#29|実家じまい② 空き家は、売れるまでお金を吸い続けた
認知症の母とMCIの父。
海を超えた遠距離介護を続けています。
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フランスからの遠距離介護
不動産会社の担当者に聞いた。
認知症だと
売却できなくなりますか。
担当者は言った。
判断能力がないと判断されると難しくなります。
でも、お父様が売却に同意されていて、
委任状があれば、
娘さんが最後まで手続きを進めることはできますよ。
父は委任状に署名した。
担当者は言った。
お父様と娘様、
お二人の身分証明書のコピーが必要です。
私はフランスに帰化していた。
フランスの身分証明書を見せた。
担当者は少し困ったように言った。
「日本語の身分証明書はありますか。」
ありません。
住所も国籍もフランスなので。
「これだと親子関係の確認が難しいかもしれません。」
隣で話を聞いていた父が吹き出した。
「お前が本当に俺の子なのか、母さんに聞いてみる。」
私は言った。
「覚えてないかもよ。」
二人で笑った。
査定どおりの価格で
売りに出した。
一か月後、
マンションの管理会社からメールが届いた。
水道ポンプから異音が出ています。
今まで一度も交換されていないようでしたら、
交換が必要だと思います。
見積りをしてもらった。
15万円だった。
私は担当者に聞いた。
修理をしないまま、
売却することはできますか。
担当者は言った。
できますが、価格は下がります。
あまりおすすめはしません。
修理をお願いした。
立ち会いが必要だった。
家の鍵を預けていた不動産会社の担当者にお願いした。
キャッシュカードと印鑑を預けていた叔母とは、
もう連絡が取れなかった。
支払いを頼める人は、
誰もいなかった。
まだ、日常生活支援事業へ金銭管理を依頼する前だった。
請求書を兄へメールで送った。
返信はなかった。
父が言った。
「それくらいなら、へそくりでなんとかなる。」
数週間後、
担当者から連絡があった。
今週、
二組の内覧予定が入っています。
少し安心した。
内覧が終わると、
担当者からメールが届いた。
「フルリフォームになるので、
400万円ほどかかるんですよ。」
「その費用を合わせると、
この価格なら新築を探そうと考える方が多いです。」
「それと、
このマンションは一般のお客様には不安になる要素がいくつかあります。」
「駐車場の数も世帯数より少ないので、
今借りている駐車場も、
売却すると買主へ引き継ぐことはできません。」
「この地域は車を持っていることが前提なので、
それも売れにくい理由になっています。」
そして、担当者は続けた。
「台所の蛇口から水漏れがあるのはご存じですか。」
知らなかった。
15万円は、
始まりにすぎなかった。
二組、
また二組。
内覧は入る。
でも決まらない。
値下げをした。
また内覧が入った。
また決まらなかった。
もう一度、
値下げをした。
私は聞いた。
「買取じゃないと、売れなさそうですか。」
担当者は言った。
「その方向で、買取業者にも何件かお話をしています。」
誰も住んでいない家なのに、
老朽化だけが進んでいく。
修理代も、
維持費も、
値下げも。
空き家は、
売れるまでお金を吸い続けていた。
年末の帰国まで、
あと二週間。
ようやく、
一件の申し込みが入った。
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