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「ネイチャーポジティブ・シティ(NPC)」フレームワーク(OECD)を読み解く

 去年〜今年で、徐々に、都市における、自然との共生のコンセプトが整理されつつあるようです。
 2026年、OECDから「Nature-positive cities: A conceptual framework(ネイチャーポジティブ・シティ:概念フレームワーク)」なるレポートが出ています。起業・中小企業・地域・都市センター(CFE)から発行されたこのレポートは、これまでバラバラに語られてきた「都市」「生物多様性」「気候」「ウェルビーイング」「経済」といった政策領域を、ひとつの統合的な枠組みのなかに収めることを試みています。本記事では、約100ページに及ぶレポートを、前半を課題編、後半はネイチャーポジティブ・シティの解説編という形で、解き明かしてまいります。2万字程度と長くなっていますので、お急ぎの方は、後半からお読みいただくか、以下の音声ガイドをお聞きください。
 今日も楽しんでいってくださいね!

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なぜ今「ネイチャーポジティブ・シティ」なのか

 世界の都市化は、人類に大きな繁栄をもたらしてきました。しかしその裏側で、森林、湿地、草地といった自然の基盤は加速度的に失われています。OECDのデータによれば、OECD加盟国の地域では2000年から2022年の間に平均で森林の10%が失われました。研究によれば、人口密度が10%上昇するごとに、樹冠被覆は2.9%減少する関係が確認されています。都市の成長が、文字通り都市の自然を食いつぶしてきたのです。こうした認識のもと、本レポートは「ネイチャーポジティブ」というアプローチを都市スケールで具体化するための概念整理を行いました。それが「ネイチャーポジティブ・シティ(NPC)」というコンセプトです。

 なぜ都市が鍵を握るのでしょうか。理由は三つあります。第一に、都市は世界の経済活動と人口の大半を集中させる場所であり、政策的な「てこ」の効果が大きい点です。第二に、都市拡大そのものが自然喪失の主要ドライバーであり、根本原因への対処なくしては生物多様性の流れを反転できない点です。第三に、都市はインフラ、建築、交通、エネルギー、水管理など多様な領域を統合する政策決定の現場であり、横断的な統合アプローチを試す格好の実験場である点です。

都市拡大が引き起こす多次元的なインパクト

自然と生物多様性への影響

 都市拡大は、土地占有、生息地の分断、土壌のシーリング(不透水化)といった経路を通じて生物多様性損失の主要なドライバーとなっています。さらにこれは食料システム、水資源、社会経済的安定性へと波及効果を持ち、食料生産の減少、水資源の利用可能性低下、社会的脆弱性の増大を引き起こします。特に注目すべきは、保護区への侵食です。2010年から2020年の間に、世界の都市拡大は、より厳格な保護管理下にあるはずの保護区にまで侵入し、ベルギーのブリュッセル首都圏に相当する面積を覆い尽くしました。本来守られるべき場所が、人間活動の前線で削られていることになります。加えて、都市周辺部や郊外でも生態系の再編が進んでいます。人口・社会経済的変化に伴う農地放棄や空き家の増加は、これまで管理されてきた景観を変質させています。なかには「高自然価値(HNV:High Nature Value)農地」と呼ばれる、面積は限定的でも生物多様性支援において不釣り合いに重要な役割を果たす土地も含まれます。中東欧10カ国では、生物多様性に富む農地のうち250万ヘクタール以上が農地放棄の影響を受けたと推定されています。

 OECD諸都市内の緑地面積シェアにも大きな格差があります。アイルランド、ノルウェー、スイス、英国の都市は、チリ、日本、メキシコの都市と比べて、面積比で3倍以上の緑地を保有しています。日本、スペイン、チリ、トルコでは、沿岸部の一部都市を除き、ほとんどの都市で植生面積が極めて希薄な状況が確認されています。

気候と汚染への影響

 都市の自然喪失は、気候変動の影響を増幅させます。とりわけ顕著なのが「ヒートアイランド現象」です。OECD都市の80%近くが2021年時点でヒートアイランド強度1℃以上を記録し、半数近くが夏季日中強度3℃以上を経験しました。2023年の夏季日中の地表面温度は、都市中心部が周辺地域より平均1.8℃高くなっています。極端なケースでは、ヒートアイランド強度が5℃を超え、日本の旭川、スペインのオウレンセ、フランスのボルドーといった都市では7℃を超える地点さえあります。人口25万人以上の大都市圏は、周辺地域より平均3℃高く、これは小規模都市の差分の約2倍に相当します。

 パリやロンドンの夜間気温は、周辺の田園地帯より常時4℃ほど高く、アテネでは夏季に最大10℃の差が生じます。オーストラリアのシドニーでは、日射にさらされた都市表面が日陰部より最大16℃も高温になります。極寒地域での温暖化が相対的に顕著であるとはいえ、乾燥地域や熱帯地域の都市もまた極端な熱の脅威に晒されており、排出シナリオによらず暑熱日数が今世紀半ばに向けて増加する見通しです。

 水関連リスクも深刻です。OECDの18カ国45地域で、人口の20%以上が河川氾濫リスクにさらされています。カナダのユーコン、コロンビアのグアビアレ、メキシコのタバスコといった地域では、暴露率が60%を超えています。人口150万人以上の大都市圏では、ロッテルダムが最も暴露率が高く60%超、続いて名古屋とハンブルクが並びます。沿岸氾濫では、オランダの全人口の55%が100年確率の沿岸氾濫リスク下にあり、4つのオランダの地域では暴露率が90%を超えています。

