【境界戦姫:第一話】
【あらすじ】
天照大御神の元、伊勢神宮に住む陽の神・陽獅子(通称「陽子」)は、伊勢市で発生した化け物──【ヰ怪(いかい)】を退治をしていた。
そんなある日、街に張り巡らされた結界を通り抜けてきた、巨大な蜘蛛型のヰ怪と戦う事になる。
60mをゆうに超える化け物。そこに現れた傷だらけの謎の美少女と一触即発状態となり──!?
数多の妖怪・悪魔といった化け物が蔓延る、ダークバトルファンタジー開幕!
【キャラクター設定
(メイン二人)】
①陽獅子《ようじし》←(※本名)
+焔乃陽子《ほむらのようこ》
(↑人化状態。偽名。)
主人公。
役職:守護神。最高神である「天照」直属の配下神。
年齢:100歳。
性別:女(神)
身長:172cm
見た目:金髪ショート。
耳やヘソにピアス有り。肌はやや褐色。
胸は大きい。着崩した制服。
頭には「獅子」としての名残りか、人耳とは別に獅子耳が生えている。
性格:気性が荒く喧嘩っ早い。
一度決めた事は必ず成し遂げる。
敵と見做したものには容赦せず、護ると決めたものは命をかけて護り抜く。
また守護神である為、困っている人を放って置けない性質。
能力:頑強な肉体。銃や剣すらも通さない。
(モチーフ:ネメアーの獅子)
頑強な肉体、耐久性の高さを活かして大技(シャコパンチ)を再現させる。
※本来の力(陽獅子)は、過去に大切な人(少女)を失った際に制限されており、物語が進むにつれて成長・解放されてゆく。
②神武寺命《ジンムジミコト》
ヒロイン兼W主人公。
役職:高校一年生,境界の巫女,ヰ滅師
年齢:16歳
性別:女性
身長:163cm
体重:40kg〜???(よく内臓や骨が変わるので体重が定まらない)
見た目:黒い長髪、虚な瞳。
(右目が無く、眼帯をつけている)
貼り付けたような笑顔を浮かべている。
白いセーラー服。いつも怪我をしており、足や腕、頭等に白い包帯を巻いている。
(血が滲んでいる)
性格:冷血無慈悲で非情。
「敵」を葬ること、そして与えられた「使命」を果たす事に全てを捧げており、己の身を案じない無理な戦いをする。
陽子とは違い、「人に対する思いやりがない」。使えない・役に立たない者は容赦なく切り捨てる。
能力:
怨刀 禍刃祓ヰ《マガハバライ》。
ヰ怪のみを殺す刀。「人」に対してはただの模擬刀。
地獄《ゲヘナ》の扉を開く「鍵」としての役割を持ち、ゲヘナに潜む悪魔の力を借りる事が出来るが、代償を払う必要がある。
(肉体、記憶、寿命の一部)
【世界観・設定】
◉ヰ怪(いかい)
現界には存在しない筈だった異形の総称。
呪霊・妖怪・悪魔。
「異世界」から現れた魔物、天使等も含む。
数々のヰ怪は、各々の位相《別世界》から産み出され、それぞれの生態系を持つ。
◉境界と繋がる世界
境界は『位相(別世界)』を繋ぐ境界線。
人間の住まう世界=「現界」。
神々や天使の住まう世界=「天国(天界)」。悪魔や、その王がいる世界=「地獄」。
2003年に起きた「境界壊事」によって、それらの隔たりでもあった世界中の境界が破壊され、その結果、第四の世界=「異世界」とも繋がるようになる。
①現界
我々の暮らす世界。全ての中心部。
それぞれ境界を通して「天国」と「地獄」と繋がっており、いい行いをすると天国へ、悪い行いをすると地獄へ行くと考えられている。
②天国
神々や天使たちのいる世界。
