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「グリーンインフラに関するファイナンスガイドライン(中間とりまとめ)」を読み解く

 自然の力を借りる、グリーンインフラは、素晴らしいアイディアで、世界でも採用され広がっており、国内でも挑戦が進んでおり、国土交通省も本格的に取り組んでいます。しかし、いざ取り組んでいる現場ではさまざまな難しさに直面しています。そして、それは、たいてい「お金」の話です。そこで、今回、今までの経験をお金の面から整理された熱いレポートが3月に出たのでご紹介をしたいと思います!
 国土交通省総合政策局環境政策課から出た『グリーンインフラ(GI)に関するファイナンスガイドライン(中間とりまとめ)』です。GI事業の資金調達に特化した実践的指針として、事業類型化、ロジックモデルの活用方法、具体的な資金調達スキーム例、中間支援組織の必要性などを体系的に整理したものです。この中間まとめの凄さは、現場の担当者へのヒアリングを踏まえた「実践知の集大成」になっている点です。市民ファンドを組成した自治体職員、SIB(ソーシャルインパクトボンド)の旗振り役を務めた金融グループのスタッフ、NFTを駆使する地方都市の戦略パートナー——何を悩み、何で突破したのか。さまざまなスキームについても、日本国内の実際の実践が分析され、「何がうまくいったのか」「どんな条件が必要だったのか」を整理している必読のレポートと言えます。今回は、グリーンインフラに「お金が回る仕組み」をどう設計すればよいのか、という問いをこのレポートに向き合って整理したいと思います。
 今日も楽しんでいってくださいね!

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 なぜグリーンインフラにはお金が集まりにくいのか

 グリーンインフラという言葉自体は、いまや多くの方が耳にしたことがあるでしょう。河畔林、緑地、雨庭、ビオトープ、浸水リスクを抑える遊水地、屋上緑化、街路樹のレインガーデン——こうした自然の機能を活かしたインフラを、都市や地域に組み込む取り組みのことです。生物多様性の保全にも、防災・減災にも、住民の精神的健康にも、そして地価の向上にさえ寄与するとされています。例えば、以下の図のようなイメージです。

 なお、「自然」には原生的な生態系だけでなく、二次林、里山、都市緑地などの人為的に改変されたものも含まれ、「社会資本」には民間所有の緑地など公共的機能を果たす非公的な財も含まれます。

 GIの主な対象(場・空間)は、山地から海に至るスケールに応じて、森林・里山、河川・湖沼、農地、道路、宅地、都市、海岸、港湾の各カテゴリで具体例が示されています。

 では、これほど効果が期待されるGIに、なぜ民間資金が集まりにくいのでしょうか。理由はシンプルで、「効果が見えにくい」からです。グレーインフラ(コンクリートの護岸、排水管、ダム、堤防)と異なり、グリーンインフラの便益は多面的で、かつ誰かの財布に直接入ってくるわけではありません。水害リスクが減っても住民の保険料が下がるわけでもなく、地域の景観が良くなっても特定の事業者が確実に収益を上げるとは限りません。雨庭が雨水を浸透させて下水道への負荷を減らしても、その削減分が事業者の収益として現れるわけでもないのです。経済学の言葉でいえば、これは「正の外部性」の問題です。社会全体には便益があるのに、その便益を生み出した主体が対価を回収できない。結果として、市場メカニズムだけでは過少供給になる。これがGIの構造的な資金調達課題です。

 本ガイドラインでは、GIの事業規模全般を広く取り扱うことを想定しています。ガイドラインでは2030年に向けて、本ガイドライン(2026年3月)の策定をスタートに、~2027年度はセミナー開催等を通じた自治体・企業等への普及啓発が計画され、2030年度以降の到達点として、「GIファイナンスガイドラインによる資金調達手法の確立」「GIに関する融資又は金融商品を1件以上創出」「ネイチャークレジット等の日本における市場の確立及び案件の創出」が掲げられています。

具体的な資金調達手法検討への道のりは、4ステップで示されています。第一に「GI事業が及ぼす価値の整理」、第二に「資金調達におけるGI事業類型」、第三に「受益構造の可視化(ロジックモデル)」、第四に「ファイナンススキームの検討・活用」です。

内部経済価値と外部経済価値

 ガイドラインが特に強調するのが、内部経済価値と外部経済価値の二重構造とその相互作用です。都市開発やまちづくりにおいてGIを活用することで、企業等の企業資産・利益の向上や金融機関への安定的な分配等につながる内部経済価値に留まらず、地域価値向上等の外部経済価値にもポジティブな影響を与え、これらは相互に関係しており外部経済価値向上はブランドイメージ等を高め内部経済価値のさらなる向上にもつながるとされます。

 事業実施主体側では、内部経済価値として非財務情報の開示によるIR効果・社会貢献活動の周知に伴うブランドイメージ向上による企業価値向上、賃料上昇・期待利回り低下を通じた資産価値の向上、売上の増加が生まれます。資金提供主体側では事業実施主体の資産価値向上や売上増加等による安定的な分配・金利収益の確保がなされます。外部経済価値としては、従業者・市民の生活の質向上、地域リスク低減による持続可能な地域形成、地域価値の向上が生じます。
 この取りまとめでは、資金調達を成功に導く3つの柱として、目標・効果の明確化、事業体制構築、そして、調達アプローチだとしており、それをしっかり分類して事例をつけて体系化していることがポイントになります。


GI事業における資金調達の類型化

 ガイドラインはGIプロジェクトにおける資金調達手法を、サステナブルファイナンス(グリーンボンド、グリーンローン、サステナビリティリンクボンド/ローン)、PPP(官民ファンド、PFI、PFS/SIB)、価値取引(ネイチャー/カーボンクレジット)、寄付・補助金等(ふるさと納税、クラウドファンディング、補助金)の4カテゴリに整理しています。「GI事業においては、リターンを狙う投融資だけでなく、GIが官民双方に関係することから、官民連携をともなう仕組み(PPP)の活用も期待されるとともに、事業の共感を起点とする寄付も活用可能」と総括されています。

5つの事業類型

 GI事業を資金調達の観点から分類するキー概念は「GI事業の価値が収入に転換可能かどうか」です。ガイドラインはこの軸と民間主導/公共主導の軸を組み合わせ、5つの事業分類を設定しています。事業分類①から⑤の順に、私益性が高い事業から公益性が高い事業へと並びます。