 汚染については様相が複雑です。粒子状物質やオゾンの濃度は、前駆ガス排出削減により2050年に向けて多くの地域で減少する見通しです。しかし、水と土壌への汚染物質排出は世界全体で2010年比43%増加するとOECDは予測しています。プラスチック廃棄物の不適切処理は8,300万トンから1億3,800万トンに増え、環境への漏出も2,200万トンから3,700万トンに拡大する見込みです。


なぜ都市政策は遅れてきたのか──四つの政策課題

 ここから前半は、都市政策における自然共生での課題を4つに分けて詳述しています。なぜ、失敗してきたのかの原因を知りたい方は読み進めてください。答えから読みたい派の方は、後半までジャンプをしてください。

課題1──都市の競合する優先順位とのトレードオフ

 第一の課題は、都市自然と他の都市政策優先順位との間に生じるトレードオフです。本レポートはこれを四つのサブテーマで掘り下げています。

住宅アフォーダビリティとの緊張関係

 都市化は住宅需要を押し上げ、農地から住宅地への転換を加速します。2050年までに世界人口の約70%が都市域に居住すると見込まれており、住宅供給不足とアフォーダビリティ問題は今後さらに深刻化します。OECD諸国では、低所得借家世帯の3分の1が可処分所得の40%超を家賃に充てており、人口150万人以上の大規模FUAでは過去10年で住宅価格が68%上昇しました。問題は、住宅政策と緑地・生物多様性政策が国の省庁レベルでサイロ化されている点にあります。この分離は不平等な結果を生みます。第一に、緑地への近接は住宅の美的価値と健康便益を高めるため住宅価格を押し上げ、低所得層のアクセスを制約します。第二に、緑地として大量の土地を保全することは開発可能用地を減らし、住宅コストを上昇させる可能性があります。第三に、グリーンルーフのような自然要素を住宅開発に組み込むことは初期費用を増やし、家賃に転嫁される可能性があります。具体例として、イタリアの伝統的フラット屋根が1平方メートルあたり80〜100ユーロであるのに対し、エクステンシブ・グリーンルーフは140〜250ユーロかかります。一方で、グリーンルーフは建物の冷房エネルギー需要を平均10〜50%削減し、最大70%削減することもあります。雨水の20〜50%以上を保持し、長期的にはエネルギー費用と雨水管理費用を低減します。つまり、初期コストの高さと長期的便益の間にギャップが存在しており、この時間軸の不一致を埋める政策設計が求められています。

都市自然への公平なアクセス

 都市緑化は意図せぬ環境的制約をもたらすこともあります。水資源の乏しい地域では、緑地維持が地下水への圧力を強める懸念があります。乾燥・干ばつ傾向の地域では、大規模緑化が炭素隔離と都市冷却に貢献する一方で、水資源とのトレードオフ管理が不可欠です。緑地の総量が多くても、公平な分布が保証されるわけではありません。フィンランドとルクセンブルクでは、FUAの人口の約95%が400メートル以内に1ヘクタール超の公共緑地にアクセスできます。これに対し、メキシコやトルコの都市では同条件下のアクセス率が40%未満にとどまります。所得階層別のアクセス格差も顕著です。ドイツの都市では、低所得・低学歴・高失業率の地域は、富裕層が住む地域より小規模な緑地しか利用できない傾向があります。英国では、最も剥奪された地域に住む人々のうち緑地への良好なアクセスを持つのはわずか3.8%で、最も恵まれた地域の44%と大きな差があります。カナダでも、年収2万カナダドル未満の世帯は82%が近隣公園を持つのに対し、年収15万カナダドル超の世帯では95%に達します。

環境品質と都市の住みやすさ

 土地占有を制限し、自然・農業地を保護する政策は、密度の高い都市形態を奨励します。これは一般に環境的に持続可能とされる一方で、密度の上昇が既存緑地への圧力を強め、より多くの住民を汚染、暑熱、環境ストレスにさらすリスクも伴います。オスロの経験はこの両義性をよく示しています。都市密度化政策は外延的拡大を抑制し公共交通利用を促進した一方、都市緑地の減少と地域的な環境・社会的圧力を生みました。フランスのZAN実施でも、地方自治体から都市開発への制約や既に高度に都市化された地域での生態的回復候補地の特定難について懸念が示され、政府が実施の柔軟性と追加ガイダンスを導入する対応を取りました。

都市インフラとの調整

 ネイチャーベースド・ソリューション(NbS)はグレーインフラの代替・補完として気候レジリエンス強化に貢献しますが、再生可能エネルギーインフラの拡張など他の政策優先順位と相互作用します。太陽光発電が建物・土地に設置される場合、後者は空間的フットプリントと環境影響を伴います。フランスでは、太陽光発電が駐車場・建物の上といった低生物多様性サイトに優先設置され、自然・農業・森林地を25ヘクタール超伐採するプロジェクトは国家ルールにより一律拒否されています。日本の匝瑳市では「ソーラーシェアリング(営農型発電)」が約40の荒廃農地で展開され、作物生産と高架式太陽光パネルを組み合わせています。オランダのロッテルダムの「LIFE@Urban Roofs」イニシアチブは、緑インフラ、水貯留、エネルギー生成を統合した多機能屋根を推進し、「ゴールデン・コンビネーション」と呼ばれる複合機能設計を導入しています。

課題2──技術標準・設計ガイダンスのギャップ

 第二の課題は、技術標準と設計ガイダンスの不足です。都市自然の回復・強化には他のサステナビリティ・気候レジリエンス目標との潜在的衝突を避けるための慎重な計画が必要ですが、現状では技術基盤が追いついていません。

