男の娘小説『エリス』ベスト・セレクション①:激情の春祭りライヴ! 高校生ガールズ?バンドの集大成がここにっ!!
私のオリジナル小説『ELLIS-エリス- 世界最高の生き方(ELLIS: The Greatest Way Of Life In The World)』のエピソードのなかで、Noteに載っけても大丈夫そうなものを選りすぐってアップしよう!!のコーナー!!
第一弾となる今回は、主人公『エリス』が在籍する高校生シンフォニック・メタル・バンド『ヴァルキュリア・セレナード(Valkyria Sérénade)』が、かねてよりの目標だった『学園祭ライヴ』に挑むというエピソードです!! はたして彼らの半年に及ぶ努力は、無事、実を結ぶのでしょうか!?
と、その前に!! 軽く本作の”あらすじ”について触れさせていただきます!! まず本作の主人公は、2025年7月7日にスイスのニヨンという町に生まれた『エリス・シンクレア(Ellis Sinclair)』という名前の男の子です。エリスはとても心優しく、この世界のことはもちろん、この世界に生きとし生けるもの、全てが大好きな少年です。
そんな彼ですが、成長過程で”いろいろ”あって、ある日『男の娘』として生きる決意をします。で、その後”なんやかんや”あって、ある日学校の友達とメタル・バンドを結成することになり~、彼は『ベース』と『ヴォーカル』を担当することになって~、それからたくさん練習を頑張って~、そうして今に至ります!!(はしょりすぎぃぃっ!!)
それでは本編に入らせていただきます! 楽しんでいってくださると嬉しいです!!
第二十四章 - 青春時代② 高校生活 Ep.12:激情の春祭りライヴ!(ヴァルキュリア・セレナード編 終)

エリスの高校生活⑪ 激情の春祭りライヴ!
時はビュンッと飛んで2041年4月20日(土)。その日ニヨン・モーザー学校では『春祭り(Fête de Printemps)』という、学校の宣伝を兼ねたオープンな学園祭が開かれていた。従来の春祭りは5月中旬の平日開催で、9年生(11~12歳)~ギムナジウム2年生(17~18歳)までの生徒が『視覚芸術』系の授業や課題で制作したプロジェクトを発表する『内部イベント(閉ざされたイベント)』だったのだが、2035年から一般住民の受け入れも認めた大規模なものへとシフトし、また地球温暖化の影響も鑑みて開催時期は4月に前倒しになったのだ。
開催時間は正午~午後6時までの6時間で、その間は生徒たちが主体となって展示の案内や模擬店の運営などを行って、ゲストたちをもてなしたりするのだ。さながら日本人が想像する『学園祭』である。このようなことが許可された理由はただただ、スイスが日本に負けず劣らず治安の良い国であることと、学校の運営側が地域社会への貢献とPRをさらに重視するようになったからだ。しかしながら、比較的『銃社会』であるスイスでこのような催しを開いたのは、やはり勇気ある決断だったと言えよう。
その日も例年と変わらず賑やかにイベントが進行するなか、校舎外に特設されたステージではたびたび生徒・教師たちによるパフォーマンスが行われては、その盛り上がりを高めていた。ダンスやロックバンドの演奏はもちろん、ある生徒たちはフェンシングの実演を行ったり、ある先生たちはウクレレやオカリナ(ダブルオカリナという音域が広い物)、カホン(ペルー発祥の木製箱型の打楽器)、エレクトリック・アップライト・ベースによるバンド演奏で、観客の耳に心地よいハーモニーを届けたりしていた。
現在、時刻は午後5時10分。少し日が傾いてきたかなという具合で(この時期の日の入り時刻は午後7時頃)、お祭りも終盤に差し掛かっていたときだった。特設ステージに大掛かりな機材が運ばれ始めて、また観客たちが集まってきていた。彼らの目当てはもちろん、我らがエリスたちのバンド『ヴァルキュリア・セレナード』のライヴ演奏だった。なんとヴァルキュリアは今回『大トリ』を務めることとなったのだ。
異様なほど興奮した面持ちでステージ前に集まる生徒たちを見ながら、保護者や地域住民たちは『これはいったいどうしたことか? まぁ最後の見世物なら見ていこうか』くらいの気持ちで、屋台で『おつまみ』を買っては彼らの後ろについた。ちょうど20分になったところで、ヴァルキュリアのメンバーたちがステージに上がって、歓声が上がる。「うおぉー! 待ってたぜヴァルキュリアァー!」「五人とも頑張ってねー!」
当然のことながら、彼らのことを初めてみたゲストたちはこう思う。『な、なんじゃこいつらー!!』理由はやはり彼らの服装なのだが、今回も各々が自由な格好でチグハグな集団を形成しているのかと思いきや、やや違った様相を呈している――何と、五人とも同じような『フード付きのマント』に身を包んでいるのだ。
着丈はおおよそ腰の辺りまでで、色はエリスが黄色(シックスみた――じゃなくて、ちょっとした悪夢に迷い込む少女みたい)、ソフィーが薄い水色(何となくエル――というかワイ――とにかく氷の国のお姫様みたい)、エミリーが茶色(オビ=ワ――主人公の師となるジェダイの騎士みたい)、ソユルが淡い緑色(巨人と戦う兵士たち、特にハン――巨人研究家のメガネ娘みたい)、そしてキアラが血のような赤色(ルビ――グリムを狩る薔薇のように可憐な少女みたい)になっている。全員がフードを被って顔を隠したまま、楽器の音出しやマイクテストを行っていく。
