カフカってなんなん? 自分と結婚したら不幸になるとプロポーズの手紙で書くし、いざOKされたら戸惑いまくるし、本当に面倒くさい男! - フランツ・カフカという不条理①
昨年の7月にスタートしたメンバーシップ用の記事も7ヶ月目に入りました! いつもありがとうございます。なんとか継続できています。
なお、これまでは以下のようなラインナップでお送りしてきました。
◆2025年7月「自己啓発本の変遷に見るわたしたちのリアリティ」
◆8月「シェイクスピアと陰謀論」
◆9月「柚木麻子『BUTTER』と王谷晶『ババヤガの夜』をきっかけに女性作家の活躍を考える」
◆10月「宮野真生子・磯野真穂 『急に具合が悪くなる』と偶然性と必然性と」
◆11月「現代日本で『紅楼夢』をどう読むか、かつての日本で『紅楼夢』はどう読まれてきたか」
◆12月「第一次世界大戦と戦争文学」
今日から第7弾「フランツ・カフカという不条理」をお送りします。と言っても、無料部分もけっこうあるので、みなさん、途中までお楽しみください。
(よかったら、ぜひ、メンバーシップに!)
さて、早速、本題に入っていきましょう。
前回見てきたように文学史において、第一次世界大戦はとても大きな出来事でした。というのも、近代以降、人々の関心は「自由」「冒険」「お金」「戦争」「平和」などが中心だったからです。
背景として、ルターの宗教改革でキリスト教はカトリックとプロテスタントに分裂したこと。貨幣経済の浸透で裕福な農民が増え、封建制に従わなくなると移動の自由が生まれたこと。宗教的なしばりも弱くなってので好きなことをやる人が増え、命知らずの若者たちが一発逆転を狙って新大陸を目指す冒険ビジネスを開始したこと。こうして大航海時代が始まると世界中の情報が行き交うようになり、学者たちの知識も爆発的に増え、科学的な発見が次々なされたこと。経済的にも株式会社の普及で未来の富を前借りするようになり、政府と金融機関が運命共同体になり、金融資本体制が確立し、成長が絶対命題になったこと。経済圏を広げるため、主権国家同士が争う大規模戦争が相次いだこと。などが影響していたと考えられます。
だから、当時の文学者および芸術家は1914年6月28日にオーストリア皇太子が暗殺されたサラエボ事件に衝撃を受けたし、第一次世界大戦の前と後ではみんな別人のようになってしまったわけです。
しかし、オーストリア=ハンガリー帝国領だったプラハ(現:チェコの首都)に暮らしながら、そんなことはまったく気にしていない風の男が一人いました。その男こそが今回の主役フランツ・カフカです。
◇フランツ・カフカってどんな人?

フランツ・カフカは現在のチェコの首都・プラハでユダヤ人家庭に生まれました。両親は高級小間物商だったそうです。
当時、チェコはオーストリア=ハンガリー帝国に支配下にあり、母国語はチェコ語だけど、カフカは学校でドイツ語を学びました。ギムナジウム(大学進学を目指す進学校)に通い、最初は成績がよかったけれど、徐々についていけなくなったと本人は言っているけれど、周囲からは普通にできていたという評価も。
この頃、文学や哲学に多く触れ、作家を目指し始めます。大学は哲学科を希望するも父親に否定され、化学科へ。ところが実験を好きになれず、法学専攻に切り替え、カフカの運命を変える一才下の親友マックス・ブロートと知り合います。
マックス・ブロートはすでに作家として活躍する時代の寵児でした。カフカはそんなブロートの講演を聞きに行き、終わった後に話しかけ、ひたすらダメ出しをしたそうです。普通だったら嫌いになりそうなものだけど、その一言一言が魅力的だったとかでブロートはカフカを気に入り、親交がスタートしたとか。
さて、法学部の試験で疲れたカフカはサナトリウム(療養所)巡りが趣味になります。そして、旅先で出会った女性(人妻や18歳など)と恋愛を繰り返します。代表作『変身』などのイメージと違って、実は恋多き男だったようです。
