し始めていた。それは外側から訪れた闇ではない。誰にも見せなかった「孤独」と「重圧」が、臨界点を超えて溢れ出し、形を得ようとしているのだ。

「エルダ様……!
間に合わなくなる前に、どうか、わたくしたちの声をお聞きください!」

 ホズミの叫びも、エルダを包む沈黙の膜に吸い込まれて消えた。エルダの碧眼の中で、純白の光とどす黒い闇が、高速で入れ替わりながら瞬いている。

「……私は、間違っていない…
  間違っているはずがない‼️」

 その声は、全宇宙への宣戦布告のようであり、同時に、泣きじゃくる子供の言い訳のようでもあった。

「止めねばならぬのだ。
この残酷な流れを、崩壊へと向かう循環を……。
変化は死だ。
ならば、私は死を禁ずる。
私が、この世界の時間を繋ぎ止め、永遠の静止という救いを与える!」

 背後で、生命の樹の光が激しく歪曲した。虹のように溶け合うはずの七色のエネルギーが、今は互いを拒絶し、火花を散らしながら軋んでいる。

「やめろッ! 限界を超えてる!」

 レオンが凄まじい気合とともに叫ぶ。

「それ以上やったら、守るどころか、この世界を『生きたままの死体』にするつもりか!」

「分かっている!」

 エルダの叫びが、物理的な衝撃波となって空気を震わせた。

「分かっているからこそ、私にしかできない!
私が、この世界のすべての罪を背負って、完璧な檻になるのだ!」

 光が、爆ぜた。

 視界が白一色に染まり、直後、信じがたい光景が広がった。エルダの純白のローブが、裾からじわじわと、底なしのインクを零したように黒く染まっていく。それは邪悪な悪魔の誕生ではない。「悲鳴を上げながら凍りついた、歪んだ正義」そのものの姿だった。

「……ああ、なんてことだ」

 ホズミは、胸元の星図の石を壊れそうなほど強く握りしめた。

(この方は……悪になりたいんじゃない。
悪に『なるしかない』と自分を追い詰めて、その役割を自ら引き受けてしまったんだ……!)

 エルダの周囲に、黒い波動が広がっていく。その力は大地を砕きはしなかった。ただ、冷酷なまでに「止めて」いった。吹き抜けていた微風はクリスタルのように凍りつき、咲き誇っていた花々は瑞々しい色のまま二度と散らぬよう固定され、空の光は瞬きを忘れた模様へと化した。

「世界を、全部剥製にする気かよ……!」

 アルジェリーナが猛烈な圧力を押し返し、一歩、また一歩と前へ出る。

「そんなの、オーロラランドじゃねぇ! 守ってるなんて嘘だ!」

 レオンもまた、隣に並ぶ。二人は武器を振るうのではなく、自らの生命力そのものを盾にし、彼の暴走する意志を物理的に押さえ込もうとした。

「……頼む」

 黒い影の奥から、エルダのかすれた声が漏れた。その一瞬、かつての穏やかな守護者の面影が、絶望的な瞳の奥に灯った。

「私は、ここで終わってもいい。
だが……世界だけは、どうか、この美しい姿のままで……」

 エルダは、自ら救えない未来を、自分が「邪悪な王」となったその先に訪れるはずの救済を、目の前の旅人たちに託そうとしていた。自分自身を敵とすることで、世界を一つにまとめ、そしていつか、自分を討ち果たす「真の英雄」が現れることを、彼は切望している。

「……だめです。
そんなの、認められません」

 ホズミは毅然と言い放った。

「そんな悲しい託され方、わたくしたちは受け取れません!」

 だが、拒絶よりも早く、エルダの全身を完全なる黒の奔流が包み込んだ。オーロラランドの空が鏡のようにひび割れ、七色の光が闇へと反転していく。

 世界は――ついに崩壊と停滞の入口へと、真っ逆さまに突き落とされた。

 それでも、完全に闇に染まったエルダの深淵の底には、たった一粒の光が残っていた。それは、レオンとホズミが、いつか自分の過ちを「正しく」終わらせてくれるという、究極の信頼だった。


ついにエルダが闇に染まってしまいましたね…

さて、次回は…

わし(ムヒ)の持つnoteだけが知っている😁


次回はこちら

💠サイトマップ

最後まで読んで頂きありがとうございます♪
少しでも面白かったな〜と感じたら、
スキ、コメント、フォローをよろしくお願いします。
今後の励みになります。

いいなと思ったら応援しよう!

児童文庫が大好き ムヒ  🌈オーロラランド復興基金‼️ レオンとホズミの旅を応援してくれませんか?下の「チップ」から、二人の「おやつ代」などの旅費を募っています。頂いた応援は、書籍化など、世界中にオーロラを取り戻す活動に大切に使わせて頂きます。二人の冒険を支える仲間になってくれたら嬉しいです🦔🦎

この記事が参加している募集