そこにさらに、黒いフード付きローブを纏った6、7人かの集団がゾロゾロと上がってくる。な、何なんだこの厳粛でものものしいステージは……今からここで『黒魔術の儀式』でも行われるのか? そう観客が思ったのもつかの間、とうとう儀式の準備整ったようで、『黄色い子』がライターに火を点け――じゃなくて親指を立てたのを合図として、司会者の男性(前回と同じ)が儀式さの欠片もないような調子でこうアナウンスする。
「オーラァイ! みんな盛り上がってるかーい?」観客がワーッと騒ぎ立てる。いや男児向けバトルホビー系アニメの大会司会者かあんたはっ! どうしてこうなったモーザー学校……。「いよいよ本日最後のパフォーマンス! 昨年鮮烈なデビューを飾った、我が校きっての本格派メタル・バンドによる演奏です! それでは拍手で迎えましょう、『ヴァルキュリア・セレナード』!」生徒たちが再度歓声を送るなか、演者たちはそれぞれのフードを脱いで、真剣な表情で演奏の構えに入ったり、笑顔で観客に手を振ったりした。内一人の黄色い子が挨拶する。
「皆さん、今日は来てくれてありがとうございます。毎年すごく盛り上がるこの春祭りが、楽しくて僕は大好きです。このお祭りは皆さんの努力や団結の結晶だと思います。だから今年度の春祭りで、その締めくくりを任せてもらえて、僕たちヴァルキュリア一同、大変嬉しく思っています」
ど、どういうバンドなのコレ……? 初見の人たちがヴァルキュリアの掴みどころのなさに困惑の表情を浮かべる。何やら小動物みたいな可愛すぎる子が堅苦しい前説を唱えてるが、その間他のメンバーは微動だにしていない――いや、あっちのドラムの子だけはニコニコしてスティックを回してるが……それにしてもあの赤いギターの子は何だ? あの子だけフード被ったままじゃないか!
「今回は『合唱同好会』の皆さんが、クワイアを引き受けてくれることになりました。本日演奏する曲では、全編に渡ってバックコーラスを担当してくれます――」エリスが後ろで横一列に広がる7人の黒装束の一団を手で示す。それはモーザー学校の生徒6人と先生1人とで構成された合唱団だった。内一番右手側にいる中年の朗らかな印象の女先生が、ニコやかに群衆へと手を振る。「それでは演奏を始めたいと思います。皆さん、盛り上がっていきましょう!」向き直ってメロイック・サインを掲げた彼の掛け声に、観客が「イエーイ!(フー!)」と大声で応える。途端に表情を引き締め、演奏モードに入る彼。
ヴァルキュリアにとって直近最大の目標であった春祭り――この半年の集大成とも言える一大舞台――が、ついに始まるのだ。エミリーがシンバルで4カウントを打つ――。
[一曲目:The Grimson Reaper]
ドラムのフィルインから始まった最初の曲は、あの後でキアラが作曲した『The Grimson Reaper(深紅の死神)』という楽曲だった。キーは『Fメジャー』および『Dマイナー』で、BPM150の疾走曲である。出だしから荘厳なラテン語のクワイアで幕を開ける。
Mors rubra venit adque(紅き死が来る、そして)
jūdicium sanguinis dabitur(血の審判が下される)
キアラのギターソロが加わり、熱いイントロが走り出す。伴ってヘドバンし始めるバッキング・ギターのソユルに釣られて、生徒たちの身体も自然とリズムを刻み出す――最前列にいる熱狂的な数人はソユル同様に頭を振り回している。
Animās flammīs pūrgābit falx(その大鎌は魂を炎で清める)
Post mortem lux peccāta redimit(死の後に光が罪を贖う)
Domine, tenebrās mendāciaque nunc aufer(主よ今こそ、闇と嘘を消し去ってください)
Ah~Ah~~Ah~Ah~Ah~~Ah~~Ah~~Ah~~
その勢いのまま、エリスが歌う第一ヴァースへと突入する。
They say death wears black(死は黒を纏うと言うが)
But she came in crimson(彼女は深紅の衣で現れた)
Carrying a bloody scythe(血に濡れた大鎌を携えて)
Thus I call her the "Grimson Reaper"(だから私は"グリムゾン・リーパー"と呼ぶ)
随所で加わるクワイアの歌声。この歌はストーリー仕立てになっており、このヴァースは『ある語り手』の視点から発された言葉となっている。
A scarlet wind she rides(彼女が駆けるは緋色の風)
A shadow tells of fire(影が告げるは炎なり)
The darkness burning red(赤く燃える闇がある)
No one can extinguish her flame(誰も彼女の炎を消せはしない)
