【成瀬 日本語・英語・翻訳講座】日本語編(37)日本語の語彙構造(5)漢語の世界(1)漢語受け入れのプラスとマイナス
(↑のつづき)
ここでいう「漢語」とは、1500年の歴史を通じて日本語のなかに音読みのかたちで組み入れられてきた中国語のことである[1]。
なかでも、奈良時代と平安時代に数多くの中国語が日本語に組み入れられた。
その後、鎌倉時代に禅宗関係の中国語がすこし入ってきたのち、流入の勢いは止まり、室町時代以降はほとんど入ってこなくなる。

漢語受け入れのマイナス
漢語を受け入れたことは日本語にとってプラスとマイナスの影響を与えた。
漢語を受け入れたことによる日本語のマイナスは、第一に漢語を受け入れたことで日本語の発達が止まってしまったことだ。
そのため和語だけでは理知的思考ができなくなってしまった。
自分の言葉でものごとを理詰めで考えることができなくなってしまったというのは本当に不幸なことである。
漢語受け入れの第二のマイナスは、漢語の体系が日本語の体系とはあまりにもかけ隔たっていたため、日本語の表記が非常に混乱してしまったことである。
漢語を受け入れたことで日本語に同音異義語が山のようにできてしまった。
日本語で「コー」と読む字は300以上ある。
「リョー」と読む字は200以上ある。
それを使い分けなければならないのだから、これで困難と混乱が起こらないはずがない。

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漢語受け入れのプラス
漢字の受容にはもちろんプラスもある。
日本語は人の視点から世界をみる傾向が強く、天の視点から世界を眺める傾向が弱い言語だ。
その結果、言語のあり方も人の心情を組み込んだきわめてウェットなものになる。
事実だけを淡々と述べるドライな利用の仕方がうまくいかない。
そうしたなかで漢語は、日本語のなかに深く根を張っていないがために、ドライであり、他者とのあいだのコミュニケーションを客観的なものに変える。
言語が「記号化」するのだ。
このことは漢字の受け入れから生み出された非常に大きなプラスである。
[1] 「漢語」という表現には中国語そのものを指す使い方がある。本来的にはこちらのほうが正しい使い方だ。
また後で紹介する翻訳語のうちの西欧言語の翻訳語の「新漢語」も漢語に含めることがある。
しかしここで使う「漢語」とはあくまで奈良平安の時代を中心に日本語が中国語から取り入れてきた語彙群のことを指している。
(つづきは↓)
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