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【あすで弟くんの就学】(後編)「疲れた」が消えた日、僕が僕の言葉を手に入れた

前回の話の続きです。

あすで弟くんは、兄くん同様、就学相談では「通常級が適当」という判断でした。
しかし、兄くん以上に小学校生活のスタートは大変そうに見えました。

兄の時と同じように、学校には「彼が楽しく過ごせるなら、作品を完成させるなど無理はさせないでください」と伝えていました。
それにもかかわらず、彼は毎日毎日「疲れた〜」と言い続けたのです。

今になって思えば、彼にとって「集団」という場がとにかく疲れる場所だったのでしょう。
その理由は、周りの人とのコミュニケーションの方法が分からなかった、という点に尽きると思います。

当時、彼に何かを聞いても、返ってくる言葉は「わからない」ばかり。
そんな「わからない世界」で生きていた彼は、友達から馬鹿にされてしまうこともあったようです。

ある日、私は息子の筆箱を持ったお友達が、こう言うのを偶然聞いてしまいました。
「これ、バカの筆箱じゃん」
その子たちは他にも何か言っていましたが、私は息子がそんな風に馬鹿にされているという事実に衝撃を受け、その場に立ち尽くしてしまいました。

後になって、「なぜその場で注意しなかったの?」「名前を確認しなかったの?」と色々な人に言われました。
現役の教員でありながら、自分の目の前で息子が馬鹿にされているのに、私は何も言えませんでした。
その子たちは私があすで弟くんのママとは知らず、言っていたのでしょう。

でも、あの一件で、彼が毎日「疲れて」しまう理由が、少しだけ見えたような気もしたのです。
(正直に言うと、あすで弟くんの周りには、今でも言葉遣いが乱暴な子が多いです。ゲームをしながら飛び交う言葉は、弟本人を含め、私としては到底許容できるようなものではありません。何度となく伝えていますが、ここは兄とは違い、なかなか難しいところです。ごめんなさい、話が脱線してしまいました。)

そんな出来事もあり、療育センターからの勧めもあって、弟は通級指導教室に通い始めます。
そこで約1年間、個別指導と集団指導を受けました。
その結果、彼の語彙力とコミュニケーション能力は、飛躍的にアップしました。

中でも一番大きかったのは、「質問する」という技を身につけたことだと思います。
「僕はこう思うけど、君はどう思う?」
分からない時にも、こう聞けるようになりました。
「ごめん、僕はまだ分からないんだけど、みんなはどう思ってるの?」

まるで定型文のようですが、この「魔法の言葉」を手にしたことで、彼は驚くほどスムーズにコミュニケーションが取れるようになったのです。
分からない時は人に聞き、その意見に「乗っかる」という術を覚えました。

もう一つ、素晴らしい言葉も習いました。
「その意見もいいね」
自分と違う意見を持つ人と、平和に関わるために大活躍する言葉です。

通級は、こうした「コミュニケーションの具体的な言葉」を学ぶ場として、彼にとって最高の場所でした。
そして、もう一つ。
彼を大きく変えたのが、新しい放課後等デイサービスとの出会いでした。
そこは新設されたばかりのデイサービスで、まだ人間関係が固定化されていませんでした。
誰もが新しい人間関係をこれから作っていく、という環境だったのです。
彼は、通級で習ったばかりの言葉を、早速そこで試します。

すると、うまくいった。
また使ってみると、またうまくいった。

成功体験を重ねることで、彼はあっという間にその言葉を自分のものにしていきました。
デイサービスという小さな集団で毎日トレーニングを積むようにして、彼は確かな力を身につけていったのです。
そしてその力は、ついに通常級という大きな集団の中でも発揮されるようになりました。

小学3年生の1年間を通級で過ごし、退級が決まる頃には、彼の口から「疲れた」という言葉はすっかり消えていました。
今では、デイサービスでは「兄貴分」のような存在。
年下の子たちに慕われ、優しく接していると聞きます。

以前、彼にこんな意地悪な質問をしてみました。
「人生楽しい?もし明日、命が終わっても、やり残したことはないって言える?」
すると彼は、間髪入れずにこう答えました。
「いつ死んでも満足だよ」

療育センターの先生からも、「特性が消えたわけではないけれど、今の彼の環境とスキルを考えれば、もうASDと診断しなくてもいいレベルです」と言われるほど、彼は毎日を楽しく過ごせているようです。

私に似た性格の兄くんとは全く違うタイプの、あすで弟くん。
正直に言うと、兄のエピソードよりも、彼のことを書く時の方が、当時の辛い記憶が蘇ってきて胸がえぐられるような思いがします。

それでも、彼が今、笑顔でいてくれること。
それにただただ感謝しかありません。
まだまだ子育てに気は抜けませんが、ひとまず、弟くんのこともこのまま温かく見守っていこうと思っています。

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