まちの価値を変える「ネイチャーポジティブ技術」
これから日本の都市開発、建築、公共工事が向き合うべき「緑」は、「見た目の緑化」とはまったく異質なものです。国土交通省は、グリーンインフラの取組が企業の資産価値や不動産価値にポジティブな影響を与える経路を整理しています。グリーンインフラは防災・減災、暑熱対策、生物多様性、地域のにぎわい創出にも資すると位置づけられています。環境省も、2030年目標として「生物多様性の損失を止め、反転させる」ネイチャーポジティブを掲げ、企業価値と地域価値を併せて高める方向を示しています。つまり、国の政策が「緑化」から「自然資本の組み込み」へと明確に舵を切っているのです。そこで、本記事では、「本当に地域の価値を上げる」ネイチャーポジティブ技術を、ランキング形式で50件、解説します。地域やまちの価値を高めるネイチャーポジティブ技術は、このたくさんの技術を見ていただいて、気づいていただきたいことは、あなたもすぐ着手できる身近な技術もある、ということです。では、今日も楽しんでいってくださいね!
▼関連記事

ネイチャーポジティブで不動産価値を上げる
従来の緑化は、景観をよく見せるために植栽を配置するという考え方が主流でした。設計の主役はあくまで建物であり、緑は添え物です。しかし、ネイチャーポジティブの考え方は根本的に違います。建物配置、動線、雨水、日陰、眺望、認証を初期設計から一体化するのです。緑は、最初から設計条件に「組み込む」ものなのです。
この違いは、建物の配置を決めるときから現れます。たとえば、敷地内の既存樹木をどう残すかで建物のフットプリントが変わります。雨水をどこで浸透させるかで外構の設計が変わります。どの認証を取るかで植栽の種類や配置が変わります。これらを最初から設計条件として織り込むのが、ネイチャーポジティブの発想です。

従来は「つくった瞬間が最も美しい」のが当たり前でした。しかし、ネイチャーポジティブの設計では「時間が経つほど価値が上がる」建設が可能になるのです。では、本当に価値を上げるネイチャーポジティブとは、具体的にどのような条件を満たすものなのでしょうか。次の5つを満たすものです。

第一の条件は「不動産価値を上げること」。 これは最も直接的な価値指標です。賃料が上がるか。販売単価が上がるか。稼働率が上がるか。来街者数が増えるか。ブランドが向上するか。認証が取れるか。ESG投資の評価が上がるか。こうした指標に影響しない緑化は、コストとして扱われてしまいます。
第二の条件は「公共価値を上げること」。 不動産だけではなく、その地域全体の価値に貢献できるかという視点です。浸水リスクの低減、暑熱対策、防災機能、健康増進、観光誘客、地域住民の満足度向上、維持管理費の削減。公共工事の場合、これらの公共価値こそが事業の正当性を支えます。民間開発でも、周辺地域への貢献が説明できれば、容積率緩和や補助金の獲得にもつながりえます。
第三の条件は「生物多様性を実際に増やすこと」。 在来種の生息地をつくるか。土壌を豊かにするか。水辺を回復するか。餌場や繁殖場を提供するか。生きものの移動経路を確保するか。「緑に見える」だけでは不十分で、実際にその場所の生態系が豊かになっているかどうかが問われます。外来の園芸品種を植えるだけでは、見た目は緑でも、在来の昆虫や鳥にとってはほとんど利用できない空間になってしまうことがあります。
第四の条件は「制度・認証に乗せやすいこと」。 TSUNAG、自然共生サイト、ABINC、SEGES、CASBEE、DBJ Green Building、JHEPなどに接続しやすいかどうか。制度に乗せられなければ、価値の説明が「感覚的」で終わってしまいます。投資家に対しても、テナントに対しても、住民に対しても、第三者認証の裏付けがあるかどうかで説得力が大きく変わります。
第五の条件は「維持管理を設計していること」。 竣工時だけ見栄えがよい緑ではなく、10年後も価値を保つ仕組みがあるかどうか。これは見落とされがちですが、実は最も重要な条件の一つです。竣工から3年で緑が荒廃した事例は、日本中に数えきれないほどあります。維持管理の計画と予算が設計段階から組み込まれていなければ、どんな技術も持続しません。
この5つを同時に高い水準で満たすことで、本当の意味で「価値を上げる」ことができます。
今回この目線から、ネイチャーポジティブの技術(手法)を順位づけしてみます。これにあたっては、4つの評価軸を設定しています。

最も配点が大きいのは「工事対象の価値向上」で、40点を配分しています。不動産価値、公共価値、来訪価値、防災価値、健康価値、景観価値を上げるかどうかを見ます。この軸が最大である理由は明確です。ネイチャーポジティブを「コスト」ではなく「投資」として位置づけるためには、まず価値が上がることを示す必要があるからです。
次に「ネイチャーポジティブ効果」が25点です。生息地、在来種、水循環、土壌、生態系ネットワークを改善するかどうかを評価します。この点数が価値向上より低いのは、生態系への貢献を軽視しているからではありません。生態系に良くても事業として成り立たなければ、持続しないからです。事業価値と生態系価値の両輪が回ることこそが、ネイチャーポジティブの本質です。
「日本での実装性」が20点です。施工技術の成熟度、関連する制度や補助金、維持管理体制の構築しやすさ、自治体や発注者が受け入れやすいかどうかを見ます。どれだけ理想的な技術でも、日本の気候、土壌、法規制、施工体制に合わなければ実装できません。
最後に「公共工事・民間工事への横展開性」が15点です。建築、道路、公園、河川、港湾、学校、庁舎、物流施設など、幅広い工事に展開できるかどうかです。一つの工事種類にしか使えない技術よりも、複数の工事に応用できる技術のほうが、社会全体へのインパクトが大きくなります。