事業分類①「GIの取組価値を収入に転換可能な事業」は、マンション、オフィスビル、商業施設等の雨庭整備や緑地空間整備、新規事業にGI効果を持たせることで本業収入の発生・増加する事業です。事業主体は民間企業で、業界は建設業・不動産業等。東急の南町田グランベリーパークへのGI導入が事例。新規事業の参考としてプランティオ株式会社(シェアリングIoT農園)、Nudge株式会社(ナッジカード利用額に応じた植樹寄付)、株式会社SynecO(耕起・施肥・農薬を必要としない農法)、GOOD GOOD株式会社(荒廃農場を活用した和牛繁殖)が挙げられています。

事業分類②「自社の事業リスク低減に資するGI事業」は、自社のリスク低減につながる健全な地下水流動保全等。業界は飲料/製紙、半導体、製造業で、コカ・コーラの事業所周辺の水源林保全が事例です。

事業分類③「本業が地域のリスク低減に資するGI事業」は、施業の工夫等による地下水涵養効果や防災機能の発揮。業界は農業/林業/漁業等で、北海道網走川流域自然保全活動が事例です。

事業分類④「本業以外で社会貢献に取り組むGI事業」は、森林整備等の自然関連活動への寄付やボランティア。神奈川県川崎市の空き地のオープンスペース化が事例です。

事業分類⑤「地域の基礎インフラを担う公的なGI事業」は、流域治水、都市整備、森林整備等の広範囲における行政の取組み。事業主体は国・地方自治体で、京浜河川事務所の鶴見川多目的遊水地が事例です。

類型ごとの資金調達手法

 5事業類型ごとに、活用可能な資金調達手法が整理されています。

事業分類①では、GIの取組から直接収入を獲得することができるため、直接事業資金を調達することが可能。サステナブルファイナンス、PPP、クレジット(クレジット化要件を満たす場合)、寄付・補助金等のいずれも活用可能とされます。

事業分類②③では、GIの取組が民間事業者・地域のレジリエンス向上に寄与するため、官民でリスク分担することで資金調達が可能。サステナブルファイナンス、PPP、クレジット、寄付・補助金等が活用可能です。

事業分類④では、社会貢献性が高く基本的に収益性の高い事業ではない傾向にあるため、公的な補助金を獲得し事業を実施。サステナブルファイナンスとPPPは「当事業による返済原資の確保が困難」として活用困難と整理されており、クレジットと寄付・補助金等が活用可能です。

事業分類⑤では、GIが地域に与えるインパクトを成果指標等のエビデンスをもとに地域に説明し寄付等を募集可能。サステナブルファイナンス(ボンド等)、PPP、クレジット、寄付・補助金等(ふるさと納税・補助金・NFT等)が活用可能です。

「GI事業の価値が可視化され、資金提供主体の理解や行政による様々な補助金・税制優遇などを活用できれば、事業単体での資金調達や官・民が社会的価値を背景に連携し、多様な資金調達手法が活用可能」と総括されています。


GI事業類型ごとのロジックモデル

 ロジックモデルとは、事業の成果(アウトプット)や最終的な便益(アウトカム)を踏まえて事業の受益構造を可視化した図を指します。

 作成目的は、GI事業が及ぼす多面的な価値を具体化し受益構造を可視化すること、間接・直接的な受益者を明らかにすること、受益者から事業資金を捻出・回収するビジネスモデルを検討することです。構成要素は4つ:①事業、②アウトプット、③アウトカム(直接アウトカム→中間アウトカム→最終アウトカム)、④受益者です。

 活用のポイントは3点に整理されています。第一に「関係者参画の機会をつくり事業に関する意識醸成」——関係者全員で共通認識をもち意識醸成を行う機会にすること。第二に「受益の多寡に関わらず受益者全体の巻き込み」——受益者を受益の種類に関わらず積極的に事業に巻き込み、役割分担や資金の拠出についても議論すること。第三に「成果の見える化としてアウトカムを成果指標へ活用」——整理した項目を効果の見える化として成果指標に用いること(PFS・SIB等の指標としての利用可能性も視野)。

作成ガイド:4ステップ

ステップ❶「事業を設定」では、各主体がどのようなビジョンを持ちどのような課題を解決したいのか対話・確認し、それをベースに今回実施したいGI事業を検討して事業欄にセットします。「特定の事業ありきでロジックモデルを作成しないようにしましょう。地域の課題を解決するという本質を見失わず、主体間の対話を重ねることで事業を決定します」と注意喚起されています。

ステップ❷「アウトプットを設定」では、グリーンインフラ実践ガイド等を参照し、当該事業がどのような効果をもたらすか直接的な効果を考えます。

ステップ❸「直接アウトカムを設定」では、アウトプットが各受益者に対しどのような生態系サービス(供給・文化的・調整・生息地サービス)や付随的効果をもたらすかを考え、ツリー上に関係性を表現します。「アウトプットは事業者が主体となる項目なのに対し、アウトカムは受益者が主体となる点に注意」と指摘されています。

ステップ❹「最終アウトカム・受益者を設定」では、GI事業が最終的にどのような主体に対しどのような便益をもたらすかを考えます。「最終アウトカムを経済的な価値(受益者からの資金が得やすい価値)・社会的な価値(受益者からの資金が得にくい価値)に分類することで、資金調達手法の検討時に参考とすることができます」とされています。

5つの検討ケース

 ガイドラインは5事業類型それぞれに対応するロジックモデルを示しています。

 ロジックモデル①は事業類型①の例として「雨水貯留設備や緑地を活用した商業地・住宅の再開発事業」を扱います(南町田グランベリーパーク、リボンシティ等が該当)。

 アウトプットは雨水貯留・浸透施設、緑豊かな空間(屋上・壁面緑化等)、緑地に囲まれたオープンスペース、生物とのふれあいの場。最終アウトカムへの連鎖として、雨水の水質浄化→地域全体のウェルビーイング向上、雨水の一時貯留・流出抑制→地域レジリエンス向上・事業継続リスク低減、雨水の再利用→施設運営費用の削減に伴う事業収益の向上、緑による炭素吸収→クレジット売却による収益創出・ICPの観点での施設価値向上、空間の快適性向上→賃料増加に伴う事業収益の向上などが描かれます。

