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「落ち着くことはない」日本の物価、日銀レポートで示された【値上げの制度化】

皆さん、こんにちは。村田雅志です。

コメが、やっと値下がりしてきたよ
米国がイラン爆撃を休止したから原油急落♡
インフレもそろそろ落ち着くでしょ

といった話を耳にすることが出てきました。
よかった、よかった、と思います。

しかし、おそらく、ほとんどの方は、
生活コストが軽くなった、と思っていないはずです。
むしろ、

スーパーのレシートの金額は相変わらず高い
外食も高い
旅行や宿泊も手が届きにくくなっている

などと思われているのではないでしょうか。
つまり、多くの人は、
原油や食料価格が落ち着けば、そのうち生活コストも軽くなるはずだ
と思っているような気がしています。
※個人の感想です。

そんな中、日本銀行は地域経済報告、いわゆる「さくらレポート」を公表しました。さくらレポートは、四半期(年4回:1、4、7、10月)ごとにまとめる全国9地域の景気動向調査報告書です。アンケート形式の「短観」と異なり、日銀の支店が現地企業などから直接聞き取った景況感や事業計画(ミクロデータ)が取りまとめられたもので、回答者の声が生々しく記載されています。

こんな感じです。

結構、長い文章が多いです

今回のコラムでは、この日銀「さくらレポート」を読み解き、いま日本で起きているのは、単なる一時的な物価高ではなく、値上げの【制度化】であることをご紹介いたします。

危ないのは、物価が高いことではありません。
「そのうち戻る」と思って、家計も仕事も、昔の前提で組み立ててしまうこと

ということをお話ししたいと思っています。

値上げは受動的から能動的へ

今回のさくらレポートは、見出しだけを追えば「全9地域で景気判断を据え置き」「中東情勢が下押しリスク」と読めます。
※もちろん、それも重要です。

ただ、ここで注目すべき箇所は、支店長会議の総括にある以下の部分です。

https://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rera260406.pdf

ここでは、「値上げが続いている」という事実に加え、「今後の値上げを表明あるいは検討する声」という指摘があります。

実際、地域別の声をみると、その変化はかなり具体的です。

関東甲信越では、最低賃金の引き上げや地代家賃の上昇を受けて、月額料金の値上げで吸収しているという声が出ています。さらに横浜の飲食では、委託先の賃上げによる物流費上昇や、自社の継続的な賃上げを織り込み、毎期の値上げを前提に中長期の事業計画を策定していると報告されています。