最先端の技術が必ずしも上位に来るわけではなく、むしろ成熟した技術でも、価値向上効果と生態系効果の両方が高ければ上位に位置づけています。コストについても、「安い技術が良い技術」ではなく、「かけた費用に対して得られる価値が大きい技術」を高く評価しています。
7つの目的タイプ別の価値向上ロジック
ネイチャーポジティブ技術は、適用するユースケース(建築物)の種類によって、価値を上げるメカニズムが異なります。ここでは7つの目的タイプごとに、その考え方を整理します。

第一は「建築・不動産価値向上型」です。 オフィス、住宅、商業施設、ホテル、物流施設、工場、庁舎が対象になります。価値向上のロジックは、賃料・販売単価・稼働率・入居者満足・認証・ESG評価を上げることにあります。この領域では、テナントや購入者が「選ぶ理由」になるかどうかが最大のポイントです。
第二は「道路・駅前・ウォーカブル型」です。 街路、駅前広場、歩道、商店街、駐車場が対象です。歩行快適性、滞在時間、回遊性、沿道売上、暑熱対策、雨水処理を高めることで価値が上がります。近年の「ウォーカブルなまちづくり」の潮流とも直結する領域です。
第三は「公園・広場・低未利用地活用型」です。 公園、広場、空き地、公共施設外構が対象です。地域満足度、防災拠点機能、交流促進、子育て支援、健康増進、観光価値を高めるのがポイントです。人口減少時代の日本では、公共空間の使い方が地域の命運を分けます。
第四は「河川・下水・流域治水型」です。 河川、調整池、水路、遊水地、下水施設が対象になります。浸水リスクを下げつつ、親水価値、生態系、景観、維持管理価値を高めることが核心です。近年の激甚化する水害への対応と、生態系の回復を同時に実現できる領域です。
第五は「港湾・海岸・漁港型」です。 港湾、海岸、干潟、藻場、防波堤が対象です。防災、漁業振興、ブルーカーボン、観光、海辺の景観価値を高めます。日本は海洋国家であり、海辺の自然資本は陸地のそれに匹敵する重要性を持っています。
第六は「斜面・里山・農地・郊外インフラ型」です。 法面、森林、里山、農地、造成地が対象です。土砂災害の抑制、水源涵養、景観維持、地域資源としての価値を高める方向で設計します。都市部以外の工事でもネイチャーポジティブは十分に適用可能です。
第七は「共通・評価管理型」です。 すべての工事に共通して、設計、施工、維持管理、モニタリング、認証取得で価値を見える化するアプローチです。個別の技術そのものではなく、技術の効果を測り、証明し、持続させるための仕組みに焦点を当てています。ベースライン調査、生物モニタリング、定量評価、維持管理契約などがここに含まれます。この「共通型」の技術がなければ、他の6つのタイプの技術を導入しても、効果を証明し、投資として正当化することが難しくなります。

ここで重要なのは、一つの工事が複数の目的タイプにまたがることが多いということです。たとえば、駅前の再開発であれば「建築・不動産価値向上型」と「道路・駅前・ウォーカブル型」の両方にまたがります。河川沿いの公園整備であれば「河川・下水・流域治水型」と「公園・広場・低未利用地活用型」が重なります。複数の目的タイプを意識して設計することで、より多面的な価値を生み出すことができるのです。それぞれの目的タイプに、どの技術が最もフィットするのか。次章から具体的に見ていきます。
ネイチャーポジティブ トップ50:建設不動産編
ネイチャーポジティブの技術は、一つ一つは小さな工夫であることがあります。それは自然や生態系はちょっとした心遣いの違いで大きな違いが出てくるからです。では、目的タイプ別にグループ化しながらネイチャーポジティブ技術を解説していきます。リストが50件、と、たくさんありますので、1件1件読み込んでいくというよりは、リストをざーっと俯瞰していただくのが良いと思います。
第1位:多層混交の在来種都市林
全50技術の中でトップに位置づけたのは、「多層混交の在来種都市林」です。これは、高木、亜高木、低木、草本、落葉、枯れ枝、土壌を組み合わせることで、本物の森のような構造を都市の中につくる技術です。オフィス、住宅、商業施設の景観、ブランド、滞在価値を最も上げやすいとされ、TSUNAG、ABINC、SEGES、自然共生サイトにも接続しやすいという特長があります。なぜ第1位なのでしょうか。それは、不動産価値向上、公共価値向上、生物多様性効果、認証接続、横展開性のすべてにおいて高いスコアを獲得するからです。ネイチャーポジティブの観点では、この多層構造こそがカギです。高木だけ、あるいは低木だけの植栽では、鳥や昆虫の生息環境にはなりにくいのです。高木の枝で鳥が営巣し、亜高木の実を鳥が食べ、低木の花に昆虫が集まり、草本の根元で土壌生物が暮らし、落葉の下で菌類が分解を進める。こうした多層構造を重ねることで初めて、本物の生態系が生まれます。大規模再開発、集合住宅、オフィス、商業施設など、まとまった面積の緑地を確保できる案件であれば最優先で検討すべき技術です。
第4位:屋上緑化とビオソーラー屋根
屋上緑化に太陽光発電を組み合わせた「ビオソーラー屋根」は、省エネ、暑熱緩和、眺望価値、生物多様性を同時に高められる技術です。オフィス、商業施設、ホテル、公共建築に適しています。生態系の面では、屋上を乾燥草地として設計し、花粉媒介昆虫(ポリネーター)の生息地として活用できます。太陽光パネルの下に生まれる日陰が、植物の多様性をむしろ高めるという知見もあり、エネルギー生産と生態系回復の一石二鳥を狙える手法です。屋上は従来「使われていない空間」でしたが、この技術によって「エネルギーと生態系の両方を生み出す資産」に変わります。
第9位:水循環型の水景・せせらぎ
商業施設、ホテル、駅前広場の滞在価値、清涼感、回遊性を高めるのが水景です。雨水や中水を循環利用し、都市内に小さな水辺の生態系をつくります。水の音や動きは人に心理的な安心感を与え、滞在時間を伸ばす効果があることが知られています。見た目の美しさだけでなく、水辺を好む昆虫や鳥の生息環境にもなりえます。