 ロジックモデル②は事業類型②の例として「飲料メーカーによる自社工場稼働地域の水源涵養を目的とした森林保全活動」を扱います(サントリー天然水の森、コカ・コーラの水源保全活動等が該当)。

 最終アウトカムとして、地域住民への木材供給→地域林業・製造業の維持・再生、水質の浄化・ミネラル分付与→事業に必須な良質な水資源確保、洪水の緩和→事業に必須な十分な水資源量確保、土壌崩壊・流出の防止→流域住民の生活基盤・経済活動の維持などが描かれます。

 ロジックモデル③は事業類型③の例として「水辺緩衝林等を活用した防災に寄与する自然環境の保全活動」(北海道網走川流域)を扱います。農地崩落抑制・土砂流出阻止→事業停止リスク低減、植物による水質浄化→農業用水の安定供給、日陰増加による水温上昇抑制→湖・沿岸の漁獲量増加、生物多様性の維持→コミュニティ強化・若年層の定住・関係人口の拡大などが整理されます。

 ロジックモデル④は事業類型④の例として「産学官民の連携により実施している、低未利用地を活用した地域コミュニティの場の形成」(カナドコロ、カシニワ制度等)を扱います。火災時の延焼防止・緊急時避難場所活用→地域レジリエンス向上、雨水の保水・浸透促進→地下水資源の保全、地域の人々の交流・レクリエーションの場創出→地域全体のウェルビーイング向上・地域全体の地価上昇などが描かれます。受益者として地域住民が中心であり、資金調達主体は地域住民に加え自治体も考えられる、と注釈されています。

 ロジックモデル⑤は事業類型⑤の例として「水辺の遊休農地・公園等の遊水地としての活用」(鶴見川多目的遊水地等)を扱います。災害時避難場所の提供・延焼防止→事業停止リスク低減、洪水調節機能→水循環の健全化、生物多様性の向上→水辺生態系の持つ機能の研究促進、エコツーリズムの推進→飲食店等観光に関する消費増加・周辺地域の地価の上昇などが整理されます。

ロジックモデルを活用した資金調達スキーム検討の考え方

 GI事業の資金調達手法を検討する際にもロジックモデルを活用することで、官民が連携したブレンデッドファイナンス等の手法の検討が可能となります。ロジックモデルが示す各主体が費用を負担することで低減できるリスクを考えることができ、関係する主体が納得のいく費用・リスク分担を協議することができます。

 具体例としてロジックモデル②(飲料メーカーによる森林保全活動)に基づく検討が示されます。地域住民に対しては、最終アウトカムとして地域社会のコミュニティ強化・地域全体のウェルビーイング向上等が想定され、費用負担は自治体の負担と地域住民からの寄付等を検討可能、低減できるリスクは地域社会が衰退するリスクの低減です。民間企業に対しては、最終アウトカムとして事業に必須な良質な水資源確保・観光に関する消費増加等が想定され、費用負担は民間企業からの投資・寄付等の資金拠出を検討可能、低減できるリスクは事業停止リスク・商品価値低下リスク・地域産業衰退リスクの低減です。これらにより、官民双方からの資金調達の活用可能性が広がります。


具体的な資金調達スキーム・体制の検討

ファイナンススキームの全体像

 ガイドラインは官民協業等によりGI事業での資金調達手法の拡大に資する6つのスキーム(A:市民ファンド、B:負担付き寄附、C:公有地貸付方式、D:PFS/SIB、E:カーボン/ネイチャークレジット、F:NFT等)を提示し、特に今後の活用が期待されるスキーム(SIB・ネイチャークレジット)について詳述しています。サステナブルファイナンス領域はGB・GLガイドライン等にて参照可能なため、本ガイドラインの主たる解説範囲からは外されています。各スキーム例は、①スキームと役割、②メリット、③留意点、④スキーム例、⑤実現のため参考になる事例という構成で整理されています。 
 一番大きな目線は、GI事業の価値を収入に転嫁できるか?がポイントになります。

スキームA:市民(官民)ファンド

 個人や企業が資金を捻出し、一部行政の補助を受けながら市民ファンドを組成。ファンドから事業者に資金提供(借入)し、事業収益から出資者に配当金として還元するスキームです。返済・償還原資はGI事業からの収益を想定。役割は、①資金拠出(地域住民・地場企業)、②ファンド設計・募集・契約・配当業務(地域金融機関やNPO法人)、③事業実施・成果報告(事業実施企業・個人)。メリットはGI事業者の銀行以外の調達ルート確保と長期安定的な資金調達モデル構築、自治体・地域の地域内資金循環による経済の地産地消、資金提供者の社会貢献に加えた利息・配当などの経済リターン訴求と地域貢献への満足度獲得です。

 具体例として農地荒廃の再生事業に市民ファンドを活用するモデルが示され、参考事例として自然エネルギー市民ファンド(地域住民が市民ファンドを結成し再エネ事業に出資)と山口銀行・長門市(地域金融機関・民都機構が出資しファンドを組成し長門湯本温泉観光まちづくりを支援)が紹介されています。

スキームB:負担付き寄附

 民間が主体となり整備した施設の利用・運営管理や指定管理者の指名を条件に自治体に寄附を行うスキームです。自治体からの指定管理費用等を原資に民間企業が調達資金を返済し、第三者評価機関から定量インパクト証明を取得します。役割は、①GIの企画・建設・寄付(一般企業・NPO法人)、②施設の所有・管理委託等(地方自治体)、③施設の管理・定量評価(中間支援組織としての研究機関・金融機関・民間事業者等)。メリットは自治体の債務負担なくGI設置が可能・地域内外の民間からの資金流入、民間事業者の固定資産税等の減免・指定管理という安定した返済原資、資金提供者のデフォルトリスクの低減・担保信用保証付与の可能性です。

 参考事例として佐賀県江北町の公園(Open A、ランドスケープ・プラス、日生開発が地域の原風景を象徴する公園を設計・建設し、指定管理者制度により地元企業に管理・運営を委託)が紹介されています。GIで実装する際のポイントは、初期費用を民間事業者が負担・調達できるか、行政側で指定管理費用の予算確保ができるか、生まれる経済的価値等を行政・事業者間で連携し判断の合意ができるか、です。