ここまで来ると、もはや値上げは、受動的なものではなく、能動的なものと言えます。

企業は値上げ方法を学習している

しかも企業は、正面から一律に値上げするだけではありません。もう少し洗練されたやり方を覚え始めています。

東海では、高級業態の飲食店が、各種コストの変動に柔軟に対応するため、ダイナミック・プライシングの導入を検討しているという声がありました。

四国でも、宿泊業から「ダイナミック・プライシングが国内客に浸透してきた」との実感が示され、イベント時期を中心に積極的に宿泊単価を引き上げる方針が語られています。

この他にも、もっと目立たない形の値上げも進んでいます。

東北の小売では、小幅な値上げを複数回に分け、低価格帯の商品は価格を据え置く工夫が出ています。

中国では、地元客の減少を避けるため、値上げ頻度を多くても年2回に抑え、幅も数十円程度にとどめる飲食店の声があります。

四国では、最低賃金引き上げに伴う人件費増に対応するため、宴会メニューの小鉢を1品減らすという実質値上げまで出てきました。

ここで重要なのは、「値上げできる企業」と「できない企業」がある、という単純な話ではありません。

少しずつかもしれませんが、企業の中に、値上げを通す技術が蓄積されていることです。

価格を一気に上げるのではありません。

・タイミングを分散する。
・客層ごとに変える。
・高付加価値商品に寄せる。
・量や内容を微調整する。
・値上げが受け入れられやすい場面を選ぶ。

などなど、企業もいろいろと考えています。

言い換えると、企業はもう「値上げするか」を迷っていません。
どの客に、どの形で、どの速度で通すかを設計しています。

変化が続く企業の「取引ルール」

こうした企業の動きを、「物価高の空気が広がったから」で片づけると見誤ります。

さくらレポートで示された企業による【値上げの制度化】を支えているのは、企業心理だけでなく、取引慣行そのものの変化です。

東北では、中小受託取引適正化法の施行を機に、これまで遅れていた労務費の価格転嫁が進む見込みという声が出ています。

関東甲信越でも、同法施行に合わせて、仕入コストや労務費の上昇に伴う必要な価格転嫁を受け入れる方針を改めて周知している企業があります。

東海では、価格転嫁交渉が容易になり、資金回収期間の短期化までみられるという報告もありました。

四国では、以前は半年から1年かかっていた価格交渉が、3か月ほどに短縮しているという声まであります。

かつての日本企業では、コストが上がっても下請けや取引先が抱え込み、表に出ないまま吸収されることが珍しくありませんでした。

でも今は、その「吸収」に限界がきているだけでなく、転嫁を進めやすい制度と慣行の後押しが出てきているのです。

つまり、値上げは単なる“空気”ではなくなりつつあります。
商慣行と制度に支えられた通常運転へ近づいています。

生活コストが戻りにくい理由

インフレ率(物価上昇率)は、原油や原材料価格が落ち着けば、また以前のように小さくなるのでしょうか。

私はそうは見ていません。

いま価格を押し上げているのは、エネルギーや輸入物価だけではないからです。

支店長会議の総括では、大企業を中心に2025年度並みの高水準の賃上げが広がり、中小企業でも人材確保や係留の観点から、2026年度も概ね同程度の賃上げ方針を示す企業が多いとされています。最低賃金の引き上げに伴い、パート賃金だけでなく正社員にも相応の賃上げが必要になっているという報告もありました。

さらに地域別の声を追うと、上がっているのは賃金だけではありません。

地代家賃、委託費、物流費、外注費、アメニティなどの消耗品費、包装資材費、電気料金などなど、です。

関東甲信越では、長年据え置かれてきた地代家賃の上昇が月額料金改定の理由として出てきています。

四国の宿泊ではアメニティや外注費、人件費の増加が続いているとされています。

しかも、消費者が値上げに敏感になっていることは、必ずしも価格が元に戻ることを意味しません。

企業は価格を下げるのではなく、

・低価格帯商品を増やす。
・値上げ幅を分散する。
・内容量や内容を微修正する。
・高付加価値化で通す。

といった方向で適応しています。総括でも、値上げ幅の抑制や低価格商品の品揃え強化が併存していると整理されています。

生活コストが戻りにくいのは、

物価が高いからだけではありません。

企業が「戻さない形で適応する方法」を覚えたからです。

家計と仕事のルールを、どう変えるべきか

この変化の中で、私たちが見直すべきことは、節約術だけではありません。

家計と仕事の判断ルールそのものです。

物価が高いと言うと、多くの人はまず食品や日用品の値札を思い浮かべます。もちろんそれも重要です。

でも、今後本当に重くなりやすいのは、むしろ固定費に近い領域です。

月額サービス
習い事
住居周辺コスト
外食や旅行の基準価格 
などなど

一度上がったあと、目立たないまま定着しやすいところです。

だから、これからの家計管理で危ないのは「そのうち落ち着く」と思って放置することです。

値札を見て節約するだけでは足りません。
どの支出が、今後も定期的に見直されやすい契約なのかを見た方がいいでしょう。

日本は「たまに値上げする国」から、毎年どこかの価格が見直される国に変わりつつあります。

この前提で、家計を組み立てた方が、現実に近いものになります。
仕事では、「成長産業か」より「価格転嫁できる会社か」を見るべきです。

もう一つ大事なのは、働く側の視点です。

今後の賃上げ余力は、「成長産業にいるかどうか」だけでは決まりません。

もっと重要なことは、その会社がコスト上昇分を、売価に載せられるかどうかです。

さくらレポートでは、価格転嫁が進んでいる企業が賃上げ原資を確保している姿がある一方、価格転嫁が十分でない企業では、利益を圧縮して賃上げしたり、賃上げを見送ったり、福利厚生の拡充で人材係留を図ったりする姿も並んでいます。

支店長会議の総括でも、価格転嫁の遅れ等による収益面の制約から、2025年度並みの賃上げは難しいとの声があると整理されています。

つまり、これから問うべきなのは、

「うちの業界は伸びるか」だけではありません。

「うちの会社は、人件費や物流費の上昇を価格に載せられるのか」です。

価格決定力のある会社は、賃上げを続けやすくなります。
一方で、価格決定力のない会社は、採用抑制、利益圧縮、賞与調整、福利厚生での代替に向かいやすくなります。

インフレ時代に守るべきなのは、金額そのものよりも、コストを吸収させられる側に回らないことです。

日銀レポートが本当に示したこと

今回の日銀レポートが本当に示しているのは、「景気は持ち直しているのか、失速しているのか」という話だけではありません。

値上げの制度化、という話です。これは、もっと生活に近い場所で、もっと静かに、でも確実に進んでいる変化です。

危ないのは、「物価が高い」ことではありません。

そのうち戻るはずだという前提で、暮らしも仕事も設計してしまうことです。

日本は今、「物価が高い国」になりつつあるのではありません。

毎年どこかの価格が見直される国に変わり始めています。

日本が変わり始めていることを前提に、あなたは見方を変えていますか?


今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

皆さんは、家計の見方、会社の見方、賃上げの見方を変えていらっしゃるでしょうか。

家計で一番「戻らなくなった」と感じるのは何でしょうか。
食料品でしょうか。外食でしょうか。月額料金でしょうか。

そして職場では、上がったコストを価格に載せられていますか?

こうした問いに対する感想や考えを、ぜひこの記事の下にあるコメント欄で教えてください。

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また次のコラムでお会いしましょう。

村田雅志(むらた・まさし)


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