「天照」たち日本神話の神々とは、また別の場所に存在している。
③地獄
人が悪い行いをした際に送られる場所。罪人たちの魂の多くは、此方の世界へと送られている。
(注)日本における地獄とは全くの別物。
(日本=JIGOKU この世界における「日本外の」一般認識上の地獄=γεεννα(ゲヘナ))
→ミコトが刀により開いているのはゲヘナ側。
④異世界
2003年の「境界壊事」以降、世界各地の境界が破壊された事により、現界の裏側にあるとされる異世界と通じるようになる。
「境界の一時的な乱れ」によって繋がる事があり、「神隠し」と途端に人がいなくなる現象の全てはここに繋がっているとされる。
◉ヰ滅師(いめつし)
妖怪や呪い(呪霊)から市民を守る「陰陽師」と、悪魔を祓う「祓魔師」。
その他裏世界である「異界」から流れ込んできた魔物たちを滅するために統合され、それをわかりやすく呼ぶ為の総称。
統合した理由は【祓い方がまったく別である】から。
→陰陽師では悪魔を祓う事が出来ず、
祓魔師では妖怪を祓う事が出来ない
「目的も、倒す敵も同じであるのだから、我らの総称も一つに絞りましょう」と晴明の主張により2003年以降に統合され、「ヰ怪対策本部」が敷かれた。
【本文】
2020年4月24日。金曜日。
真夜中の公園。
破壊された遊具。
その中で一人、ポツンと立っている一人の女の子。
怯えた様子で、目の前に佇む蜘蛛型の異形を見つめている。
子蜘蛛【あぁああ……コドモ、ワタシの、コドモぉ……】
少女「あっ、ああ……! いや、助けて、お母さん……!」
恐怖の余り、少女はその場から動けない。
蜘蛛型の異形は、何かを探すように周囲を見渡している。
そして、目の前にいる少女に目をつけ、耳を劈くような声をあげて飛びかかった。まるで探し物を見つけたように。
少女は目を瞑り、涙を流しながら大声で「お母さん!」と叫んだ。
その時、彼女の目の前に飛び出した人影。
着崩した制服。
だらしなく巻かれたネクタイ。
膝丈まで上げられたスカート。
その下には、黒いスパッツが覗く。
金髪のショートボブ。
人耳にはバチバチにあけられた無数のピアス。そして本体の耳である猫耳(獅子耳)にも、幾つかのピアスがある。
肌はやや黒く、獰猛な獣のような鋭い目つき。ギャルのような出立ちの少女は、左腕を盾にして少女を護る。
ガチッ! と、鉄を食むような音が響き渡る。
陽子「──ったく。こんな小さな子供にまで手ェ出そうだなんて」
陽子、ギラついた視線を子蜘蛛に向ける。
釣り上げられた口角をそのままに、振りかぶった右拳を子蜘蛛に叩きつける。
弾け飛び、遊具に当たって砕け散る子蜘蛛。
それを目の当たりにした少女は、腰を抜かしたのかその場でペタリと座り込んだ。
陽子、手についた紫色の溶解血液を適当に振り払う。
ジュッと、皮膚を焼く音が聞こえるが、彼女の皮膚が溶けた形跡は無い。
陽子「やっぱヰ怪《いかい》ってのは、碌でも無ェな」
※
三重県・伊勢神宮。
改装され、幾分か広くなっている皇大神宮内。
陽子、太々しい態度で、座布団の上に座っている。
彼女の目の前には、腕を組み、額に怒りの筋を走らせる幼女の姿。
豪奢な着物に身を包む幼女──天照大御神は、陽子を見下ろしたまま口を開く。
天照「……陽子。わしが何故お主をここに呼び出したのか、そして何故ここまで怒っているのか。わかっておるよな?
