英語が、深く読めていない(翻訳道中記より)
(2009.6.25執筆)
最近になってまた、まだまだ英語を深く読めていない、と感じることが多くなってきた。
英語を本当の本気で読みはじめてから30年。それでもまだしっかりと英語が読みきれてないのだから、まったく情けないかぎりだ。
30代の頃だが、英語がかなり読めるようになったと勘違いをした時期があった。
しかし今から考えれば、それはたんに「暗号解読」から抜け出せただけにすぎなかった。
その後、少しずつだが本当の意味で英語が読めるようになってくると、逆に自分自身の英語理解の拙さばかりが強く感じられるようになった。
その後は、少し読めるようになったかなと思ったら、その次には、やっぱり読めていないと思う、その繰り返しである。
先日の本科の授業で以下のような英文を受講生に訳させた。授業ではこれを検討したのだが、その検討のなかで教師である私自身が漫然と読みすごしていた点がいくつも見つかった。
①Some security analysis is devoted primarily to assuring that a share possesses the proper risk profile and other desired characteristics prior to inclusion in an investor’s portfolio.
②However, especially for many professional buy-side and sell-side security analysis, the analysis is also directed toward the identification of mispriced securities.
③In equilibrium, such activity will be rewarding for those with the strongest comparative advantage.
まず、この3つのセンテンス(①②③)の関係がどのようなものなのかを見つけ出さなければならない。
検討の結果によると、①と②は並列(ペア)関係、そして③については、②につづく情報であるとわかった。図にすると以下のとおりだ。
① = ②
↓
③
つぎに、①と②の各要素におけるペア関係は、以下のとおりである。
① ②
(1) Some security analysis = the analysis (Subject)
(2) is devoted = is directed (Verb)
(3) to assuring = toward the identification
(4) that a share possesses… = of mispriced securities
ここで、各要素のペア関係の内容をみてみよう。
まず、(1)におけるペア関係から、②のthe analysisが①のsecurity analysisの言い換え表現であることがわかる。
(2)からは、devotedとdirectedとが、ほぼ同じ意味で使われていることがわかる。
英語では、同一パラグラフのなかで同一表現を繰り返して使うことを極端に嫌うので、devotedとdirectedの違いは意味の違いが主要因なのではなく、おそらく単に繰り返しを避けるための方策であろう。
(3)におけるto assuringとtoward the identificationの動詞形と名詞形との表現の違いもまた繰り返し表現を嫌うという英語の特性によるものだろう。
もしも英語がそうした特性を持たない言語であったとすれば、toward the identificationが、to identifyingになっていてもおかしくない。
(4)のペアについてまず気づくことは、①と②では長さが極端に違うということだ。
①のほうにはa share possesses…以下、たっぷりと情報がつまっているが、②のほうはmispriced securitiesのみである。
これはどうしてなのか。
おそらく、③が②のmispriced securitiesのための付随情報だからなのだろう。
たとえば、③の表現を言い換えて②にくっつけてみれば、the identification of mispriced securities, in which those with the strongest comparative advantage will be rewarded by such activity in equilibrium.ぐらいの表現になる。
こうした分析の結果としてわかるこのテキスト内容は、次のようなことだ。
☆☆☆
まず、証券分析の第一の目標は、ある証券を投資家の証券ポートフォリオの組み入れる前に、その証券の持つリスク特性やその他の性質を明確にしておくことにある。
ただし、特にセルサイドやバイサイドのプロ証券アナリストにとっては、証券分析にはもうひとつの目標がある。それは“ミスプライス”の証券、つまりファンダメンタル価格から市場価格がずれている割安または割高の株式を見つけ出すことにある。
しかし均衡状態にある市場では、そうした活動が報いられるのは、最も高い比較優位性を持つアナリストだけに限られる。
☆☆☆
これで、上の英文のおおまかな内容はほぼ理解できたと思う(ただしまだまだ見落としている要素がどこかにあるのかもしれない)。
そして、ここからようやく本当の翻訳作業へと移ることができるのである。
理想論をいってしまえば、英語が日本語とまったく同じレベルで読めなければ、本当の意味での翻訳はできないのだろう。だが、それは一生かかっても私には無理である。
とすると、私はいつまでも本当の翻訳ができないということになるが、それでは翻訳者としての生活が成り立たない。そこで、いろいろとごまかしながらも翻訳という仕事をいままで続けてきたというのが、実際のところであろう。
しかしそれでも、本当に少しずつなのだが、以前とくらべれば、英語が読めるようになってきているような気もしないではない。
これからも、日本語とまったく同じように英語を読むという理想をつねに抱きつつ、英語を読む力を少しずつでも伸ばしていくしかないのだろう。
