男の娘小説『エリス』ベスト・セレクション⑥:人生最大の告白を その恋の行く先は希望か、それとも……
私のオリジナル小説『ELLIS-エリス- 世界最高の生き方』のエピソードのなかで、Noteに載っけても大丈夫そうなものを選りすぐってアップしよう!!のコーナーその⑥!!
今回のエピソードは、エリスにとって重要なターニング・ポイントとなる出来事の、始まりのお話です。御宅と男の娘が恋するとき、崩壊の鐘が鳴り響く……。
※Noteに掲載するにあたって、一部の表現を改変しています。
第三十七章 - 青春時代② 高校生活 Ep.24:人生最大の告白を

エリスの高校生活⑲ 人生最大の告白を
つかの間の筋トレ・イベントを終えたエリスとダニエルは、それからベッドへと移動して『おやつタイム』を迎えることとなり、そこで『部屋に来るときに持ってきたマフィンと牛乳』を頂きながら、安らぎのひと時を過ごしていた。ちなみにその『おやつ』の合計エネルギーは500kcal! PFCバランス(たんぱく質:脂質:炭水化物)はおおよそ10%:38%:52%! 典型的な低たんぱく・高脂質食品! 以前ダニエルが太っていたのがよく分かる……とは言えそのマフィンは、ホームメイドとは思えぬほど絶品だった。
「あっ、ダニエル! この前話してくれた『あれ』見せてくれない? ほらっ、あの『メイちゃんの絵』!」おやつを食べ終えたところで、ふと思いついたようにそう言うエリス。部屋の壁に掛けられた額縁(いろんな絵が格納されている)を見ながら食事していた彼は、そこで先週ダニエルが徹夜で描いたと話していた絵のことを思い出したのだ。「この、掛かってる額縁のどれかにある?」
「うん、春名メイちゃんは、この子だよ――」ダニエルが示した絵には、赤いドレス・タイプの制服を着て、黒髪の後ろに大きなピンク色のリボンを着けた、聖母のように可憐なキャラクターが描かれている。
「あっ、この子がそうなんだぁ~! うわぁ~、すっごく可愛いね!」エリスはそのキャラクターを見つめながら、『何だかメイちゃん、ミズホと似てるなぁ』と思っていた。※『乙女はお姉さまに恋してる』と『メイのないしょ make miracle』は、どちらも男の子が女子校に通うというプロットで、また制服が『シスター風』ということもあり、かなり似ている。
「メイちゃんは『魔女』の血筋を引く男の子で、訳あって母親に『女の子』として育てられてたから、物語序盤まではずっと、自分を女の子だと思ってたんだ」そう幸せそうに語るダニエル。彼も知っていたのだ……オタク趣味を気兼ねなく共有できる友達とは、非常に『有難い』ものであると――。
「そうなんだぁ……かなり特殊な境遇なんだね?」しかし感受性の高いエリス。今の話を聞いただけで、そのキャラクターへの共感と同情を強めてしまう。その絵の微笑みを見つめながら、『きっと裏ではたくさんの苦労があったんだろうな……』と想像してしまうのだ。「それで……メイちゃんは自分が男の子だって気づいて、それからどうなったの……?」
「えっ? あぁ、大丈夫! 特にどうにもならなかったよ(笑)」気軽に笑うダニエル。「彼自身が変わったわけではないからね……周りの人たちも、すぐに受け入れてたね」
「よかったぁ……」それを聞いてホッと胸を撫で下ろすエリス。その絵の彼が葛藤を抱えていたり、疎外感を感じていたりはしてないと知れて、安心したのだ。だから自然と興味は、その横の絵へと移っていくのだ。「それじゃ、この人は? この人もとっても綺麗……だけど……」その絵に描かれた栗色の髪をした人物は、札束のなかで鎖に繋がれたりしていて、とにかく大変な状況に置かれているようだった。
「あっその人はね、『お金がないっ』って作品の主人公、『綾瀬雪弥』さん」ダニエルが説明を続ける。「綾瀬さんは早くして両親を亡くして、しばらく一人暮らししてたんだけど、あるとき従兄が作った借金のカタとして人身売買の闇組織に売られちゃって……それから無理やり競りに出されて、全く知らない人に落札されそうになってたんだけど、すんでのところで狩納さんっていう彼のことを知る人物に落札されて、以後はその狩納さんと二人で暮らすようになるんだ」