そして視点は変わり、次のプリコーラスからは『深紅の死神』自身の言葉となる。ここまでのパフォーマンスを見ていたゲストの大人たちは、『これが高校生バンドの音楽か』と度肝抜かれている。
Behold! The earth is a field for cultivating fools(見よ!地球は愚者を栽培せし畑ではないか)
Only weeds can grow in the rotten soil tilled by clowns(道化の耕す腐った土壌では雑草しか育たぬわ)
Human history is a trail of mistakes(人類史とは間違いの軌跡)
You see that crowd?(あの群衆が見えるか?)
Damn... they are less than dust(全く、奴らは塵にも劣るな)
Shall I reap them?(刈ってやろうか?)
始まるコーラス。『語り手』が『死神』に魂狩りを命じる場面だ。
Swing your scythe! The Grimson Reaper!(大鎌を振るえ!深紅の死神よ!)
Slash the souls that had no rapture(狂喜しなかった魂を切り裂け)
Cowards are devoured by raptors(臆病者たちは猛禽類に貪られる)
Now, who did not fight?(さて、誰が戦わなかった?)
Scream it loud with raging thunder!(大声で叫べ!激昂する雷鳴とともに!)
Shred their sins as one desires(望むがままに彼らの罪を切り刻め)
She will not allow surrender(彼女は降伏を許さない)
"Hark! Thou art unworthy!"(「聞け!汝は値せぬ!」)
最後の『死神による死の宣告』をもって、第一章が終わる。この辛辣な歌詞にはキアラの鬱屈した感情が全て込められていた。彼女は以前エリスから励ましてもらった通り、『誰にも遠慮しない、自分らしさを全開にした、自分だけの歌』を創ったのである。初めは自分で歌うつもりで書いていた彼女だったが、やはり歌唱が苦手だったこともあり途中で方針を変え、あえてこれをエリスに歌わせるために、三人称で『死神』を語るための『語り手』を導入することにしたのだ。
こうすることで心優しいエリスに対し、彼が普段絶対に口にしないようなセリフを高らかに叫ばせることを強要でき、また『死神である自分』が彼の『召喚獣』だか『使い魔』だかみたく、容赦なく命令されているという、何とも興奮する――あいや、気持ちが奮い立つようなシチュエーションを演出できるのである。あんがとね、お嬢……アタイのダークな歌を嫌な顔一つせず歌ってくれて……え、お客への配慮かい? いいさ、どうせ誰も歌詞なんて聴いちゃいない――。
第二ヴァース。今度は始めから『死神』のセリフとなる。
Pots calling kettles black(己を棚上げせし者ばかり)
Don't forget to look in the mirror(鏡を見るのを怠るなかれ)
Better to die than live in hell(生き地獄なら死を選べ)
Ye shall not be the 'Lotus-Eaters'(汝らよ、'快楽主義者'となるな)
Greed brings you ruin, deep(強欲は深い破滅をもたらす)
Your creeds are easily shaken(汝らの信条は簡単に揺らぐ)
Those who crave love too much(愛を切望してばかりの奴らは)
will dig their own graves(己の墓を掘ることになる)
最初の一段落は己への戒めとして、次の段落は恋敵ソフィーへの当てつけとして書いた部分だった。この歌はタイトルが『Crimson(深紅の)』と『Grim Reaper(死神)』を合体させた造語になっていることからも分かる通り、歌詞のなかにはさまざまな言葉遊びが隠されている。特に『C』と『G』以外を共通する単語をキーワードとして繋いでいく『ソフィーへの当てつけパート』は、よく観察すると面白い。
一見して無理やり文章に落とし込んだだけの、単なる曖昧な文に見えるが、これがソフィーに宛てられたものだと考えると、彼女の真意が伝わってきて、驚くほどすんなり得心できるのだ。『愛を切望してばかりの奴ら』とは、きっと『ネコ化して無遠慮に男の娘の膝に擦り寄って甘える』ような人たちのことだろう。
続いて第二プリコーラス。ここから『死神』のアドバイスは、よりヒロイックで建設的なものとなっていく。仰々しくも格好いい言葉を並べ立てたこうした展開は、キアラの愛する『クサいメタル』の血を彷彿とさせる。ちなみに彼女がBPMを150にした理由も、タロットカードの13番目の大アルカナ『Death(死神)』に、0番の『The Fool(愚者)』をくっつけて130とし、そこに20番目の『Judgement(審判)』を足した数字が150だったからだ。何とも『鼻につく』だろう?
