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ネイチャーポジティブを支える技術体系として、「みどりの食料システム戦略 技術カタログ Ver.6.0」を読む

 いよいよ春本番。夏野菜を植える時期ですね!ゴールデンウイークは、農協には、苗物市があちこちでみられます。
 本レポートは、今週バージョンアップされた農林水産省「みどりの食料システム戦略 技術カタログ Ver.6.0」に掲載された技術のうち、ネイチャーポジティブに関係する技術を中心に、再構成したものです。同カタログは、農業・畜産業を対象に、現在普及可能な技術317件、2030年までに利用可能な開発中技術59件、みどりの食料システム法の認定を受けた基盤確立事業102件、合計478件の技術を掲載しています。掲載技術を「農薬」「肥料」「有機農業」「病虫害防除」「雑草防除」「土壌管理」「栽培管理」「資源再利用」などの観点から整理しています。本レポートでは、技術名を羅列するのではなく、農業生産の現場でネイチャーポジティブ型の技術体系がどのように組み上がっていくのかという流れで構造化してご説明いたします。出発点は、種子と品種です。次に、土と雑草管理です。その上で、病害虫の診断、天敵利用、草生栽培、施設園芸、果樹、茶、そして2030年に向けた開発中技術へ進みます。
 ネイチャーポジティブな(リジェネラティブな)農業は、すでに、技術体系の中から見えてきています。今日も楽しんでいって下さいね!

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0.今からできる ネイチャーポジティブな農業

 本稿では、ネイチャーポジティブな農業を、「農地や園地の生物多様性、土壌の健全性、有用生物の働き、農薬使用量の低減、有機農業の安定化、病害虫管理の高度化に資する技術群」として捉えます。
 すなわち、従来、化学物質に過度に依存をしていた農業から、土壌微生物活性化や、生態系バランスのデザイン、植物の自己防衛力の強化などを通し、自然の能力をテクノロジーをで拡張することによる、再生可能なリジェネラティブな農業とすること、これを通して二次的自然の回復力を最大化する農業を指しています。

 「自然と戦う」農法でもなく、「自然に任せる」という農法でもなく、「生態系をデザインする」農法に近いと考えられます。

 本レポートが扱う中心は、例えば、次のような技術です。
・化学農薬の使用を減らす技術。
・天敵や土着生物を活用する技術。
・草生栽培や緑肥により、土壌と圃場環境を整える技術。
・温湯、光、熱、ネット、超音波、振動など、化学農薬以外の防除技術。
・有機農業を安定生産に近づける技術。
・病害虫抵抗性品種や抵抗性台木により、防除負荷を下げる技術。
・AIや診断技術により、必要な防除だけを行う技術。
重要なことは、言葉だけではなく、農林水産省のカタログには実在する技術があるということです。なお、文中の番号は、カタログの掲載番号になります。ぜひ、栽培されている皆様は、原典も参照にしながらお読みください。では、具体的に見てまいりましょう!


1. ネイチャーポジティブな農業の入口は「病害虫に強い品種」から始まる

 農薬を減らすための最も基礎的な技術は、病害虫に強い品種を使うことです。水稲、畑作、露地野菜、果樹、茶、花きにわたり、多数の抵抗性品種が掲載されています。抵抗性品種は、農薬散布を単に我慢して減らす技術ではありません。作物そのものが病害虫に耐えることで、防除回数や防除リスクを下げる技術です。

 水稲では、いもち病抵抗性を有する品種が複数掲載されています。No.1「そらきらり」は、多収でいもち病抵抗性に優れる水稲新品種です。No.2「そらゆたか」は、いもち病抵抗性を有する飼料用米の新品種です。No.25「とちぎの星」は、高温登熟性に優れ、良食味で、イネ縞葉枯病に強い品種です。No.26「彩のきずな」は、高温登熟性と病害虫複合抵抗性を持つ良食味品種です。No.37「富富富」は、高温耐性を持ち、減化学農薬・減化学肥料栽培に関係する品種として掲載されています。

 畑作では、No.75「スズマルR」が、納豆加工適性に優れたセンチュウ抵抗性大豆品種として掲載されています。原典では、北海道に分布する大部分のダイズシストセンチュウに対して抵抗性を持ち、感受性品種より減収リスクが低いことが示されています。ばれいしょでは、No.91「ゆめいころ」、No.93「はるか」と「ピルカ」、No.94「ながさき黄金」、No.95「アイマサリ」が、病害虫抵抗性やジャガイモシストセンチュウ抵抗性を持つ品種として掲載されています。サツマイモでは、No.84「みちしずく」が、基腐病に抵抗性を持つ焼酎・でん粉原料用カンショとして紹介されています。

 露地野菜では、No.117「あきめき」が、根こぶ病・黄化病抵抗性ハクサイ品種です。No.122「YCRふゆいろ」は、根こぶ病抵抗性キャベツ品種です。No.144「台パワーZ」「L4台パワー」「台ちから」は、ピーマン・トウガラシ類の土壌病害抵抗性台木用品種です。原典では、青枯病、疫病、ネコブセンチュウに強度抵抗性を有し、接ぎ木栽培により土壌病害虫に対して高い防除効果が期待されると整理されています。

 果樹では、No.163「瑞季」が、カンキツかいよう病に強く、種子が少ない晩生品種として掲載されています。原典では、カンキツかいよう病の発生が少なく、収量低下や果実等級低下を回避できるとされています。ブドウでは、No.193「モンドブリエ」が、べと病耐病性を有する白ワイン用ブドウ新品種として掲載されています。イチジクでは、No.195「励広台1号」が、株枯病抵抗性台木として掲載されています。

 茶では、No.258「さえあかり」「せいめい」が、耐病性茶品種として掲載されています。原典では、茶の重要病害である炭疽病、輪斑病、赤焼病への対策として、複合抵抗性を有する品種を活用することにより、化学合成殺菌剤を使用しない、または大幅に削減することが可能になるとされています。さらに、No.260「かなえまる」は、クワシロカイガラムシ、炭疽病、輪斑病、もち病に抵抗性を持つ緑茶用中生品種として掲載されています。

 開発中技術にも、抵抗性品種の流れは続きます。No.327では、水稲、麦類、大豆について、複数の主要病害に対する抵抗性を有し、生産性や品質が優れた品種の開発が掲げられています。原典では、水稲ではいもち病、縞葉枯病に加え、紋枯病、もみ枯細菌病、ごま葉枯病、トビイロウンカ等に抵抗性を持つ多収・良食味品種を育成する方向が示されています。小麦、大麦、大豆でも複合抵抗性品種を育成し、化学農薬の使用量削減を目指す内容が掲載されています。

 このように、ネイチャーポジティブな農業の最初の土台は、農薬を減らす努力ではなく、農薬を減らしやすい作物を選ぶことです。病害虫抵抗性品種、抵抗性台木、複合抵抗性品種は、後に続く天敵利用、草生栽培、有機農業、診断技術と組み合わせるための基礎になります。


2. 有機農業を「経験」から「体系」へ移す技術

 慣行農法からネイチャーポジティブへの移行に向けては、有機農業は重要なマイルストーンであり、日本では取り組みやすい情報が多い農法です。(ただし、有機農業は、窒素やリンの管理、土壌や周辺生態系への視野など、ネイチャーポジティブの視点から見ると様々な課題を有しており、リジェネラティブな農業に向けての中間地点に位置付けられます。)
 水稲、小麦、野菜、大豆、トウモロコシなどで、雑草防除、病害虫防除、品種選定、播種時期、土壌消毒、輪作、機械除草を組み合わせ、安定生産に近づける技術体系です。