あらすじの説明こそ詳しいものだったが、言葉足らずな感はいなめない――と言うのも、その絵は構図から何から、彼が自分で考えて描いた『二次創作画像』だったので、作中ではそんなシーンは全くない(いや、全くないとは言い切れないにしても、少なくともそれと同じシーンはない)のだと伝えるべきだったのだ――おかげで、そんなこと知る由もない隣のエリスは、その作品が『ハードボイルドなスリラー』なんじゃないかと誤解するはめになった。
「そっかぁ……メイちゃんに負けず劣らず、特異な生い立ちなんだね?」同情を隠し切れないエリス。そのキャラクターはブロンドで髪の長さも同じくらいだったので、少し自分を見ているような気がしてくる彼だった。「えっと、『彼』ってことは……綾瀬さんも男性? 男の娘なの?」
「うーん、まぁそうだね。そうカテゴライズするのが、一番しっくり来るかも」やや迷いながらも、そう答えるダニエル。
「狩納さんと二人で、幸せに暮らしてるの?」とエリス。
「うん! 始めこそお金に縛られた、一方的な関係だったんだけど、今は相思相愛になって借金からも解放されたから、綾瀬さんも幸せだと思うよ」とダニエル。
「よかったぁ」そこまで聞いてようやく、エリスはそれが恋愛作品だと理解した。てっきり綾瀬さんが地下の牢獄にでも閉じ込められて、たくさん乱暴されて、あげく大脱走を計るようなお話かと思ったのである(当たらずとも遠からずなので、実際の作品は彼には読ませられない)。安心した彼は、しばしニコニコとダニエルを見つめてから、やがて確信を突くような、こんなことを言うのだった。「ダニエルってホントに、『男の娘が好き』なんだね!」
「はっ?」ダニエルが赤面する。「べ、別にっ、特にっ、そういうわけじゃ――」必死に弁解し始める彼。「ぼ、僕はただ、可愛いキャラが好きなだけで――」確かに、彼の部屋の壁やスケッチブックのなかには他にもたくさんの絵があり、その半分くらいは女性キャラだった(『イカ娘』とか『シャナ』とか、『FAIRY TAIL』の『ウェンディ』とか、『IS』の『シャル』とか、『GA』の『ミント&ヴァニラ』とか、『そらおと』の『イカロス&ニンフ&アストレア』とか、『ツバサ・クロニクル』の『サクラ』とか、『プリキュア5』の『キュアドリーム』とか、『フレッシュプリキュア』の『キュアパイン』とか、『ドキプリ』の『キュアソード&レジーナ』とか、『プリティーリズム』の『リンネ』とか、『ぽぽたん』の『みい』とか、『らき☆すた』の『ゆたか』とか、『リトバス』の『クド』とか、『神のみ』の『エルシィ&ハクア』とか、『中二恋』の『六花』とか、『ネプテューヌ』の『ブラン』とか、『ハヤテのごとく』の『ヒナギク』とか、『サクラ大戦』の『アイリス』とか……etc.)。
しかし『半分が男性』であることもまた事実で、それは確実にバイアスが働いている証拠だった(『イナイレ』の『アフロディ』とか、『オトスキ』の『ナオ&ユキ&トモ&リオ』とか、『コードギアス』の『ロロ』とか、『ハイスクールD×D』の『ギャスパー』とか、『ハッカドール』の『3号』とか、『はぴねす!』の『準』とか、『プリパラ』の『レオナ』とか、『メタルファイト ベイブレード』の『遊』とか、『ぴちぴちピッチ』の『ヒッポ(人間版)』とか、『俺ガイル』の『彩加』とか、『好きしょ』の『らん』とか、『あまはら君+』の『あまはら君』とか、『少年メイドクーロ君』の『クーロ』とか、『ZEXAL』の『Ⅲ』とか、『ARC-V』の『素良』とか、『セキレイ』の『椎菜』とか、『桜蘭高校ホスト部』の『光邦先輩』とか、『ニャル子さん』の『ハス太』とか、『しゅごキャラ』の『唯世王子』とか、『スレイヤーズ』の『フィブリゾ』とか、『HEROMAN』の『ジョーイ』とか、『魔界王子』の『シトリー』とか、『ヴァンガード』の『アイチ』とか……etc.)。
※もちろん、ダニエルがそれらの作品に漏れなく精通しているというわけではない。彼は『deviantART』というアート・コミュニティ・ウェブサイトで二次創作画像を投稿するのが趣味で、また他のアーティストが作った作品も精力的に閲覧しているからこそ、さまざまなキャラクターを知るきっかけが多いのだ。そのサイトには『男の娘・ショタ』関連のコミュニティもたくさんあり、彼がその多くに参加していることを鑑みれば、やはり先のセリフが本心でないことは明らかだった。はたして彼は嘘をつき通せるのだろうか?