Unfold your heroic tales no one else can tell(誰にも語れぬ英雄譚を展開せよ)
Ye are the protagonists, engrave it in your hearts(自分たちが主人公であると心に刻め)
'Chiara'cter is the greatest treasure(高潔さこそが最大の宝)
You hear that herald of your legendary victories?(あの汝らの勝利を告げる先触れが聞こえるかい?)
『'Chiara'cter』の部分は、彼女が開き直ったことを示す最たる部分である。昔から彼女は、自分の名前『キアラ』が英単語『キャラクター』に似ていると揶揄われることが多かった。今回それを逆手にとって、自分の『武器』に昇華させたのである。その通り、『'キアラ'クター』こそが最大の宝なのである――。
そのまま楽曲は流れるように、転調すらしないまま間奏を迎える。彼女は一音一音、感情を込めながら丁寧にギターソロを弾いていく。お嬢、みんな(いちおうソフィーも)……本当にあんがとね……いろいろあったけど、今日こうして当初の目標を達成できそうだよ……これからヴァルキュリアがどうなるのかは分かんないけど……今ここでアンタたちと演奏できてることは、アタイにとって紛れもない勝利だし、この思い出は最高の宝物になるよ――。
気づけば、もう二度目のコーラスも終わり、アウトロになっていた。彼女は合唱隊がユニゾンしてくるのを心地よく感じながら、最後のソロを奏でていく。そして弦楽器組がタッピングするクライマックスを経て、エリスがピアノ伴奏のなかゆったりと歌い上げる最終コーラスを迎える。それは『死神』から『愚者』へ向けた最後の助言と、救済の可能性を歌った部分だった。
Sing it proud with blazing fire(誇り高く歌え、燃え盛る炎とともに)
Show your bravery and some wisdom(汝の勇気といくらかの知恵を示すのだ)
I will show you mercy, of course(さすれば情けを与えよう、言うまでもなく)
Lo... Thy art is holy...(見よ……汝の芸術は神聖なり……)
あぁ……終わっちまったよ、アタイの曲……暗い感情も含ませた歌詞とメロディーだし、アレンジも単調だから、たぶん不評かもしんないね……まぁいいや、好きなことを好きなように表現すんのが芸術だし、笑われようが貶されようが、どっちでも――。
キアラが紅いフードを脱いで顔を上げると、目の前には温かい拍手喝采が満ちていた。戸惑いながら仲間たちを見ると、彼らからも穏やかな笑顔が返ってくる。思わず目頭が熱くなる彼女は、何とか涙を堪えながらニカッと歯を見せて笑い、観客の声援に軽く会釈して応えた。ったく……嬉しすぎっしょ……アタイみたいな日陰者に、まさかこんな日が来るなんて……帰ったら泣いちまうねこりゃ――。
「皆さん、聴いてくれてありがとうございます。それに温かい声援も、みんなみんな僕たちの勇気と力になっています」エリスがMCで観客の声に直接返事しつつ、次の曲への間を繋いでいく。「今聴いていただいたのは、こちらのキアラが作曲した『The Grimson Reaper』という楽曲になります。そして次に演奏するのは、キアラと僕――エリス――が合作したバラード調の歌『The Greatest Way Of Life In The World(世界最高の生き方)』です。では、聴いてください――」
[二曲目:The Greatest Way Of Life In The World]
ソフィーが幻想的なピアノ伴奏を奏で始める。その音は彼女の指一本一本から放たれる魔法かのごとく、会場を深い深い安らぎの底へといざなっていく。全員の熱が静まり、リラックスモードが漂うなか、エリスがAメジャーの主旋律をパワフルに歌い始め、ほどよい緊張感を与えていく。
Is there a right answer in life?(命に正解ってある?)
