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カフカが恋人に捧げた『判決』は自殺で終わる嘘みたいに暗い話。なんでだよ、カフカ! でも、これがきっかけでカフカは小説家に生まれ変わる - フランツ・カフカという不条理③

 今月のメンバーシップ限定記事では、「フランツ・カフカという不条理」をテーマに分析しています。

 初回はフランツ・カフカの人生を振り返り、その面倒臭い性格と第一次世界大戦との独特な距離感について見ていきました。

 次に矛盾に満ちたカフカのあり方を確認しました。

 生きているときも面倒くさい人だったのに死んでからも面倒くさい存在であり続けるフランツ・カフカ。普通だったらカフカを嫌いになりそうですよね。

 ところが親友マックス・ブロートにしても、2回婚約を破棄された運命の恋人フェリーツェにしても、カフカのことを大好きだったっぽい。

 なぜ? と驚きつつも、手紙や日記を参照しながらそれぞれの作品を読み解いていくとわかりそうでわからないけど、少しわかるような気がしてきます。加えて、カフカは現代人みたいだなぁと共感の念すら湧いてきます。

 なので、わたしはここで目的を変更し、カフカが現代人っぽく見える謎を解明すべく、その作品を掘り下げていくことにします。今回はそんな陰気な青年カフカが小説家フランツ・カフカに生まれ変わったきっかけの作品『判決』を読み解いていきます。


小説家カフカが誕生した瞬間


 先述のフェリーツェが運命の恋人である所以として、カフカは彼女に初めて手紙を出した勢いそのまま短編『判決』(1912)を一晩で書き上げてしまいました。

 そして、この『判決』こそ、カフカがカフカらしい不条理小説のはじまりであり、本人もまたそのことを自覚していました。

 日記にもその劇的な体験を書き残しています。

 マックス・ブロートの家で会ったフェリーツェに一目惚れしたカフカ。フェリーツェはブロートの妹の結婚相手の従妹でした。ちなみに日記に記した一目惚れの描写がカフカ流で面白いです。

八月二〇日

 F・B(フェリーツェ・バウアー)嬢。八月一三日にブロートのところへ行くと、彼女は食事中だったが、ぼくにはどうも女中のように見えた。ぼくは彼女はだれなのかということを全然知りたいとも思わず、すぐに彼女とうちとけた。間伸びした感じをはっき表している。骨ばった、締まりのない顔。開いた襟元。ゆったりまとったブラウス。ひどく世帯じみた装いに見えたが、後に判ったが彼女は全然そうではなかった。〈省略〉ほとんど潰れた鼻。ブロンドの、やや剛(こわ)い、魅力のない髪。がっしりした顎。腰を下ろしながら彼女を初めて前よりもよく見たが、坐っているとき、もう揺るがしがたい判決を下していた。

マックス・ブロート編『カフカの日記 1910-1923』谷口茂(訳), みすず書房, 210-211頁

 こうして、カフカはフェリーツェと結婚するという「判決」をくだします。そして1ヶ月以上も悩んだ末に手紙を出し、その二日後の夜『判決』という小説を一気に書き上げてしまうのです。

九月二三日

 この『判決』という物語を、ぼくは二二日から二三日にかけての夜、晩の十時から朝の六時にかけて一気に書いた。坐り放しでこわばってしまった足は、机の下から引き出すこともできないほどだった。物語をぼくの前に展開させていくことの恐るべき苦労と喜び。まるで水のなかを前進するような感じだった。この夜のうちに何度もぼくは背中に全身の重みを感じた。すべてのことが言われうるとき、そのときすべての ー 最も奇抜なものであれ ー 着想のために一つの大きな火が用意されており、それらの着想はその火のなかで消滅し、そして蘇生するのだ。窓の外が青くなっていった様子。一台の馬車が通った。二人の男が橋を渡った。二時に時計を見たのが最後だった。女中が初めて控えの間を通って行ったとき、ぼくは最後の文書を書き終えた。電燈を消すと、もう白昼の明るさだった。軽い心臓の痛み。疲れは真夜中に過ぎ去っていた。妹たちの部屋へおそるおそる入ってゆく。朗読。その前に女中に対して背伸びをして言う、「ぼくは今まで書いていたんだ。」人が寝なかったベッドの様子、まるでいま運びこまれたとでもいうような。自分は小説を書くときには、恥ずかしいほど低い段階の執筆態度をとっているという。ぼくのこれほどまでの確信が、ここに確証された。ただこういうふうにしてしか、つまりただこのような状態でしか、すなわち、肉体と魂とがこういうふうに解放されるのでなくては、ぼくは書くことができないのだ。

同上, 215-216頁

 だからカフカは『判決』の冒頭に「フェリーツェ・Bへ」と献辞しています。しかも作中の主人公の婚約者のイニシャルはF・Bです。

 そう聞くと『判決』は恋愛小説のように思えますが……

☆『判決』あらすじ

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1,792字

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