 ハンガリーの事例はこの課題を象徴しています。同国は領土の約4分の1が氾濫原にあり、歴史的に洪水と内陸水の過剰管理を主軸として、雨水を素早く排水するインフラを構築してきました。しかし気候変動により様相は一変しました。直近30年のうち23年で干ばつが発生し、2000〜2023年の気候関連経済損失は65億ユーロに達します。2020年時点でハンガリー人口の27.5%が100年確率の河川氾濫に晒されており、これはOECD平均の2.1倍、EU平均の1.4倍に相当します。排水・洪水管理を優先してきた既存技術標準は、水保持と希少性管理にうまく適合していないのです。NbSの統合に関する核心的課題は、既存都市システムへの組み込み方です。NbSはグレーインフラを全面的に置き換えるものではなく、用途と目的に応じて最適なグリーン・グレー組み合わせを見出すことが求められます。しかし統合は複雑で、明確な技術標準、設計ガイドライン、計画枠組みが不可欠です。これらが欠如すると、パフォーマンス、メンテナンス要件、長期便益への不確実性がNbSの普及を阻みます。

 NbSの便益は長期間にわたって発現することが多く、伝統的な費用便益分析では十分に捕捉できないという問題もあります。技術的能力と人的資源に限りがある地方政府にとって、これは特に重い負担となっています。こうしたギャップに応えて、各都市は規制的措置の導入を進めています。バーゼル(スイス)は新築建物にグリーンルーフを義務化し、都市冷却・生物多様性・雨水管理に貢献しています。フランスでは特定建物の新築・拡張・大規模改修にあたって屋根面積の少なくとも30%への再生可能エネルギー生産または緑化システムの統合が義務付けられ、2026年に40%、2027年に50%へと段階的に引き上げられます。シンガポールの「LUSH 3.0(Landscape Replacement Policy)」は、開発地区において敷地面積に相当する景観面積の確保を求め、屋上緑化を含む規定を盛り込んでいます。

 規制アプローチには、生物多様性成果を開発承認プロセスに直接組み込む動きも出てきました。イングランドの「Biodiversity Net Gain(BNG)」政策は、開発プロジェクトが測定可能な生物多様性改善を実現することを義務付けています。これに伴い、生物多様性オフセット機構への依存が増しています。フランスでは1976年の環境法典に始まり2016年の生物多様性法で強化された「避ける・減らす・補償する」の階層原則が、生物多様性損失への補償措置の制度的基盤となっています。事業者はオフセット措置を直接実施するか、第三者に委託するか、オフセット・クレジットを購入できます。

 コロンビアはラテンアメリカで初めて生息地バンク(habitat bank)が運用された国です。Terrasosという生息地バンク開発業者が、コンプライアンス目的と任意目的の双方で生物多様性ユニットを提供しています。1ヘクタールが1コンプライアンス・ユニットに対応し、任意ユニット(Tebu)は10平方メートルに相当します。2024年10月時点でTebu販売は約12万4,000米ドルに達しています。スコットランドのスコティッシュ・ボーダーズも、独自のオフセット制度を構築しました。再生可能エネルギー開発と生物多様性保護の両立を図るため、自治体・利害関係者と協力して制度を設計し、事業者は法的合意を通じてオフセット・プロジェクトを確保し、第三者(地元の環境NGO)が事業を実施します。最近ではこれをさらに拡張した自然資本投資フレームワークが整備されており、植林、泥炭地回復、生物多様性強化、自然洪水リスク管理など複数の投資領域を特定しています。

 認証・ラベリングも重要な役割を果たします。フランスのエコ・カルティエ(EcoQuartier)ラベルは、緑・水インフラの提供と管理、生物多様性保全、気候レジリエンスといった持続可能性原則を統合する都市開発プロジェクトを表彰します。

課題3──資金能力と都市自然投資の不足

 第三の課題は、資金面の制約です。都市自然強化には全市的アプローチが必要であり、公的所有地のみならず私有地も対象に含まれます。したがって公的投資だけでは不足し、土地所有者、開発業者、企業など民間アクターの関与と動員が不可欠です。

 NbS投資は依然として広範な都市インフラ投資と比べて極めて限定的です。2021年時点でNbSは都市インフラ全体支出のわずか0.3%を占めるにすぎず、2018〜2023年のMDB(多国間開発銀行)承認プロジェクト支出のうち都市自然プロジェクトに割り当てられたのは10%未満です。さらに2018〜2023年に都市自然支出は減少しており、世界の人口上位500都市のうち持続可能な自然管理・保護戦略を持つのはわずか37%にとどまります。民間資金の動員は決定的に重要です。固定資産税、土地価値捕捉メカニズム、混雑課金、駐車料金など、気候レジリエンスインフラの開発を支える多様な金融手段と政策インセンティブを都市は活用できます。しかし民間部門の関与は依然として一律ではなく、規模も限定的であり、より一貫した規制枠組み、強力な経済的インセンティブ、明確な標準が求められます。