スキームC:公有地貸付方式による官民連携

 自治体所有の土地で民間企業が商業施設の建設・運営で収益を上げながら、自治体に対して賃借料を払うスキーム(国は一部補助)。市有地貸付収入+国の補助+民間収益を組み合わせた官民連携です。役割は、①GIの企画・建設(デベロッパー等)、②土地の所有・貸借・資金提供(地方自治体)、③施設の管理・運営・自治体との賃借契約等(地元企業、金融機関、専門機関)。メリットは自治体の債務負担なくGI設置が可能・賃貸収入から維持管理費用捻出、民間事業者の比較的安価な土地利用と補助金活用、資金提供者の初期投資リスク低減・補助金によるデフォルトリスク低減です。

 参考事例として守谷市の旧市役所跡地活用(Park-PFI制度を導入、市が土地を無償貸与し大和リースが資金調達して商業施設と公園の一体整備を実施)が紹介されています。緑等のオープンスペース(非収益施設)と利活用施設(収益施設)を連携利用させる構造です。GIで実装する際のポイントは、収益性の補填(GI単体で収益化が難しいため商業施設等の収益化可能な施設とどのように紐づけるか)、便益の可視化(浸水リスク低減や二酸化炭素吸収など効果が見えにくいため定量的な指標の提示が必要)、です。

スキームD:PFS/SIB

 民間資金を活用して公共サービスを成立させ、事前に設定した定量的な成果が出た場合に行政からの成果連動支払を原資として資金提供者へ償還する成果連動型契約スキームです。役割は、①SIBの企画・発行・伴走支援(地元企業・NPO・コンサル等の専門機関、金融機関等)、②成果の可視化・調査・エビデンス提供(大学等の専門機関)、③資金提供等を受けGI事業を実施(民間事業者等)。メリットはGI事業者の対外的信頼度向上・成果達成によるスケールアップ可能性、自治体の財政負担軽減・失敗リスク抑制・官民連携促進・効果の定量的評価、資金提供者の利回り期待・公的機関との連携による信用リスク低減。留意点は成果指標の設定と投資家・資金提供者の確保、第三者評価機関の選定とモニタリングコスト、ボンド組成に必要な資本コスト・金額規模です。

 参考事例として前橋デザインコミッションによる馬場川通りアーバンデザインプロジェクト(月間歩行者通行量を成果指標とするSIB、まちづくり分野・自治体業務委託において初のSIB活用事例)が紹介されています。成果連動支払分も最大額の結果となり、資金調達と目標成果の達成に成功した事例です。

スキームE:カーボンクレジット

 GIの「脱炭素効果」をクレジットとして発行・売買するスキームです。適切な森林管理によるCO2吸収量等を国等の認証主体がクレジット認証し、企業がオフセットやPRに活用、環境保全活動への資金循環と社会全体の脱炭素化に寄与します。役割は、①GI事業・CO2の計測・報告(GI事業者、自治体、NPO)、②クレジットの認証・情報公開(国・自治体・民間団体等)、③クレジットの購入・資金提供(一般企業・自治体)。メリットはGI事業者の資金調達手段多角化・採算性向上、自治体・地域の民間資金活用GI整備・地産地消型仕組み構築、資金提供者の地域・環境貢献PR・カーボンオフセット・生物多様性保全等の付加価値。留意点は適切なCO2削減・吸収量等の測定や報告・検証の手続きにかかるコストです。

スキームF:NFT

 自治体や事業者がNFTを発行しNFTマーケットを通じて販売することで資金を調達するスキームです。NFTの種類は証明型(寄付・支援の証明)と参加型(イベント招待・体験等の特典)が想定されます。役割は、①NFT企画・発行(GI事業者、自治体、NPO)、②NFTの販売・管理・募集・関係人口創出(マーケット運営会社)、③NFTの購入・資金提供(個人・企業)。メリットはGI事業者の資金調達多角化・関係人口増加、自治体・地域の住民・企業の当事者意識促進・関係人口取り込み、資金提供者の地域・環境貢献の証明書・投資商品としての魅力度・事業参画権利。留意点は金融商品取引法の規制対象となる可能性(NFTの保有により発行体の事業収益の一部が分配される場合、または決済手段等の経済的機能を有する場合は規制対象となる可能性)、ブロックチェーン・マーケット運営会社の選定基準、寄附・投資の線引きです。

 参考事例として尾鷲市・株式会社paramitaの「SINRA」プロジェクト(デジタルアートに尾鷲市の環境価値〔カーボンクレジット〕を紐づけたNFTを企業等へ販売し関係人口創出につなげる)が紹介されています。NFT保有特典は地域との継続的な関係構築・自然保護の証明・GI保全イベント参加権利・GIがもたらす価値の享受の4つ。GIで実装する際のポイントは「NFTを単なる金融資産ではなく、GIがもたらす社会的価値・経済的価値を享受する権利と捉えるべき」です。

GIにおけるネイチャークレジットの活用の方向性

 ネイチャークレジットは地域通貨・インセンティブ制度・寄附や参加の動機づけとして活用され、価値の共通言語・参加証明的な役割を主目的としています。制度については、カーボンクレジットがJ-クレジット制度等で位置づけ明記されているのに対し、ネイチャークレジットは明確な制度・標準が未整備(実証や試行プロジェクト段階)。計測基準も、カーボンクレジットがt-CO2で定量化されるのに対し、ネイチャークレジットは生物多様性・生態系サービスの定量化が課題です。市場性は、カーボンクレジットが自主的市場を確立済みなのに対し、ネイチャークレジットは未形成で「企業の社会的評価」「共感的投資」に依存。価値は、カーボンクレジットの「クレジットの経済的価値」に対し、ネイチャークレジットは「非経済的価値=賛同・共感重視」です。ネイチャークレジット立ち上げに向けたステップ(案)として4段階が示されています。第一段階「自然資本の可視化・評価」(生態系サービスの特定・科学的または地域合意に基づく指標の定量化)、第二段階「中間支援組織の組成・第三評価機関の設置」、第三段階「クレジットの組成・発行」、第四段階「購入者(支援者)の価値実感の創出」(社会・環境インパクトの見える化、ESG報告やSDGs貢献のストーリー作成)。「今後、統一的な基準が規定されるなどの情勢が変化すればカーボンクレジットのように経済価値が重視され市場で売買される可能性も考えられる」とされています。