 No.15「有機農業実践現場の研究事例に基づく安定栽培マニュアル」は、水稲、小麦、野菜を対象とする技術です。原典では、有機農業への新規参入者が生産を早期に安定化させ、その状態を維持できる技術の開発と普及が求められていることを背景に、暖地の水田二毛作体系、ホウレンソウの施設栽培体系、高冷地露地レタス栽培体系などを対象に、雑草防除や病害虫防除技術を含む栽培管理法を紹介しています。

 このマニュアルでは、暖地の水田二毛作体系において、小麦葉齢を指標とする機械除草を導入した麦作や冬作野菜栽培により、有機水田を高度活用する技術が扱われています。ホウレンソウの施設栽培体系では、カラシナやダイコン残渣をすき込み、土壌を還元化する生物的土壌消毒による萎凋病の防除技術が示されています。高冷地露地レタス栽培体系では、輪作、品種選定、不織布浮きがけ栽培などの基本技術を組み合わせた安定生産技術が示されています。

 No.69「安定確収のための秋まき小麦有機栽培技術」は、畑作小麦の有機栽培を対象とします。小麦では、除草、肥培管理、病害対策を作期とあわせて整理する必要があります。No.78「関東地域における大豆有機栽培技術体系」は、化学農薬を使用せずに雑草や病害虫へ対応するため、三つのポイントを示しています。第一に、有機栽培には晩生で小中粒・多莢の品種が適すること。第二に、標準播種よりやや遅い7月上中旬播きにより、虫害を回避し、稔実莢数を増やすこと。第三に、本葉が見え始めた段階で早期中耕培土を行い、雑草を抑えることです。

 カタログでは、この大豆有機栽培体系により、慣行栽培の7割程度の収量を見込めること、播種時期を遅らせることで吸汁被害を3割程度軽減できること、早期中耕培土により雑草発生を最大8割程度抑制できることが示されています。これは、有機農業を「農薬を使わない栽培」ではなく、「品種、播種時期、害虫回避、機械除草を組み合わせる体系」として扱う技術です。

 No.86「子実用トウモロコシ有機栽培の安定生産技術と輪作体系への導入効果」は、北海道の畑作有機栽培で、大豆、小麦等に次ぐ新規作物として有望な子実用トウモロコシを対象とします。カタログでは、分施により窒素の溶脱を抑え、降雨量によらず安定した収量が得られること、中耕、培土、培土の順で3回カルチを行うことで、雑草を抑えて減収を回避できることが示されています。また、子実用トウモロコシを輪作体系に導入することで、土壌理化学性や後作の大豆・小麦収量への影響も整理されています。

 水稲では、No.22「高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系」が重要です。原典では、高能率水田用除草機を、除草剤を使用しない有機栽培での雑草対策の中核となる除草専用機として位置づけています。この機械は、3輪型乗用管理機の車体中央に、条間が駆動ローター式、株間が揺動ツース式の除草部を搭載し、10a当たりの作業時間は20分から30分です。深水管理などの耕種的な雑草防除技術と組み合わせることで、80%以上の雑草を除去でき、3年間の現地試験では慣行栽培の約9割の玄米収量を得られることが示されています。

 No.55「水稲有機栽培における雑草防除体系の確立」は、新機構除草機と「トロトロ層」を組み合わせる技術です。原典では、2021年に商品化された「揺動ブラシ式歩行型除草機」が、株元の除草効果が高く、イネの欠株も発生しにくい特長を持つとされています。また、水田では水生ミミズ類の摂食排泄活動により「トロトロ層」が形成されると、雑草発生が減少することが知られていると説明されています。この除草機とトロトロ層形成を組み合わせ、相互補完することで除草効果の向上を目指す技術です。

 No.63「水田用自動抑草ロボットによる雑草害とスクミリンゴガイ食害の抑制効果」も、有機水稲の雑草防除に関係する技術です。カタログでは、化学合成農薬を使用しない水稲有機栽培では、雑草防除に要する作業時間と負荷が大きく、雑草害が主要な減収要因であると整理されています。この課題に対し、水田用自動抑草ロボット「アイガモロボ®」は、太陽光を動力源としてGNSSで水田内を自動走行し、雑草の出芽や生育を抑制します。2か年、計36か所の水稲有機栽培ほ場で検証した結果、機械除草回数は平均58%低減し、水稲平均収量は10%増加したとされています。

 有機農業のストーリーは、まず、抵抗性品種を使う。次に、播種時期や作付体系を調整する。土壌病害は生物的土壌消毒や太陽熱土壌消毒で抑える。雑草は機械除草、早期中耕培土、トロトロ層、自動抑草ロボットで管理する。そして、病害虫は診断、予察、天敵、物理的防除で扱う。カタログに掲載された技術は、有機農業を管理技術の積み上げとして示しています。


3. 土づくりと緑肥が、ネイチャーポジティブの基盤をつくる

 農地の生物多様性を高めるためには、地上の昆虫や天敵だけではなく、土壌の状態を整える必要があります。原典では、緑肥、有機物施用、土壌診断、太陽熱土壌消毒、生物的土壌消毒などが、農薬や肥料、有機農業と関係する技術として掲載されています。

 No.104「土づくりと減肥のための緑肥利用マニュアル」は、野菜を対象にした緑肥利用技術です。原典では、圃場への堆肥投入が減少していること、化学肥料価格の高止まりが生産コストを押し上げていることを背景に、緑肥の導入による土づくりや減肥の方法を取りまとめています。ソルガム、エンバク、ライムギ、ヘアリーベッチ、クロタラリアを緑肥として導入し、所得を増やしつつ、土づくりと主作物の減肥栽培を行う技術が紹介されています。

 カタログでは、緑肥の効果は作物種やすき込み時期によって異なるため、緑肥ごとに土づくり効果と化学肥料代替効果を定量的に示しています。ソルガムは堆肥1.4t/10a相当、ヘアリーベッチは堆肥0.3t/10a相当など、土づくり効果が異なる例が掲載されています。導入時には、主作物や周辺作物の病害虫を増やさない緑肥を選ぶこと、すき込み時期の遅れ、野良生え、窒素飢餓、腐熟期間不足による植え傷みに注意することが示されています。

 水稲では、No.36「緑肥『ヘアリーベッチ』の水稲向け基肥窒素供給量の簡易推定技術」、No.54「マメ科緑肥の肥料代替効果を活用した水稲栽培」が掲載されています。ヘアリーベッチは、マメ科緑肥として、根粒菌による窒素固定により、肥料代替効果を持ちます。原典では、C/N比が低く、土壌中での分解が比較的早く進むため、大幅な窒素肥料の削減が可能となると整理されています。また、旺盛な生育とアレロパシー効果により、雑草抑制と景観形成にも関係します。

 No.85「緑肥を活用したカンショの高品質栽培技術」では、カンショ栽培に緑肥を活用することで、線虫の被害低減、収量・品質改善、窒素肥沃度改善などを扱っています。No.120「マメ科緑肥を用いた野菜の減肥栽培」では、積雪寒冷地のキャベツ・エダマメ栽培の事例として、緑肥を用いた減肥が扱われています。No.328「地力維持作物を組み入れた輪作体系の構築」は、麦類、大豆、トウモロコシで地力維持作物を組み込む開発中技術です。