 カナダ連邦政府は、自然インフラを都市環境に統合するための様々な資金プログラムを整備しています。これは生活の質向上、汚染削減、生物多様性・生息地強化、気候変動レジリエンス構築のために生態系をより活用する戦略として位置付けられており、都市林、街路樹、湿地、生きた堤防、バイオスウェール、自然化された海岸線の創出・支援・回復まで多岐にわたります。イル・ド・フランス地域圏は2000年以降、生物多様性保全・回復プロジェクトの公募を実施しています。生態的接続性、野生送粉者、夜行性動物相、健康と生物多様性の四つのテーマを重点とし、投資費用の最大70%(上限20万ユーロ)、運営費用の50%(上限2万ユーロ)を補助しています。トロント市の「グリーンルーフ戦略」と「エコルーフ・インセンティブ・プログラム」は、グリーンルーフ設置を促進する財政支援を提供しており、雨水管理と都市冷却に貢献しています。シエラレオネのフリータウンの「Treetown」イニシアチブは、気候脆弱性の高いコミュニティでの植林に対して住民に金銭的インセンティブを支給し、植えた樹木をデジタル追跡し、リンクされた一連の炭素補償プロジェクトに構造化することで企業・機関投資家にカーボン・オフセットを提供する仕組みです。収益は追加の植林・適応プロジェクトに充てられ、フリータウン気候行動計画と連動しています。

 生態系サービスへの支払い(PES:Payments for Ecosystem Services)も拡大しています。エ・ド・パリ(Eau de Paris、パリ300万人に1日平均48万3,000立方メートルの飲料水を供給する公的企業)は、水源涵養地域における農業の影響に対処するPESを構築しました。スキームは農家が肥料投入を制限し、有機農業と草地化を進めることを促し、農薬等汚染削減を通じた水質改善、飲料水処理コスト低減、最終的な水道料金低減につなげています。コスタリカの国家PES制度(PPSA)も森林法7575号の強固な法的基盤、長期契約、化石燃料税や水利賦課金などの多様な財源を活用したモデルとして注目されます。

 新しい資金メカニズムも登場しています。日本の「Park-PFI」スキームは、自治体が民間事業者と提携して都市公園内に収益施設を整備・運営し、その対価として公園インフラ・維持管理・緑地強化への投資を求める仕組みです。オランダの「Room for the River」は大規模な公共投資を多レベルガバナンスとステークホルダー関与と組み合わせ、洪水リスク管理と生態的回復を統合してNbSを大規模に展開した事例です。日本の「都市緑地法に基づく優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)」は、国土交通省が定める基準に基づき、計画・実施・維持管理における適合性を評価し、民間事業者等による都市緑地の量と質の確保努力を認定する制度です。地方自治体も他のステークホルダーと共に認定申請が可能です。EUでは「Nature Credits(自然クレジット)」スキームの開発が進められており、生態系サービスと生物多様性成果から金融リターンを生み出すことを目指しています。日本では、横浜市の「みどり税」が都市緑化・保全活動への専用財源として機能し、長期投資の持続性を示す事例となっています。さらに、都市部での容積率(FAR)ボーナスや開発権との交換による緑地提供インセンティブも、不動産開発プロセスへの自然統合を進める手段として注目されています。

 ここで重要な点は、これらの仕組みの有効性が「量」だけでなく「質」を定義・測定する能力に依存することです。容積率ボーナス制度を設計しても、提供される緑地が表面的・形式的なものにとどまれば、生態的価値は実質的に生まれません。だからこそ、本レポートはモニタリング・評価枠組みの構築を別途重視するのです。加えて、本レポート全体に通底するメッセージとして、「全市的アプローチ」と「ライフサイクル思考」の重要性が挙げられます。公的所有地だけで完結する自然再生は限界があり、私有地と民間アクターを包摂する必要があります。そして、初期投資のみならず、長期メンテナンスを含む総コストとライフサイクル便益で評価することなしには、NbSは持続不能な「補助金依存事業」に陥ってしまうのです。

課題4──モニタリング・評価ギャップ

 第四の課題は、モニタリング・評価枠組みの脆弱性です。ネイチャーポジティブ・アプローチの成功実装には、明確なベースラインと一貫した進捗測定が不可欠です。

 現在のモニタリング・評価枠組みは大きく二つに分類されます。第一に「自己評価・指標型ツール」です。代表例は、都市生物多様性指数(CBI:City Biodiversity Index、別名シンガポール指数)とIUCN都市自然指数(UNI:Urban Nature Index)です。これらはドライバー・プレッシャー・状態・影響・対応という構造に沿った科学的指標を提供します。UNIはシンガポール指数を拡張し、KMGBFの構造に整合させ、より広範な生態指標と都市・都市周辺相互作用を組み込んでいます。第二に「コミットメント型イニシアチブ」があります。CitiesWithNature行動プラットフォーム、Green City Accord、C40 Urban Nature Accelerator、Berlin Urban Nature Pactなどで、これらは測定枠組みを政策コミットメントと報告メカニズムに変換します。参加都市は任意目標を設定し、指標とオンラインプラットフォームを通じて進捗を報告し、国際生物多様性目標と行動を整合させます。いくつかの場合、報告は明示的にKMGBFターゲットへの貢献として枠付けされます。

 リモートセンシングと地理空間データの進展は、緑被、生態系状態、土地利用変化を大規模にモニタリングする都市の能力を大幅に強化しています。同時に、生態指標を社会指標(緑地アクセスと便益分配など)で補完する必要性も認識されつつあります。空間スケールにわたり、市スケール評価とプロジェクト・開発レベル評価を組み合わせた多次元統合的モニタリングシステムが求められています。しかし重要な障壁がなお残ります。都市生物多様性と都市自然がもたらす副次便益に関する細粒度データの不足、メトリックの一貫性欠如、明確な進捗指標の不在、地方当局のデータ収集・評価能力の限界などです。多くのモニタリング枠組みはデータ可用性と長期標準化データセットの存在に大きく依存していますが、都市文脈ではこれらが断片的・不完全であることが多いのが現状です。NNLT政策のモニタリングでも測定課題が顕著です。衛星画像を中心とした既存欧州データソースは、土地利用と土地被覆の分類差異により公式国家土地利用統計との間で大きな乖離を示すことがあり、複数データソースの統合時にこれを考慮しないと誤解を招く政策結論につながりかねません。また、モニタリング・評価枠組みが存在していても、地方自治体が収集不可能なほど野心的な指標を含むため、結局十分に活用されないというケースも頻発しています。指標は「測れること」「比較できること」「政策に活かせること」の三条件を満たして初めて意味を持ちます。データ可用性の確保、指標の標準化、管轄区域を超えた比較可能性の向上は、エビデンスに基づく意思決定を支援し、ネイチャーポジティブ都市戦略の実装を加速するために不可欠なのです。加えて、本レポートはこの領域でリモートセンシングと地理空間データの貢献に大きな期待を寄せています。衛星データを用いた緑被モニタリング、生態系状態の評価、土地利用変化の追跡は、コストとスピードの両面で従来手法を凌駕しつつあります。