資金調達スキームにおける中間支援組織の必要性

 GI事業は国や自治体、金融機関、民間事業者、研究機関等、様々な事業者が関与することが大半です。GI事業の資金調達の場面においても、GIの導入主体と様々なステークホルダーを含む事業者を分野横断で束ねることができる中間支援組織が必要となるケースがあります。事業主体間の合意形成を促進してGI事業の推進力を向上させるために、分野を横断して各事業者をコーディネートする中間支援組織の存在が重要、と整理されています。GIにおける中間支援組織の例は、「自治体・民間団体」等、「研究・教育機関」、「地域金融機関」、「民間事業者(まちづくり会社含む)」の4類型に整理されます。

 機能する中間組織は以下の通り。
 資金面では官民連携型の資金調達スキーム構築——GI事業実施に向けて長期かつ安定的な資金を呼び込むために、官民連携型の資金調達スキームの構築(中間支援組織の活動原資も含む)を検討。
 機能面では支援機能の多角化——事業効果の可視化やハブとしての各事業主体間の調整、行政との協働を踏まえた政策提言等の実施。
 人材面では横断的なスキルを持つコーディネート人材の配置——GI事業特性や事業に係る資金調達、関係主体をリードするリーダーシップ等の横断的スキルを有するマネジメント人材の確保および組織内の適切な配置。
 体制面では各事業主体との役割・責任分担範囲の明確化——意思決定の範囲が不明確にならないよう事業の構想段階で協議・策定すること。

 これら4つの観点を押さえつつ、中間支援の効果や効率性を高めるために、中間支援組織内の主体ごとにPM(プロジェクトマネジメント)として担う役割を把握し、それぞれの強みを活かすことが重要、とまとめられています。中間支援組織を構成する各事業者が担うべき役割は、

 自治体・民間団体等(NPO法人含む)は、多様主体との合意形成機会の創出と合意形成の促進、GIの多面的効果をふまえたGI事業の継続化に向けた枠組み構築(公的施策への位置づけ等)が役割です。
研究機関は、GI事業効果の検証・モニタリングによる科学的エビデンスの担保、事業効果の経済価値化による民間からの資金呼び込みが役割です。
金融機関・保険会社等は、行政等と連携したGI事業の資金提供、他地域へのGI事業を連携するための地場ネットワーク構築、地域・流域全体の産業成長の支援、GI事業の取組に係る金銭的効果の可視化や効果指標統一化、自然環境や生物多様性等への影響・リスクの評価・分析、と多岐にわたる役割があります。
民間事業者(民間まちづくり会社含む)は、GI事業価値の収益化・産業化に向けたGI事業収益化の仕組み構築が役割です。
 後述事例では、山口フィナンシャルグループの事例や、網走川流域の会の事例が該当します。

 また、資料では、こうした中間支援組織が活用できる各省庁の支援制度が整理されています。補助金・伴走支援系では、内閣府地方創生推進室の「新しい地方経済・生活環境創生交付金(第2世代交付金)」、同じく地方創生推進室の「中間支援組織の提案型モデル事業」(関係人口の創出・拡大に取り組む中間支援組織への補助金交付や伴走支援)、環境省の「地域循環共生圏づくり支援体制構築事業」、内閣府成果連動型事業推進室の「成果連動型民間委託契約方式推進交付金」が挙げられています。人材派遣・マッチング系では、総務省の「地域活性化起業人」(民間企業社員を自治体に派遣し地域貢献活動を支援)、国土交通省総合政策局環境政策課の「グリーンインフラ官民連携プラットフォームによる支援」(地域でのGI実装に対する専門家からの助言)が活用可能です。分析・調査系では、中小企業庁の「地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業」(地域課題解決に取り組む中間支援組織への課題整理やインパクト戦略策定支援)が含まれます。

 重要なのは、中間支援組織が「何でも一人でやる」のではなく、「適切な支援制度を組み合わせて活用する」という姿勢です。補助金・人材・ノウハウをどのように束ねるか、そのデザイン力が問われています。同時に、これらの制度自体が中間支援組織の人件費や活動費の一部を補助できるという点も重要で、「中間支援組織を立ち上げたいが運営資金が不安」という事業者にとっては、心強い後押しになるはずです。


5つの資金調達事例から読み解く、GIファイナンスの設計思想

 さて、以下からは、別冊の事例集から、5つの資金調達事例を整理してご紹介します。かなり文章が長くなってきたので、時々、原点もご参照にしていただきながらお読みくださいね。

事例1:秋田県大潟村の市民ファンド——「誰のための事業か」を問い続けることの力

 秋田県大潟村の事例は、2015年にさかのぼります。この村は地域全体が海抜0メートル以下という特殊な地形を持ち、排水のために膨大な電力を消費し続けていました。農業のための燃料消費も多く、「自然環境との共生」を掲げた地域としては、構造的な矛盾を抱えていたのです。そこで動き出したのが、市民ファンドを活用した太陽光発電事業です。大潟村の住民から出資を募り、合同会社大潟村ソーラーファンドを通じて総額9,540万円の市民ファンドを組成しました。このファンドから株式会社大潟共生自然エネルギーへ資金を貸付け、太陽光発電事業を実施。電力会社への売電収益を地域へ還元する仕組みです。運用期間は15年間。

 興味深いのは、この事業が成功した背景に「2012年に策定した村環境基本条例」があるという点です。つまり、ファンドを組む前段階で、住民の間に脱炭素に取り組む共通の価値観がすでに形成されていた。市民ファンドはその「受け皿」として、必要な時に必要な形で組成されたのです。条例とファンドの順序が逆だったら、おそらくこれほどスムーズには進まなかったでしょう。また、利回りが必ずしも高くない中で全国規模の資金を集めるために、市民ファンド組成の実績を持つ株式会社自然エネルギー市民ファンドと連携したこともポイントです。「地域のことは地域だけで」と閉じこもらず、外部の知見を積極的に取り込みながら、村長自らが募集活動を先頭に立って行った。地域内では個別説明会を丁寧に開き、地域内のつながりによる口コミも有効活用しました。このリーダーシップ構造が地域住民の信頼を生み、結果として「社会課題解決」と「収益還元」を両立する事業として認知されるに至りました。注目すべきは、自治体の規模に応じてオンライン等を活用した効率化も検討する必要がある、という資料の指摘です。すべての地域が大潟村のような濃密な対面コミュニケーションを再現できるわけではないからこそ、デジタルツールとの組み合わせが今後重要になるという含意でしょう。