第10位:既存樹木・既存表土の保全移植
新築であっても、敷地にもともとあった樹木や表土を保全・移植することで、「最初から成熟した景観」を得ることができます。これは販売や賃貸での訴求力が非常に高いのです。新しく植えた苗木が10年後にようやく見栄えのする大きさになるのに対し、既存樹を保全すれば、竣工日から「20年もの」の緑を楽しめます。生態系の観点では、地域の土壌生物、埋土種子、菌類、在来植生をそのまま残せるという大きなメリットがあります。新しい土を入れて苗を植えるのとは、生態系の質がまったく異なります。表土の中には、何十年もかけて形成された微生物のネットワークや、発芽を待っている種子が含まれているのです。
第11位:壁面緑化・立体緑化
建物の視認性、ブランド、暑熱対策、ファサード価値を上げる壁面緑化です。鳥や昆虫の休息・採餌場所を増やし、都市の緑量を水平方向だけでなく立体的に増やすことができます。敷地面積に制約がある都心部の建築では、壁面を緑化の面として活用することで、限られた敷地でも緑の量を増やせます。
第22位:自然遊び場・ネイチャープレイ
子育て世帯向け住宅、公園、保育施設の差別化に強い技術です。土、木、水、草、虫に触れる空間をつくり、それ自体が小さな生息地にもなります。少子化が進む中、「子どもが自然と触れ合える住環境」は不動産の差別化要素として今後ますます重要になるでしょう。人工的な遊具では得られない「不確実で変化し続ける遊びの環境」が、子どもの発達にも好影響を与えることが示されています。
第23位:緩衝林・環境保全林
工場や物流施設の周辺で、騒音、視線、粉じん、暑熱を和らげ、地域の受容性を高める緑地です。単なる目隠しではなく、生態系ネットワークの一部として設計すれば、企業のESG評価にも接続できます。大規模な物流施設や工場の建設に際して地域住民の理解を得るうえでも、緩衝林の存在は大きな意味を持ちます。
第24位:エコロジカルネットワーク設計
これは単独の技術というよりも、設計思想に近いものです。単独敷地の緑を、周辺の公園、河川、街路樹とつなぎ、街区全体の生態系ネットワークを形成する設計手法です。孤立した緑地をつなぐことで、生きものの移動可能性が高まり、街区全体の価値も上がります。自然は「点」ではなく「面」と「線」でつながることで、初めて生態系として機能します。
第34位:鳥衝突防止ガラス
高層建築、駅、商業施設でのガラス反射による鳥類の衝突死を減らす技術です。環境配慮の信頼性を高めるという意味で、特にESGを意識した案件では検討に値します。ガラスのファサードを多用する現代建築では、実はかなりの数の鳥が衝突死しています。この問題に対処することで、環境配慮の本気度を示すことができます。
第36位:国産・地域材、認証木材、木質化
内装や構造に国産材、地域材、認証木材を使うことで、付加価値、快適性、地域性、脱炭素の訴求力を高められます。持続可能な森林管理と接続すれば、森林生態系の維持にも貢献する技術です。木材の温もりは、入居者やテナントの満足度にも寄与します。
第37位:生物共生バルコニー
分譲住宅や賃貸住宅で、専有部と共用部をつなぐ形で小さな植栽を連続させ、昆虫や鳥の休息点を増やす設計です。居住者参加型の価値をつくりやすく、マンションの差別化にも使えます。居住者一人ひとりが「自分のバルコニーで生態系に貢献できる」という物語は、環境意識の高い層に対して強い訴求力を持ちます。
第45位:グリーンインフラ一体型公開空地
民間開発の公開空地を、単なる通行空間ではなく、滞在、生態系、水循環の資産に変える設計です。在来植栽、雨水浸透施設、水辺、土壌を組み合わせることで、通行者が楽しむだけでなく、生きものも利用できる空間をつくります。
建築・不動産分野では、これらの技術を個別に導入するのではなく、認証制度と最初から一体化させることが重要です。TSUNAGは、企業などによる良質な緑地確保を、気候変動対策、生物多様性、ウェルビーイングの観点から国土交通大臣が評価・認定する制度です。こうした認証を後付けにするのではなく、基本設計段階から要件として織り込むことで、価値の説明力が大きく変わります。
道路・駅前・ウォーカブル編
続いて、道路や駅前の整備に関わる技術群です。この分野は、日々の暮らしの中で最も多くの人が体感する空間であり、ネイチャーポジティブの効果が市民に「見える」場所でもあります。
第2位:緑陰街路樹と連続植栽帯
全50技術の中で第2位に位置づけたのが、緑陰街路樹と連続した植栽帯です。駅前、商店街、オフィス街の暑さを下げ、歩行時間と滞在時間を伸ばす効果があります。夏場に日陰のない道と、緑陰のある道では、歩行者の数がまったく異なることは、皆さんも実感されているのではないでしょうか。人が歩きたくなる道は、沿道の不動産や店舗の価値に直結します。暑熱対策として最も直接的な効果を持つ技術の一つでもあります。ネイチャーポジティブの観点では、街路を生きものの移動経路にすることで、都市内で孤立してしまった緑地どうしをつなげる機能を持ちます。公園と公園の間、河川と建物の緑地の間を、街路樹がつないでくれるのです。単なる日陰づくりではなく、都市の生態系ネットワークの「通路」になりうるのです。
第8位:透水性舗装と貯留砕石層
駐車場、歩道、広場の雨水流出を減らし、都市型水害対策と舗装面温度の低減に効果があります。既存舗装の更新時に導入しやすいという実務的な利点もあります。道路の舗装は定期的に打ち替えが必要ですから、そのタイミングで透水性舗装に切り替えれば、追加コストを最小限に抑えながら導入できます。生態系への貢献は、地下水涵養と周辺植栽の水分環境の改善を通じて実現されます。舗装の下で見えない部分ですが、土壌と水循環を改善する重要な基盤技術です。
第12位:構造土壌・根系保護基盤