ネイチャーポジティブ・シティ概念フレームワーク──四つの相互連関する要素

 さてここからいよいよ、ネイチャーポジティブ・シティのご紹介。
 上記までの四つの政策課題への応答として、OECDの本レポートは「ネイチャーポジティブ・シティ(NPC)概念フレームワーク」を提示します。

NPCの定義

 「ネイチャーポジティブ・シティとは、自然と生物多様性を回復・強化することにより、より住みやすく、レジリエントで、持続可能な都市域を創造することを目指す包括的政策アプローチである」。この概念はKMGBFターゲット12と強く整合しつつ、それを超えて経済的価値と気候価値を都市開発に明示的に統合します。NPCは生物多様性成果を支えるだけでなく、自然を都市内の経済活力、リスク削減、気候緩和・適応のドライバーとして位置付けるのです。実践面では、NPCは個別の環境プロジェクトを超え、都市政策サイクル全体を包含します。明確な目標と戦略の設定、金融・投資を方向付ける政策ツールの展開、市民・企業との協働、進捗確保のための成果モニタリングという統合的ガバナンスを通じて、種・生態系喪失の反転、生態的再生支援、生活の質向上、気候レジリエンス強化、ネットゼロ目標達成という具体的副次便益を提供します。

四つの相互連関要素

 NPC概念は四つの相互連関する要素から構成されます。

第一要素──生物多様性ポジティブ

NPCアプローチの中核目標は生物多様性ポジティブな成果の達成です。これは緑地・水辺空間の量だけでなく、その質、機能性、都市生態系全体での接続性を含みます。単一サイトや単一介入に焦点を絞るのではなく、市全体スケールでの生態的条件改善を求めます。

KMGBFのターゲット2(生態系回復)とターゲット12(都市生物多様性)を基盤として、生息地接続性の強化、土壌健康の改善、種多様性と生態系レジリエンスの向上という三つの包括目標を含みます。

政策例としては、既存自然地を保護し都市開発との衝突を避けるための都市生態保全区域の指定、劣化都市地域の回復と土地利用計画・気候適応戦略・インフラ開発への回復目標統合、土地利用・交通・インフラ計画など部門横断的政策への生物多様性目標統合などが挙げられます。

第二要素──気候ポジティブ

気候ポジティブ次元は、生物多様性ポジティブ介入を活用して都市気候緩和・適応への測定可能な便益を提供します。都市熱の低減、冷却能力の強化、炭素隔離の増大、純排出量の低下、洪水・嵐・熱波などの気候関連ハザードへのレジリエンス向上を目指します。

政策例には、NbSの気候適応・緩和戦略への組み込み、グレーインフラのグリーンコンポーネントによるアップグレード、炭素吸収源やグリーンコリドーといった生態系ベース気候措置の都市計画・インフラ開発への組み込みが含まれます。

第三要素──ウェルビーイング・ポジティブ

ウェルビーイング・ポジティブ次元は、ネイチャーポジティブ介入を通じた公衆衛生、社会的公平、都市生活の総合的質の改善に焦点を当てます。身体的・精神的健康の改善、社会的・環境的不平等の削減、社会的結束と包摂的・住みやすい都市環境の促進が目標です。

政策例には、公園、都市林、河川、湿地への公平なアクセス確保、公共空間・学校・医療施設への緑インフラ統合、能動的ライフスタイルと人間・自然相互作用を促進する都市環境設計が含まれます。

第四要素──経済ポジティブ

経済ポジティブ次元は、都市生態系の価値を解き放ち、持続可能な経済成長を刺激しながら生物多様性と他の副次便益を支援することを目指します。自然ベースのビジネス機会とエコツーリズムの拡大、不動産価値とグリーンインフラへの投資の増加、雨水管理・洪水緩和といった自然ソリューションを通じた都市サービスコストの削減を志向します。

政策例には、インセンティブ・金融商品・官民パートナーシップを通じた民間部門参加の促進、自然ベース企業の支援的政策枠組み、生態系サービス評価の都市計画・投資意思決定への統合が含まれます。

四要素のシナジー効果

NPCの威力は、四要素が個別に作用するのではなく、相互に強化し合うシナジー効果を生む点にあります。生物多様性はNPCの基盤的ドライバーとして機能し、他の三要素間の副次便益を促進します。

具体的には、生物多様性は炭素隔離と気候調節(気候ポジティブ)、経済生産性の強化(経済ポジティブ)、緑地アクセスの増加(ウェルビーイング・ポジティブ)に直接寄与します。同時に、気候行動は経済資産への損害削減、低炭素・レジリエント・インフラへの投資増加、気候ハザードへの曝露低減、低炭素ライフスタイルと汚染削減という形で他の次元を間接的に強化します。経済活動の活発化はインフラ投資を後押しし、ウェルビーイング向上は持続可能なライフスタイルと地域経済活動を促進します。