事例2:山口県長門市の官民ファンド——マスタープランが資金を呼ぶ

 山口県長門市の長門湯本温泉は、団体旅行客の激減と老舗ホテルの倒産という二重の打撃を受けていました。観光客減少と施設の老朽化が連鎖的に進行する中、市は2016年に長門湯本地域再生のマスタープランを策定。「公設公営から民設民営へ」という大胆な転換を掲げます。

 このマスタープランがあったからこそ、山口銀行、YMFGキャピタル、民都機構(民間都市開発推進機構)という官民混合の出資者が1億円のファンドを組成することができました。「何に投資するか」の青写真が描けていなければ、資金は集まりません。逆に言えば、ビジョンが明確であれば、お金は後からついてくる。この事例はそのことを如実に示しています。

 スキームの構造は以下のようになっています。山口銀行と民都機構がLP(リミテッド・パートナー)として出資し、YMFGキャピタルがGP(ジェネラル・パートナー)として運営を担う。その資金が長門湯本温泉まちづくりファンド(LPS)を通じて、地域活性化に資する民間まちづくり事業者へ投資される。事業者は消費者へサービスを提供し、その収益から配当・償還がファンドに戻ってくる——典型的なファンド型公民連携のスキームです。

 もう一つ、この事例で注目すべきは「旗振り役」の存在です。YMFG ZONEプラニング(YMZOP)という山口フィナンシャルグループのグループ会社が、銀行融資とは異なる立場として官民ファンドのスキーム検討を主導し、地元企業・行政との橋渡し役を担いました。これがいわゆる「中間支援組織」の機能です。中間支援組織が機能するためには、専門的な金融知識を持ちながら、同時に地域への深い信頼を築いている必要があります。銀行のグループ会社という出自は信頼の基盤になり得ますが、銀行そのものとは別法人であることで、融資判断の制約から自由に動ける。この絶妙な距離感が、長門市の事例では機能しました。「スクール&ファンド」という二段階のアプローチも特徴的です。新たな事業者の発掘・育成(スクール)と、事業構築での金融面の支援(ファンド)を組み合わせる。資金だけ用意しても担い手がいなければ事業は立ち上がらない、という現実的な認識に基づいた設計です。地域のシンボルである公営浴場を民設民営で再建するという挑戦的な事業を、官民でリスク分担しながら長期的に推進できるのは、こうした包括的な体制があってこそでしょう。

事例3:山口県山口市のSIB——成果連動型契約で公民が伴走する

 山口県山口市の事例は、長門市と同じ山口フィナンシャルグループ(YMFG)が関わっていますが、スキームの性格は大きく異なります。こちらはSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の活用です。

 事業の名称は「山口市ずっと元気・PFSプロジェクト」。期間は2025年9月から2030年12月までで、ヘルスケア・生活関連産業における新たなサービス提供や既存サービスの付加価値向上を目指します。総事業費は1億円(定額支払および成果連動支払を含む)。成果指標はサービス参加者数とサービス提供事業者数です。

 スキームの中核を担うのはYMFG ZONEプラニング。同社は2022年に山口・広島・北九州の三県市にまたがる「SIB研究会」を設立し、地域経済の活性化に向けたSIBの普及に取り組んできました。山口市はこの研究会や他都市の事例研究を通じて、SIB活用も視野に入れたPFS(成果連動型民間委託契約)の検討を本格化させ、公募型プロポーザルで採択されたYMFG ZONEプラニングの提案に基づいてスキームが組成されました。

 このスキームで興味深いのは、自治体が成果指標の設定で「対外的に説明できる明確さ」を重視した点です。担当者ヒアリングからは、行政組織内での理解醸成のために現場担当者へ広く丁寧に説明したこと、事業規模を「市内で民間事業者が事業終了後も継続できる、かつ地域活性化等の影響を及ぼせる規模」として検討したことが分かります。SIBは制度として優れていますが、設計を間違えると「成果を出しやすい指標」に流れてしまい、本来の社会的インパクトを見失うリスクがあります。山口市の事例は、この設計上の罠を意識しながら、官民連携の趣旨に立ち返って体制構築を行った点に意義があります。

事例4:群馬県前橋市のSIB——「歩行者通行量」が成果指標になる時代

 群馬県前橋市の馬場川通りアーバンデザインプロジェクトは、グリーンインフラとSIBの組み合わせという点で、日本では最も先駆的な事例の一つです。前橋市は、民間主体のまちづくり活性化を推進する指針として「アーバンデザイン」を策定しました。その具体化として、都市再生推進法人「前橋デザインコミッション(MDC)」が、企画から実施、資金調達まですべてを民間が担う形で、水路や緑を活かした馬場川通りの整備事業を推進しました。総事業費4.2億円のうち、一部にSIBが活用されています。

 SIBの基本情報を見ると、期間は2021年9月から2024年7月まで、定額支払740万円に加えて成果連動支払0〜570万円という設計です。資金提供者は第一生命で、最終償還原資は前橋市が負担する仕組み。成果指標は「当該エリアの歩行者通行量」です。スキームの構造を追っていくと、その複雑さに驚きます。前橋市が業務委託契約をMDCと結び、すみれ地域信託(信託会社)が信託契約に基づいて資金を保有する。第一生命が信託受益権を購入する形で資金提供を行い、MDCがまちづくり事業を実施する。EY新日本が第三者評価機関として成果測定の検証を行い、デロイトトーマツが中間支援組織として事業全体の企画設計・推進・コーディネートを担う——この6者以上が織りなすガバナンス構造が、SIBの本質です。