一見地味ですが、実務上きわめて重要な技術です。街路樹の根上がり、枯損、舗装破壊を減らし、長期の維持管理費を下げます。多くの自治体が悩んでいるのは、街路樹の根が舗装を持ち上げてしまい、歩行者がつまずいたり、車いすが通れなくなったりする問題です。原因は、植栽基盤が狭すぎることにあります。構造土壌を使えば、舗装の下にも根が伸びる空間を確保でき、樹木が健全に成長し、緑陰、生息地、蒸散機能を長期にわたって発揮できるようになります。
第27位:導水縁石・カーブカット
道路の雨水を植栽帯に導くための縁石加工技術です。従来の道路設計では、雨水はできるだけ速やかに排水管に流すのが基本でした。しかし、この技術は発想を逆転させます。雨水をいったん土壌と植物を経由させることで、雨水処理と緑の育成を両立させるのです。小さな技術ですが、道路全体のグリーンインフラ化に欠かせない要素です。
第35位:生態系配慮型照明
夜間の景観と安全を保ちながら、過剰な照明を抑える設計です。昆虫、鳥、コウモリなどへの光害を減らすことで、都市の生態系の質を高めます。LEDの普及により照明のエネルギー効率は上がりましたが、一方で光の色温度や照射範囲が生態系に与える影響も明らかになってきました。河川沿い、住宅地、駅前、商業地など、あらゆる場所で適用可能です。
道路分野では、緑化単体よりも「緑陰形成+雨水貯留浸透+歩行快適性」の一体整備が価値を上げます。国総研の道路空間グリーンインフラ実践ガイドでも、道路緑化や雨水浸透貯留施設により、憩いの場の形成、ヒートアイランド緩和、雨水流出抑制が期待されるとされています。
公園・広場・低未利用地活用編
公園や広場、空き地の活用は、まちづくりの基盤です。ここでは、「美しい芝生」だけでは生まれない公共価値を、どう設計するかがテーマになります。
第6位:調整池の湿地公園化
第6位は、調整池を単なる防災施設から、散策、環境教育、景観、地域交流の資産へと変える技術です。多くの都市に存在する調整池は、平時にはフェンスで囲まれ、雑草が生え、地域住民にとっては「近づきたくない場所」になっていることが少なくありません。これを湿地公園として設計し直すことで、防災機能を維持しながら、市民が日常的に散策し、野鳥を観察し、子どもが環境教育を受けられる空間に生まれ変わります。生態系面では、湿地、浅水域、ヨシ原、止水域をつくることで、鳥類、両生類、トンボ類の生息地になります。「防災のための施設」が「生態系のための施設」にもなるのです。これは、限られた都市空間を多機能化するという意味でも、非常に効率的な手法です。
第14位:ポリネーターガーデン
チョウ、ハチ、ハナアブなどの花粉媒介昆虫の餌場を増やすための花壇設計です。小面積でも見栄えがよく、住宅地、学校、庁舎、公園に導入しやすいのが特長です。「ポリネーター」という言葉自体がまだ一般には馴染みが薄いかもしれませんが、実は私たちの食卓に並ぶ多くの果物や野菜は、これらの昆虫の受粉なしには実りません。都市の中にポリネーターの餌場をつくることは、生態系サービスの維持に直結します。しかも、季節ごとに花が移り変わるポリネーターガーデンは、見る人にも楽しみを与え、維持管理への地域住民の参加も期待できます。
第20位:コミュニティガーデン・都市農園
空き地を管理負担の対象から、地域価値の源泉へと変える技術です。交流、健康、教育、防犯に効果があり、土壌、草本、昆虫、鳥の生息環境を増やします。人口減少に伴い増加する空き地や、団地の空きスペース、公共施設跡地での展開が有望です。「負の資産」を「地域のつながりの場」に変えるという発想が、まちづくりにとっても大きな意味を持ちます。
第21位:校庭芝生化・学校ビオトープ
学校、庁舎、福祉施設の利用者満足と教育価値を上げる取組です。子どもが日常的に生物多様性に触れる場をつくることが、長期的には社会全体のネイチャーポジティブへの意識を高めることにつながります。環境教育は教室の中だけで行うものではありません。校庭の片隅にビオトープがあるだけで、子どもたちは毎日、命の循環を目の当たりにすることができるのです。
第38位:草地・半自然草地の創出
芝生だけの単調な緑よりも、多様な草本が生える半自然草地のほうが、季節感があり、維持管理の幅も広がります。春には花が咲き、夏には昆虫が飛び交い、秋には種子をつけ、冬には枯れ草の景色を見せる。こうした季節の変化は、利用者に豊かな体験を提供し、多様な昆虫や鳥の生息地にもなりやすいのです。大規模公園、河川敷、郊外公園に適しています。
第44位:防災公園とグリーンベルト
避難場所、延焼遮断、備蓄拠点、平時の利用を一体化した公園設計です。大面積の緑地が生息地と移動経路になり、密集市街地、学校跡地、公共施設再編の際に検討すべき技術です。首都直下地震や南海トラフ地震への備えとしても、防災公園の整備は各地で進んでいますが、その際にネイチャーポジティブの視点を入れることで、平時の価値も高まります。
公園・広場分野で覚えておいていただきたいのは、防災、子育て、健康、教育、雨水処理、地域参加、生物多様性といった価値を重ねるほど、公共価値が高まるということです。単一の目的で設計するよりも、複数の価値を重層的に組み込むことが、ネイチャーポジティブな公園設計の核心です。
そして、公園や広場のネイチャーポジティブは、周辺の不動産価値にも波及します。質の高い公園に隣接する住宅やオフィスの価値が高いことは、多くの調査で実証されています。公園への投資は、公共の場の価値だけでなく、その周辺の民間不動産の価値をも高めるのです。この「波及効果」を認識することが、公園投資の意思決定を変える鍵になります。
人口減少が進む日本では、維持管理予算の縮小に直面する公園が増えています。だからこそ、一つの公園に防災、子育て、健康増進、雨水管理、生態系回復といった複数の機能を持たせることが重要です。「何でもない芝生広場」ではなく、「地域になくてはならない多機能空間」をつくることで、予算確保の説明力も、地域住民の愛着も、格段に高まるのです。
