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屈辱に耐え、商戦に耐え、男たちが行きつく先は?山崎豊子の「不毛地帯」③

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3月第1作目には山崎豊子『不毛地帯』を取り上げます。

『不毛地帯』は、『白い巨塔』『華麗なる一族』などの作者・山崎豊子氏の長編の中でも、特に優れた作品の一つと言われています。

主人公の壱岐正は、若くして大本営作戦参謀として直接、大東亜戦争の開戦・敗戦に携わります。

そして、シベリアに捕虜として11年も抑留され、帰国後に商社マンに転身し、再び熾烈な戦いに入っていくという、特異な運命を背負った人間です。

社会派作品を得意とした山崎豊子氏の綿密な取材力の元、実在する人物や歴史的事件から紡ぎ出される物語は、重厚感溢れる大作として、日本の現代文学のレベルをグッと引き上げている印象です。


山崎豊子(1924~2013)

大阪府生まれ。本名、杉本豊子。小説家。
旧制京都女子専門学校(現京都女子大学)国文学科卒。
毎日新聞社の井上靖のもとで働きながら小説を書き始め、1975年に『暖簾』を刊行。翌年刊行した『花のれん』で直木賞を受賞。
社会問題に鋭く切り込むベストセラー小説を発表し続け、多くが映画化・ドラマ化された。
2013年、「週刊新潮」に『約束の海』を連載開始するが、未完のまま同年9月に死去。

代表作品:『白い巨塔』『華麗なる一族』『大地の子』『沈まぬ太陽』など


【書き出し】

この小説はフィクションである。例えば歴史的に相当する人物がいても、それは単なる偶然の一致に過ぎない。

社長室の窓の外に大阪城が見え、眼下に帯のような堂島川が見える。

近畿商事の社長である大門一三は、朝、出社すると、窓寄りの机に坐り、大阪城を視野におさめる。冴えた冬陽の中で、天守閣の甍(いらか)と塗籠(ぬりごめ)の白壁がくっきりと空に聳(そび)えている。


【名言】

二度と過ちを犯さないために、生きて歴史の証人になること、それが貴様の使命だ!

世界二千年の歴史を振り返ると、守りだけでも、攻めだけでも、勝利したためしはない。

自他ともに生きる共生の心が存在しなければならない。


※あらすじ①②はこちら⇓⇓



【解説】

『不毛地帯』は、1973(昭和48)年から1978(昭和53)年の5年間にわたって週刊誌「サンデー毎日」に連載された作品です。

作者の山崎豊子氏は、『白い巨塔』『華麗なる一族』などの社会問題を題材とする社会派作家です。


・不毛地帯の「不毛」とは?

『不毛地帯』では、

シベリア抑留での不毛。

石油戦争などの商戦での不毛。

戦後の物質経済下での日本人の精神的不毛。

これらをすべて表現したものが、『不毛地帯』という題名だと山崎氏は述べています。

前半はシベリアからはじまる「白い不毛地帯」、後半は中東の石油開発で終わる「赤い不毛地帯」という構想で作りあげられました。


・異色の経歴で「不毛」地帯を渡り歩く主人公

主人公・壱岐正は、14歳で軍人を志して陸軍大学校を首席で卒業。

大本営作戦参謀として、開戦・敗戦に直接関わり、戦後はシベリア捕虜として11年間抑留されました。

帰国後には戦いと無縁の世界に行くかと思いきや、今度は商社マンに転身し、再び”商戦”という名の熾烈な戦いのなかへ。

職や形を変えながらも、常に戦い続ける人生を選んでいく主人公です。

「元大本営参謀」⇒「シベリア抑留」⇒「帰国後は商社マンに転身」

という3つの異色の経歴で、「不毛」な地帯を渡り歩きます。


・主人公のモデルは伊藤忠商事の元会長・瀬島隆三?

主人公の壱岐正のモデルは、伊藤忠商事の元会長・瀬島隆三ではないかと言われています。

作者の山崎豊子氏は、「元大本営参謀、シベリア抑留、帰国後の商社マンに転身という3つの原型に関して、確かに瀬島氏から発しているものの、壱岐は複数のモデルからの取材をもとに作り上げたオリジナルの主人公」と述べています。


・作者・山崎豊子の徹底した取材力

山崎豊子氏は小説を書くにあたり、膨大な量の資料を集め、取材のために単身海外へも足を運ぶことで有名でした。

『不毛地帯』前半のシベリア抑留を書く際も、「日ソ関係が今よりも緊張状態にあり、シベリア抑留についての取材が完全に拒否されていた1973年、一人でシベリア横断の旅に出た」と述べています。


・「白い不毛地帯」ーシベリア抑留とは?


小説内で「白い不毛地帯」と表現されるシベリア抑留とは、一体何だったのか?

ご説明しておきたいと思います。

終戦後、武装解除され、投降した日本軍捕虜が、ソ連によってシベリアに労働力として移送されました。

そして、長期間に渡って抑留生活と強制労働をさせられたことがあります。

これが、いわゆる「シベリア抑留」です。

約60万人が抑留され、極寒のなかの過酷な労働により、一説では抑留者の1割の6万人以上が亡くなったそうです。

戦後のシベリア鉄道の修理・敷設は日本人捕虜の犠牲の上に成し得たと言われています。


・「不毛地帯」で描かれる日本男児の気概

山崎氏は現地取材のもと、主人公・壱岐正が過酷なシベリア抑留を11年間も耐え抜いた理由に、「生き恥を曝しても、今、生きることは国家人としての責任だ」「生きて歴史の証人となれ」という元上官からの言葉を書いています。

ここに、敗戦後も国家の未来に責任を持とうとする、当時の軍人(壱岐)の気概が感じられます。

さらに、近畿商事の商社マンとして第二の人生をスタートさせたのも、大門社長に「戦争に敗けて、すまんと思うのなら、軍事作戦で鍛えた頭を、今度は日本の経済発展のための経済戦略に使うべきだ」と説得されたからでした。

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