リヨンの「Plan Canopée」はこの統合性をよく示しています。生物多様性回復、気候適応、樹冠拡大と緑インフラを通じた都市ウェルビーイング改善を結びつけた取組です。フリータウンの「Treetown」も、劣化地の回復とグリーン雇用創出を通じて都市緑化を社会・経済目的と関連付けています。


五つの推奨アクションと政策チェックリスト

 NPCフレームワークの実装には、五つの推奨アクションが提示されています。それぞれにチェックリストが付随し、国・地方政府がNPC原則をどの程度政策に統合できているかを構造的に評価できる仕組みです。

アクション1──戦略・計画への明確なNPCビジョン埋め込み

 ネイチャーポジティブ概念は近年進化してきたものの、カーボン・ニュートラルや適応アジェンダほど確立されていません。だからこそ、現段階で明確なNPCビジョンを地方戦略・計画に埋め込むことが極めて重要です。

NPCアプローチは、土地利用、住宅、インフラ、レジリエンス、サービス提供を結ぶ統合的計画枠組みに埋め込まれたとき最も効果的に機能します。生物多様性に根ざしつつ気候、ウェルビーイング、経済を含む多次元統合ビジョンが、より包括的で地域適応的なアプローチを実現します。

実装ステップは三つです。第一に、市域全体での明確なビジョンと自然・生物多様性回復の測定可能目標の設定です。第二に、長期ビジョン、マスタープラン、部門別戦略を含む戦略計画枠組みへのネイチャーポジティブ目標統合です。第三に、ネイチャーポジティブ目標と広範な都市開発目標の体系的整合です。

チェックリストの主な問いは、NPCに関する長期ビジョンが自治体・国家戦略に埋め込まれているか、ビジョンが都市アプローチを明示的にネイチャーポジティブとして枠付けし範囲と意図する成果を明確にしているか、生物多様性・気候・ウェルビーイング・経済成果に関する明確な目標がビジョンに定義されているか、これら次元間のシナジーが明示的に定義・優先化されているか、生物多様性・自然戦略が緑地の量を超えて生態的質・機能性・接続性に取り組んでいるか、戦略がプロジェクト隔離型ではなく市全域・FUA全域の生態系アプローチを採用しているか、部門・政府レベル間の行動調整ガバナンス機構が整備されているか、共創とステークホルダー関与プロセスが意思決定に統合されているか、ビジョンがNPC措置実装の技術的実現可能性と新興能力課題に取り組んでいるかなどです。

アクション2──場所に基づく文脈に応じた政策手段の調整

 NPCの政策手段は、都市の空間・土地利用特性を反映した場所ベースの文脈に応じて調整される必要があります。土地利用、交通、住宅、インフラといった主要部門にネイチャーベースの措置を統合し、規制・経済・計画ツールを組み合わせて実装を支援する政策枠組みが求められます。同時に、競合する都市優先順位との衝突を能動的に管理する必要があります。

実装ステップは二つです。第一に、規制・経済・計画手段の地域条件への適応です。第二に、ゾーニング、標準、インセンティブ、オフセット機構などの異なる政策ツールを組み合わせて、土地利用と開発意思決定をネイチャーポジティブな成果に向けて誘導することです。

チェックリストでは、密集した都心、郊外、特殊用地(里山、鉄道用地、工業地帯など)といった異なる都市空間・土地利用特性を反映した政策手段の調整、生物多様性・気候・ウェルビーイング・経済成果のシナジー促進、自然ベース便益への公平なアクセス促進、トレードオフ管理機構の埋め込み、オフセットやクレジットなどによる市全域NPC成果実現、民間アクターのインセンティブ付与などが問われます。

アクション3──統合的都市グリーンインフラの推進

 幅広い都市環境課題に対処するため、統合的都市グリーンインフラを推進すべきです。洪水と極端な熱への曝露低減など、気候リスク削減と適応支援におけるNbSの役割を認識した上で、複数の副次便益を提供する都市グリーンインフラの計画・設計・実装を改善することが求められます。

実装ステップは三つです。第一に、都市開発・再生プロジェクトへのNbS埋め込みです。第二に、生態的接続性強化のためのグリーン・ブルーネットワークの設計と接続です。第三に、効果的な設計・実装・長期パフォーマンスを確保する技術標準と計画ガイドラインの強化です。

チェックリストでは、NbSの都市開発・インフラ計画への統合、複数課題(熱低減、炭素隔離、洪水管理、生態系回復)への対応、NbSとグレーインフラの意思決定に資する包括的費用便益評価、四つのNPC成果次元にわたる便益を提供する多機能性の考慮、孤立した介入ではなく接続されたシステムレベル・ネットワークとしての計画・実装、長期運営・維持管理の確保、効果的なNbS設計・実装を支える技術枠組み(技術標準、計画ガイドラインなど)と能力構築措置が問われます。

アクション4──持続可能な金融と民間投資の動員

 都市緑地の多くが私有である以上、生態系サービスへの支払い、グリーン・クレジット、税制優遇、容積率ボーナスといったツールを通じて、金融機構が民間投資を能動的に動員する必要があります。これらの機構は、初期実装コストだけでなく、長期メンテナンスコストも考慮する必要があり、生態的・社会的・経済的便益の持続性確保のために設計されなければなりません。