 土壌病害に対しては、No.103「地温情報を組み入れた畝立後太陽熱土壌消毒『陽熱プラス』」が掲載されています。太陽熱土壌消毒は、地表をフィルムで被覆し、太陽エネルギーで地温を高め、土壌中の病害虫発生を抑制する技術です。陽熱プラスでは、従来型の作業手順を見直し、消毒処理後の土壌混和を防ぐことで防除効果を高めた畝立後消毒を基礎に、地温情報、消毒効果、養分供給効果の見える化、生物相への影響評価を組み入れています。

 No.115「混合有機質肥料を用いた土壌還元消毒」は、有機質肥料を使った土壌還元消毒技術です。No.149「露地ショウガの根茎腐敗病多発ほ場における低濃度エタノール等を利用した低環境負荷処理技術」も、土壌病害に対する低環境負荷処理として掲載されています。No.203「宮崎方式陽熱プラス」は、太陽熱土壌消毒と焼酎粕濃縮液を組み合わせ、土壌消毒と肥料効果を安定させる施設園芸技術です。

 土づくり技術は、派手ではありません。しかし、ネイチャーポジティブな農業の基盤です。緑肥を入れる。土壌有機物を増やす。病害虫が多発しにくい土壌環境をつくる。土壌病害を診断し、必要な圃場だけ対策する。こうした技術が、天敵利用や有機農業を支える前提になります。


4. 雑草を「敵」として消すのではなく、管理する技術

 ネイチャーポジティブな農業では、雑草管理が重要です。ただし、雑草を完全に消すという発想ではありません。水田、畑、果樹園、茶園では、作物と競合する雑草を抑えながら、有用生物のすみか、土壌保全、草生栽培の役割をどう使うかが問われます。

 水稲有機栽培では、雑草管理が最も大きな課題の一つです。No.22の高能率水田用除草機は、除草剤を使用しない水稲有機栽培の中核技術として掲載されています。原典では、2回から3回の除草作業と耕種的な雑草防除技術を組み合わせることで、80%以上の雑草を除去できるとされています。

 No.55の新機構除草機とトロトロ層の組み合わせは、水田内の生物活動を雑草抑制に結びつける技術です。ここでは、単に機械で雑草を取るだけではなく、水生ミミズ類の摂食排泄活動により形成されるトロトロ層が、雑草発生を減らす点が重要です。機械除草と水田内の生物作用を組み合わせている点で、ネイチャーポジティブに近い技術体系といえます。

 No.63の水田用自動抑草ロボットは、アイガモ農法の発想をロボット化した技術です。太陽光で動き、水田内を自動走行し、水を濁らせるなどして雑草の出芽や生育を抑える技術です。原典では、除草工数60%低減、収量10%増加が示されています。水管理と圃場均平が導入の留意点として示されており、水位5〜10cm、圃場内高低差5cm程度の均平が重要とされています。

 畑作では、No.78の大豆有機栽培体系が、早期中耕培土による雑草抑制を示しています。原典では、通常の中耕培土より早い時期に1回目の中耕培土を行うことで、有機栽培で慣行栽培と同時期に培土を行った場合に比べ、雑草発生を最大8割程度抑制できるとされています。No.86の子実用トウモロコシ有機栽培では、中耕、培土、培土という3回のカルチ作業により、雑草を90%減らす効果が示されています。

 茶では、No.259「茶園用除草機による茶園除草の省力化」が掲載されています。有機栽培や農薬使用量の少ない茶に対するニーズが高まる中、除草剤を散布しない手取り除草は大きな労力を要します。原典では、うね間除草機構と樹冠下・雨落ち部除草機構を持つアタッチメント式の茶園用除草機が、手取り除草を省力化し、除草剤の削減や有機栽培に貢献するとされています。除草機のみによる除草率は、試験を行った2か月間48サンプルの平均で83%でした。また、「機械除草後に手取り除草」した場合、慣行の手取り除草と比べて、幼木園では約53%、成木園では約78%、除草時間を削減したとされています。

 雑草管理技術の流れを見ると、原典は二つの方向を示しています。一つは、機械、ロボット、除草機による省力的な雑草管理です。もう一つは、草生栽培、下草管理、緑肥、オオムギ間作のように、植物を管理対象として利用する方向です。この二つが結びつくことで、農薬や除草剤だけに依存しない圃場管理が成立します。


5. 病害虫を「見つけてから叩く」から「診断して必要な対策を選ぶ」へ

 植物は病気になります。思ったよりも簡単に、そして困ったことに、広がります。
 人が風邪にかかったとき、薬を飲むように、農薬は役に立ちます。
 薬だからです。農薬を使わないためには、風邪にかからないことが大事です。そうはいっても、思わずどこかからかもらったりはしませんか?
 さて、農薬使用量を減らすには、必要なときに必要な防除を行う必要があります。そのためには、病害虫の発生状況、感染危険度、土壌病害の発病ポテンシャルを把握する技術が必要です。カタログには、AI画像診断、病害虫予察、土壌病害診断、アプリ、リモートセンシングなどが掲載されています。

 No.113「AIを活用した病害虫の画像診断アプリ」は、野菜、果樹、花きを対象とする技術です。対象品目には、イチゴ、トマト、キュウリ、ナス、ジャガイモ、タマネギ、ピーマン、カボチャ、ダイズ、モモ、ブドウ、キクが含まれます。原典では、病害虫の迅速な診断には経験や知識が必要である一方、地球温暖化による新規病害虫の発生や、法人経営における非熟練作業者の増加により、現場での迅速な識別が難しくなっていると説明されています。

 このアプリでは、スマートフォン等で撮影した画像を使い、病害虫を診断します。先行して検証したトマト、キュウリ、イチゴ、ナスの4作目では、63病虫害のうち半分で9割以上、大多数で8割以上の精度で診断できるとされています。診断に基づく適切な化学農薬使用により、使用量の低減、低コスト化、作業の軽労化が可能になると整理されています。

 No.114「AI等を活用した土壌病害発病ポテンシャルの診断技術の開発」は、野菜類・花き類を対象に、圃場単位で土壌病害の発生しやすさを診断する技術です。原典では、土壌消毒剤の使用量低減には、圃場単位で発病ポテンシャルを診断し、診断結果に応じて対策手段を講じる土壌病害管理法が有効であるとされています。HeSo+というアプリにより、菌密度、pH、腐植含量、近隣圃場での発病状況などを入力し、根こぶ病、黒腐菌核病、黄化病、半身萎凋病、べと病、根茎腐敗病、青枯病などの発病ポテンシャルを診断します。

 果樹では、No.176「梨なびアプリ」が掲載されています。原典では、気温や降水量などの気象データに基づき、ナシ黒星病の感染危険度を予測する防除支援システムとして紹介されています。携帯端末で利用でき、気象データを自動で取り込み、防除日、薬剤の残効期間、感染危険度等をカレンダー表示で確認できます。最適防除により、使用化学合成農薬成分数を最大30%程度削減し、スピードスプレヤーを利用した薬剤散布に係る労働時間を最大10%程度削減できるとされています。