「(顔を近づけながら)……な?」
陽子、目を逸らしたまま。
陽子「え〜? 何スか〜?」
「何の事言われてんのか、ぜんぜんわかりませェ〜ん」
天照「このクソ神がァッ!!」
天照、キレて陽子に掴みかかる。
陽子も負けじと取っ組み合う。
体が小さいせいで陽子に抱き抱えられ、癪に障ったのか、天照は余計にキレる。陽子は納得がいかないと声を荒げた。
陽子「何だよ!? アタシは言われた通りにヰ怪ぶっ殺しにいっただけだろォが!!」
「何が問題なんだよ!!」
天照「何が言われた通り〜じゃこのボケ!!」
「わしがいつ土蜘蛛の子供を殺しに行けと言った!?」
「わしがお主に言うたヰ怪は別じゃろうが!!」
「ほらこれ!」と、スマホの画面に指をさし、別のヰ怪を示す。
陽子「うっ……」
言い返され、何も返す言葉が無くなった陽子が悔しそうに口を紡ぐ。
陽子、苦し紛れに、
「そ、ソイツはまぁ……」
「……いつか祓うよ」と歯切れの悪い返事。
天照「いつかっていつじゃ……(呆れた様子)」「まぁ良い」
「あとでヰ滅師に対応してもらうとしよう」
(そのままスマホを扱い、視線を陽子に移す)
天照、抱えられた状態でため息を一つ。
天照「……まだ、人と接するのが嫌なのか?」
しばしの沈黙。天照、「図星か」と一言。
陽子、顔を逸らす。
天照「何十年も前の事をうじうじと……」
「何度も言ったじゃろ、アレはお主のせいでは無いと」
陽子「……」
天照「当然、わしだってお主が数十年前の事を引き摺っておるのはよくわかっておる」
「じゃがな、お主がそうしていい加減な態度を続けたところで、あの子が戻ってくる訳では……」
つらつらと、陽子の過去・事実を述べる天照。
陽子、歯をグッと食いしばり、抱えていた天照をほっぽって、外へ飛び出す。
「ぶへっ」と床に落ちる天照。外へ出る陽子を、慌てて追いかける。
天照「ま、待たんか!」「まだ話は──」
出た時には既に遠くへと駆け出している陽子。「いやはッッッや!!」と驚嘆。
天照「おい! まだ話は終わっておらぬぞ!」「どこへ行く気じゃ!」
陽子「師匠!(の)餌やり!!(の為の餌を買いに!!)」
天照「せめて日本語はちゃんと喋れや!!」
天照のツッコミ。陽子、振り向きもせず。
師匠という名をつけたペットの「モンハナシャコ」の餌を買いに行く。そんな名目でその場を後にする。
ダンッ! と、音を立てて跳躍。
森の中へ消えてゆく。
取り残された天照、拳を握り締め、
「あのバカ神、ガチで逃げおって……!」と憤る。
呆れや疲れを感じさせる表情で、後ろを振り向く。
宮内。広々とした部屋の奥。
強化ガラスの水槽が一つ。コツコツとした音が響き、天照が顔を覗き込み、指を入れる。
天照「……お主の飼い主は、いつになったら立ち直ってくれるのかのう?」
せつなげに溢す。だらしなく「ほ〜れほれ」と、餌をあげるでもなく指を振る。現実逃避。
その後、水槽の主に指を弾かれ、
「あぎゃっ!?」と声をあげた。
※
伊勢市 吹上公園周辺。
時間にして18時ごろ。
日が傾き始め、子供たちもいなくなる時間帯。
歩道を夕日が走る。
照らされた通路を、陽子が頭をかきながら歩く。
(頭の耳がぴょこぴょこする)
陽子「……ったく、一々うっせェな」
「オカンかよ」
愚痴とため息を溢す。
陽子「まぁ、言われた通りにしてねェ俺も悪ィんだが」
「……けど、」
公園の入口付近に立つ陽子。
陽子「……あんまし人の多いとこには、行きたくねェんだよ、アタシは」
公園全体は、「keep out」のトラテープが貼られ、入れないようになっている。陽子、鼻を鳴らしてトラテープに触れる。
陽子「あだッ……! チッ、ンだよこれ。ヰ怪だけじゃなくて神まで入れなくしてやがんのか? 罰当たりなヰ滅師共が!」
現場検証の為か、トラテープにはこれ以上ヰ怪が入らないよう、術式が組み込まれていた。