実装ステップは三つです。第一に、生態系サービスの定量化・収益化機構の設計・実装です。第二に、専用市町村基金、PPP構造、契約モデルなど、資本投資と継続的運営・維持管理の双方を確保する長期資金調達アレンジメントの設立です。第三に、費用便益分析やライフサイクルコスト分析の要求など、プロジェクト承認・計画プロセスへの金融基準の統合です。

チェックリストでは、四つのNPC成果次元におけるシナジー促進とトレードオフ最小化に向けた金融フローの整合、共便益・トレードオフ管理を支える生態系サービスの経済的評価と投資意思決定への統合、官民パートナーシップによる都市グリーンインフラ・プロジェクト実装、初期実装だけでなく長期維持管理・運営を支える金融機構の設計、金融インセンティブ・クレジット・PPPアレンジメントを通じた民間部門・地域アクターの関与とインセンティブ付与などが問われます。

アクション5──モニタリング・評価システムの強化

 モニタリング・評価システムは、サイトレベルと市全域レベル(またはFUAスケール)の双方で成果を捕捉する必要があります。生態的質、接続性、社会的アクセシビリティ、共便益を含む、堅牢で比較可能なデータを提供することで、エビデンスに基づく政策調整を支援し、透明性と説明責任を向上させます。

実装ステップは三つです。第一に、標準化された指標を伴う統合モニタリング枠組みの確立です。第二に、共便益とトレードオフを長期にわたり体系的に追跡・評価・報告するシステムの開発です。第三に、データの公開、意思決定プロセスへの所見統合、ステークホルダー関与・説明責任支援のための結果活用などを通じた透明性確保です。

チェックリストでは、NPCのモニタリング・評価機構の存在、量だけでなく生態的質・接続性・生態系レジリエンスの捕捉、生物多様性・気候・ウェルビーイング・経済成果を捕捉するプロジェクト・市全域・FUAスケールでの指標、共便益・トレードオフの体系的特定・評価・コミュニケーション、エビデンスに基づく意思決定を支援するモニタリングデータ・指標の活用、認識向上・多ステークホルダー関与の指針となるデータ・指標の活用、データと評価結果の一般公開とステークホルダーとの共有などが問われます。


OECDが収録した優良事例集──世界の最前線を俯瞰する

 本レポートのAnnex Table A.1には、44のリーディング・プラクティスが収録されています。これらは戦略・計画、規制枠組みと計画手段、経済的インセンティブと金融機構、公共投資、認証・表彰スキーム、モニタリング・評価枠組みという六つの政策アプローチに分類されています。すべてを網羅することはできませんが、特に示唆に富む事例を抜き出して紹介します。

規制によるグリーンインフラ義務化

 バーゼル(スイス)の建築建設法は、新築および改修のすべての平屋根に緑化を義務付けました。2002年導入のこの規制は、リトロフィット時のすべての平屋根、新築の平屋根すべてにグリーンルーフ要件を設定しました。

英国の生物多様性ネット・ゲイン(BNG)は2023年から、すべての計画許可で最低10%のネット・ゲインを実現することを義務付けています。実現方法は、オンサイト・ゲイン、オンサイトとオフサイト・ゲインの混合、法定生物多様性クレジット(最後の手段)の三つの選択肢があり、開発業者に柔軟性を与えつつ、ゼロサム以上の生物多様性成果を担保する精緻な設計です。

フランスの気候レジリエンス法は2023年から、特定建物の新築・拡張・大規模改修にあたって屋根面積の少なくとも30%への再生可能エネルギーまたはグリーンルーフ統合を義務付けています。これは2026年に40%、2027年に50%へと段階的に引き上げられます。

シンガポールの「LUSH 3.0」は、新規開発において敷地面積に相当する景観面積を提供することを求め、最低ソフトスケープ比率と屋上緑化・都市緑化統合のための追加要件を伴います。土地が極端に希少な都市国家ならではの精緻な制度設計です。

戦略計画における統合アプローチ

 リスボン(ポルトガル)の「水再利用戦略計画(LiSWaR)」は2019年に開始され、処理済み排水を非飲用目的で再利用する持続可能な水管理システムを構築することを目指しています。2030年までに都市公園の灌漑に使う水の100%を再利用水で供給する目標です。

コペンハーゲン(デンマーク)の「クラウドバースト管理計画」は2012年に立ち上げられ、グレー・グリーン・ブルーインフラの組み合わせを通じて雨水洪水の影響を軽減し、レクリエーションと生物多様性という副次便益を提供する適応策を都市開発に統合します。

バルセロナ(スペイン)の「自然計画2021〜2030」は、戦略的・参加型ツールとして、市の緑インフラの拡大、生物多様性の保全、市民の都市自然へのアクセス・享受・改善・ケアを定義しています。10年間の戦略は3つのライン、2つの横断領域、20のアクション、100のプロジェクトで構成され、2021〜2025年の最初の行動プログラムでは10の優先プロジェクトが実装されます。

メルボルン(オーストラリア)は「Grey to Green」(2003年)、「Total Watermark」(2008年)、「Urban Forest Strategy」(2012年)という三つの相補的戦略を実装し、透水性表面の拡大、洪水リスクの低減、樹種多様性の向上、野生生物個体数の増加、都市炭素排出の測定可能な削減を実現してきました。

公共投資と都市再生

 オランダの「Room for the River」は2007年から、河川自然氾濫原の回復と複数地点での河川容量増加を、堤防の内陸移設、洪水路の創出、氾濫原の低地化、高水位時に氾濫させて堤防への圧力を緩和する一時水貯留地の設置などにより実現する国家プログラムです。生態的回復と洪水リスク管理を結びつけたNbSスケールアップの代表例です。