 水稲では、No.7「イネウンカAI自動カウントシステム」、No.43「クロップナビによるイネいもち病の発生予察」、No.45「水稲種子伝染性病害に対する温湯処理と催芽時の生物農薬による体系防除法」などが掲載されています。病害虫の発生を早く把握し、対策を適切に選ぶことは、農薬を無理に減らすのではなく、過剰散布や不適切散布を減らす技術です。

 No.314「病害虫予報AIアプリを活用した予防的措置及び適期防除」は、病害虫の予報により、予防的措置と適期防除を支援する技術です。原典では、有機農業でも利用可能な技術として整理されています。2030年までの開発中技術として、No.337「AI等を活用した精緻な病害虫発生予察の確立」も掲載されています。これは、IoT自動撮影カメラ付き粘着式フェロモントラップなどを活用し、発生予察を高度化する方向の技術です。

 この領域のストーリーは明確です。ネイチャーポジティブ型農業は、農薬を使わないことだけを目指すのではなく、病害虫を見える化し、診断し、必要な対策だけを選ぶ方向に進みます。AI、気象データ、土壌診断、画像診断、アプリ、予察が、農薬低減を支える土台になります。


6. 天敵と温存植物を使う露地野菜の技術

 最近、特に欧州で注目されている技術群が、天敵利用と天敵温存植物です。カタログでは、露地ナス、施設ナス、キュウリ、トマト、イチゴ、果樹、茶、露地作物にわたって、天敵を活用する技術が多数掲載されています。

 No.141「土着天敵と天敵温存植物を利用した露地ナスの減農薬栽培技術」は、奈良県の技術です。原典では、露地ナスで、殺虫剤に対して複合抵抗性を発達させたミナミキイロアザミウマが発生し、殺虫剤散布を中心とした防除体系では被害を抑制するのが困難であるとされています。そこで、土着天敵ヒメハナカメムシ類を利用するために、選択性殺虫剤を中心とした防除体系に切り替え、天敵温存植物フレンチマリーゴールドをほ場側面等に植栽します。

 フレンチマリーゴールドは、近畿以北では6月から10月まで開花が続き、この間、ナスを加害しないコスモスアザミウマが発生し、ヒメハナカメムシ類を維持するバンカーとなります。カタログでは、この技術により、ミナミキイロアザミウマに対する薬剤防除がほぼ不要となり、殺虫剤使用回数をほぼ半減できるとされています。留意点として、ツマグロアオカスミカメやミナミアオカメムシなど、選択性殺虫剤で対応しにくい害虫カメムシ類の発生には注意が必要とされています。

 No.142「2種の天敵を組み合わせた促成栽培ナスのアザミウマ類防除対策技術」は、岡山県南部の促成栽培ナス産地を対象とします。カタログでは、難防除害虫ミナミキイロアザミウマの薬剤感受性低下により、化学合成農薬による防除が非常に困難な状況となっていたと説明されています。この技術では、天敵タバコカスミカメとスワルスキーカブリダニをハウス内に放飼し、紫外線カットフィルム、天敵に影響が小さい農薬と組み合わせます。効果として、秀品率が以前のレベルまで回復し、約8%向上したこと、化学合成農薬の散布回数が約60%、殺虫剤では約75%削減できたこと、防除コストを約4万円/10a削減できたことが示されています。岡山県南部の促成栽培ナス産地では、2020年度時点で導入割合が約99%に達しているとされています。

 No.143「捕食性天敵タバコカスミカメをナスの周年栽培体系で利用する技術『ゴマまわし』」は、徳島県の技術です。タバコカスミカメは、西日本に土着する小型のカメムシの一種で、薬剤抵抗性の発達が確認されているアザミウマ類、コナジラミ類を捕食する有力な天敵昆虫です。この技術では、タバコカスミカメが好むゴマやクレオメを植栽し、温存・増殖させ、ナスの周年栽培体系の中で活用します。露地栽培では、5月上中旬頃にゴマを畝端等に植栽し、1か月ごとに播種・植付けを行います。施設栽培では、ナス定植前にゴマを施設内に植栽し、9月頃に露地のゴマからカスミカメを採集して施設内ナスへ放し、冬期にはクレオメで温存します。

 No.125「オオムギ間作による害虫抑制」も、露地野菜における生態系活用型の技術です。春作のキャベツやタマネギの定植前後に、畝間にオオムギを播種・生育させることで、数種類の害虫密度を抑制し、被害を軽減します。原典では、キャベツではモンシロチョウで4〜7割減、ウワバ類で2〜4割減、タマネギではアブラムシ類、ネギアザミウマで6〜9割減の抑制効果が示されています。また、オオムギを間作することで、土着天敵であるゴミムシ類やヒラタアブ類等の増加が確認されており、オオムギが土着天敵の定着しやすい環境を提供していることが、害虫抑制効果の一因と推定されています。

 No.343「露地作物における天敵等を含む生態系の相互作用を活用したIPM技術」は、開発中技術として掲載されています。対象は、オクラ、マメ類、ゴボウ、サトウキビです。カタログでは、オクラや未成熟マメ類などの露地野菜では登録農薬が少ないだけでなく、収穫日が連続するため、化学農薬だけに依存した防除では十分に被害を抑制できないとされています。そこで、問題となる害虫に対する土着天敵の種類と発生消長を明らかにし、天敵を積極的に活用する防除技術の開発を目指しています。これまでに、テントウムシ類、ヒラタアブ類、ヒメハナカメムシ類を春期に温存する植物として、ヘアリーベッチ、シロガラシ、クリムゾンクローバが選定されています。サトウキビでは、イネヨトウの天敵としてズイムシサムライコマユバチを中心に寄生蜂が確認され、寄生率は5月以降に50%に達するとされています。

 露地野菜の技術群から見えるのは、農地に天敵を「投入する」だけでは不十分だということです。天敵が居つく植物、逃げ場、餌、農薬の選び方、作型の中での温存時期を設計する必要があります。フレンチマリーゴールド、ゴマ、クレオメ、オオムギ、ヘアリーベッチ、シロガラシ、クリムゾンクローバは、単なる植物ではなく、天敵を支える圃場内インフラとして使われています。


7. 光、熱、温湯、ネット、超音波による物理的防除

 化学農薬を減らす技術として、カタログには、光、熱、温湯、ネット、超音波、振動など、物理的防除技術が多数掲載されています。これらは、天敵利用と相性がよく、農薬だけに頼らない総合的病害虫管理を支えます。

 No.31「事前乾燥を取り入れた水稲温湯種子消毒」は、水稲種子の温湯消毒技術です。原典では、農薬を使用しない水稲種子の温湯消毒法は減農薬栽培に大きく貢献する一方、ばか苗病に対する防除効果が不十分という課題があったとされています。そこで、温湯消毒の前に種子を事前乾燥させ、水分含量を10%未満に低下させることで、種子の高温耐性が向上し、通常より5℃高い65℃で10分間の温湯消毒が可能になりました。ばか苗病、いもち病、苗立枯細菌病、もみ枯細菌病に対して高い防除効果を発揮し、耐性菌にも有効とされています。

