#9. 出向先は犯罪都市のある方だった
ああ、終わった・・・
「#6. ミネソタかミズーリ」まで話を戻したい。
ギョロメ社長からアメリカ行きを命じられたあの日。
当時、ヤマト株式会社(仮称)の私のような技術系社員のアメリカ赴任は2ヶ所しかありえなかった。
Yamato Sauce, Inc.(仮称)のシカゴ工場かサンフランシスコ工場のどちらかである。
だから、私はギョロメ社長に問うた。
「アメリカのどっちですか?」
次の瞬間、社長の返答に私は呆れる。
「どっちでもないわ。ミネソタだかミズーリだか、その辺や」
いや、マジで、どっちやねん!
ギョロメ社長からのアメリカ行きを言い渡された数日後に改めて出向先を問いただした。
「オレもよう知らんねん。ちょっと待って、本部長に確認するわ」
とその場で社長の同期である生産本部長に電話をしてくれた。
「わかったで」
と受話器を置く社長。
「で、どっちです?」
「ミズーリや」
ああ、終わった・・・。
犯罪都市セントルイスのある方だ・・・。
「知らん」
絶望の淵にいる私に構わず、社長は続ける。
「C、O、R、L、Iちゅう会社を買収したから、そこの立ち上げや。お前ひとりらしいで」
「C、O、R、L、Iって何の会社ですか?」
「知らん。多分、ソースやろ」
「私ひとりで行って何ができるんですかね?ソース製造の経験は皆無なのでソースなんて作れませんよ」
「知らん。何とかなるやろ」
「ヤマトのことを知ってる人はいるんですかね?」
「知らん」
不安でしかなくなった。
調味料の製造ってそんなに簡単じゃないと思うけど。
ちょっと待って。
スルーしてたけど、社長、
「お前ひとりらしいで」
って言ってなかった?
初の海外赴任で、ひとりってどういうこと!?
ヤマトの人が誰もいないってことではないよね・・・、さすがに・・・。
しかも、全米トップクラスの犯罪都市セントルイスのあるミズーリ。
ありがとう二男よ、調べてくれて。
お父さんはピストルで撃たれて、孤独に殉死するかもしれないよ。
パスポートがない
「一度、ミズーリに出張しておこう」
と国際技術部(IED、仮称)の部長より提案があった。
別件でアメリカ出張があるから現地で落ち合おうという内容。
出向準備のバタバタの中、2週間も拘束されるのは厳しいが背に腹は代えられない。
もちろん赴任前に現地に行けるのは願っても無いチャンスなので、ありがたくお受けした。
ただ、お気づきの方もいらっしゃるだろうが、私にはパスポートが無い。
2011年にIEDに入った際に当時の部長に叱られながら取得した有効期限の10年は既に過ぎていたのである。
時が経つのは、本当に早い。
あの頃、生まれたばかりだった二男が、もう中学生だもんな・・・。
かくしてまたしても「業務」として、県庁所在地にパスポートをゲットしに向かった。