陽子はひりつく手を振り、「ふっ」とジャンプ。
トラテープを飛び越え、公園内に着地。
「さてと……」と、公園内を見渡す。
陽子「昨日までぶっ壊れてた遊具が治ってやがる。式神かなんかで治してやがンな」
地面に落ちていた塵紙──人型にかたどられ、中心に「人」の字が刻まれている──を拾い、呟く。
土蜘蛛が放った子蜘蛛により、破壊されていた遊具はすっかりと修正されていた。
陽子、遊具やら地面やらに顔を近づけてにおいを嗅ぐ。トラテープの外から子供が指を指し、「あのお姉ちゃん何してるの?」と母親に聞いていた。
母親は「見ちゃいけません!」と、子供を連れて行ってしまった。
陽子、顔を赤くしながら立ち上がり、羞恥心と、目当てである「親蜘蛛」に繋がる痕跡が見つからず、舌打ちをした。
陽子「クソ、やっぱ昨日のウチに探しときゃ良かったか……痕跡もクソもねェ」
「においもさっぱり消えてやがる」
陽子、ダン!と地を蹴り、「ああああ!!」と声をあげて憤る。
陽子「これじゃあとんだ無駄足じゃねェか! 恥かきにここまで来たんじゃねェぞアタシはァ!!」
陽子、怒りをぶち撒けるよう遊具に蹴りを入れる。
治った筈の遊具に亀裂が走り、陽子は「やべっ」と声を漏らした。
慌てて周囲を見渡し、誰も見ていない事を確認すると、陽子はゆらりとした足取りでブランコに座る。
日が暮れ、空が赤みかかる時間。
それを見つめながら、陽子はボソリと「さっさと殺さねェと」呟く。
「じゃねェとまた……」目を瞑る。
陽子(取りこぼしてしまう)
昨日救った少女の泣き顔と、目の前に現れたヰ怪。
それが、彼女の過去と重なってゆく。
※
1940年代。昭和の街並み。
人が立ち入らないような、古びた小さな神社で。
「陽獅子(ようじし)さま!」と、名前を呼び、手を振る少女の姿。
黒い長髪の女の子。目元はよく見えない。
陽子の前を走り、後ろを振り向いて、笑顔を見せる。
※
暗転。
その笑顔が焼きつき、肥大化する陽子の肉体。全身から黒々とした炎。
燃え尽きる社。
横たわる少女。
視界が明滅する。
「何者か」が社を破壊し、攻撃を仕掛けてきた記憶。
同時に、罪の無い人々に、牙を、そして爪を向けていている、身に覚えの無い記憶。
ハッと。意識を取り戻す陽子。
目の前には、異形に食われ、半身が無く。
全身に火傷を負った少女が視界に映る。
人の姿となり、横たわる少女を抱き抱える。
涙を流す。その涙が、少女へと伝う。
少女の名を呼ぶ。
「──」
掠れて見えない。
少女は、焼け爛れた手を伸ばし、陽子の頬に触れる。
少女「……陽獅子さま。どうか、泣かないでください」
陽子の涙が少女の瞳に落ち、溢れる。
少女はにっこりと笑い、最後の言葉をかける。
少女「助けてあげてください。困っている人を。苦しんでいる人を。あなたは、この世界を照らす太陽です。だから──」
視界はぼやけ、その先の言葉が途切れる。
※
現在。
ふぅ、と息を吐いて立ち上がる。
公園に設置された時計の針は、18時30分を指している。
昨日、子蜘蛛に遭遇した時間帯と、ほぼ同じ時間だった。
陽子、濃くなってくる黒い霧に気付き、ブランコから離れて、再び公園の中心部に立つ。
確認するように、一言。
陽子「──ようやく現れやがったか、クソ蜘蛛」
「まってたぜ? 殺してやるからとっとと出てこいよ」
その発言に反応する影。
陽子の背後に立つのは、白装束に身を包む、肌の白い女。顔は地面の方を向き、三日月の如くつり上がる口角。
土蜘蛛「あら、バレてたのねぇ」
「影であなたを、ジーっと見てたこと♪」
土蜘蛛、顔をゆっくりとあげる。
人の目と、瞼の上に六つ。計8つもの瞳。
口はがぱりと開き、蜘蛛の持つ大きな牙が現れる。陽子、鼻を抑えながら口を開く。
陽子「鼻が効くモンでな」