Sadly somewhere, someone weeps in silence today(悲しいことに今日も、どこかで誰かが泣いているんだ)
Some hearts are always in midnight,(ある心はいつも真夜中にいて)
drenched in heavy rain and blown by a gale(大雨に濡れて、強風に吹かれてる)
すぐに訪れるプリコーラス。かと思えば、唐突にBbマイナーへの転調が行われ、より感傷的な展開を強めていく。
We all admire heroes and worship them all(みんなヒーローに憧れていて、神のように崇拝するけど)
But longing alone won't make us 'one', you know, right?(憧れてるだけじゃ「そう」はなれないんだってこと、知ってるよね?)
Each of us must defeat the darkness inside—(一人一人が内なる悪に打ち勝たないと)
Or this chain of suffering will never break(この苦しみの連鎖は断ち切れない)
一旦の小休止で溜を作った後、サビで爆発するのかと思いきや、続くサビはGbメジャーへと転調し、弱弱しく震えた声で歌い上げるエリス。
"The greatest way of life in the world"(「世界最高の生き方」を)
I want to find it out(僕は見つけ出したい)
Even if my faith and courage are not strong, they are certainly luminous here
(たとえ僕の信念と勇気が強くなくとも、確かにここで光り輝いているから)
息継ぎの暇さえなくサビの後半部分が始まり、声のテンションが徐々に高まっていく。
"A world where no one hurts and no one's hurt"(「誰も傷つけず、傷つけられない世界」は)
It must be somewhere nearby(遠くないどこかにあるはずなんだ)
クライマックスでオクターブ上を攻める展開。エリスは力の限りを振り絞って、音と感情を吐き出していく。
Face to face, let's talk with our hearts(直接会って心で話そう)
And then we can love each other one day(そしたらきっといつか、僕らは互いを愛せるんだ)
三オクターブに跨る壮麗なサビが終幕すると、他の楽器たちが参戦してきて、一気に盛り上がりとテンポを高めていく。始まる第二幕は、またしてもAメジャーから。この歌は全ての展開で転調を行い、聴き手に常に緊張感と驚きを与えることで、問題提起的な歌詞の説得力と、切迫した訴えかけを演出しているのだ。
Is there any good in waging war?(戦争して何か良いことがある?)
Tragically, someone has been murderd today(悲劇的なことに、今日も誰かが殺されてるんだ)
Some souls are always on the battlefield,(ある魂はいつも戦場にいて)
Shot by guns, cut by blades, blown up by bombs(銃に撃たれて、刃に切られ、爆弾で吹き飛ばされている)
写実的で生々しい場面を、比喩でありつつも直接描写することにしたのは、キアラの意向が強く反映されてのものだ。残念ながら、2041年の世にあっても、世界では戦争が絶えず繰り返されているし、第三次世界大戦が時折頭を過るような緊迫感に包まれたりしている。もちろん、この曲で歌っているのは本物の戦争というよりもむしろ、我々一人一人のなかで繰り広げられる戦争や、社会の歪みのなかで犠牲になる弱い立場の者たちのことである。
We all adore the brilliant and call them divine(僕らはみんな天才になりたがって、神のように褒め称えるけど)
But praising luck alone just isn't right, you know, right?(運だけが肯定されるのは間違っているよね?)
