🌀嵐の丘で立ち尽くす者たち 7

前回はこちら
第7話 押し寄せる水
最初は、ただの流れだった。
足元をなぞるように、水が低いほうへ向かって動いていく。
それだけなら、まだ恐れることはなかった。
だが、その流れは、止まらなかった。
地面のあちこちから、水がにじみ出る。
小さな割れ目、石のすき間、踏み固められていない土の下から――まるで、世界そのものが息を吐くように。
「……増えています」
ホズミが、静かに言った。
振り返ると、さっきまで乾いていた場所が、もう光っている。
水は集まり、広がり、境目を消していく。
「まずいな…」
レオンは、周囲を見回した。
低い土地ばかりだ。
どこもかしこも、水の通り道になり始めている。
その時だった。
――ゴウッ。
遠くから、重たい音が響いた。
地面が、わずかに震える。
「今の……何?」
アルジェリーナが翼をすくめる。
答える前に、また音がした。
今度は、もっと近くで。
水が、流れではなく――
塊として、動き始めていた。
「走るぞ!」
レオンが叫ぶ。
三人は、少しでも高そうな方向へ向かって走り出した。
だが、水は速い。
水は足首を超え、脛(すね)を叩き、一歩ごとに命を奪うような重さで絡みついてくる。
レオンは太い足で水を割り、道を作るように進むが、アルジェリーナは濡れて重くなった翼に振り回され、今にも水面に顔を突っ込みそうだ。
「つかまってろ!」
レオンが片手でアルジェリーナの翼を掴み、強引に引き寄せる。
踏み出すたび、体が引き戻されそうになる。
「転ばないで!」
ホズミもアルジェリーナの背を支えながら進んだ。
「大丈夫……!」
そう答えたものの、アルジェリーナの声は風に流された。
背後で、水がぶつかり合う音がする。
いくつもの流れが合流し、一つの大きなうねりになっていく。
「こっちだ!」
レオンは、岩の多い場所を見つけ、そちらへ進路を変えた。
石が多ければ、少しは流れが分かれる。
だが――
水は、石を避けなかった。
ぶつかり、跳ね、砕け、それでも前へ進んでくる。
「こんなの……」
ホズミは息をのんだ。
水の表面が、ざわついている。
風が強くなってきているのが分かった。
空を見上げると、雲が、いつの間にか集まり始めていた。
低く、厚く、色を失った雲。
「雨……?」
ぽつり、と冷たいものが額に当たる。
一粒。
二粒。
次の瞬間、空が開いた。
雨が、叩きつけるように降り始めた。
「前だ! あそこ、少し高い!」
レオンが指さした先に、緩やかな上りが見えた。
三人は、最後の力を振りしぼって進む。
水は直ぐ後ろまで迫り、泥が足をさらおうとする。
一歩踏み出すたび、世界が揺れる。
それでも――
三人は、止まらなかった。
「行けます……!」
ホズミは、歯を食いしばりながら言った。
風の音が、帽子の縁で鳴っている。
何かを叫んでいるようにも、泣いているようにも聞こえた。
ようやく、水位が少し下がった。
振り返ると、さっきまで歩いていた土地は、もう見えない。
一面、水。
流れ、波立ち、形を変え続けている。
アルジェリーナは、濡れた翼を抱えながら、小さく呟いた。
「……あたいたち、戻れないんだ」
アルジェリーナは、泥を被り、重く垂れ下がった自分の翼を見つめた。
「……ああ。道は消えた」
レオンが短く応える。その視線の先では、濁流が大地を削り、新しい川の形を刻みつけていた。
「行くしかない。水が来ねぇ場所までな」
遠くで、雷が鳴った。
空と地が、まだ繋がっていることを思い出させるように。
三人は、ただ前を見て進んだ。
どこへ行けばいいのかは、分からない。
けれど、立ち止まれば、飲み込まれる。
水は、生まれたばかりなのに、
すでに、この世界の形を変え始めていた。
完全にやっちまってる三人…
この先には何が…
わし(ムヒ)の持つnoteかだけが知っている😁
次回はこちら
最後まで読んで頂きありがとうございます♪
少しでも面白かったな〜と感じたら、
スキ、コメント、フォローをよろしくお願いします。
今後の励みになります。
いいなと思ったら応援しよう!
🌈オーロラランド復興基金‼️
レオンとホズミの旅を応援してくれませんか?下の「チップ」から、二人の「おやつ代」などの旅費を募っています。頂いた応援は、書籍化など、世界中にオーロラを取り戻す活動に大切に使わせて頂きます。二人の冒険を支える仲間になってくれたら嬉しいです🦔🦎