「そ、それで、好きなデザインだと思ったキャラクターが、たまたま男の娘だったりしただけでっ! と、特に他意はなくてっ!」性懲りもなく取り繕うダニエル。このときの彼の気持ちを例えるなら、まるで江戸時代に『絵踏み』を強いられているクリスチャンだった。身を守るために、己にも神にも嘘をついている状態である。
「そっか……何も知らないのに、勝手なこと言ってごめんね?」そう返すエリスは、心なしか残念そうだ。それを受けてダニエルは考えた。『この期に及んで、そんな見え透いた嘘をつくことに意味はあるのだろうか?』と……『自分は大好きなものを、公言できないほど恥じているのだろうか?』と……そしてそれらの自問に対する答えは、間違いなく『否』だった――ついに腹を括った彼は、ありったけの勇気を振り絞って、こう告白するのだった。
「僕の方こそごめん。今言ったの、全部ウソ。ホントは僕……『男の娘が大好き』だ」目を丸くするエリスを余所に、ダニエルの告白は続く。「たぶん、憧れの気持ちからだと思う……男でも綺麗で、可愛くて、優しくって、清楚で、可憐で……乱暴じゃなくって、ガサツじゃなくって、『選ぶ側じゃなくて、選ばれる側』になれて、かと言って女みたいに『それを当たり前』だとも思ってなくって……ワガママじゃなくって、男を見下したりしなくって、世界に希望をもたらせて、周りの人たちを幸せにできて……」ダニエルの目に涙が滲む。
「そんな男がいるって、信じさせてくれるから好きなんだ!」左手で目元を覆って、泣き顔を隠すダニエル。この勢いに任せて、これからさらなる告白をする決意を固めた彼だったので、そのときの自分の顔を見られないためにも、また聞いているエリスの顔を見ないためにも、そうしたのだ。「僕だって始めからそうだったわけじゃない……でも君が……君みたいな子が身近にいたから……」緊張から喉がカラカラになり、そこで一度唾を飲み込むダニエル。もう口から本音が漏れ出てくるのを止められそうもなかった。
「それに、本当は分かってるんだ……『みんな、ただの絵』だって、実在しないんだって……けど君が……君みたいな子が、こんなにも傍にいてしまうから……僕はいつまで経っても、信じる心を捨てられない!」全てを覚悟したダニエルは、そこで左手の目隠しを取り去って、俯きながら人生最大の告白をするのだった。「好きだ、エリス……僕が本当に好きなのは、君だ……君なんだ……」
言ってしまった……もう元の友達ではいられないかもしれない……かと言って、自分なんかがこんな告白をしても、どうこうなれるはずもないと言うのに……彼のことを好きな人は大勢いて、そのなかで自分が抜きん出た存在であるはずがない……なのに、なのに……言ってしまった……気持ちを抑えられなかった……嘘をつくのなんか、ずっとずっと、大嫌いだったから――。
ついに顔を上げた彼は、そこで告白相手が幸せそうに微笑みながら、こう返してくるのを目の当たりにするのだった。
「嬉しい……僕も君のこと、好き……」
全く意味が分からなかった。予想外の返事だった。しばし呆気にとられたダニエルだったが、すぐにこう結論付けて納得する。あっ、なるほどね。これから『でも……』って続くパターンだ……そしてあれこれと理由を説明されて、結局フラれるパターンだ――。しかし待てども待てども、その『でも……』が聞こえてこない。いよいよもっておかしいと思った彼は、恐るおそる、その言葉の真意を確認するのだった。
「えっ? そ、それってどういう……つまり、れ、恋愛的な意味で……?」相手がコックリと頷く。いやが応でも膨らむ期待感。「じゃ、じゃあ僕ら、これから恋人になって、お、お付き合いしたりとか……できるってこと?」この質問には、答えにくそうに目を伏せる相手だったが、先ほどのダニエル同様、いくつかの自問自答を経て結論を得たのだろう――やがて決心したように目線を戻した彼は、これに対しても確固とした頷きを返すのだ。