Each of us must learn the worth of effort—(一人一人が努力の大切さに気付かないと)
Or this curse of misfortune will never fade(この不運の呪いは解けはしない)
プリコーラスからの間奏に入ったところで、思わずベースを弾く手を止めて、涙を拭ってしまうエリス。この曲のテーマは『平和』と『全ての人が幸福な世界』であるが、同時にエリスにとっては痛烈なブーメランでもあった。今の彼は、自分が恵まれた側の人間であることを重々承知している。だからこそ、この歌はある種の自己否定でもあり、綺麗事を並べた偽善的な響きを有していることも分かっていて、彼はそれが辛かったのだ。
僕は……みんなに幸せでいてほしい……みんな幸せだって、信じてたはずなのに……いつからか……信じられなくなっちゃってた――。この世界で生きるということは、いつか必ず純粋さを失うということだ。毎日ニュース番組を見れば、悲惨な出来事が大々的に報じられている。スマホやPCで検索しようと、ブラウザのトップページやポータルサイトを開けば、胸が苦しくなるような情報が嫌でも目に飛び込んでくる。優しい人ほど他者の身になって物事を考えられるから、それらの情報に悪影響を受けやすいのだ。
一度目を拭ってすぐに演奏を再開するも、またすぐに新しい涙が溢れてきて、視界がボヤけて何も見えなくなる。彼は強く目を瞑って、涙を頬へと流れ落としながら、心眼を使ってベース演奏を継続する。視界を塞いだことが反って心を落ち着かせてくれ、彼は無心状態に近づきながら次に目を開けるべきタイミングを見計らった。
そしてその時は来た。間奏明け、ラスサビ前のブリッジへ――。
Our compasses are so fragile(僕らのコンパスは壊れやすくて)
We quickly lose track of our direction(すぐに行き先を見失ってしまう)
Our purposes are so selfish(僕らの目的は利己的すぎて)
We easily clash and get hurt(すぐに衝突して傷を負う)
We must forgive each other and escape this endless hatred!(僕らは互いを許して、この終わらない憎しみから抜け出さなくちゃいけない!)
大団円。ラスサビに全てを懸ける――。
"The greatest way of life in the world"(「世界最高の生き方」を)
I want to find it out(僕は見つけ出したい)
Even if my faith and courage are not strong, they are certainly luminous here
(たとえ僕の信念と勇気が強くなくとも、確かにここで光り輝いているから)
"A world where no one hurts and no one's hurt"(「誰も傷つけず、傷つけられない世界」は)
It must be somewhere nearby(遠くないどこかにあるはずなんだ)
Face to face, let's talk with our hearts(直接会って心で話そう)
And then we can love each other!(そしたら僕らは互いを愛せるんだ!)
最後は声が掠れて上手く出なかったが、彼が込めた思いは会場全体に響き渡っていた。アウトロを弾きながら右肩を上げて、マントの袖で涙を拭う彼は、決然と目を開いてこう決意する。僕は……弱い! いつもいつもいつもいつも泣いてばかりだ! 泣いてたって何も変えられない、解決できない、誰も助けられないっ! この世界で生きていくために、もっともっと心を強くするんだ! 僕は、変わる――。
アウトロが終了したところで、胸元で結ばれた紐を引っ張って、マントを脱ぎ棄てる彼。他の演者たちもそれに倣う。彼らの衣装の全容が明らかとなると同時に、間髪入れず最後の三曲目に突入したことで、会場はこれまでで最高の盛り上がりを見せる――。
[三曲目:Every Life! Let It Shine!]
満を持して始まったのは、エリスの処女作『Every Life! Let It Shine!』だった。なぜかみんなそれを待ち望んでいたかのように、合いの手を入れて盛り上がっている。と言うのも、ヴァルキュリアは今回のライヴに先駆けて、この曲のみを限定公開でネットにアップして、モーザー学校の生徒にシェアしていたのだ。この歌だけは全員で合唱できたらいいな、とエリスが考えて決めたことだった。生徒たちの声やクワイアも合わさった特別ヴァージョン! これぞライヴの醍醐味だ!
「みんな、今日は来てくれて本当にありがとう! 僕、今すっごく幸せです!」イントロの合間にメッセージを伝えるエリス。そんな彼が着ている服は、いつものお気に入りのセーラー服コーデだった。他のメンバーも特別な衣装ではなく、夏に先駆けて各々が自由で、開放的で、着心地が良くて、自分らしいと思える私服を着ているだけだ。「これが最後の曲になります! よかったら一緒に歌ってください!」
その日、モーザー学校の周りには、優しくも力強い大合唱が響いた。このとてつもなく広い世界にとって、それは小さな小さな出来事に過ぎないのかもしれない。それでも間違いなく、ここにたくさんの幸せの灯が灯ったのだ。それって素敵で、意味のある、素晴らしいことだよね?