メデジン(コロンビア)の「グリーン・コリドー・プログラム」は2016年に始まり、道路と水路を緑地に変換することで20kmの相互接続グリーン・コリドー・ネットワークを創出し、都市熱の低減、大気質改善、公衆衛生強化を実現しました。周辺気温・表面温度の低下、PM2.5レベルの低下、呼吸器感染症罹患率の低下という測定可能な成果が確認されています。

ニューヨーク市のハイラインは2009年に開園し、マンハッタンのウェストサイドで街路の上に高架されていた歴史的な貨物鉄道路線を、緑の公共空間、自然、生物多様性を強化する公園に転用しました。植物の半分は耐乾性、低メンテナンス、野生生物への食物・庇護提供という観点から選ばれた在来種です。

ルーアン(フランス)の「エコディストリクト・ルシリン」は2013年から、セーヌ河沿いの旧工業地区を125,000平方メートルの持続可能なエコディストリクトに変換しました。緑・水インフラを統合して都市排水を改善し、地熱エネルギーを住宅の季節別冷暖房に利用し、住宅のエネルギー需要を削減しました。

ムルーズ(フランス)の「ディアゴナルプロジェクト」は2019年に始動し、3,200万ユーロを投じて10kmの河岸を回復・再設計するプロジェクトです。これまでに8,000平方メートルの密集・段階的・多様化された森林が植樹され、40の在来種から24,000本の樹木で構成されています。これにより炭素隔離と交通からの自然保護を実現しています。

金融・インセンティブ・PPP

 カナダの「災害緩和・適応基金」は2018年に始動し、連邦政府が10年間で20億カナダドルを自然インフラ・プロジェクトに投資して、気候変動による自然ハザードの影響を受けるコミュニティのレジリエンスを高めるものです。ハリファックス、トロント、バンクーバーなどの都市が、極端な熱と沿岸氾濫への準備を強化する緑インフラ投資から恩恵を受けています。

EUの「LIFEプログラム」は1992年から続く、環境・気候行動のための欧州資金手段です。LIFEプログラム2017〜2027年の予算は54億ユーロで、自然・生物多様性、気候緩和・適応、循環経済、生活の質、クリーンエネルギー転換に貢献するプロジェクトを支援しています。

シエラレオネのフリータウンの「Treetown」は2019年から、100万本の植林と3,000ヘクタールの土地回復、そして女性・若者向けの新しいグリーン雇用創出を組み合わせて推進されています。

イル・ド・フランス地域圏は、生物多様性保全・回復プロジェクトへの最大70%(投資費用上限20万ユーロ)と50%(運営費用上限2万ユーロ)の補助制度を運用しています。

トロントの「グリーンルーフ条例」と「エコルーフ・インセンティブ・プログラム」は、2,000平方メートル以上の新規開発・増築にグリーンルーフを義務化し、グリーンルーフ設置への財政支援と相まって、1,200以上のグリーンルーフ設置と5,000万カナダドル規模のグリーンインフラ産業を生み出しました。

認証・表彰スキーム

 ハンガリーの「フラワリー・ハンガリー(Virágos Magyarország)」コンペティションは、ハンガリー観光局と関連政府・環境パートナーが主導する全国自治体コンペです。公共緑地のメンテナンス、植樹、花壇展示、コミュニティ参加、持続可能な集落管理など、都市緑化・景観管理・環境品質の卓越性を表彰します。地方政府による公園・街路景観・緑地改善を促進することで、都市生物多様性の強化、生息地創出、送粉者支援、より住みやすい都市環境に貢献しています。

モニタリング・評価とプラットフォーム

 シンガポール指数(CBI/SI)は、CBD事務局とシンガポールNational Parks Boardが開発した、都市が生物多様性保全パフォーマンスをベースラインと比較して評価・モニタリングするための自己評価ツールです。

IUCN都市自然指数(UNI)は2023年に公表され、科学ベースの指標を用いて都市生物多様性と生態系健康を測定する体系的枠組みを提供しています。シンガポール指数を拡張し、KMGBFと整合しつつ、都市周辺部の影響も考慮しています。テーマごとに少なくとも一つの指標を報告するよう推奨し、データ可用性と能力に応じた柔軟性を持たせています。

CitiesWithNature行動プラットフォームは、KMGBFの目標達成に向けた進捗追跡・任意コミットメント設定の補完的報告メカニズムです。69の参加都市が、年次報告、測定可能目標、ピア・ラーニング、シャルム・エル・シェイクから昆明への行動アジェンダやUNEP-WCMC自然コミットメント・プラットフォームとの整合を支援しています。

Berlin Urban Nature Pactは、シンガポール指数とUNIなどの国際都市生物多様性測定ツールを基盤とし、エディンバラ宣言と整合した、現地条件に応じた野心的かつ達成可能な目標設定に焦点を当てた枠組みです。

EUの「Green City Accord(GCA)」は2020年から運用され、欧州自然環境と生活の質の改善、欧州グリーンディールと持続可能な開発目標の達成を支援しています。5つの優先領域・15の主要指標で環境パフォーマンスを追跡し、欧州委員会が定期的な進捗報告を公表します。

C40の「Urban Nature Accelerator」は2021年から、都市自然の拡大による気候リスク削減、生態系サービス強化、緑・青空間への公平アクセス改善を支援しています。41都市が、2030年までに緑地・透水性表面の増加と自然アクセス改善のパスウェイ追求にコミットしています。

これらの優良事例は、NPCフレームワークが単なる理論ではなく、世界各地ですでに実装段階に入っていることを雄弁に物語っています。問題は、こうした成功事例をいかにして自国・自地域の文脈に翻訳し、スケールアップするかなのです。


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