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ジャズ記念日: 10月5日、1962年@ニュージャージーRVG

Oct. 5, 1962 “Liebesträume”
by Ike Quebec, Kenny Burrell, Wendell Marshall, Willie Bobo & Garvin Masseaux
at Van Gelder Studio, Englewood, NJ for BN (Soul Samba)

誰しもが聞いたことがあるはずの馴染みのある、この曲を当てるのは、曲名がドイツ語表記という事もあって結構難しい。クラシックでは、耽美で若干の緊張感を持っていながら心地良く進行する印象の曲だが、ここではリラックスした、なんとなく懐かしさと親しみを感じさせる演奏となっている(曲名は後ほど。演奏を味わいながら当ててみてください)。

如何にもブルーノートの特徴的な中低音主体の録音で、テナー本来の生々しさと深みがアイクケベックのトーンの優しさと渋さと相まって、秋の情景が目に浮かぶ。

ブルーノートレーベルの影の立役者、ケベックは、その創設者で移民のアルフレッドライオンに演奏のみならず、モンクをはじめとする有望なミュージシャンの紹介、そしてスタジオ送迎のドライバーなど、ブルーノートに多大なる貢献をした水先案内人。

ブルーノートに頻出のルディバンゲルダー(RVG)スタジオには相当通い詰めていた事が伺えるのは、ケベック亡き後に発表されたアルバム”from hackensack to englewood cliffs”というルディバンゲルダーのニュージャージー州にある新旧スタジオの地名を使った作品名と、その名の通り二つのスタジオでの録音を交えたアルバムがあるから。そんな企画のアルバムは恐らくこれが唯一のもので、ケベックだからこそ成立していると思われる。

バンゲルダースタジオは1959年7月に移設
旧ハッケンサックは自宅をスタジオとして活用
狭いが親密度があるのが特徴
イングルウッドクリフの新スタジオ
広くて天井も高く音響に配慮した設計

両者の位置を調べたところ車で15分ほどの距離。マンハッタンからはイングルウッドの方が近い。

イングルウッドは、マンハッタンにある
主要ジャズクラブから車で一時間圏内の距離

ハッケンサックという地名で思い出すのは、このスタジオと、映画『スーパーマン』で宿敵が仕掛けたその秘書の母親が住む、ミサイルが狙いを定めた場所。そして、それとは別に幾つかのアーティストの曲の歌詞にもその名が登場している。

"Driving like a fool out to Hackensack/Drinking his dinner from a paper sack".

"Daddy Don't Live in That New York City No More"
by Steely Dan
※同地出身の名ギタリスト、Hugh McCracken参加

"Who needs a house out in Hackensack? Is that all you get for your money?"

"Movin' Out (Anthony's Song)" by Billy Joel  

この歌詞で何となく土地柄というか、その印象が伝わって来るが、首都圏の田舎町的な、都会人からすると少しいじりやすい特徴のある場所なのかも知れない。Wikipediaには、ハッケンサックに”In popular culture(大衆文化)”というセクションがあって、こんなネタが多数含まれていることからも、そのような雰囲気が伺える(都市の規模の割に日本語版が充実しているのにも驚き)。

一方でイングルウッドクリフは、こういった取り上げられ方はされておらず、無色透明な感じ(そして、日本語版のWikipediaは存在していない)。あまり情報が見当たらないが、偶然ひとつ見つけたのは、フランクシナトラがスター街道を歩むきっかけとなった、ハリージェイムスに見出された社交場、Rustic Cabin。そこは、バンゲルダースタジオから僅か3マイル、同じ通り沿いにあった。

当時(1938-1939) シナトラは、
歌手兼ウェイターとして働いていた

これら二つの場所について、限定的な情報源で表面的に眺めていたら、バンゲルダースタジオも新旧で土地柄に似たような音質の特徴があるようにも思えて来た。

さて、時代的には前月、1962年9月のジャズの歴史的録音ラッシュの翌月の録音で、この頃には、本作のようなボサノバ調のクラシック曲を素材にした演奏のようにジャズの多様化が進んでいる事が分かる。因みにその前月録音の以下名作アルバム名が”Soul Bossa Nova”で本作は”Soul Samba”だから偶然とは思うものの名前はかなり似ていて、当時のボサノバブームを象徴しているかのよう。

話を曲に戻すと、パーカッションを交えて、ほのぼのとした雰囲気のそれは、なんとあのクラシックの大家、フランツリストの有名曲「愛の夢」。

端正なクラシック曲を、さりげなく肩肘張らずにボサノバのアレンジを加えて演奏し切る発想と柔軟性は、まさに様々な素材を料理するジャズの本領発揮と言える。その企画と演奏に天晴れ。

そのケベックは残念ながら本作の約三か月後に天に召された。悟りの境地だからこそ、その演奏にはエゴのない包み込むような懐の広い優しさが感じられるのかも知れない。

このアルバムには、もう一曲、ドボルザークの”Goin’ Home(家路)”が似たようなトーンで収録されていて、これもまた良い。ケベックの優しく渋みのある温かなトーンにずっと身を委ねたくたる。

そして、ブルージーなスタイルの多いケニーバレルがさらりと洗練されたバッキングをするところも聴き応えがある。

本アルバムジャケットの女性は、ケベックともう一人の重要なブルーノートレーベルの貢献者、アルフレッドライオンの再婚者としてブルーノートを支えたルスメイソン。この二人が同時にアルバムに起用されているので、ライオンの思い入れの強い作品である事は間違いない。

因みにメイソンは本アルバムだけではなく、もうひとつ別のブルーノート作品のアルバムジャケットにも採用されている。

“Moods” by The Three Sounds
1960年6月28日バンゲルダースタジオ収録作品

さて、本作のリズムセクションに興味を持たれた方は、同じ三名が参加している同年のグラントグリーンによるコミカルで明るいラテン系音楽作品もどうぞ。相性の良いケベックとグリーンの共演作品は追って紹介します。

最後に、ケニーバレルのギターに興味を持たれた方は、こちらの味のあるライブ演奏をどうぞ。

今日も素敵な1日をお過ごしください。

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