 No.45「水稲種子伝染性病害に対する温湯処理と催芽時の生物農薬による体系防除法」は、温湯処理と生物農薬を組み合わせる技術です。温湯処理60℃10分と、催芽時の生物農薬、タラロマイセス・フラバス水和剤またはトリコデルマ・アトロビリデ水和剤DJの200倍液24時間浸漬を体系処理することで、ばか苗病と、もみ枯細菌病に高い効果が得られます。原典では、化学農薬と同等の高い防除効果があり、有機農業でも利用可能とされています。

 No.74「青色光による大豆のマメシンクイガ防除技術」は、有機栽培大豆の難題に対応する技術です。原典では、有機栽培大豆は需要があり、価格も慣行に比べ2倍以上高い一方、大豆子実を加害するマメシンクイガの防除手段がないことが生産の障害であるとされています。この技術では、大豆開花期1週間後以降、マメシンクイガ成虫発生前から8月末頃に、ピーク波長450nm前後のLEDで圃場全体を照度約1ルクス以上で終夜照射し、子実被害を抑制します。規格内収量が30%向上し、カメムシ類や他の鱗翅目害虫などを誘引する心配がないとされています。

 No.132「新型赤色防虫ネットを用いたネギ及びトマトのアザミウマ類およびコナジラミ類防除」は、農薬に頼らない物理的防除法です。ネギでは、ネギアザミウマが殺虫剤感受性の低下により多発し、媒介ウイルスによるネギえそ条斑病も問題となっています。トマトでもアザミウマ類やコナジラミ類による品質低下が発生しています。原典では、縦・横糸が赤色の「赤赤」タイプ、縦・横糸が赤色・黒色の「赤黒」タイプの新型赤色防虫ネットが、ネギアザミウマに対して侵入抑制効果が高いとされています。薬剤散布は、ネットなしでは4回必要だったものが、全面被覆で2回、天井・サイド展張で3回に抑えられるとされています。トマトでは、赤白・赤赤タイプのネットでアザミウマ類密度が白色ネットの約2分の1、赤白・赤黒タイプのネットでコナジラミ類密度が白色ネットの約10分の1および12分の1に抑えられるとされています。

 No.153「温室メロンにおける赤色光照射や天敵等を組み合わせたミナミキイロアザミウマの総合防除」は、赤色光、熱処理、トラップ、天敵を組み合わせた技術です。薬剤抵抗性を発達させたミナミキイロアザミウマに対して、育苗施設では赤色ネット、赤色光照射、色トラップを設置し、定植前に熱処理で害虫が寄生しない苗を準備します。本圃定植後は、天敵利用と光利用を組み合わせます。原典では、赤色光照射により成虫の定着を抑制し、青緑色粘着トラップで成虫を捕殺し、蒸熱処理により定植苗の成幼虫・卵を除去し、天敵カブリダニで株上の幼虫密度を抑制するとされています。総合防除により、化学農薬使用回数の半減が期待されています。

 No.219「赤色LEDによるミナミキイロアザミウマ防除」は、施設野菜を対象とする技術です。赤色光を植物体に照射すると、ミナミキイロアザミウマは植物体の緑色を認識できず、定着しにくくなります。原典では、施設内に全面照射することで、無照射と比較してミナミキイロアザミウマ生息密度を約30%以下に低減できるとされています。ただし、赤色光には殺虫効果がなく、植物体に定着した個体を離脱させる効果は低いため、照射前に生息密度をゼロにすることが留意点とされています。

 No.206「合成超音波によるチョウ目害虫の被害低減技術」は、ヤガ類が天敵であるコウモリの発する超音波から逃避する習性を利用した技術です。施設園芸、露地野菜、畑作物、果樹を対象に、合成超音波によりヤガ類の飛来を抑制します。カタログでは、葉ネギの露地栽培ほ場で、シロイチモジヨトウによる被害株率を慣行栽培ほ場との比較で平均93.4%削減したとされています。また、ハスモンヨトウに対する殺虫剤散布回数を75%、シロイチモジヨトウに対する殺虫剤散布回数を89%削減したとされています。ただし、モンシロチョウ、コナガ、ハマキガ類、アザミウマ類、アブラムシ類、ハダニ類など、耳を持たない害虫種には効果を確認できていないとされています。

 No.245「紫外線照射によるイチゴの病害虫防除技術」は、UVB照射を利用する技術です。No.247「結露センサーを用いた暖房機制御によるシソ斑点病防除」は、結露を検知し、暖房機を制御することで病害を防除する技術です。No.347「振動を用いた害虫制御技術」は、2030年を目途に市販化を目指す開発中技術です。カタログでは、カメムシの忌避、カミキリムシやヨコバイの摂食阻害など、害虫の感受性が高い周波数域を利用する方向が示されています。

 これらの物理的防除技術は、農薬を置き換える単独技術ではなく、天敵利用や有機農業と組み合わせやすいです。赤色ネット、赤色LED、青色LED、温湯、蒸熱、超音波、振動は、それぞれ対象害虫や作物が限定されますが、適切な場面で使えば、化学農薬の使用回数を減らす技術部品になります。


8. 果樹園では、草生栽培と土着天敵が中心技術になる

 果樹分野は、ネイチャーポジティブに関係する技術が特に豊富です。果樹は永年性作物であり、同じ樹を長期間栽培します。そのため、園地環境、下草、天敵、病害虫、落葉、剪定、薬剤抵抗性の管理が、単年作物以上に重要になります。

 No.155「<w天>防除体系」は、天敵が主役の新しい果樹のハダニ防除技術です。原典では、ハダニ類は増殖が早く、薬剤抵抗性を獲得しやすいため、化学農薬、特に殺ダニ剤に過度に依存した防除では管理がますます困難になるとされています。<w天>防除体系は、天敵利用を主体とした環境保全型の防除技術です。この体系では、第一に、天敵にやさしい農薬を使います。第二に、天敵がすみやすい草生管理を基盤にします。第三に、必要に応じて天敵製剤で補完します。第四に、殺ダニ剤で防除効果を安定化します。リンゴ、ナシ、オウトウ、施設ブドウ、施設ミカンで体系化のポイントが整理され、手順書が作成されています。原典では、本体系の導入により、殺ダニ剤の散布を慣行の3分の1以下に減らしながら、ハダニの多発を抑えられるとされています。

 No.161「カンキツにおける土着天敵を利用した害虫防除」は、カンキツ園に生息する土着天敵カブリダニ類を活用する技術です。カタログでは、果樹園に生息するカブリダニ類は、風媒花粉等を餌として利用し、春から夏にかけて果樹上で密度が高まるとされています。主要病害虫の防除には天敵に影響が小さい農薬を使用し、カブリダニ類を保護します。さらに、5月に出穂するナギナタガヤを利用した草生栽培により、餌となる花粉を供給し、カブリダニ類の密度を高め、害虫防除効果を強化します。ナギナタガヤの草生栽培は、カブリダニ類の越冬場所や餌である花粉の供給源になります。さらに、雑草抑制、土壌流亡防止、リン流出軽減、有機物施用の効果もあります。カタログでは、天敵に影響が小さい農薬の使用と草生栽培により、ミカンハダニやミカンサビダニの密度および被害が慣行防除と比較して約50%抑制されるとされています。

