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#5|日本の役所は予想外だった

認知症の母と、MCIの父。
海を超えて遠距離介護をしています。

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フランスからの遠距離介護


気がつけば、
長い時間が過ぎていた。

日本との距離も、
そのまま保たれていた。

年に一度、
帰るか帰らないか。

家族との関係も、
大きく変わることはなかった。

親のことは、
気にはなっていた。

父は、
最近人の名前がなかなか出てこない、
と言っていた。

母のことを、
最近ボケてきたぞ、
と笑っていた。

でも、電話をするたびに、

二人で山に歩きに行ってきた、
スキーに行ってきた、
最近ちょっと腰が痛いけど、歳だからね、

と話していた。

元気そうだから、
まだ大丈夫だと思っていた。

でも、三日前の電話を、

両親は覚えていなかった。

ある日、
区役所の高齢者福祉課に電話をした。

久しぶりの日本の役所だった。

敬語がきちんと話せるかな。
そんなことを考えた。

初めてお電話させていただきます。

えっと、高齢の両親が○○区に住んでいて。
最近、物忘れがあるみたいで。
三日前の電話を、覚えていないんです。

あの、
父も少し、なんて言ったらいいのか、
ちょっと変なんです。

私は海外に住んでいて。
何から始めたらいいのかわからなくて。

えっと、あの、すいません。
日本語を話すのが久しぶりで。

大丈夫ですよ。
どちらにお住まいですか。

フランスです。

そうなんですね。
遠くにお住まいだと、心配ですよね。

それでは、
ご両親のお名前、ご年齢、ご住所をお聞かせいただけますか。

答えた。

少し間があった。

ご両親がお住まいのマンションは、ご高齢の方が多いですね。
民生委員の方が定期的に回っています。

お父様は、まだお仕事をされていますよね。
お身体はお元気なんですね。

あ、はい。
あの、そんなことまでご存知なんですか。

遠くから、早い時期にご相談いただいて、
ありがとうございます。

お礼まで言われてしまった。

いきいき支援センターというところが、
地域のご高齢者の生活支援の相談に乗っています。
介護保険のサービス利用にもつないでくれますよ。

今日ご相談があったことは、伝えておきますね。

介護保険。

確か、

日本を出る少し前、
そんな制度が始まったばかりだったのを思い出した。

いきいき支援センターに相談した。

ご両親の地域は、
山田さんという民生委員が回っています。
ご両親の様子は、山田さんから伺いました。

普段訪問すると、お母様が出られていたのが、
ここ数ヶ月、お父様が出られるようになったそうです。

近日、こちらからご両親のところへ様子を伺ってみますね。

区の役員がたまたま近くに来たので、
という感じで訪問した方が入りやすいと思います。
物忘れ検診も、お勧めしてみようと思います。

ご両親には、訪問のことはお伝えしなくて大丈夫ですよ。
またご連絡しますね。

そういうやり方があるのか、
あまりの心遣いに驚いた。

電話を切った。

知らないところで、
見守りの仕組みができていたことに驚いた。

日本の役所に電話して、
意外な優しさに力が抜けた。



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