「テメェのくっせェ臭いが街に蔓延って堪らねェんだわ」
「……(囁くように)それにまた、ガキが襲われるンのは見たくねェしな」
陽子、ふぅーと息を吐き、前を見る。
「──とまぁ、そういう訳で殺しに来た」
そして、右手の指をゴキゴキと鳴らしながら一歩踏み出し。
陽子「ヰ怪如きが。天照様が守護する街を、土足で汚してんじゃねェよ……!!」
土蜘蛛、顔に闇が差す。
土蜘蛛「……嫌だわ」
ビキッ。音を立てて顔に亀裂が走る。
「何て汚い口の利き方をするのかしら」
バキッと。女の背中が裂ける。
土蜘蛛「あなた、それでも神?」
ボロボロと皮膚が剥がれ落ち、剥がれた皮膚から小さな蜘蛛が大量に地面を敷き詰めてゆく。
(土蜘蛛、上位級にしか扱えない「人避けの術」を発動)
陽子、胸元のネクタイを投げ捨てる。
両手の指を鳴らしながら、大きな影を作る土蜘蛛を見上げた。
口を大きく開けて笑い、額には怒りの筋を浮かべて。
陽子「お前馬鹿か? 神がヰ怪なんざに利口な口きくワケねェだろうが!!」
※
皇大神宮内。
天照、何かに気付いたように顔を上げる。
ヰ怪による防衛対策を主とする「ヰ怪対策本部」の仕事の為、パソコンに向かい作業をしている途中のこと。
天照の秘書である山﨑(女)が、ちょうどお茶を淹れて持ってきた時の事だった。
山﨑、顔をあげて固まる天照を、怪訝な表情を浮かべて声をかける。
(天照、何者かが「人避けの術」を発動した事を察知)
山﨑「……あの、天照様? どうしたんです? 宇宙人と交信でもしてるんですか?」
天照「ンなワケあるかいッ!! ──ヰ怪じゃ! ヰ怪が現れよった! それも街の方に!!」
天照、慌てた様子で席を立ち、宮の外へ飛び出る。山﨑、その場で声をかける。
「でも、この街に入ってこれるのって下位レベルのヰ怪ですよね?」
「そんな慌てるような事ですか?」
山﨑の疑問に、天照は焦燥した様子で。
天照「何故かは知らんが、入ってきたのは上位ニ級クラスのヰ怪じゃ……!」
山﨑「……え?(持ってたペンを落とす)」
「上位って、そんな……」
天照、山﨑を置いて駆け出す。
山﨑「ちょ、ちょっと!」
「どこに行くつもりですか!?」
山﨑が後ろからついてくる。
天照「状況の確認くらいは必要じゃろ!」
宮の外で立ち止まり、天照、前方に手を差し出す。
一瞬、眩い光が輝くと同時に、彼女の手には大きな鏡が現れる。
山﨑「……何ですか、その鏡」
天照「八咫鏡じゃ(「ほれ」と言って山﨑に見せる)」
パリン。山﨑の眼鏡が割れる音。
山﨑「なに普通に三種の神器取り出してるんですか!!」
「それ私見ていいんですかね!?」
「大丈夫ですかね!?」
「呪われたりしませんよね!?」
天照「ああもううっさいなお主は!! 少しは黙っとれや!!」
幼女天照に、腰を抜かす勢いで縋りついて叫ぶ山﨑。彼女を怒鳴りつけ、鏡に映し出されたのは、陽子たちのいる公園だった。
山﨑「あれ……って、陽子様!? 何でこんな所に……」
山﨑、目を見開き驚嘆する。
その答えとなる「土蜘蛛」の存在を認め、思わず後退る。
山﨑「何ですか、この化け物は……!?」
※
【土蜘蛛:太い腹に脚八本、その上に鋭利な甲冑らしきものを身につけた胴体をした、約60メートルほどの蜘蛛の化け物】
【源頼光の手により、京都にて討滅。己のみならず、多くの子供たち(子供蜘蛛)を殺された事に、深い恨みを抱いている。】
※
天照「……」
額から汗を流す。
(蘇っておったのは晴明から聞いておったが……)
(ヤツが地獄(じごく)へ落ちたのは京都。こちら(三重)ではない)
(反応からして上位クラス……。2003年以降、わしは一度として結界を解いた事はない。じゃと言うのに入ってきた……。となると考えうるのは……)
天照、拳を握り締める。
天照「……誰じゃ? こんな化け物を蘇らせ、わざわざわしらにけしかけさせたのはッ……!」