 No.164「カンキツにおける農業に有用な生物多様性を保全する取組」は、より直接的に生物多様性を扱う技術です。地表面を裸地にせず、草刈り機を用いた除草を行い、下草を生やす草生栽培に取り組みます。併せて、殺虫剤の使用を減らした減農薬栽培に取り組むことで、圃場内の生物多様性が高くなります。原典では、このような圃場では、土着天敵の働きが活発になり、害虫の発生が抑えられるとされています。生物多様性が高い圃場では、殺ダニ剤を使用しなくてもミカンハダニの発生が少ないとされています。

 リンゴでは、No.170「土着天敵のカブリダニ類を温存するりんご園地の下草管理方法」が掲載されています。りんご園地の樹間通路を、乗用モアなどで草丈約8cmに高刈りすることで、ハダニ類の土着天敵であるカブリダニ類を温存できます。樹冠下は、病害の発生を助長しないよう、草刈機などで適宜30cm以下に管理します。併せて、選択性殺虫剤を中心とした防除を組み合わせると、カブリダニ類の定着が促されます。カタログでは、下草の高刈り管理を継続することで、殺ダニ剤を散布することなく、ハダニ類の発生密度を抑制できるとされています。

 ニホンナシでは、No.177「ニホンナシにおける天敵カブリダニを主体としたハダニ類のIPM」が掲載されています。原典では、殺ダニ剤だけでは防ぎきれないハダニ類を防除するため、各種防除技術を組み合わせ、ナシ園に天敵カブリダニ類の定着を促すIPM版害虫防除暦を作成したとされています。多目的防災網で大型害虫の侵入を防ぎ、非選択性殺虫剤の使用回数を減らします。6〜7月は非選択性殺虫剤を控え、梅雨明けに活動する天敵類を温存します。4〜9月はナシ樹株元に雑草を残し、株元雑草を天敵カブリダニの住みか、ナシ樹上へ移動する際の「ハシゴ」として使います。ただし、収穫後は落葉期までに清耕へ戻し、黒星病の伝染源となる落葉処理に支障がないようにします。カタログでは、殺ダニ剤1回の使用でハダニの被害発生を抑制し、殺ダニ剤抵抗性発達も抑えられ、化学農薬使用量削減につながるとされています。

 果樹園のネイチャーポジティブ技術には、もう一つの系統があります。伝染源を減らす耕種的防除です。No.169「リンゴ黒星病対策用落葉収集機の開発」は、被害落葉を収集して病害発生を軽減する技術です。No.179「ナシ黒星病の被害軽減のための農作業機械を用いた落葉処理技術」も同じ方向です。落葉は病害の伝染源になります。これを園地から取り除く、または処理することで、薬剤防除への依存を下げます。

 果樹園の技術群は、ネイチャーポジティブ型農業の一つの完成形を示しています。抵抗性品種を使う。下草を高刈りする。株元草生を天敵のすみかにする。非選択性殺虫剤を避ける。天敵製剤で補完する。病害の伝染源となる落葉を処理する。必要なときだけ殺ダニ剤を使う。この組み合わせが、カタログに掲載された果樹のネイチャーポジティブ技術体系です。


9. 施設園芸では、天敵・防虫ネット・光・微生物農薬を組み合わせる

 施設園芸は、閉鎖的または半閉鎖的な環境を管理できるため、天敵、ネット、光、温湿度、微生物農薬を組み合わせた防除体系をつくりやすい分野です。原典には、施設野菜を対象に、多数の防除技術が掲載されています。

 No.199「アブラムシ防除に有効な飛ばないナミテントウ」は、施設野菜を対象とする天敵製剤です。対象品目は、ナス、ピーマン、イチゴ、コマツナなどです。原典では、アザミウマ、コナジラミ、ハダニなどの重要害虫を天敵で防除している施設圃場では、アブラムシ被害が顕在化しやすいとされています。飛ばないナミテントウは、通常のナミテントウでは作物上に放してもすぐに飛んで逃げる問題を解決するために育成された、遺伝的に飛翔能力を欠く系統です。施設野菜の天敵製剤として農薬登録され、市販されています。原典では、アブラムシ捕食数が多く即効性が高いこと、多種類のアブラムシに対応できること、コレマンアブラバチなどの寄生蜂と併用することで長期的に防除できることが示されています。

 No.200「園芸用施設への微小害虫の侵入を抑制する新防虫ネット」は、コナジラミ類やアザミウマ類の侵入抑制を目的とします。従来は0.4mm以下の防虫ネットが推奨されますが、目合いが小さいと通気性が悪くなり、施設内気温が上昇し、作物生育や作業者の熱中症リスクに影響します。そこで、織糸に合成ピレスロイド剤のエトフェンプロックスを練り込んだ、目合い0.75mmの防虫ネットが開発されました。原典では、織糸に含まれる成分が徐放され、虫が防虫ネットに留まり続けることを防ぎ、目合い1.0mmの防虫ネットと同等の通気性能を持つとされています。

 No.217「施設キュウリにおけるミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミの総合的管理技術」は、施設キュウリを対象とする総合防除です。防虫ネット、天敵類、天敵温存植物を組み合わせます。0.4mm目合い白色、または0.6mm目合い赤色の防虫ネットを展張した施設で、栽培初期にタバコカスミカメとスワルスキーカブリダニを放飼し、温存植物としてスカエボラ、バーベナを設置します。その他害虫が発生した場合は、天敵類に影響の小さい薬剤を散布します。原典では、ミナミキイロアザミウマを栽培期間を通して低密度に抑え、アザミウマ類防除剤の使用を導入前の17剤から4剤へ、4分の1以下に削減できたとされています。

 No.218「紫外線カットフィルムを被覆したキュウリハウスでのスワルスキーカブリダニを用いた防除体系」は、紫外線カットフィルム、防虫ネット、粒剤処理、スワルスキーカブリダニを組み合わせる技術です。原典では、紫外線カットフィルムによりアザミウマやコナジラミ類の侵入を抑え、スワルスキーカブリダニの捕食により、長期間害虫発生密度を抑えるとされています。定植前の粒剤処理と組み合わせることで、発生初期から害虫密度を低く抑えることができます。

 No.224「抑制トマト栽培におけるタバコカスミカメの苗放飼によるコナジラミ類の総合防除法」は、トマトにおける天敵利用です。No.231「天敵タバコカスミカメの利用を基幹とした施設栽培大玉トマトのタバココナジラミ防除」も同じ系統にあります。No.229「微生物殺虫殺菌剤を利用したトマト病害虫のデュアルコントロール技術」では、ボーベリア・バシアーナ乳剤が、トマトうどんこ病とコナジラミ類の同時防除に使われます。原典では、薬剤抵抗性発達リスクが少なく、化学農薬の使用回数削減に貢献する技術として掲載されています。

 イチゴでは、No.241「イチゴ促成栽培におけるミヤコカブリダニのバンカー製剤によるハダニ類のIPM防除技術」が掲載されています。バンカー製剤は、天敵を安定的に維持し、ハダニ類を抑えるための技術です。No.244「イチゴの新たな花粉媒介昆虫としてのヒロズキンバエの利用」は、受粉に関する技術です。No.245「紫外線照射によるイチゴの病害虫防除技術」は、UVBを用いる技術です。

 開発中技術では、No.355「天敵活用等による園芸品目の害虫防除技術の開発」が掲載されています。対象は、ピーマン、イチゴ、トマト、シソなどです。原典では、天敵資材、土着天敵を活用することで、化学農薬の使用量・使用回数を低減し、防除に係る薬剤費・人件費の削減を図るとともに、持続的生産体系を支援するとされています。地域性に合わせた天敵利用法の開発・普及が進められており、夏秋ピーマンにおけるタバコカスミカメ利用、イチゴにおける天敵温存植物の導入などが示されています。