あぁ、嬉しい、嬉しい……すごく幸せ、最高……この時がずっと続けばいいのにな――。気づけばもう終盤の間奏。日が徐々に傾き始め、影が長くなってきたとき、エリスは呆然と目の前の光を見つめながら、この栄光の時に身を任せ、湧き上がる幸福感に浸っていた。何だかすごく疲れていて、一瞬クラッと頭が揺れ、意識が飛びそうになる。思えばこの数ヶ月、バンド活動に労力を裂きすぎていて、心身ともに疲れ切っていた彼。あれっ……今何してるんだっけ……何だかすごく眠い……眠いよ、フロスティ……。
『エリスのバカチンッ! 今が最高の時なんだぞ! 起きろーっ!』彼が脱水症状と疲労で倒れようとした刹那、耳元で響いた誰かの声が彼を目覚めさせる。えっ、フロスティ? 本当にフロスティなの!? 『そうそう! 君の相棒、エレキベースのフロスティだよ! ったく、せっかく口数少なくして静かに見守っていたのに、エリスってば危なっかしくて、僕ちゃん見てらんなかったよ!』嬉しい! 君と本当に話せるなんて! あっ、でも……きっとこれは僕の幻聴だよね……ってことはすごく危ない状態なのかな……。
『幻聴でも妄想でもいいじゃん! とにかく起きて! 起きて歌ってよエリス! もし途中で倒れて舞台から落ちて、僕ちゃんのこと怪我でもさせたら、承知しないよ?』そ、そうだね……うんっ、そうだ! 僕はまだ歌える! まだ夜は訪れない――。間奏が明け、ラスト・クライマックスへ――。
[Chorus2]
The sun rose into the sky!(太陽が天空に昇った!)
Are you ready, best friends? Let's get to the horizon!(みんな準備はいい?地平線まで飛んでいこう!)
We can breakthrough the dark(僕らは闇を乗り越えられる)
As long as our hearts beat, we never give in!(鼓動がやまぬ限り決して屈しない!)
Hope lies before your eyes(希望は目の前にある)
Even if you forget, someday you'll remember(たとえ忘れても、いつか思い出せる)
You know how strong you are(君は自分がいかに強いか知っている)
Step by step, follow the path you believe in!(一歩一歩、信じた道を進め!)
遠くまで飛んでいけ、僕の声! 僕の気持ち!
[Chorus1]
Every life! Let it shine!(全ての命 輝かせ!)
For the earth, the place where magic happens(魔法の生まれる場所、地球のために)
Your soul is the only one(君の魂は世界に一つだけ)
It's a precious, meaningful, and miraculous thing!(大切で意味のある奇跡的なもの!)
Even lost, let imagination sing!(迷ったなら、想像力を歌わせて!)
To the dreams, then our wishes will soon come true(夢に向かって、そしたら僕らの願いはすぐに叶うさ)
Here we are, beyond all stars and time(全ての星と時を越え、僕らはここにいる)
What a glorious, magnificent, and marvelous presence!(何て壮麗で壮大な驚くべき存在!)
What a glorious, magnificent, and marvelous...GREAT PRESENCE!!(何て壮麗で壮大な驚くべき……偉大な存在!)
全ての曲が終了し、辺りは大歓声に包まれた。演者は顔中を汗まみれにして、荒く呼吸を繰り返しながら、観客に手を振ったりして舞台を降りていく。ヴァルキュリアの節目のライヴは、こうして大成功のうちに幕を下ろした。
エリスの高校生活⑫ ヴァルキュリアは永遠だ!
それから祭りの閉会式があって、予定通り午後6時に全てのプログラムを終了した41年度春祭り。生徒や教員たちは興奮の余韻に浸りながら、業者の手も借りつつステージの解体や後片付けを行って、大体6時半には解散した。その後ヴァルキュリアのメンバーにはキアラから招集が掛かり、エリスたちは帰宅前に少しの間だけ、夕陽に照らされた校舎周りの木の下(先ほどステージがあった場所のすぐ近く)に集まることになった。
全員揃ってからも、しばらく誰一人として口を開かなかった。生垣に座ってボーッとしたり、木によしかかってスマホを弄ったり。みんな疲労困憊で、元気に話す気力もなさそうだった。思わずエリスが「あ、あのっ!」と口を開いたのと同時に、キアラが「あのさ!」と本題を切り出そうとする。
「えっ? あっ、お嬢、何だい?」とキアラ。
「わっ、ごめん邪魔しちゃって、キアラ何?」とエリス。