 このスキームを駆動した要素は三つあります。第一に、地元財界団体「太陽の会」が事業費の一部について寄付を決断したこと。これがなければ4.2億円の事業費は確保できませんでした。第二に、市・MDC・地権者が都市利便増進協定を結んで公共空間の市民自治的管理を実現したこと。スキームだけでなく、ガバナンスの設計が事業継続性を支えています。第三に、地方創生・ESG投資・まちづくりに関心を持つ金融機関を巻き込めたこと。これは中間支援組織であるデロイトトーマツの専門性が活きた領域です。「GI事業のもたらす多面的効果を分析し、社会的意義への共感性の高い民間事業者へ訴求する」という資料の表現は、抽象的に聞こえるかもしれませんが、現場では極めて具体的な営業活動として現れます。第一生命がこのSIBの資金提供者になったのは、前橋市の事例がESG投資・まちづくり・地方創生という複数の文脈で語れるからです。「この事業はあなたの投資テーゼと合っている」と語れる能力こそが、GIファイナンスの営業力の核心です。

事例5:滋賀県東近江市のSIB——「補助金の成果連動型転換」という静かな革命

 滋賀県東近江市の事例は、スケールこそ小さいものの、制度設計の観点では最も示唆に富んでいます。市はもともと「補助金を交付した事業の効果検証が不十分」「市民の事業への関心が薄い」という二つの課題を抱えていました。住民主体の地域活性化や地域課題解決の仕組みづくりが必要だ、という問題意識から動き出したのが、コミュニティビジネス支援等の補助事業を「成果連動型」に転換するという発想です。

 具体的には、「東近江三方よし基金」という中間支援組織を設立し、SIBを活用したコミュニティビジネススタートアップ支援事業を実施しています。地域住民・地元企業・一般投資家から資金を集め、プラスソーシャルインベストメントが組成するSIBを通じて採択事業者へ資金を提供。事業者は伴走支援を受けながらコミュニティスタートアップ事業を進め、評価委員会が成果指標に基づく定量評価を行い、その結果に応じて東近江市から成果連動型の報酬が支払われ、最終的に資金提供者へ償還される仕組みです。

 2025年度までに採択された30事業の募集総額は約2,000万円。一事業あたりの金額は決して大きくありませんが、この仕組みが持つ意義は金額を超えています。補助金の「もらって終わり」という構造を壊し、市民が「社会的投資家」として地域課題の解決に参加する文化をつくろうとしているからです。

 担当者ヒアリングから読み取れるのは、東近江市の職員の中に「金融関係の知識が深い職員」と「事業実現に前向きな職員」がいたことが、SIB開始の突破口になったという事実です。制度の革新は、多くの場合、現場の内側にいる「変革者」によって起動されます。東近江三方よし基金は、金融機関とともに市民・企業から広く資金を集める立ち上げ期の仕組みを検討し、その運用をコーディネートする役割も担っています。「地域資源の活用により課題解決を目指す社会的事業者」に対して、テーマを限定せずに一括して支援する、という柔軟な設計も特徴です。GIに限らず、福祉・教育・農業など多様な領域の事業を一つの基金で支援できる仕組みは、地域全体のソーシャルセクターを底上げします。償還原資を公(東近江市等)が負担する以上、公が目指すゴール(地域課題解決をビジネスで実現する事業の立ち上げ)に沿った成果指標を定めることが本質的に重要です。これは抽象論ではありません。最終償還原資を支払う主体が、実施したい事業の目指す姿を丁寧に議論し、それに応じた成果指標と事業目標を明確化する——このプロセスこそが、SIBが「仕組み」として機能する条件です。

事例6:三重県尾鷲市のカーボンクレジット×NFT——自然の価値を「デジタル証票」にする

 三重県尾鷲市は、森林と海に囲まれた豊かな一次産業の町ですが、人口減少が止まらないという構造的な課題を抱えています。林業・漁業を地域産業の軸としながら、地域全体の衰退に歯止めがかからないという厳しい現実の中で、市は政策的に大胆な布石を打ち始めました。

 2022年のゼロカーボンシティ宣言、2024年のネイチャーポジティブ宣言、2025年のネイチャーポジティブコンソーシアム結成——わずか3年間で立て続けに政策ステートメントを発出し、参画企業と連携した森林整備活動、海域の検証事業、人材育成事業等を展開しています。

 資金調達のスキームは二層構造になっています。一つは、LINEヤフーと10年間・年500トンのJ-クレジット売買契約を結ぶという「BtoB」の安定収益源。もう一つは、尾鷲市の環境価値を示すNFTと各企業のサービスを紐づけ、個人へ訴求するという「BtoC」の関係人口創出の仕組みです。2021年度から2025年度にかけて、延べ16企業から約1億4,500万円の企業版ふるさと納税の寄付を受領しています(三ッ輪HDから2,500万円、LINEヤフーから二年間で約5,700万円など)。このNFTの活用が興味深いのは、それが単なるデジタルグッズではなく、「森林整備におけるネイチャーポジティブへの取り組みを背景とした付加価値」として設計されている点です。つまり、カーボンクレジットという「自然の価値」をデジタル証票に変換し、個人がそれを購入することで関係人口になる、というストーリー型の設計です。戦略パートナーである中間支援組織の役割も重要です。企業に対してネイチャーポジティブコンソーシアムへの勧誘活動を実施し、企業版ふるさと納税を兼ねた会費支払、情報開示に活用可能な活動レポートの提供など、民間事業者の参加コストを下げる工夫を凝らしました。NFTと企業の各サービスを連携させることで、個人への訴求も可能にしています。

 尾鷲市のモデルが示唆するのは、「自然の価値の可視化と、それに対する人々の関与の促進」という二つの課題を同時に解く仕組みの可能性です。カーボンクレジットだけでは関係人口は生まれません。NFTだけでは収益基盤が脆弱です。この両者を組み合わせることで、企業向けの安定収益と個人向けのエンゲージメントを両立する設計が可能になっているわけです。


グリーンインフラの経済効果——数字で語ることの重み

 国内外26件以上のGI事業の経済効果事例が掲載されています。これほど体系的に国内事例をまとめた公的資料は珍しく、実務者にとっては貴重なデータベースです。主用途別に整理されているのも実用的です。商業・業務施設、物流施設、住宅、公園、道路、里山・海岸等、低未利用地——という分類で、それぞれの分野でどのような経済効果が確認されたかが一覧できます。地域性も都市部・地方部に分けて整理されています。