※
転換。
公園を破壊し、周囲を飲み込む勢いで、大量の子蜘蛛を解き放つ、土蜘蛛。
60mをゆうに超える巨大蜘蛛は、蟻同然と言えるサイズの陽子へ、足を振るう。
それに習い、子蜘蛛が飛びついた。
陽子、足を左腕ではらい、全身にまとわりつく子蜘蛛を、「気持ち悪ィ死ねッ!!」と吠え、全身から紅蓮の炎を放出。子蜘蛛を焼き尽くす。
勢いをつけ、土蜘蛛に肉薄。
そのまま大きな足に飛び乗り、駆ける。
土蜘蛛「ねぇ、あなた! 源頼光を知らない!?」「ここにいるって聞いたんだけどさぁ!!」
迫る陽子へ、子蜘蛛を放つ土蜘蛛。
陽子、それを身に纏う炎で焼き払いながら、
「あァ!?」と空返事。
陽子「知らねェ──誰だそれァッ!!」
土蜘蛛の上。
踏み潰す勢いで足に力を込め、跳躍。
陽子、上空。
土蜘蛛は、落ちてくる陽子を食い殺そうと口を開ける。
土蜘蛛「私の子供たちはね……ソイツに焼き殺されてるのよ!!」
「だから私は決めたの!! 必ずソイツを、源頼光をこの手で殺すってェ!!」
噛み潰そうと大きく開かれた顎。
陽子は体を回転させながら、土蜘蛛の顔めがけて。
陽子「だったら大人しくあの世へ行ってろ、このクソ蜘蛛ォッ!!」
炎の回し蹴りをぶつける。
土蜘蛛「げハァッ……!?」
土蜘蛛、周囲の建物を巻きながら、後ろ向きに転倒する。
※
転換。
その一部始終を、八咫鏡で見ていた山﨑。青ざめた顔で、陽子を指差しながら。
山﨑「建物、めっちゃ壊してますけど……大丈夫なんですか?」
天照「いや全ッ然大丈夫じゃないが!?」
全身から汗を吹き出させ、天照は慌てた様子で鏡に顔を近づける。
天照「おい陽子、やめぇ!! それ以上下手に暴れるな!! 壊すな!!」
「それ治すためにわざわざ頭下げに行くの誰じゃと思っとるんじゃ!! おい!!」
山﨑(めっちゃ切実……)
必死に叫んで止めようとする天照。
しかし同然、鏡で写してるだけなので、声は届かない。
焦燥する天照。
そんな彼女のスマホから着信が入る。
天照「チッ、誰じゃこんな時に……!」
スマホの画面。
そこには、ひらがなで「晴明」の字。
天照、そのまま通話を押し、「もしもし!」と一声。
電話越しから、安倍晴明の「もしもーし」という軽い声。
天照「晴明か。何の用じゃ!? 今こっちは色々と立て込んで──」
晴明「ああはいはい。土蜘蛛の件でしょ? 知ってる知ってる〜」
天照「おお〜そうそう、土蜘蛛の件で〜……って何でお主が知っとるんじゃ!?」
山﨑(何か今日だけで、私の中の天照様像が崩れてる気がする……)
ノリツッコミまでかます天照を、やや遠い目で見つめる山﨑。
天照の電話相手である安倍晴明は、「そりゃ、僕ほどの大陰陽師──もとい、大ヰ滅師なら気付いて当然でしょw」と、ケラケラと笑いながら言い切る。
天照、苛立ちの表情をし、スマホから顔を離す。晴明、態度を崩さずにそのまま続ける。
晴明「とまぁ、そんな常識は一旦置いておいて」
天照(一々腹立つなコイツ……)
ジトっとした目をスマホに注ぐ。
晴明「──東京(こっち)でも上位級のヰ怪が現れてさぁ。どうやらあちらこちらで、上位クラスのヰ怪が出現しているんだよね」
天照「……何じゃと?」
晴明、一拍置いて。
「この感じ──身に覚えない? 天照様」
天照「……」
天照、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。
※
──公園。
倒れる土蜘蛛。肩で息をする陽子。
動かなくなった親蜘蛛の周りを、子蜘蛛が群がり、ガサガサと音をたてる。
陽子、唾を吐き捨て、土蜘蛛にトドメを指そうと近づき、尋ねる。
陽子「……お前、どうやってこの街に入ってきた?」
陽子の問いに、土蜘蛛は沈黙で返す。