だがしかし、ここまで来ても疑心を拭い切れないダニエル。最終確認として、先ほどまではあれほど恐れていた『理由の説明』を求めてしまうのだ。「で、でもどうして? 君みたいな『才色兼備で、誰からも好かれていて、誰のことも好きになれるような人』が、どうして僕みたいな『自尊心が低くて、暗くて、これと言って取り柄もないようなやつ』のことなんかを、そこまで……好きに……」
「どうしてかな……」思わずベッドに腰掛けながら俯いて、シーツをクシャッと握り締めたエリスだったが、これに対する答えもすぐに見つけ出したようだ。「分からない、けど……恋って、そういうものなんじゃないかな……? 僕は『ただ、ダニエルが好き』なんだと思う……君が、君でいてくれるだけで……」
こんなことを言われて、涙が溢れ出さない人がいるだろうか? ダニエルは号泣しながら、「い、いつから……」と質問を繰り返すことしかできない。疑心を確信に変えたくて……自分が、彼に相応しい人間だと思いたくて……。
「それも、ごめん……分からないや」申し訳なさそうに眉を寄せて、小さく笑うエリス。「でも今にして思えば、あの日、あのときが始まりだったんだと思う。あの、『絵のモデルをしたとき』」彼はそこで、少し照れくさそうに右横髪を耳に掛けてから続ける。「自分のこと、好きでいてくれる人のことって……普段、あんまり分からなかったりするんだけど……あの日はなぜか、君の好意が伝わってきたような気がして……それがすごく温かくって、心地よくって……きっと、そう感じられたことこそが、僕の恋心の裏返しでもあったんだと思う」
ダニエル「たった……それだけのことで……?」
エリス「たった、それだけのこと……だから、最初は気づかないくらい小さな気持ちだったんだと思う……でもそれが少しずつ、大きくなっていったんだ」
ダニエル「うっ……っ……」
「ねぇ、ダニエル……僕と、キス……しない?」ベッドを軋ませ、相手の方へと体重を移動させたエリスが、許可を仰ぐようにして相手の顔を見上げる。すると相手が涙を拭いながら小さく頷きを返してくれたので、彼の方から相手をベッドへ押し倒していくのだった。
乱れたシーツの上で、熱く繰り広げられる粘膜接触。二人は合体させた口腔の中を互いの唾液でいっぱいにして、体温と相手への愛情を高めていく。最初、ミルクチョコレートみたいな味だった唾液も、啜ったり飲み込んだりしているうちに二人だけの味になっていき、やがては特製の媚薬カクテルみたいになって、二人の理性を麻痺させていった。
「ご、ごめんエリス……僕、もう……我慢できない――」ダニエルが相手をひっくり返して、上下関係が逆転する。身体中が燃え上がるように興奮していて、とても引き下がれそうもなかった。「エリス……しても……いい……?」曖昧な文章……それでも相手は、その意味を100%汲み取ってくれたようだ――赤らめた顔を背けながら、微かな頷きを返してくれる。
「エリスッ――」彼が相手に抱きつこうとしたときだ。突然、何かを思い出したように慌てた相手が、彼を制してこう告げるのだ。
「ご、ごめんダニエル……先に伝えておかなきゃいけないことがあって……」恥じらいと罪悪感が混じった、複雑そうな顔をするエリス。「僕、体質的な問題なのか……最近は『身体が反応しなく』って……だから今も、その……『小っちゃいまま』なんだけど……決して、君が悪いとかじゃないから!」