 施設園芸の技術群は、露地とは異なり、環境を制御しながら防除体系を設計できます。防虫ネットで侵入を抑える。天敵を放す。温存植物を置く。光で定着を抑える。微生物農薬で病害虫を同時に抑える。天敵に影響の小さい薬剤だけを選ぶ。これが、カタログに示された施設園芸のネイチャーポジティブな防除の流れです。


10. 茶では、耐病性品種、機械除草、天然由来農薬、物理的防除が組み合わさる

 茶は、輸出、残留農薬、有機栽培、病害虫管理の観点から、ネイチャーポジティブに関係する技術が多い分野です。カタログでは、耐病性品種、病害虫複合抵抗性品種、有機JASで使用可能な資材、物理的防除、機械除草が掲載されています。

 No.258「耐病性茶品種『さえあかり』『せいめい』による化学農薬削減」は、茶における重要な技術です。茶栽培で化学農薬使用量削減や有機栽培を行う場合、炭疽病、輪斑病、赤焼病への対策が課題になります。特に炭疽病は、新芽から侵入し、二番茶や秋冬番茶に大きなダメージを与え、翌年一番茶の品質や収量にも影響します。カタログでは、「さえあかり」や「せいめい」を活用することで、化学合成殺菌剤を使用しない、または大幅に削減することが可能になるとされています。一般的な「やぶきた」の慣行栽培では年間防除回数が約6回である一方、これらの品種では化学合成農薬を無使用で栽培可能とされています。

 No.260「かなえまる」は、病害虫複合抵抗性の緑茶用中生品種です。クワシロカイガラムシ、炭疽病、輪斑病、もち病に抵抗性を持つため、化学農薬使用量削減が可能とされています。残留農薬リスクを低減する海外輸出向け栽培体系にも導入可能であり、「やぶきた」の代替品種として有望とされています。

 No.261「有機JASで使用できる除虫菊乳剤3によるチャドクガ防除技術」は、天然のピレトリンを有効成分とする資材を使う技術です。チャドクガはチャの害虫であると同時に、ヒトに対する衛生害虫でもあります。減農薬や無農薬栽培条件下では多発生を招きやすく、対策が課題でした。除虫菊乳剤3は、除虫菊の花から抽出した天然ピレトリンを有効成分とし、共力剤であるピペロニルブトキサイドを含まず、有機JAS栽培で使用可能です。原典では、虫体に直接散布した場合、即効性があり、既登録の化学農薬とほぼ同等の高い防除効果が期待できるとされています。

 No.262「茶園用病害虫クリーナーによるチャ炭疽病対策および異物除去作業の省力化」は、物理的防除技術です。茶有機栽培では、化学合成農薬に頼らない病害虫防除が求められます。この技術では、送風により病葉や害虫を除去する「茶園用病害虫クリーナー」を使います。乗用型摘採機の前方にノズルユニットを装着し、樹冠中に溜まった病葉を除去して感染源を取り除くことで、次期の炭疽病発病を低減します。原典では、一番茶期と二番茶期の萌芽期にクリーナー処理することで、二番茶期の炭疽病発病を約5割減らせるとされています。

 No.263「二番茶後の剪枝による茶の炭疽病対策」は、剪枝時期を活用した耕種的防除です。輸出を考える場合、諸外国の残留農薬基準値以下にする必要があり、化学農薬散布の代替技術が課題です。この技術では、従来から茶樹の更新を兼ねて一番茶後に行っていた剪枝を、二番茶後の7月末までに摘採残葉がなくなる程度に行います。これにより、二番茶後の殺菌剤散布を行わなくても、秋芽への炭疽病発生を抑えることが可能になり、翌年一番茶の収量・品質への影響は見られないとされています。

 No.259「茶園用除草機による茶園除草の省力化」は、除草剤を使わない茶栽培を支える技術です。茶園用除草機は、うね間と樹冠下・雨落ち部の雑草を掻き取るアタッチメント式機械で、手取り除草を大幅に省力化します。原典では、機械除草後に手取り除草を行った場合、幼木園で約53%、成木園で約78%、除草時間を削減したとされています。

 茶の技術群は、残留農薬、輸出、有機栽培、労働力不足、病害虫抵抗性を同時に扱います。耐病性品種を導入し、機械除草で除草剤を減らし、天然由来資材で害虫を抑え、送風や剪枝で病害の伝染源を減らす。この組み合わせが、茶におけるネイチャーポジティブな技術の骨格です。


11. 2030年に向けた技術は、生物間相互作用とスマート防除へ向かう

 カタログの開発中技術を見ると、ネイチャーポジティブ関連技術は、単なる農薬代替から、生物間相互作用、スマート防除、複合抵抗性品種、土着天敵の最大活用へ進んでいます。

 No.334「化学農薬に依存しない効果的なRNA農薬の開発」は、RNAを利用する新しい防除技術です。これは、従来の化学農薬とは異なる作用機構を持つ防除手段として掲載されています。

 No.337「AI等を活用した精緻な病害虫発生予察の確立」は、IoT自動撮影カメラ付き粘着式フェロモントラップなどを活用し、発生予察を高度化する技術です。発生状況を把握し、必要なタイミングで防除することは、農薬使用量の削減に直結します。

 No.343「露地作物における天敵等を含む生態系の相互作用を活用したIPM技術」は、土着天敵と天敵温存植物の関係を明らかにし、露地作物の防除体系に組み込む技術です。カタログでは、テントウムシ類、ヒラタアブ類、ヒメハナカメムシ類の温存に有効な植物として、ヘアリーベッチ、シロガラシ、クリムゾンクローバが選定されています。サトウキビでは、イネヨトウへの寄生蜂の発生消長を把握し、防除体系に組み込む方向が示されています。

 No.346「化学農薬に依存しない次世代総合的病害虫管理」は、果樹・茶を対象とする開発中技術です。原典では、果樹・茶は永年性作物であり、通年管理が必要で、数十年間同一樹を栽培するため、化学農薬に依存しない省力・持続的な栽培が可能となる樹園地環境を維持・管理する技術開発を目指すとされています。研究開発項目として、主要病害に対する複合耐病性品種の活用、潜在病害虫の自動診断、有機栽培対応型新規防除技術、天敵製剤・土着天敵の最大活用、天敵が保全される園地と園地周辺環境の管理、越冬伝染源の除去技術、誘引物質による害虫密度低減、省力樹形における低コスト・省力病害虫防除技術が挙げられています。

 この技術は、カタログの中でも特にネイチャーポジティブの方向性をよく示しています。耐病性品種を使う。天敵を使う。土着天敵が保全される園地環境をつくる。潜在病害虫を自動診断する。越冬伝染源を除去する。省力樹形とスマート防除を組み合わせる。つまり、個別技術ではなく、樹園地全体を管理する体系です。