河川・下水・流域治水編
河川は、自然と都市が最も強く接する場所です。この分野でのネイチャーポジティブは、治水と生態系の両立を目指します。
第5位:多自然川づくり
第5位は「多自然川づくり」です。河川改修を単なる治水工事から、景観、親水、防災、観光、地域資源価値を高める事業へと変える手法です。多自然川づくりは、すべての一級河川、二級河川、準用河川の調査・計画・設計・施工・維持管理・災害復旧を対象とする基本方針として国土交通省が位置づけています。つまり、すでに日本のすべての河川工事に適用されるべき考え方なのです。にもかかわらず、現場ではまだ十分に実践されていない面もあります。生態系面では、瀬と淵の交互配置、ワンドの形成、河畔林の保全、自然な流量変動と土砂動態の活用により、水生生物の生息・繁殖環境を回復します。コンクリート護岸を緑で「隠す」のではなく、河川が本来持つ地形的な多様性を回復するほど、治水価値と生態系価値が同時に上がるという点が重要です。
第16位:自然石・粗朶・多孔質護岸
護岸を「硬い境界」から、「生きものが使える水際」へ変える技術です。魚類、底生生物、植物の定着場所をつくり、景観価値も向上します。都市河川、水路、親水護岸に適用可能です。石と石のすき間に魚が隠れ、粗朶(木の枝を束ねたもの)の隙間に昆虫がすみ、多孔質の表面に藻類が付着する。こうした「すき間」と「凹凸」が、水辺の生態系を支えます。
第17位:遊水地・田んぼダム・氾濫原再接続
流域全体の治水価値を高め、農地や低地を防災資産として再評価するための技術です。一時的に水を受け入れる浅水域が、水鳥、両生類、湿地植物の生息地にもなります。近年の流域治水の考え方は、河川だけで洪水を処理するのではなく、流域全体で水を受け止めるというものです。田んぼダムは、水田の排水口に小さな板を設置するだけで、大雨時に水田が一時的に水を貯める機能を持たせる、シンプルながら効果的な手法です。
第28位:人工湿地による水質浄化
下水処理水、雨水、農業排水を、景観と教育の資源に変えられる技術です。植物、微生物、底生生物による水質浄化と生息地形成を両立させます。下水処理水の放流先に湿地を設ければ、処理水を「汚水」から「地域の水辺資源」へと転換できます。人工湿地は、機械的な処理設備と比べてエネルギー消費が少なく、維持管理のコストも抑えられるという利点があります。また、水辺の景観は周辺の公園や遊歩道と組み合わせることで、地域の憩いの場にもなります。
第29位:魚道・落差工改良
河川の横断構造物(堰やダム)による魚類や水生生物の移動阻害を解消する技術です。多自然川づくり基本指針でも、水面・河床の連続性や水生生物の移動確保が示されています。川の中に「壁」があると、魚が上流と下流を行き来できなくなります。魚道を設けることで、この移動の連続性を回復させます。日本の河川には、農業用水の取水堰や砂防ダムなど、無数の横断構造物があります。その多くは魚道が設置されていないか、設置されていても機能していない状態です。魚道の改良は、構造物全体を撤去しなくても実施できるため、比較的低コストで大きな生態系効果を得られる技術です。アユやサケ、ウナギなど、回遊性の魚種にとっては、一つの魚道の有無がその河川全体の生存可能性を左右します。
第33位:暗渠の開渠化、水路再生
都市に眠っていた水路を掘り起こし、水辺の魅力資産に変える技術です。流水、水際植生、湿潤環境を回復し、沿道の回遊性や観光価値にも貢献します。かつてどの町にもあった小川が、都市化の過程で蓋をされ、暗渠になっています。これを再び開くことで、まちに水辺の魅力が戻ります。世界の多くの都市で、暗渠化された水路を再び開く「デイライティング」と呼ばれる動きが広がっています。日本でも、水路の開渠化によって沿道の不動産価値が上昇した事例が報告されており、都市再生の有力な手法として注目されています。水の流れは人を引き寄せます。水辺に面したカフェ、遊歩道、ベンチは、まちの回遊性を生み出し、沿道の商業にも好影響を与えるのです。河川分野の要点は、「単にコンクリート護岸を緑で隠すだけでは不十分」ということです。河川が本来持つ流量変動、土砂の動き、水際の多様性、瀬と淵の交互配置、ワンドや河畔林を回復するほど、治水価値と生態系価値が同時に上がります。
河川は都市の中で最も大きな「自然の軸」です。河川沿いのネイチャーポジティブが充実すれば、そこから街路樹や公園を通じて都市全体の生態系ネットワークが広がっていきます。河川は「線」の自然ですが、その線から枝分かれするように都市全体に緑のネットワークが伸びていく。そのハブとなるのが、ネイチャーポジティブな河川整備なのです。
港湾・海岸・漁港編
日本は海に囲まれた海洋国家です。海岸線の総延長は約3万5千キロメートルにおよび、港湾、漁港、海岸の数は膨大です。にもかかわらず、これまでの港湾・海岸工事の多くは、防災や物流効率に主眼を置き、海の生態系への配慮は後回しにされがちでした。ここに、ネイチャーポジティブの考え方を持ち込むことで、防災施設そのものを「海の生息地にもする」という発想の転換が可能になります。
第7位:藻場・干潟・浅場造成
第7位は、港湾・海岸工事を防災、漁業、観光、ブルーカーボン価値に接続する技術です。国土交通省港湾局は、藻場・干潟などのブルーインフラ整備を推進しています。海草・海藻、底生生物、魚類の産卵・育成場を回復することで、漁業資源の維持にも直結します。アマモ場やコンブの森は、魚たちの「ゆりかご」です。稚魚が育つ場所がなければ、いくら漁獲制限をしても水産資源は回復しません。藻場の造成は、漁業振興と生態系回復を同時に実現する、まさにネイチャーポジティブの本質を体現する技術です。また、ブルーカーボンとしてのCO2吸収源機能も注目されており、港湾のESG価値向上にもつながります。藻場や干潟は、同じ面積の陸上の森林よりもはるかに多くの炭素を吸収・貯留できるとされており、脱炭素の文脈からも注目が高まっています。