陽子(この街には、天照様が展開させた結界がある。いくらコイツが強かったとしても、天照様の結界を破れるとは思えねェし、天照様が気付かねェ筈もねェ)
陽子は、土蜘蛛からの返答を待つように思考する。すると土蜘蛛は、「ウフフフ」と気味の悪い声を漏らし、呟く。
土蜘蛛「……教えてあげてもいいけど。せっかく起こしてくれたあの子に面目が立たないから、教えてあげなぁぁぁい♪」
陽子「……そうかよ」
陽子、拳を振り翳し。
「──なら、とっとと死ね」
陽子、「あの子」という言葉を怪訝に思う。
このままヰ怪を残す訳にもいかない。
祓うために、拳を振り下ろそうとする。
しかし体に力が入らず、その場で膝から崩れ落ちる。
陽子「……あ?」
ドクンと、心臓の音。
体内で激しく鼓動する。
視界がぼやけて四つん這いになり、そのまま吐血。
陽子「は……? ンだこれ──ぐッ!?」
直後。頭上から巨大な足。踏み潰される。
「ガハァッ!」と、大きく喀血。
土蜘蛛「あなた、体が硬すぎて全然攻撃が通らないだもの。だから少し、盛らせてもらったの♪」
「も・う・ど・く♪」
再び立ち上がる土蜘蛛。
そして、8本の足で、地に倒れ伏す陽子を、連続で踏み潰す。
土蜘蛛、足をあげる。すっかり動かなくなった陽子。
※
それを見守っていた天照と山﨑。
山﨑、目に涙を浮かべながら。
山﨑「天照様、このままじゃ、陽子様が!!」
天照「わかっておる……!!」
天照、八咫鏡を戻し、自身に力を集中させる。
天照「上位クラスとなれば、あの子では歯がたたん」「わしが祓いに──」
全身が眩く発光。「元の姿」に戻ろうとした時、晴明が「はいストップ」と声をかける。
途端に、天照の輝きが消える。
天照「……晴明。お主やっぱり邪魔しに電話してきたのか?」
晴明「違うよ?(声のトーンを変えて)……力、使わない方がいいんじゃない?」
晴明の問いに、天照の動きが止まる。
晴明「あなた(太陽神様)が出向けば、そりゃ一瞬で肩がつくだろうね」「上位クラスのヰ怪と言えど、天照様ほどの神を相手取る程の力は持ち合わせてはいないから」
「けれど、それは今じゃない」
「……あんたさぁ、何のために数十年も幼女体で力を制限してたんですか?」
晴明の言葉に、天照の表情が歪む。
山﨑、心中を察し、「天照様……」と呟く。
暗い空気が流れる。
晴明、「とは言え。このままじゃあの子が危険なのも事実……」と付け加える。
天照と山﨑、晴明の言葉に首を傾げる。
晴明「──という訳なので、今そちらに助っ人を送り出してま〜す!」
天照「……は?」
※
伊勢市駅、街頭の上。
黒い長髪を靡かせる少女。
白いセーラー服。
足や腕、頭等に、血の滲んだ白い包帯。
虚な瞳。(右目が無く、眼帯をつけている)
貼り付けたような笑顔を浮かべた少女。
左手には刀。鞘を佩くでも無く、手に持つ。
???「……討滅対象を確認」
眼帯側の瞳から血が溢れる。
少女、人形のような表情のまま。
???「──討滅を開始します」
※
土蜘蛛「あら。お客さんかしら」
土蜘蛛、空を見上げて呟く。
土蜘蛛「派手に暴れ過ぎちゃったみたいね」
「私は、源頼光を探しに来ただけなんだけど」
そのまま陽子を見下ろす。
無数の子蜘蛛に埋め尽くされ、ピクリとも動かない。
「ま、この子知らないみたいだし。それにもう虫の息だしね」「新しいお客さんにでも聞いてみましょうか」
土蜘蛛、陽子から目を離し、その場から退散する。
その時、子蜘蛛が一斉に発火する。
「……は???」
訳がわからず振り向く土蜘蛛。
そこには、ほぼ裸に近い状態の陽子が、全身から炎を纏い、立ち上がる姿。
その瞳は、獰猛な獣のソレ。
その視線に怯える土蜘蛛。
「ひっ」と声をあげ、前足を振り下ろす。
陽子、その足を掴んで力任せに引っ張り、地面に叩きつける。
土蜘蛛「ぐはッ……!!」
(──な、んなのコイツ……!?)
(何で死なないの!?)