 No.347「振動を用いた害虫制御技術」も、化学農薬だけに依存しない防除技術として掲載されています。害虫が振動情報を種間の交信や天敵の察知に利用している点を逆手に取り、振動で害虫の定着、加害、密度を制御する技術です。No.348「病害虫の薬剤抵抗性の発達を抑制する効率的薬剤散布体系の構築」は、リンゴ黒星病を例に、落葉からの伝染源飛散抑制、胞子飛散量・薬剤耐性のモニタリング、AIを活用した初期被害検出、農薬の局所散布などを組み合わせる技術です。

 2030年に向けた流れは、農薬を減らすだけではなく、圃場や園地に存在する生物間相互作用を理解し、天敵、抵抗性品種、診断、予察、物理的防除、省力樹形、自動化を組み合わせる方向へ進んでいます。


12. 基盤確立事業が支える、ネイチャーポジティブ技術の普及

 カタログには、みどりの食料システム法の認定を受けた基盤確立事業も掲載されています。ここには、技術の普及を支える資材、機械、サービス、需要開拓が含まれます。ネイチャーポジティブに関係する事業としては、病害虫に強い品種、天敵農薬、天然物質由来農薬、防除資材、機械除草、温湯消毒装置、有機農産物の需要開拓などが重要です。

 No.382「病害虫に強い品種の研究開発」は、水稲、畑作を対象に、北海道で広く栽培されている稲、小麦、ばれいしょについて、病害虫に強い品種育成を行い、環境保全型農業の推進に貢献する事業です。主な事業内容として、稲のいもち病、小麦の雪腐病、ばれいしょのジャガイモシロシストセンチュウなど、重要な病害虫に強く、収量性等を兼ね備えた新品種を育成することが示されています。

 No.403「天敵農薬の普及拡大」は、天敵農薬を広げる事業です。No.404「天然物質由来の農薬」は、天然物質由来の殺菌剤を対象とする事業です。No.386「天然物質由来農薬『スピノサド』」も、天然物質由来農薬の普及事業として掲載されています。No.392「セルロースナノファイバーを用いた防除資材」は、物理的防除により化学農薬低減を扱う事業です。

 機械面では、No.415「水田用除草機、ラジコン草刈機、乗用草刈機」、No.417「水田除草機、ポット成苗田植機」、No.440「水田用除草機」、No.462「水田抑草ロボットのレンタルの普及拡大」などが掲載されています。これらは、有機水稲や減農薬栽培の雑草管理を支える機械・サービスです。No.423「種子温湯消毒装置」は、温湯消毒を現場実装するための機械事業です。No.469「茶園うね間除草機」は、茶園の除草剤低減に関係します。

 「天敵農薬が供給される。温湯消毒装置が使える。水田除草機が導入できる。抑草ロボットをレンタルできる。販路がある。」こうした基盤確立事業が、カタログに掲載された技術を実装するために支える形で紹介されています。


13. 原典から見えるネイチャーポジティブ技術の流れ

 カタログに忠実に整理すると、ネイチャーポジティブに資する技術の流れは、次のような全体設計で俯瞰できます。

 第一段階は、病害虫に強い品種を選ぶことです。水稲、ばれいしょ、大豆、野菜、果樹、茶で、抵抗性品種や抵抗性台木が掲載されています。ここで、農薬に頼らざるを得ない前提を減らします。

 第二段階は、土を整えることです。緑肥、有機物、土壌還元消毒、太陽熱土壌消毒、土壌病害診断により、病害虫が多発しにくく、作物が健全に育つ土壌環境を整えます。

 第三段階は、雑草を管理することです。水田では高能率除草機、揺動ブラシ式除草機、トロトロ層、自動抑草ロボットが使われます。畑では早期中耕培土やカルチ、茶では茶園用除草機が使われます。果樹では、雑草を消すのではなく、草生栽培や下草管理として利用します。

 第四段階は、病害虫を診断・予察することです。AI画像診断、土壌病害ポテンシャル診断、梨なびアプリ、病害虫予報AIアプリ、発生予察技術が、必要な防除を判断するための根拠になります。

 第五段階は、天敵と生態系機能を使うことです。露地ナスのヒメハナカメムシ類、ナスのタバコカスミカメ、カンキツのカブリダニ類、リンゴのカブリダニ類、ニホンナシのカブリダニ類、施設野菜のスワルスキーカブリダニ、飛ばないナミテントウ、ミヤコカブリダニなどが掲載されています。

 第六段階は、物理的防除で補完することです。温湯、蒸熱、赤色防虫ネット、赤色LED、青色LED、紫外線カットフィルム、UVB、超音波、振動、病害虫クリーナーなどが、農薬以外の防除手段として使われます。

 第七段階は、必要な場合に、選択性農薬や天然物質由来農薬を使うことです。原典では、天敵に影響の小さい農薬の使用、有機JASで使用可能な除虫菊乳剤、天然物質由来農薬などが整理されています。ここでは、農薬を全面否定するのではなく、天敵や有機農業と両立しやすい資材・使い方に移行します。

 このシステム・アーキテクチャは、カタログの技術を読み解くうえで重要です。ネイチャーポジティブな農業は、品種、土壌、雑草、診断、天敵、物理的防除、選択性薬剤を組み合わせる、発展途上の精密な管理技術の体系なのです。


おわりに

 「みどりの食料システム戦略 技術カタログ Ver.6.0」に掲載された技術をネイチャーポジティブの観点で読み直すと、どんな農業技術の方向性になるかをご紹介して参りました。

 水稲では、温湯消毒、機械除草、トロトロ層、自動抑草ロボット、有機栽培体系が、化学農薬に頼らない栽培を支えます。

 畑作では、抵抗性品種、有機大豆体系、青色LED、輪作、有機トウモロコシ、緑肥が、病害虫と雑草に対応します。

 露地野菜では、緑肥、土壌病害診断、太陽熱土壌消毒、赤色防虫ネット、オオムギ間作、天敵温存植物、土着天敵が、圃場内の生態系機能を活用する技術として整理されています。

 施設園芸では、防虫ネット、スワルスキーカブリダニ、タバコカスミカメ、飛ばないナミテントウ、赤色LED、微生物殺虫殺菌剤、UVBが、環境制御と組み合わさります。

 果樹では、草生栽培、下草管理、土着天敵、天敵製剤、落葉処理、抵抗性品種、梨なびアプリが、園地単位の生物多様性管理を支えます。

 茶では、耐病性品種、病害虫複合抵抗性品種、有機JAS対応資材、病害虫クリーナー、剪枝、茶園用除草機が、化学農薬低減と有機栽培を支えます。

 そして、2030年に向けては、RNA農薬、AI予察、土着天敵と天敵温存植物、生物間相互作用を活用したIPM、複合耐病性品種、スマート防除、振動による害虫制御が開発されています。

 カタログに掲載された技術群は、「作物を病害虫に強くする。土を整える。雑草を管理する。病害虫を診断する。天敵を温存する。光や熱やネットで補完する。必要な農薬を選択的に使う。」こうした順序で組み合わせることで、農業生産と生物多様性の両立に近づく技術体系が見えてきます。ネイチャーポジティブに資する農業イノベーションとして、カタログが示しているのは、農業の中に、土壌生物、天敵、草生、緑肥、抵抗性品種、診断技術、物理的防除を組み込み、農薬への過度な依存を下げながら、安定生産を維持する技術体系でした。

 これらは、すなわち、自然のレジリエンスを農場にインストールすることでした。そして、将来、完全に回復可能に農場がなれば、それはリジェネラティブな農業といえます。


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