第18位:生物共生型護岸・港湾構造物
防波堤、護岸、岸壁に環境価値を付加する技術です。多孔質の表面、凹凸、潮だまりを設けることで、海藻、貝類、小型魚類のすみかをつくります。新設工事だけでなく、既存構造物の改修にも適用できるのが強みです。護岸の表面を少し工夫するだけで、海の生きものの利用環境が大きく変わります。
第19位:砂浜・砂丘・背後湿地の再生
観光、防災、景観、地域ブランドを同時に高める技術です。海浜植物、鳥類、底生生物、砂丘生態系を回復します。海岸保全事業と一体的に進めることで、防災と生態系回復の両立が可能になります。日本の美しい砂浜は、実は多くの場所で侵食が進んでおり、再生の取組が求められています。砂浜は、実はきわめて多様な生態系です。波打ち際にはスナガニやハマトビムシが暮らし、砂丘にはハマヒルガオやコウボウムギが根を張り、背後の湿地にはトンボや水鳥が集まります。海岸の防災工事にこうした生態系の視点を取り入れることで、「コンクリートの防潮堤」だけではない、自然の力を活かした重層的な防災が可能になります。
第42位:浚渫土砂を活用した干潟・浅場造成
港湾の航路整備で発生する浚渫土砂を、廃棄物ではなく環境資産として活用する技術です。干潟やアマモ場、底生生物の生息地を創出できます。従来は処分に費用がかかっていた浚渫土砂が、環境価値を生む素材に変わるという逆転の発想です。処分費用の削減と環境価値の創出を同時に実現できるため、港湾管理者にとっても経済合理性のある選択肢になります。
第43位:コンクリート表面粗化・着生基盤
既存のコンクリート構造物の表面を粗くしたり、着生基盤を取り付けたりすることで、藻類、貝類、水生昆虫、微生物が定着しやすくなります。既存構造物を大きく壊さずに環境改善できるため、改修工事に組み込みやすい技術です。この技術の最大の利点は、「すでにあるもの」を活かせることです。新しい構造物をつくるのではなく、既存のコンクリートの表面を加工するだけで、生きものの利用環境が劇的に変わります。護岸や防波堤のコンクリート面は、日本全国で膨大な面積にのぼります。その表面を少し変えるだけで、海や川の生態系回復に大きく貢献できるのです。
港湾・海岸分野で最も重要なメッセージは、「防災施設をつくる」だけではなく「防災施設を海の生息地にもする」ことが価値向上の核心だということです。ブルーカーボンは、CO2吸収源としてだけでなく、海洋環境の改善や漁業の振興など多面的な効果を持つことが、国土交通省からも示されています。
斜面・里山・農地・郊外インフラ編
都市部から少し離れた郊外や山間部でも、ネイチャーポジティブの技術は大きな意味を持ちます。日本の国土の約7割は山地・丘陵地であり、道路ののり面、造成地の法面、森林と住宅地の接点など、斜面に関わる工事は全国で膨大な量にのぼります。ここにネイチャーポジティブの視点を入れることで、土砂災害対策と生態系回復を両立させることができます。
第13位:地域性種苗・在来種植栽
地域に自生する植物の種子や苗を使った植栽です。地域らしい景観をつくり、認証取得や地域住民への説明でも説得力が高まります。遺伝的かく乱を抑え、地域の鳥や昆虫、植物との長い歴史の中で築かれてきた関係を回復できるのが大きなメリットです。同じ種であっても、北海道産の種苗を九州に植えれば、遺伝的な多様性が損なわれる可能性があります。地域の自然にとって本当に「仲間」と呼べる植物を使うことが重要です。
第31位:生態系配慮型のり面緑化
道路や造成地ののり面を、景観劣化要因ではなく、地域植生の回復面に変える技術です。従来ののり面緑化は外来の牧草が中心でしたが、これを在来草本や低木に転換することで、生息地を増やすことができます。道路、造成地、砂防工事、宅地開発など、のり面が生じるあらゆる場面で適用可能です。
第32位:樹林帯による土砂災害緩衝帯
砂防や道路、造成地周辺の安全性と景観価値を高める緑地です。根系が土壌を安定させ、落葉が雨水の衝撃を緩和し、下層植生が表層の侵食を防ぎます。同時に、多様な生物の生息地としても機能します。
郊外型の公共工事では、「管理されない緑」が価値を下げるという点に注意が必要です。荒れ果てたのり面、繁茂する外来種、手入れのされない植栽は、地域のイメージを損ね、安全上の懸念も生みます。価値を上げるには、土砂対策、水源涵養、農地連携、森林管理、観光、教育、住民参加を一体で設計することが求められます。また、郊外の工事では、地域住民が維持管理に参加しやすい設計にすることも重要です。自治会や農業者と連携した管理体制を構築できれば、行政コストの削減と地域コミュニティの活性化を同時に実現できます。ネイチャーポジティブは、単なる環境技術ではなく、地域づくりのツールでもあるのです。
すべての現場に共通する技術群
目的タイプを問わず、すべての工事に適用すべき技術があります。ここでは、横断的に活用できる技術を解説します。これらの技術は、単独でも効果がありますが、前章までに紹介した目的タイプ別の技術と組み合わせることで、相乗効果を発揮します。たとえば、多層混交の都市林(第1位)と土壌改良(第25位)を組み合わせれば、樹木の生育が安定し、維持管理コストが下がります。雨庭(第3位)と導水縁石(第27位)を組み合わせれば、道路から植栽帯への雨水の動線がつながります。こうした組み合わせの妙こそが、ネイチャーポジティブ設計の醍醐味です。
第3位:雨庭・バイオリテンション
全技術中第3位に位置づけたのが「雨庭」です。雨水流出を抑え、道路冠水や下水への負荷を下げながら、見た目もよく、公共空間の質を上げます。道路空間のグリーンインフラ実践ガイドでも、道路緑化・雨水貯留浸透施設が重視されています。

