アトランティス奇譚 最果ての星の物語 第九話
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♢シリウスの船♢
シリウスの船は、大気圏の外側で星の自転に合わせて緩やかに運行していた。
そして、彼らの研究対象である太陽系第三惑星アトランティスでは、今まさに、彼らの分御霊(わけみたま)たちが悲嘆に暮れていた。
泣き叫ぶ分御霊を宙船(そらふね)のモニターに映しながら、亜冥見斗(アメミット)は不機嫌を隠そうともしない。
「まさか、あんなにも傑作揃いの被検体を連れ帰れないなんて、こんな失態は前代未聞だ」
ざらりとした白灰色の髪と苛烈な赤い瞳をもつアメミットは、シリウスでも指折りの科学者である。
「計測と管理を怠ったわれらが悪い。今更どうにもならないよ」
艶やかな白銀の長い髪に夕焼けを映したような甘い色の瞳を持つ真亜斗(マアト)が口の端を持ち上げて皮肉に笑う。
彼もまた同じくシリウスの優秀な科学者であるのだが、共に研究を進めているにもかかわらず、二人の相性は最悪だった。
「ともあれ、彼らをこのままにしておくのは危険だ。一度鎮静させよう」
軽く眉をひそめながらモニターを見つめていた亜奴比須(アヌビス)は、ふと、見慣れない人影が画面に映っているのに気がついた。
ふわりと波打つ青い髪に青い衣をまとったその人は、身じろぎもせず、じっとこちらを見つめている。
その強い視線を受け止めるうち、モニター越しに目が合ったような気がして、アヌビスは思わず目を背けた。
まさか。
地上から船の中まで視線が届くはずがない。
一度気持ちを落ち着けようと腰を浮かした瞬間、宙船に警報が鳴り響いた。
驚いたアヌビスが振り返ると、分御霊たちの無意識領域に何者かが侵入したことを示す警告がモニターを埋め尽くす。
「無意識領域への侵入だと?」
思いもよらぬ事態に愕然とするアヌビスに、金の髪をゆらしながら足早に自席に向かうトトが問いかける。
「この星の生物に精神攻撃が可能なほど高度な能力を持つ者があったのか?」
アヌビスはシリウスの「門番」である。
新しい星への扉を開き、安全を確認し、終わりの戸締りをするのが彼の役目である。
シリウスの本隊が第三惑星を目指すと決めた時からずっと、扉を開くための偵察に、何度もこの星を訪れていた。
それゆえにトトは真っ先にアヌビスに問うたのだが、問われたアヌビスは思わず口籠もる。
辺境の太陽系は星系自体が新しく、さらに言えば第三惑星自体がとても若かったため、高度な精神攻撃を可能とする知性のある個体がすでにこの星に存在している可能性については、正直なところあまり検討されていなかった。
調査段階では見当たらなかった、と答えかけて、ふとアヌビスの脳裏に先ほどの青い人影が浮かぶ。
あのようなものは、偵察時から今現在に至るまで、一度も見かけたことがなかった。
もしやとは思うが、万が一があり得るのがあの星の怖さである。
アヌビスは地上モニターを確認しながら慎重に言葉を選ぶ。
「私の見間違えの可能性がありますが、先ほど地上モニターに分御霊とは異なる人影が映りました。青い髪に青い服の、背の高い」
アヌビスの言葉が終わらぬうち、ほんの近くから楽しげなバリトンが響いた。
「それは、まさに私のことですな」
一瞬で凍りついた船内を楽しそうに眺めまわしてから、海王星は恭しく一礼する。
「シリウスの神の皆様、初めてお目にかかります。私は海王星。あなた方が見捨てた哀れなキメラたちの住まう第三惑星の守護者でございます」
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