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【成瀬 日本語・英語・翻訳講座】日本語編(33)日本語の語彙構造(1)和語の世界

(↑のつづき)

日本語の語彙構造

日本語の語彙構造の最大の特徴は、和語、漢語、翻訳語(カタカナ語、翻訳漢語)の三重構造をしていることである。

このような三重構造を持っている言語は世界の言語のなかでも日本語以外にはまず見当たらない。

和語、漢語、翻訳語の順にその特質をみていく。

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和語の世界

和語は日本人の心のふるさとである。

漢語や翻訳語のように頭で理解するのではなく、心で感じることのできる言葉である。

その代表例として和歌をいくつか挙げておく。

東の 野にかぎろひの 立つ見えて
かへり見すれば 月かたぶきぬ
(柿本人麻呂/万葉集)

いはばしる たるみの上の さわらびの
  もえ出づる春に なりにけるかも
(志貴皇子/万葉集)

難波津(なにわづ)に 咲くやこの花 冬ごもり
今は春べと 咲くやこの花
(古今集仮名序)

ひさかたの 光のどけき 春の日に
  しず心なく 花の散るらん
 (紀友則/古今和歌集)

「もえ出づる春に なりにけるかも」
「今は春べと 咲くやこの花」。

こうした表現に心をうたれない日本人はいないのではないだろうか。

「心をうたれる」といっても漢語でいう「感動」とは違う。

それは、私たちの心に静かに沁みいってくる何かだ。

和語の世界を通じて私たちは1500年も前の私たちの先祖とほぼ同じ心情を共有することができる。

このようなことができる民族は世界でもきわめて稀だ。

和語は日本人にとってかけがえのない宝だといってよい。

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きめこまやかな心情表現に優れる

和語は日本人が数千年にもわたって使い込んできた言葉であるから、日本人の心情を表わすには最適の表現を数多くそなえている。

いまでも日常会話はほとんどが和語だけで行われている。

一見欧風化されたと思われている現代風の流行歌でも、じつは圧倒的に和語が中心である。例を挙げておく。

あれから僕たちは 何かを信じてこれたかな
夜空の向こうには 明日がもう待っている

誰かの声に気づき 僕らは身をひそめた
公園のフェンス越しに 夜の風が吹いた
君がなにか伝えようと 握り返したその手は
僕の心のやらかい場所を 今でもまだ締めつける

あれから僕たちは 何かを信じてこれたかな
マドをそっと開けてみる 冬の風の匂いがした
悲しみっていつかは 消えてしまうものなのかな
タメ息は少しだけ 白く残ってすぐ消えた

歩き出すことさえも いちいち ためらうくせに
つまらない常識など 潰せると思ってた
君に話した言葉は どれだけ残っているの?
僕の心の一番奥で 空回りし続ける

あの頃の未来に 僕らは立っているのかな
すべてが思うほど うまくはいかないみたいだ
このまま どこまでも 日々は続いていくのかな
雲のない星空が マドの向こうに続いている

あれから僕たちは 何かを信じてこれたかな
夜空の向こうには もう明日が待っている

(夜空ノムコウ/SMAP、スガシカオ作詞)


これだけの歌詞のなかで漢語は「公園」「場所」」「常識」「未来」「僕ら」「信じる」「一番」だけである。

いずれも和語と見分けがつかないほど慣れ親しんでいるものばかりだ。

そのほか「フェンス」が翻訳語で、あとはすべて和語である。

和語が日本人の心情をきめこまやかに歌い上げるのにいかに適しているかがここからよくわかる。

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テキストの例も挙げておく。

以下に紹介するのは毎日新聞2006年4月6日東京朝刊に載った28歳の主婦の方の投稿文である。

「主人」「五感」「山賊」「財宝」「人生」「普通」「簡単」「部分」「結婚」が漢語、「オールカラー」が翻訳語で、そのほかは和語である。

主人が「さぁそろそろ寝るか」と思った時のこと、妻の私が泣いていたそうです。しかも寝ながら!

ところが、驚きはそれだけでは終わりませんでした。「浮気されたぁー」と(眠りながら)叫ぶ私。そのころになるともう面白くなってきて、「へー誰と誰が浮気したの?」とからかったそうです。
私の夢はオールカラーで五感付き。しかも眠りが深いので起きた時は全く覚えていませんでした。

次の日。「うひゃひゃひゃひゃ」という笑い声で主人は目が覚めたそうです。「そんなわけないでしょ、せいぜい『うふふ』でしょ」と焦る私。「そんなんじゃない」と主人。そんな……山賊の頭なんかが財宝をごっそり手にいれた時の笑いみたいじゃないですか。

私は人生の幸せとは「普通」であり、その「普通」であるように努力することが簡単そうに見えてどんなに難しいことかと思っています。そんな私でも、とんでもない人生に夢を持っている部分もあるのかなあ、他の人生を夢で生きているかもしれないと思うとわくわくしました。

「女の気持ち」を読んで「私だって仕事を続けていれば」「結婚して子供を産んでいれば」など、皆さんもないものにあこがれがちではないかと思いますが、もしかしたら、夢の中では「選ばなかった人生」をちゃんと生きているのかもしれませんよ。

毎日新聞2006年4月6日より

この投稿者の心情がうまく表現されている。

ここに表されているこまやかな心の動きを英語の翻訳することはきわめて困難だ。

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