雨庭の仕組みはシンプルです。道路や建物からの雨水を、植栽のある窪地に導き、土壌でゆっくり浸透させます。余った水は排水管に流れますが、ピーク時の流出量を大幅に減らすことができます。水辺性植物、湿潤土壌、昆虫、鳥の利用空間をつくるという生態系面でのメリットも大きく、道路、建築、公園にまたがって横展開しやすいのが最大の特長です。
第15位:グリーン駐車場
大面積のアスファルトを「資産」に変える技術です。日射対策、雨水処理、景観改善、利用者の快適性向上に効果があり、透水舗装、植樹帯、草地で雨水浸透と生息地を増やします。物流施設、商業施設、公共施設の駐車場で特に効果的です。真夏のアスファルト駐車場の表面温度は60度を超えることもありますが、緑化と透水舗装によって大幅に低減できます。
日本の都市には、膨大な面積の駐車場が存在します。この「灰色の空間」を少しずつ「緑の空間」に変えていくだけで、都市全体の熱環境と水環境に大きな改善効果が期待できるのです。
第25位:土壌改良、バイオ炭混合基盤
植栽の枯損を減らし、維持管理コストを下げるための土壌改良技術です。土壌の保水性、有機物量、微生物環境を改善します。バイオ炭(炭化物)を混合することで、炭素貯留効果も期待できます。よい植栽はよい土壌から。土壌を軽視した緑化は、数年後の枯損につながります。
第26位:雨水再利用型の自動灌水
渇水時の枯損を防ぎ、緑の品質を安定させるためのシステムです。水資源の使用を抑えながら生息環境を維持できます。特に夏場の都市部では、灌水の有無が植栽の生存率を大きく左右します。雨水タンクやトレンチを組み合わせた貯留・灌水システムにより、上水を使わずに植栽を維持することが可能になります。
第30位:小動物通路・エコダクト
道路や鉄道による生息地の分断を抑え、哺乳類、両生類、爬虫類の移動経路を確保する構造物です。地域住民との合意形成にも効果があり、「生きものに配慮した道路」というメッセージは、地域への説明力を高めます。ヨーロッパでは高速道路をまたぐ大型のエコダクトが整備されていますが、日本でも道路の下をくぐる小動物用のトンネルや、側溝に小さなスロープを設ける工夫など、さまざまな規模で導入が可能です。
第39位:落葉・剪定枝の堆肥化、チップ化
廃棄物処理費を下げ、循環型管理として住民への説明がしやすい取組です。緑地から出る落葉や剪定枝を、ごみとして搬出するのではなく、敷地内で堆肥やチップに加工して土壌に還す。この循環こそが、持続可能な緑地管理の基本です。
第40位:クールスポット型広場
樹木、水、風、日陰、ベンチを組み合わせ、夏季の滞在価値を上げる広場設計です。商業地や駅前で特に効果的で、緑陰と蒸散冷却と水辺の相乗効果が、都市の中に涼しい居場所をつくります。
第41位:大規模外構の雨水処理型緑地
物流施設や工場の広い敷地を、水害対策、景観、ESG資産に変える緑地設計です。調整池、植栽帯、草地、緩衝林を組み合わせて生息地を増やします。
第46位:庁舎・病院・福祉施設のヒーリングガーデン
利用者満足、職員の働きやすさ、地域開放価値を上げる庭園です。CASBEE-ウェルネスオフィスでは、健康性、快適性、知的生産性、安全・安心が評価対象になっています。香り、花、実、水、木陰により、人にとっても生きものにとっても心地よい空間をつくれます。公共建築のヒーリングガーデンは、単なる「癒しの空間」にとどまりません。病院であれば患者の回復促進に寄与し、福祉施設であれば利用者のQOL向上につながり、庁舎であれば職員のストレス軽減と生産性向上に効果があります。さらに、地域に開放することで、公共施設と地域住民の接点が生まれ、施設への親しみや信頼が高まります。こうした多層的な価値が、ヒーリングガーデンの設計を通じて実現できるのです。
第47位:外来種防除・施工時バイオセキュリティ
竣工後の管理費増大と景観劣化を防ぎ、長期の価値を守るための取組です。新しい土壌や資材を搬入する際に外来種を持ち込まないという「バイオセキュリティ」の考え方は、日本の建設現場ではまだ十分に浸透していませんが、今後重要性が増す分野です。一度侵入した外来種の駆除には膨大なコストがかかります。予防こそが最善の策です。
第48位:eDNA、音響、カメラ、ドローンによる生物モニタリング
効果を数値で説明でき、認証取得、住民説明、投資家説明に使いやすい技術です。環境DNA(eDNA)を使えば、水を汲むだけでそこにいる生物種を把握できます。港湾分野でも藻場計測にグリーンレーザー、衛星画像、音響測深などの活用が示されています。施工後の生物多様性の変化を把握し、順応的管理に活かすことで、「やりっぱなし」の緑化を防ぎます。
第49位:ネイチャーポジティブ定量評価、ベースライン調査
設計前後の価値増加を説明でき、発注仕様、投資判断、認証取得に使えます。ABINCは土地利用における生物多様性保全の取組を認証し、不動産価値の向上にもつながると説明しています。「どれだけ自然が増えたか」を測ることで、形だけの緑化を防ぐ。これが評価管理技術の本質です。
第50位:維持管理契約一体型の緑地整備
最後の第50位ですが、重要度は決して低くありません。むしろ、すべての緑化工事の成否を分ける基盤技術です。竣工時の見栄えだけで終わらず、10年後の緑の品質を守るための契約設計です。SEGESは良好に維持され社会・環境に貢献する緑地を評価する制度です。
剪定、草刈り、水管理、外来種防除、モニタリングを継続し、生態系を劣化させない。この「維持管理まで含めた設計」こそが、ネイチャーポジティブを本物にする最後のピースです。設計者と維持管理者が別々に動くのではなく、設計段階から管理者が参画し、管理しやすい設計にすることが理想的です。建設業が「つくる」ことだけでなく「育てる」ことにも責任を持つ。その覚悟が、ネイチャーポジティブの成否を決めます。
最初の一歩は何か?