(何でこんなにも頑丈なの!?)
土蜘蛛、跳ねる勢いで地に足をつける。
損傷は甚大。
肉体から大量の血が流れる。
眼前からは、炎を纏う神──獣の姿。
土蜘蛛(……というか、)
(何の神なのよ、コイツは……!?)
陽子、口から血を吐き出しながら右拳を握りしめ、土蜘蛛を睨みつける。
毒の影響で、意識が朦朧としつつある。
その時。眼前に蘇るのは少女の姿。
少女『助けてあげてください。困っている人を。苦しんでいる人を。あなたは、この世界を照らす太陽です。だから──』
陽子「……死ねないんだよ、アタシは」
右拳を引き絞り、腕を引く。
左腕を前に。足を地にしっかりと付け、土蜘蛛へと狙いを定める。
土蜘蛛、陽子の雰囲気が変わった事に警戒。
しかし、彼女からは、霊力・呪力・魔力といった力は感じない。
土蜘蛛、恐怖と、「今しかない」と子蜘蛛を放ち、前足を陽子に叩きつける。
陽子、朦朧とした意識の中で囁く。
「──ここで死んだら、アタシを信じてくれたあの子に、顔向け出来ねェんだよッ……!!」
※
転換。
誰もいなくなった皇大神宮内。
水槽の中から、「カチッ」という音が数回。
強化ガラスで出来た水槽に亀裂が走る。
水槽の中にいる生物。
天照の指を弾き、陽子が「師匠」と名付けたペット。
※
【──モンハナシャコ。海底最強の破壊王。
その破壊王の特筆すべき点は、その拳。
弓矢を引く時の原理を体内で再現させる。
パンチの速度は、生物界最速の
「時速80km」。
放たれた瞬間に、周囲の海水が沸騰して発光。
これは、パンチと共にキャビテーション現象により無数の気泡が発生し、強く圧縮された気泡からは、電離した気体がプラズマ化して発光される。
シャコのパンチの場合。
その現象によって、太陽と同じ「5500°の熱を発生させる」事が出来る。】
【彼女が思い浮かべるのは、師匠から繰り出されるパンチと、その威力。天照、太陽。】
【それら全てを脳裏で描きながら、無理やり再現させた必殺の一撃……。】
陽子、聞こえない程の声で言う。
「必殺──」
【シャコパンチ《太陽拳》】
解き放たれた拳は、土蜘蛛を正面から打ち砕き、子蜘蛛諸共、弾け飛ぶ。
肉片が雨のように振り注ぎ、陽子はその場で膝をつく。
※
転換。
山﨑、「や、やった! 倒しましたよ!」と喜ぶ。
しかし晴明、「いや」「まだっぽい」と言う。
晴明の言う通り、何故か肉体の一部が再生し、怒号を挙げ立ち上がる土蜘蛛。
山﨑、「そんなッ……!?」と、表情を歪め、「天照様っ!」と彼女の方を振り向く。
すると天照、神妙な顔を浮かべ。
「……何じゃ。あれは?」と。
陽子の後ろに立つ少女に、畏怖に近い視線を送る。
晴明、「何って、知ってるでしょ?」
「以前この街を護っていた、境界の御巫の娘──」
「神武寺命《ジンムジミコト》」
天照、「神武寺」の名を聞いた途端に、目を見開いた。
※
場面転換。公園。
陽子「クソ……今のでも死なねェのかよ」
動かなくなった右腕。
垂らしたままに、左拳を構える。
正気を失い、破壊の限りを尽くす土蜘蛛は、残った少ない足を、陽子に振り翳し。
陽子は、それを受けようと構える。
その背後。左手。
逆手で、刀の柄を持つ少女の姿。
少女の影から伸びる三本ほどの黒い腕が刀の鞘を抜く。
少女は、剥き出しになった刀を、槍を投げるように土蜘蛛へと投擲する。
ズグゥ!と突き刺さる刀へ少女は飛び上がり、柄の部分に乗るように刀を押し込んだ。
血反吐を吐いて倒れる土蜘蛛。
それを見ていた陽子。
少女、土蜘蛛の上で、陽子を見下ろす。
二人の視線が交わる。
陽子「……何だ、テメェ?」
命「何ですか、あなた?」
第一話 了。