商業・業務施設の事例から

 二子玉川ライズ(東京都世田谷区)は、駅周辺の市街地再開発で国分寺崖線と多摩川と一体となった施設建築を実現しました。敷地面積に対する緑地率約30%、植生の95%以上を在来種から構成。10年で駅利用者数約30%増、駅周辺の地価公示価格が令和元年度には平成24年度比約1.33倍まで上昇しています。

 イオンモール豊川(愛知県豊川市)は、スズキ豊川工場跡地の都市開発事業で、来場者が自然を体感できるセントラルパークを設置し、地域に自生する樹種を中心に61種類およそ1万6000本を地域住民と植樹しました。全長500m超の建物内を自然換気し、館内の快適性向上と省エネルギーを実現しています。

 南町田グランベリーパーク(東京都町田市)は、駅から商業施設、隣接する都市公園までをバリアフリーで快適に歩き回れる一連の空間を形成。バイオスウェルやレインガーデン等のグリーンインフラを共通サインで周知・啓発し、開業前後で駅の年間乗降者数が対前年度比133%まで増加しました。

 いなべ市の「にぎわいの森」では、開業後にいなべ市の観光入り込み客数が約2倍となり、にぎわいの森利用者の約3割が他施設に立ち寄っているなど地域の回遊性向上が確認されています。さらに庁舎職員の28%が業務生産性向上を実感、前庁舎と比較すると49.2%が生産性向上を実感したと回答しているのが特筆すべき点です。GIが「働く環境」の質を実際に変えていることが定量的に示されています。

 東京ポートシティ竹芝(東京都港区)では、緑豊かな環境で働くことの効果を脳波測定で検証した結果、ストレス度が約12%減少、集中力が約35%向上したと確認されました。雨水を地下へ貯め、トイレ用水等に再利用することで、上水使用量を約4〜5%削減する計画も含まれています。

 長野県大町市の北アルプス信濃の森工場では、フィールドの整備による水源涵養林保全の従業員意識が他生産拠点比で20%向上、生産効率は32%向上が見込まれるという結果が出ています。これは製造業のGI投資の経済合理性を示す貴重なエビデンスです。

物流・住宅・公園・道路の事例から

 物流施設では、千葉県流山市のALFALINK流山が約60社・約6,000人の雇用を創出し、顧客満足度調査で「継続利用の意向」91%という評価を獲得しています。共用部のビオトープを市内の水鳥研究会の研究場所として開放するなど、地域住民のウェルビーイングやコミュニティ形成にも貢献しています。

 住宅では、東京都武蔵野市のサンヴァリェ桜堤で、団地内のビオトープ池での生き物観察会等のイベントを実施した結果、居住者の92%がビオトープ池を肯定的に評価したというアンケート結果が出ています。住民の生物多様性保全への理解醸成につながった事例です。

 公園では、東京都豊島区の南池袋公園が象徴的です。公園リニューアルにあたり地元商店街等が参画するワークショップで基本理念を議論し、大きな芝生のある公園として整備、Park-PFIを活用してカフェレストランを併設しました。平日6,000人の来場があり、半径300〜400mの範囲で約10%程度の地価向上効果があったと推定されています。

 道路では、東京都千代田区のMarunouchi Street Park 2020で、丸の内仲通りを芝敷にし24時間開放、飲食店舗の屋外席を増設した結果、屋外客席を拡大した飲食店舗で売上が前月比224%まで増加した店舗もあったと報告されています。

里山・海岸の事例

 特筆すべきは兵庫県豊岡市の円山川直轄河川改修事業です。コウノトリ野生復帰に向けた自然環境の回復を目的に、市内の休耕田等を利用して約13haの水田ビオトープを整備し、無農薬・減農薬の「コウノトリはぐくむ農法」を確立しました。経済効果は印象的です。生きものを育みながら生産される「コウノトリ育むお米」はブランド米として高値で取引され、2019年度作付面積は428ha、市内耕地面積の14.5%まで拡大しました。コウノトリの郷公園への来園者アンケートによると、コウノトリの観光面における豊岡市の経済波及効果は年間約10億円と試算されています。湿地や公園には、学生・研究者・自治体関係者・バードウォッチャーなど年間7,000〜8,000人が訪れています。

 宮城県気仙沼市舞根地区の震災復興と流域圏創成も注目に値します。フレーム護岸+砕石詰めによる多自然川づくり、塩性湿地および干潟の再生を実施した結果、震災前の2010年と比較して舞根の訪問者数が激増。観光地ではないものの、環境事業が観光と同様の効果を持ち、地域おこしに結びついたとされています。


さいごに

 グリーンインフラにお金が回る仕組みをつくることは、単なる金融技術の問題ではありません。それは「自然の恵みを誰が担い、誰が受け取り、誰が支払うのか」という社会の基本設計を問い直す実践です。

 近代的なインフラシステムは、「公共財は税金で、私的財は市場で」という二分法に基づいて設計されてきました。しかしグリーンインフラが生み出す価値は、その二分法に収まりません。河畔林は流域住民全員に便益をもたらす公共財でありながら、特定の事業者が水質浄化サービスとして商品化することもできる。雨庭は下水道の負荷を減らす公共インフラでありながら、設置した不動産の価値を高める私的便益も生み出す。このような「公私混合」の価値構造を扱うためには、新しい金融の仕組みが必要です。市民ファンドは公共性と参加性を融合する。官民ファンドは公的リスクと民間リターンを再設計する。SIBは成果指標を媒介に税金と投資を結びつける。クレジットは便益を切り出して取引可能にする。NFTは関係性そのものを価値化する。これらすべては、「公共財と私的財の境界を引き直す実験」だと言えます。グリーンインフラはその実験の最前線です。最終とりまとめに向けて、さらなる事例の蓄積と方法論の精緻化が進むことを期待しつつ、本取りまとめの記事を終えさせていただきます。

本記事は国土交通省「グリーンインフラ(GI)に関するファイナンスガイドライン(中間とりまとめ)別添資料」(令和8年3月、総合政策局環境政策課)に基づき、筆者の解釈と分析を加えて構成しています。資料原文は国土交通省ホームページにて公開されています。

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