50の技術をすべて一度に導入することは現実的ではありません。
あなたが、ゼネコンであれば、まずは、技術の側面から、多くの建築・公共工事で横展開しやすく、価値向上効果が高い技術として、次の10個を最優先で検討することをお勧めします。

第一は「多層混交の在来種都市林」です。 不動産価値、景観、生物多様性、認証のすべてに効きます。面積の取れる案件であれば、まずここから始めるのが最も確実です。
第二は「雨庭・バイオリテンション」です。 道路、建築、公園に横展開しやすく、雨水処理と緑の育成を両立できます。導入面積を柔軟に調整できるため、小さく始めることも可能です。
第三は「緑陰街路樹」です。 暑熱対策と歩行価値に最も直接的に効く技術です。市民が体感しやすいため、事業の成果を説明しやすいというメリットもあります。
第四は「透水性舗装」です。 既存舗装の更新時に導入しやすく、段階的な展開が可能です。
第五は「調整池の湿地公園化」です。 防災施設を地域の資産に変えられる、象徴的な技術です。
第六は「多自然川づくり」です。 すべての河川公共工事の基本価値を高めます。すでに国の方針として位置づけられており、制度面での障壁が低いのも利点です。
第七は「藻場・干潟造成」です。 港湾・海岸の環境価値を最も明確に示せる技術です。ブルーカーボンへの注目も追い風になっています。
第八は「既存樹木・表土保全」です。 成熟した自然を失わず、初期から価値の高い景観を得られます。コストは「保全する」ほうが「新しく植える」より安い場合も多いのです。
第九は「地域性種苗・在来種植栽」です。 地域らしさと生態系価値を両立できます。
第十は「維持管理契約一体型緑地整備」です。 竣工後の価値劣化を防ぐ、すべての緑化工事に共通する仕組みです。技術というよりも契約の仕組みですが、これがなければ他の9つの技術も持続しません。
この10技術は、日本の都市・公共工事で最も汎用性が高く、価値向上の説明もしやすい技術群です。注目すべきは、この10技術には「最先端」や「ハイテク」と呼ばれるものがほとんど含まれていないということです。都市林、雨庭、街路樹、透水舗装、湿地、川づくり、藻場、既存樹保全、在来種植栽、維持管理。いずれも、自然の仕組みを理解し、それを設計に反映するという、本質的にはシンプルなアプローチです。難しいのは技術そのものではなく、「最初から設計条件に入れる」という意思決定と、「10年後まで面倒を見る」という覚悟のほうなのです。
逆に言えば、この10技術を押さえておけば、ほとんどの案件で最低限のネイチャーポジティブ効果を実現できます。まずはこの10技術から始めて、案件の特性に応じて残り40技術の中から必要なものを加えていく。そのような段階的なアプローチが、現実的な導入戦略になるでしょう。
また、あなたがデベロッパーであれば、最も投資対効果が高い技術の組み合わせを用途別に整理します。

都心オフィスの場合は、 多層在来種植栽、公開空地への雨庭導入、屋上緑化、そしてCASBEE・DBJ Green Building・TSUNAG対応という組み合わせが最も効果的です。テナント誘致と投資家評価の両方に効きます。ESG投資が拡大する中で、オフィスの環境性能は不動産の競争力を左右するファクターになりつつあります。
分譲マンションの場合は、 既存樹保全、中庭の都市林化、自然遊び場の導入、ABINC・JHEP対応がお勧めです。「子どもが自然の中で育つマンション」というブランディングが、販売の差別化に直結します。
商業施設の場合は、 緑陰のある広場、水景、ポリネーターガーデン、回遊動線の整備が価値を上げます。人が長く滞在し、歩き回りたくなる環境は、テナントの売上に直結します。自然の中での買い物体験は、ECでは得られない「リアルの場」ならではの価値です。
物流施設の場合は、 グリーン駐車場、雨水処理型緑地、緩衝林、生物モニタリングの組み合わせです。広大な敷地を持つ物流施設は、ESG評価と地域受容性の両面でネイチャーポジティブが効果を発揮しやすい案件です。

駅前広場の場合は、 緑陰街路樹、透水舗装、雨庭、クールスポット整備の組み合わせが効果的です。暑熱対策と歩行快適性を同時に高めることで、駅利用者の満足度と沿道の不動産価値が向上します。
道路改修の場合は、 導水縁石、雨庭、構造土壌、連続植栽帯の一体整備です。道路を「車が通るだけの空間」から「人と生きものが共有できる空間」へと変える発想です。
公園再整備の場合は、 湿地公園化、自然遊び場、防災機能の組み込み、草地管理の改善という組み合わせです。「芝生と遊具」だけの公園から、「防災・子育て・健康・生態系」を重ねた多機能公園への転換が求められています。
河川改修の場合は、 多自然川づくり、ワンド再生、魚道整備、自然護岸の組み合わせが基本です。治水と生態系回復を同時に実現する設計が、今後の河川事業の標準になるでしょう。
港湾・海岸の場合は、 藻場・干潟造成、生物共生型護岸、ブルーカーボン計測の組み合わせです。防災施設を海の生息地にもするという発想が、港湾事業の価値を大きく変えます。
斜面・造成地の場合は、 在来種によるのり面緑化、樹林帯の整備、地域性種苗の使用、外来種防除の組み合わせです。造成によって失われた自然を、できる限り地域本来の姿に近づける設計が重要です。

#NaturePositive #ネイチャーポジティブ #グリーンインフラ #都市開発 #建築 #公共工事 #TNFD #生物多様性 #不動産価値 #ESG