大学卒業後は叔父のコネで保険会社に就職するも、フルタイム+残業に耐えられず、すぐに辞めてしまいます。それから学生時代の級友の父親が有力者だったので、そのコネを使わせてもらってプラハ市内にある半官半民の「労働者傷害保険協会」に就職します。
この会社は8時から14時まで昼食なし労働が可能で、出世は難しくなるけれど、その分、午後を自由に使えました。カフカはこの自由な時間を使って小説を書き続けたのです。
そんな転職が決まった1908年の3月、カフカ25歳のとき、親友マックス・ブロートの仲介で新しい文芸誌に作品が掲載されます。短編を8つ発表し、ささやかでも作家デビューを果たしたのです。
他にもマックス・ブロートとは一緒にヨーロッパ旅行をしたり、後の恋人フェリーツェ・バウアーを紹介してもらったり、人生における重要なことをことごとくサポートしてもらうことになります。

なお、このフェリーツェ・バウアーをカフカは強烈に気に入り、一回会っただけなのに手紙を送りまくります。ちなみにカフカは大量の手紙の中で執筆中の小説について細かく記しているので、研究者は作品に込めた意図を分析可能となるなど思わぬ遺産となっています。
最終的にカフカはフェリーツェ・バウアーと結婚する覚悟をするも、一緒に暮らすと小説が書けなくなるんじゃないかと恐れ、フェリーチェの女友だちに結婚したくないと手紙を送り続け、そのことを告発された結果、婚約は破棄されることになります。
注目すべきはカフカがフェリーツェへ送ったプロポーズの手紙。
ぼくはあなたにお尋ねします。すでに書いたような、残念ながらどうしようもない前提があっても、僕の妻になりたいかどうか、じっくり考えてみるつもりがありますか? どうでしょうか?
ぼくは実際には病気ではないのですが、それでもやはり病気なのです。生活状態が変われば、僕も健康になれるかもしれません。でも、生活状態を変えることは、ぼくにはできません。
ぼくは無価値な人間、まったく無価値な人間です。ぼくには記憶力がありません。ぼくは何も経験せず、何も学ばなかったような気がします。実際、たいていのことは、小学生よりわかっていません。ぼくは考えることができません。考えている間はずっと壁にぶつかっています。ぼくは、人と交際するということから、見離とされていると思っています。いろんな人たちとそれぞれに、何度もやりとりして、活気のある会話を展開していくようなことは、ぼくには不可能です。
ヤバいですよね。とてもじゃないけど、プロポーズをする気があるとは思えないネガティブな内容です。
でも、カフカはまだまだ止まりません。
さて、フェリーツェ、よく考えてみてください。結婚によって、ぼくらにどんな変化が起きるか。何を失い、何を得るのか。
ぼくは孤独を失いますが、孤独というのは、ほとんどの場合、怖ろしいものです。そして、誰よりも愛するあなたを得るのです。
しかし、あなたは、今までの生活を失うことになるのです。ほとんど完全に満足している生活を。ベルリンを失い、あなたの喜びである職場を、女友達を、人生のささやかな楽しみを失い、健康で陽気で善良な男性と結婚して、美しく健康な子供たちを授かる望みを失うのです。よくお考えになってみれば、美しく健康な子供たちを得ることこそ、あんたの望んでやまないものでしょう。
この計り知れない損失の代わりに、あなたが得るのは、病気で、弱くて、人づきあいが苦手で、無口で、悲しげな、ぎこちない、ほとんど絶望的な人間なのです。
普通ならノーを突きつけるしかないような申し出。ただ、フェリーツェも只者じゃなかったんですね。なんとOKを出すのです。
意味不明なのはカフカがそれに戸惑ったこと。慌てて、こんな返事を送ります。
そうじゃない、そうじゃないんです。自分から不幸になろうとするようなものです。そんなことはしてはいけません。
とはいえ、もしプロポーズを断れていたら自殺するって言ってたはずで、いずれにせよカフカは大騒ぎしていたに違いありません。
なんというか、本当に面倒臭いですね。
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