二人は数秒照れたり居心地悪そうな仕草をした後、やがて招集した本人であるキアラが、先行して話し始める。
「今日はお疲れさん。アタイ、超満足だよ。ここまで来れたのはアンタたちがいてくれたおかげだ。ホント、ありがとね」いつになくしおらしい彼女の態度に、エリスたちは掛けるべき言葉が見つからず、ただ頷いて応えるしかなかった。えっ? 何この雰囲気? もしかしてバンド解散!? エミリーがそう思ったとき、スマホを腰のポーチに仕舞ったソフィーが単刀直入に尋ねる。
「ワタクシも楽しかったですわ。それで、要件ってそれだけですの? ワタクシお父様を車で待たせていますから、そろそろ行かないといけませんわ」
「あぁすまないね。どうしても今、これだけは直接伝えておきたかったんだわ。伝えられてよかったよ……」とキアラ。
「何ですの? 気持ち悪いですわ……もしか……バンド解散ですの?」ソフィーもそんな空気を感じとって、ズケズケと聞いていく。
キアラ「解散!? いやいや、アタイとしては解散する気はないよ。そうする理由もないしね。このバンドはアタイにとって宝モンみたいなものだし、まぁ……アンタたちがこのまま続けてもいいって、思ってくれるならだけど……」
エリス「僕はもちろんいいよ。バンドを組んでから、素敵な経験や大切な思い出が増えたし、僕自身も成長できたと思うから」
ソユル「私もです。このバンドは私にとっても、かけがえのない居場所です」
エミリー「アタシもいいよー! ドラム楽しーし!」
「アンタたち……」キアラが嬉しそうに仲間たちを見ていって、最後に未回答のソフィーへと眼差しを寄越す。
「わ、ワタクシは……」ソフィーが照れ隠しに髪の毛を手櫛しながら、目を逸らして答える。「まぁいいですわよ? ワタクシがいないとこのバンド、曲の美しさが数段落ちますもの。そんなところで歌うなんて、エリスが可哀そうですわ」今、彼女は真の意味で『ツンデレ』へと昇格した。もう、そうそう『ヤン』だり『ネコ化』したりはしないだろう。彼女の変化をキアラも分かっていた――。
「あんがとね、ソフィー!」ギューッとツンデレ娘を抱きしめるキアラ。いろいろわだかまりがあった二人だが、これが本当の和解と言ったところだ。
「うえひゃっ! ななな何ですの、いきなり?」うろたえつつも、無理に突き飛ばしたりはしないソフィー。心なしか、ネコ髭とネコ耳がピョコンと生えたようにも見えるが、何だか嬉しそうだ。
「それで、これからが本題なんだけどさ」ハグを終えたキアラが続ける。「ここ半年はみんなにたくさん頑張ってもらって、長い時間を割いてもらったからさ。これからは活動の頻度を落とそうと思う。ま、たまーに集まって新曲創るくらいの緩い感じで。どうだい?」全員が納得したように頷き返す。「よっしゃ! じゃあ解散ってことでっ! あっと、最後にもう一つ――」彼女がメロイック・サインを天に掲げ、こう叫ぶ。
「ヴァルキュリアは永遠だ!」
「おー!(ですわー!)」
こうしてエリスたちの春祭りは本当に終わりを迎えた。一層絆を強めたバンド『ヴァルキュリア・セレナード』は、これからも五人にとって、安心して帰ることができる居場所の一つであり続ける。永遠に……。
ヴァルキュリア・セレナード編 完
お終いに
いかがだったでしょうか? ヴァルキュリア編はちょうど、私が去年くらいに書いていた辺りで、途中で埋め込んだ楽曲もそのころ作ったものです(AIではなく、作詞作曲編曲全て自分でやりました。1曲目のバックコーラスを歌っているのも私です(笑))。
ただ、英語詞はChatGPTに手伝ってもらいました。その割に文章として正確じゃなかったり間違っている部分がたくさんあるのは、私が『いやっ! ここはこうしないとメロディーに入らないから!! もう妥協するしかないよねっ!? ねっ!!?』とチャッピーを黙らせた結果です(笑)
それ以外にも、そもそも楽曲として納得いっていない部分があったり、動画で使っている画像が古いものだったりと、気になる点を挙げれば多々ありますが、かつての自分が頑張って創ったものなので、そこは甘んじて受け入れようと思います(←作り直す気力がない時点で文句言う資格なし!!)。
と、とにかく! 『エリス』はこんな感じの作品になりますので、もしこれを機に本作に興味を持ってくださった方がいらっしゃれば、ぜひ他のエピソードも読みにきてください!!(無料で読めます!ただ、ものすごく長いです笑) たぶん『ELLIS』とか『世界最高の生き方』って検索すれば辿り着けると思います!!(18禁小説なので、直接のリンクは控えさせていただきます)
また、この『エリス・ベスト・セレクション』も、順次続けていこうと思いますので、もし『選りすぐったやつなら読んでやってもいいな』と思ってくださる方がいましたら、フォローしてくれると嬉しいです!! それでは失礼します。最後まで読んでくれてありがとうございました!!
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