キョトンとするダニエル。彼からしてみれば、むしろ『無精巣症のエリスが、そもそも”反応”することがある』ということの方が驚きだった。だから今の前置きを聞いたうえで、次に彼がする質問こそが重要なものであった。「えっと……それじゃあ、君は……今は『どこを触られても、気持ちよくなれない』の?」面目なさそうに頷くエリス。「そっか……分かった。それなら――」
「や~めたっ」突如、ダニエルがそう言って身を引いたので、拒絶されたと思ったエリスは強い衝撃を受けた。しかし、すぐにそれは勘違いだと分かる。「君が気持ちよくなれないなら、”する”意味なんかないよ……僕、君には辛い思い……させたくないから……」
「そんな! それじゃ君の方が辛いじゃんか! 僕のことは気にしないで、君は君のしたいように――ゃむっ……チュッ……チュッ♡」気づけば口を塞がれて、侵入してきた舌に口腔内をクチャクチャと掻き回されていたエリス。口が蕩けて、身体も蕩けて、そのまま自分という存在全部が液体になって、マットレスに染み込んでいきそうだった。「ダニエッ――クチュ、クチュ――ど、どうし――チャクッ」
「僕が今したいのは、このキスだよ……エリス」思うままに相手の口内を味わったダニエルが、荒く呼吸しながら呟く。「き、気持ちよかったでしょ……?」そう語り掛けると、相手は左肘で顔を隠しながら、降参したようにコクッと頷く。
もはやエリスは、気持ちの面では『すっかり出来上がって』いた。先週『”そういうこと”はしない、二度と考えない』と誓ったばかりにもかかわらず、今は目の前で求めてくれているダニエルのことが、どうしても頭から離れなかった。欲しいと思わずにはいられなかった――ダニエルが相当我慢してくれていることが、その呼吸の乱れから伝わってくる。
か、神様……認めます、僕は弱い子です……あとで罰が下ると分かっていても、エッチなことをやめられない悪い子です……でもせめて、これだけは約束します……次に何が起こっても、決してあなたのせいにしたりはしません……だからどうか、この一回限りでいいんです……どうか、どうか……僕らに思いを遂げさせてください! お願いします! 僕にそのための力を下さい!
そのとき、奇跡は起こった。
(自主規制で数段落カットします<m(__)m>)
「エリスッ――」堪らず相手に抱きつくダニエル。そのまま彼は、相手の胸に額を押し当てながら、震えた声で最終確認するのだ。「も、もう僕……止めらんないよ? 最後まで、し、しちゃうからね……?」すると相手は彼の頭を撫でながら、柔らかな声で「来て……」と応えるのだった。
「エリッ――」ダニエルが自分のズボンを下ろすため、ウェストのボタンを外そうとしたそのとき――。
バァァァァンッ! 外で勢いよく車のドアが閉まる音が聞こえ、彼の顔が凍り付く。えっ、嘘っ、何で……まだ五時くらいなのに――。その音と相手の様子の変化に気づいたエリスが、不安そうにこう尋ねる。「どうしたのダニエル? 今の音って……」
「ご、ごめんエリス……今日はもう帰った方がいいかも……」
「ど、どうし――」つい訳を知ろうとするエリスだったが、目の前でシーツを握りしてめて震えているダニエルのことを見て、それが野暮な質問だと悟る。「分かった……やっぱり僕、都合が悪いときに来ちゃったんだね?」
ダニエル「ホントにごめん……今度埋め合わせするから……」
エリス「うん。じゃ、僕……帰るね――」
彼がベッドから立ち上がって、服装を正そうとしたその瞬間――今度は一階の方から「バァンッ!」という音が聞こえ(恐らく戸口が乱暴に閉められた)、家内に一つの狂った声が響き渡る。
「愛しい家族よ~! 亭主様が帰ったぞ~!」

そして絶望が訪れる……。次回、『家庭崩壊の第1楽章』。
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